いきなり、「児童相談所です」と職員が家に尋ねてきたら、冷静に対応できるでしょうか。
「まさか虐待を疑われている?!」
「この間子供を怒鳴ったことが通報された?」
などと慌ててしまい、冷静に対応できない方も多いのではないでしょうか。
また「通報したのは誰だ!!」などと怒ってしまい、時には「うちは虐待なんてしていません!お帰り下さい!」と、訪問員を追い返してしまう方もいるようです。
ここで、児童相談所が家に訪問に来たということは、やはり誰かが、「あの家では虐待が行われているのでは」と通報した可能性が高いということになります。
しかし、そのこと自体に焦って慌ててしまい、投げやりな行動をしてしまっては、かえって児童相談所に不審がられたり、「要調査対象」とされてしまったり等の可能性があります。
まずは訪問員の説明を聞いて、適切な対応をすることがとても大事といえます。
記事に入る前に・・・
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どのような理由で通報がされるのか
法律ではどうなっている?
児童虐待防止法第6条には、「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない」と規定されています。
このように、児童相談所に通報がなされる抽象的な理由は、「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した」ということになります。
この点、平成16年に児童虐待防止法が改正されるまでは、「児童虐待を受けた児童を発見した者は」として、虐待の事実が実際に認められた場合に限定されていました。
しかしそれでは充分ではないということになり、平成16年の改正では「虐待を受けたと思われる」という表現に改正されました。
この改正により、現在の日本では、「実際に虐待を見たわけではないけれど虐待が疑われるケース」について、通報がなされるようになりました。
逆に言うと、「実際には虐待の事実がなくとも、虐待を疑われて通報される」というケースが多くなったことになります。
実際のケースは?
児童相談所に対する通報や相談の内容は、カテゴリで言えば、
- 身体的虐待(殴る蹴るの暴力、火傷をさせる、骨折させるなどの傷害等)
- 心理的虐待(「ばか、死ね」などの暴言、無視し続ける、あからさまに兄弟差別をするいじめなど)
- ネグレクト(食事を与えない、お風呂に入れないなど育児放棄、育児怠慢をするなど)
- 性的虐待(自己の性的満足のために体に触ったりわいせつな行為をしたりすること等)
などが挙げられます。
過去の例では、件数としては身体的虐待が圧倒的に多く、その次に、心理的虐待が多くなっています。
以下の表が、最近の統計となります。
ただ、このような相談や通報の中には、「虐待が疑われたけれど実際には虐待に当たる事実はなかった」というものも多く含まれます。
子のしつけに対する親の考え方の違いから、「あの家の叱り方は虐待だ」などと、自身では思いもよらないところで虐待扱いされている可能性もあります。
したがって、「通報された」という事実のみをもって、「虐待認定された?」などと慌てる必要はありません。
実際に、令和2年の児童虐待相談対応件数を見ても、その数は年間で20万件を超える件数となっています。それだけ、通報件数も増加しているということです。
実際に児童相談所からお尋ねがあったとしても、「とんでもないことになってしまった!」というレベル感ではないこともお分かりいただけるかと思います。
【参考:児童相談所での児童虐待相談対応件数とその推移】
誰から通報されている?
「虐待を疑われると児童相談所に通報される」という知識は、皆さんお持ちだと思います。それでは、実際に誰が通報しているのでしょうか。
厚生労働省のHPで公表されている数字(下表【参考:児童相談所での虐待相談の経路別件数の推移】)を見ると、警察からという件数が圧倒的に多いことが分かります。
児童虐待自体が犯罪となりうるため、当然と言えば当然ですが、ここには、親が子に暴力を振るったケースや、夫婦が喧嘩して警察を呼んだ場合のその場にいた子供への配慮から児童相談所に通告がなされたケースなどが含まれていることになります。
警察を除いた通報経路は、近隣知人、家族・親族、学校という順番で多くなっています。
近隣知人の場合は、「大声で怒鳴っているのを聞いた」、「子供の悲鳴が聞こえる」、「親が子供を殴っているのを見た」などをきっかけに通報されることが多いように思います。
家族親族の場合は、実際に虐待を目撃した、子供の様子を見て心配して、というケースが多いかもしれません。
学校の場合は、児童本人が先生に相談をした、児童の身体にいつも痣がある、児童の様子がおかしい、家庭訪問の際に虐待が疑われた、などを理由に通報がなされていると思われます。
【参考:児童相談所での虐待相談の経路別件数の推移】
通報する側の心理とは?
