バックペイとは、解雇が無効とされた場合に従業員に支払う未払い賃金のことです。
もし、企業が従業員を不当に解雇した場合、このバックペイを請求される可能性があります。
「バックペイが発生するリスクや条件を知りたい」
「バックペイの計算方法がわからない」
このような疑問やお悩みはありませんか?
この記事では、バックペイの計算方法や失業手当の取り扱い、損害賠償の必要性について詳しく解説します。
さらに、実際の裁判例を通じて、企業が直面するリスクと、その対応策についても紹介しています。
本記事を読めば、適切な労務管理と法令遵守の重要性が理解できるようになるでしょう。
「弁護士に相談なんて大げさな・・・」という時代は終わりました!
経営者・個人事業主の方へ
バックペイとは
バックペイとは何でしょうか?
バックペイとは、不当解雇などの理由で解雇が無効とされた場合、従業員が解雇された時点から復職までの未払い賃金をさかのぼって支払う金銭のことを指します。
バックペイは、労働契約法第16条や民法第536条第2項に基づいており、解雇の無効が認められると企業はその間の給与を支払わなければなりません。
この制度は、従業員の権利保護を目的としており、解雇が不当に行われた場合の救済措置として欠かせないものです。
バックペイが発生する場面と金額
バックペイが発生する主な場面は、不当解雇が判明した場合です。
裁判などを経て不当解雇であったと判断された時に、裁判所からバックペイの支払いを命じられます。
具体的な金額については従業員の給与などによるため個々人によって大きく変わりますが、基本的には解雇時~不当解雇が判明した時までの期間に支払われるはずだった賃金の合計をバックペイとして支払います。
バックペイの支払い義務の法的根拠
バックペイの支払い義務の根拠は、主に以下の2つです。
- 民法第536条第2項
- 労働契約法第16条
民法第536条第2項では「使用者の責任で労働者が就労できなかった場合、その期間の賃金支払いを拒むことはできない」と規定されています。
労働契約法第16条では「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でない解雇は無効とする」とあります。
これらの法的根拠により、不当解雇と判断された場合に、企業は従業員にバックペイの支払いをしなければなりません。
不当解雇に対する労働委員会の救済命令では、解雇期間中の総賃金の支払いが命じられることが一般的です。
バックペイは解雇からいつまでの期間分を支払うべき?
具体的に、いつからいつまでの期間分を支払えばいいのでしょうか?
前述のとおり、バックペイは、基本的には解雇時~不当解雇が判明した時までの期間における全賃金を支払う必要があります。
しかし、場合によってはバックペイの支払いが必要のない期間が発生している場合もありますので、しっかりと確認し適切な金額を支払うようにしましょう。
原則として復職させるまでの期間の支払いが必要
解雇が無効となった場合、バックペイは、解雇日から従業員が復職するまでの全期間に対して支払う必要があります。
これは、解雇無効により労働契約が終了していないとみなされるためです。
例えば、裁判が長引き解雇から復職までの期間が長引いた場合、裁判中の期間も当然含まれますのでバックペイの金額も増加します。
日本アイ・ビー・エム事件では、解雇から3年以上の期間が経っており、その間の未払い賃金が全額支払われました。
私傷病等で就業できなかった期間の支払いは不要
バックペイの支払い義務は、解雇期間中に従業員が実際に就業できたであろう期間に限定されます。
したがって、私傷病などの理由で従業員が就業できなかった期間については、その限りではありません。
これは、解雇が無効とされた場合でも、その期間中の賃金支払義務は実際に働ける状態であることが前提となるためです。
もしも、裁判で従業員が病気で就業不可だった期間が証明された場合、その期間の賃金支払義務は免除されることが一般的です。
他社で就業していた期間については中間収入の控除が問題となる
解雇期間中に従業員が他社で就業し収入(中間収入)を得ていた場合、その収入はバックペイから控除されます。
控除対象となるのは以下のとおりです。
- 月例賃金のうち平均賃金の60%を超える部分