児童虐待を通報する側は、一般的には、「児童が可哀そうで何とかしてあげたい」、「児童相談所の助けによって解決してほしい」という気持ちで通報するのだと思われます。
そして、通報した側の心理としては、特に近隣知人等のケースでは、「通報した」ということを知られたくないため、本人には言わずに通報するケースがほとんどだと思われます。
また、騒音などの近隣トラブルの視点から見れば、「隣の家の親の怒鳴り声がうるさいので通報してなんとかしてもらおう」などという心理もあるかもしれません。
本来の理由とは異なってきますが、子供に大声を上げるのも、近隣に迷惑をかけていることも、これをきっかけに改善できるのであれば、むしろ前向きにとらえていいかもしれません。
あまり疑うのも良くないかもしれませんが、子供のしつけや親子の関係などに関して、やはり、ママ友同士は敏感と思われます。
弁護士が相談を受ける内容も、ママ友同士のトラブルはいささか熾烈で陰湿なケースが多いため、ママ友による嫌がらせや、過度な詮索や言いがかりなどが、通報のきっかけになっていることもあるかもしれません。
些細なことを、ママ友同士で、「~~ちゃんのママは虐待している」などと噂し、これが発展して通報に至ることもあり得るように思います。
謂れ(いわれ)もない虐待を通告されたこのような場合でも、犯人探しや仕返しなどを考えることなく、冷静に対処することが重要でしょう。
通報されたときはどのように対処すべき?
それでは、「児童相談所です」と職員が家まで来た場合、どのように対処すべきでしょうか。
「虐待を疑われている?」と慌ててしまい、職員を追い返したり、所謂逆ギレをしたりするなどの行為はご法度です。
「いったい誰の通報ですか?」と職員に食って掛かっても、職員は「通報者の情報を漏らすこと」を禁止されていますので、教えてくれません。
また、職員の質問内容も、「夜な夜な怒鳴り声が聞こえると通報があったのですが」などと言ってしまうと、誰の通報が分かってしまう可能性があるので、そのような質問を直接的に投げかけることは避ける傾向にあるように思います。
そのため、質問もある程度網羅的になる可能性があり、通報された側にとっては、謂れのない疑いをかけられた質問に怒りの気持ちを覚えることもあるかもしれません。
ここで大切なのは、「冷静に、質問には正直に答え、素直に協力する」ということです。
子供の様子を見せてほしい、と言われた場合でも、可能な限り協力するようにしましょう。
児童相談所としても、話を聞いて、「全く問題ない」ということであれば、そこで調査は終了となります。
電話や訪問なども、特段不安が残らないケースであれば、それで最後となるはずです。少し不安が残る家庭、という判断になったとしても、月1回程度の様子伺いがしばらく続く程度のはずです。
「一時保護」として子供が連れていかれるようなケースは、警察沙汰になるような暴力があった、子供の成長が不安視される、等の相当ひどいケースですので、そのような事情がなければ不必要に怖がる必要もありません。
児童相談所からの訪問は虐待の危険信号かも?
ここで、注意していただきたいのは、「仮にあなた自身に虐待の傾向がある」のであればむしろ、「嘘をついて虐待を否定する」ことは絶対にしてはならないということです。
児童相談所の訪問は、自分でも気づかないうちに虐待に走りつつあることに、ハッと気づける絶好の機会ともいえます。
この時点で虐待傾向に気づけるのであれば、児童相談所の助言指導により事態を改善できることも期待できます。
例えば、児童虐待防止法では、たとえしつけのためではあっても、体罰を加えることを禁止しています(令和2年4月より改正法が施行)ので、あなたが子供のためにと思って子供を叩く、蹴る、等の行為を行ってしまっているのであれば、これは虐待の危険信号と捉えていただくべきです。
児童相談所の職員の質問に正直に答えることは、自身の虐待への危険信号を察知し、早期に虐待を回避するための手助けにもなるかもしれないということを、胸にとどめておいていただきたいと思います。
一時保護まで行ってしまうケースって?
実際に、一時保護まで進んでしまうケースはどんな場合なのでしょうか。まずは、児童虐待が通告された場合の一時保護の要否判断までの流れを見てみましょう。
【図1 子供虐待対応・アセスメントフローチャート】
このフローチャートのように、虐待が通告された場合は、通告・相談への対応や、家庭訪問等の調査、保護者や子どもへのアプローチ等が行われることになります。
そして、これらに沿って、虐待相談・通告受付票(表1)、アセスメントシート(表2、図2)等の資料を作成することになります。
一連の流れの中で、親子の置かれた環境を詳細に考慮し、命の危険がある場合や、子供の成長にとって現在の環境が明らかに看過できないと判断されるときは、一時保護が行われることになります。
【虐待相談・通告受付票(表1)】
具体的に一時保護を検討する際のフローチャートがこちらです。
【図2 一時保護決定に向けてのフローチャート】
以上の表・図につき【厚生労働省HP:「一時保護」ページより抜粋】
こちらのフローチャートに沿って、具体的な検討は、以下の流れで行うこととされています。
A | [1][2][3]のいずれかで「はい」がある時 →緊急一時保護の必要性を検討 | |
B | [4]に該当項目がありかつ[5]にも該当項目があるとき →次の虐待が発生しないうちに保護する必要性を検討 | |
C | [1]~[5]いずれにも該当項目がないが[6][7]のいずれかで「はい」がある場合 → 表面化していなくても深刻な虐待が起きている可能性 → あるいは虐待が深刻化する可能性 → 虐待リスクを低減するための集中的援助。その見通しによっては一時保護を検討 A~Cのいずれにも該当がなく、[8]のみに「はい」がある場合 → 家族への継続的・総合的援助が必要。場合によっては、社会的養護のための一時保護の必要性を検討する。 |
これら検討の結果、「一時保護の必要性あり」と判断された場合には、一時保護が実施されることになります。
一時保護が実施された場合の期間などは?
一時保護が実施された場合、従来は期間の定めがありませんでした。
しかしながら、保護者が、「いつまで保護されるのかわからず、児童相談所に聞いても答えてくれない」などと反発することが多かった等の理由から、現在は、一時保護の具体的期間につき、原則として2か月という期間が設けられています。
一時保護の延長がなされる場合もありますが、保護者が意識を変化させ、「子供を保護者のもとに戻しても問題ない」と判断される場合等には、仮に一時保護が実施されても、子供を戻してもらうことができます。
一時保護となってしまった場合でも、強い気持ちで自らの意識を大きく変えるよう努力すべきでしょう。
時には専門家によるカウンセリングなどを受けることも有益かもしれません。
具体的にどこからが児童虐待に当たる?
児童虐待とは
どのような行為が児童虐待に当たるのか、については、以下のとおり、児童虐待防止法第2条にそのまま定義がなされています。
【児童虐待防止法】
第2条 この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。
一 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
三 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
四 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。第十六条において同じ。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
上の法律の条文を見ると少し難しく感じるかもしれませんが、厚生労働省は、以下のとおり、児童虐待に当たる行為について、分かりやすく説明しています。
【身体的虐待】
殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、首を絞める、縄などにより一室に拘束する など
【性的虐待】
子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノグラフィの被写体にする など
【ネグレクト】
家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かない など
【心理的虐待】
言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス:DV)、きょうだいに虐待行為を行う など
体罰は「しつけ」ではない
従来、特に、「子供のしつけ」と「虐待」との線引きが難しいのが「体罰」でした。
そのため、親が子供に身体的な暴力を加えても、「子のしつけの範囲だ」と言われてしまうと判断が難しいとされていました。
このような事態を受け、令和2年4月から施行の改正児童虐待防止法では、仮にしつけの名目であっても、「体罰」に当たる行為は、児童虐待に当たるものとして禁止することとなりました。
改正法のガイドラインでは、たとえしつけのためでも、体に何らかの苦痛や不快感を引き起こす行為は「どんなに軽いものでも体罰に当たる」と明記されています。
「注意したが言うことを聞かないので頬をたたく」、「いたずらをしたので長時間正座させる」、「友達を殴ってけがをさせたので同じように殴る」などの行為も、体罰として虐待に当たる具体例として挙げられています。
これまでは、軽く頬を叩く行為は、「しつけだから」と言って許されると思っていた方も、「それ自体が児童虐待防止法により禁止される虐待行為である」ということを今一度認識していただくことがとても大切です。
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*1 件数は2023年3月現在 *2 2013年~2022年。単独型弁護士保険として。2023年3月当社調べ。*3 99プランの場合 *4 初期相談‥事案が法律問題かどうかの判断や一般的な法制度上のアドバイス 募集文書番号 M2022営推00409
最後に
児童虐待については、様々な対策が強化されてきてはいますが、いまだその数は減ることを知りません。
昨年の令和2年には、虐待相談対応件数が20万5000件を超えるなど、その件数は過去最多の件数を更新し続けています。
通告等の件数が増えた結果かもしれませんが、今なお看過しがたい児童虐待が起こり続けている事実は否定できません。
児童相談所は、今後の日本における児童虐待の実態を改善していくべく、必死に努力している機関であり、決して敵ではありません。
仮に訪問が来た場合であっても、無下に扱うのではなく、むしろ積極的に協力するぐらいの気持ちで対応いただくのが良いでしょう。
勿論、児童相談所の対応に不安を覚えた場合は、弁護士などにご相談いただくことも一つの方法です
日本における児童虐待が少しでも減るよう、社会全体で協力していく意識を一人一人が持っていただくことが大切ですね。
事前に弁護士保険でトラブルの予防をするのはいかがでしょうか。
2008年弁護士登録。
男女問題、交通事故を中心に、幅広い分野を扱う。
大切な人生の分岐点を、一緒に乗り越えるパートナーとして、親身になって対応させていただきます。
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