- 平均賃金算定の基礎に算入されない賃金の全額
なお、中間収入があった時期と、バックペイ支給の対象期間は同じでなければなりません。
この期間が異なる場合は、控除の対象外となります。
従業員の就労意思がなくなった場合は支払い不要
従業員が解雇後に会社での就労意思を失った場合、その後のバックペイを支払う必要はありません。
これは、バックペイの支払いが従業員の職務継続の意思を前提としているためです。
一方で、解雇された後他社で多額の報酬を受けていた場合でも、従業員の就労意思が認められた事例があります。
この裁判では、会社の解雇が不当であると判決が下されました。
この事例では、境遇に関わらず、従業員に職務継続の意思があれば、企業はバックペイを支払う義務を負わなければならないことを示しています。
バックペイの計算方法
バックペイの金額の算出方法について知りたいです。
バックペイの計算方法は、解雇期間中の従業員の収入状況によって異なりますので、よく確認する必要があります。
ここでは、解雇期間中に他社で収入がない場合と、他社で収入がある場合の計算方法について詳しく解説します。
解雇期間中に他社での収入がない場合
解雇期間中に他社で収入がない場合には、解雇前に従業員が受け取っていた給与の全額が対象となります。
また、給与の中でバックペイの対象となる費目は、基本給・諸手当・固定残業代(みなし残業代)などで、通勤手当や通常の残業代については対象外となります。
ただし、賞与については、支給方法によって異なります。
例えば、業務成績に基づく賞与はバックペイとして認められない場合がありますが、一律に支給される賞与はバックペイの対象となります。
解雇期間中に他社での収入がある場合
解雇期間中に従業員が他社で収入を得ていた場合、その収入分はバックペイから控除されます。
ただし、この控除は、月例賃金のうち平均賃金の60%を下回らない範囲で行われます。
具体的な例で見てみましょう。
- 解雇前の平均賃金が月40万円
- 月10万円の中間収入
この場合、企業が支払うバックペイは30万円となります。
しかし、他社での収入が月20万円あった場合でも、バックペイは24万円(40万円の60%)支払う必要があります。
これは、労働基準法第26条に基づいた、従業員の生活を最低限保障するための措置によるものです。
バックペイでは、誤りのない正しい計算を求められます。
不当な支払いを避けるために、法の専門家から適切な法的助言を受けることが重要です。
失業手当はバックペイから控除される?
解雇された後に失業手当を受けていた、という場合にはどうなりますか?
失業手当は通常、バックペイの控除対象外となります。
これは、失業手当が失業中の生活を支えるための公的給付であり、賃金とは異なる性質を持つためです。
失業手当は、解雇が無効とされてバックペイが支払われる場合でも、その金額から失業手当を差し引くことは認められていません。
つまり、バックペイと失業保険を二重で受け取れるというわけです。
損害賠償の支払いが必要になる場合は?
不当解雇だった場合、バックペイとは別に損害賠償を請求されることもあるのでしょうか?
不当解雇が認められた場合、企業はバックペイに加えて損害賠償(慰謝料)の支払いを命じられることがあります。
たとえば、解雇が違法と判断され、従業員が精神的・経済的に被害を受けた等の場合が該当します。
損害賠償の具体的な金額は、裁判所が事案ごとに諸般の事情を考慮して判断します。
損害賠償が認められる主な要件は、以下の通りです。
- 解雇が違法・無効と判断される
- 解雇により従業員が精神的・経済的に大きな損害を被る
- 解雇の手続きが適切に行われていない
企業は、労働者の雇用契約を終了させるにあたり、適切な手続きを踏むことが重要です。
法的リスクを最小限に抑えるためにも、事前に専門の弁護士に相談し、雇用解消の正当性と手続きの適法性を確認しましょう。
ただ、一般的にバックペイを支払う場合、損害賠償(慰謝料)の義務まで負うケースは非常に稀です。
違法性があり、それを立証できる証拠がなければ、解雇において損害賠償(慰謝料)が認められる可能性は極めて低いでしょう。
バックペイについての裁判例
いままでにバックペイの支払い命令についての判例はありますか?
今回は4つの事例を紹介します。
バックペイの支払い命令は、企業にとって重大な経済的負担となります。
企業が従業員を解雇する際には、法的な助言を受けて慎重に進めることが重要です。
日本アイ・ビー・エム事件
日本アイ・ビー・エム事件(東京地方裁判所判決平成28年3月28日)
計3名の従業員が解雇されましたが、その解雇が無効と判断されました。
会社は未払い賃金として、バックペイを支払うことが命じられました。
この判例は、高額の給与を受け取っていた従業員が複数名いる場合、解雇が無効とされると非常に高額なバックペイが発生することを示しています。
大王製紙事件
大王製紙事件(東京地方裁判所判決平成28年1月14日)
従業員の解雇が無効とされ、企業側にバックペイの支払いが命じられました。
無効が認められた理由には、解雇までの手続きや理由が不適切であったことが挙げられます。
企業は適切な根拠を欠いた状況で、また正しい手順を踏まなければ、従業員を解雇することはできないということを示しています。
東京メトロ事件
東京メトロ事件(東京地方裁判所判決平成27年12月25日)
解雇された従業員が、未払い賃金のバックペイを受け取ることとなりました。
この裁判は、電車の中で痴漢行為をし、条例違反となったことで論旨解雇を受けた従業員が、提訴したものです。
結果、裁判所は処分が重すぎるとして、解雇を無効と判断しました。
犯罪を理由に解雇した場合でも、状況や条件によっては、企業側が敗訴するリスクもありうるのです。
サカキ運輸事件
サカキ運輸事件(長崎地方裁判所判決平成27年6月16日)
従業員の解雇が無効であるとの判決が下されました。
この裁判では解雇が法的根拠を欠き、違法とみなされたことから、バックペイを従業員に支払うよう会社側に義務付けました。
この事件では、旧会社(光洋商事)の代表が新会社(サカキ運輸)を立ち上げたものの、従業員は引き継がれず、解雇されました。
これは労働組合を排除したいという、サカキ運輸側の思惑があったためと考えられます。
法人格濫用が認められたため、解雇の事由が適法であるとは認められず、裁判所はその正当性を否定する判決を下しました。
法人格濫用とは、不当な目的のために法人格を利用することです。
このように、法人の行為が不適切な場合、解雇無効とみなされることがあります。
まとめ
バックペイは、不当解雇が認定された場合に企業が従業員に支払う未払い賃金のことです。
労働契約が解雇無効により継続しているとみなされるため、解雇日から復職するまでの全期間について支払う義務があります。
バックペイの計算方法は、解雇期間中の収入状況によって異なります。
他社で収入がない場合は全額支払う必要がありますが、他社での収入がある場合はその収入を控除した額を支払います。
また、失業手当はバックペイから控除されることはありません。
さらに、正当事由を伴わず、不適切な雇用関係の解消が認められた場合、企業はバックペイに加えて損害賠償(慰謝料)の支払いを命じられることもあります。
損害賠償の支払い義務は、解雇が違法と判断され、従業員が精神的・経済的に被害を受けた場合に発生します。
企業は解雇の正当性を立証するため、事前に専門の弁護士に相談し、リスクを最小限に抑えることが重要です。
解雇トラブルを未然に防ぐためには、適切な労務管理と法令遵守が不可欠です。
木下慎也 弁護士
大阪弁護士会所属
弁護士法人ONE 代表弁護士
大阪市北区梅田1丁目1-3 大阪駅前第3ビル12階
06-4797-0905
弁護士として依頼者と十分に協議をしたうえで、可能な限り各人の希望、社会的立場、その依頼者らしい生き方などをしっかりと反映した柔軟な解決を図ることを心掛けている。
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