「カスハラのせいで従業員が精神を病んでしまった…」
「どのようなカスハラ対策をしたらいいのか分からない…」
「そもそもこのような案件はカスハラにあたるのか」
カスタマーハラスメント(カスハラ)は、近年企業が直面する重大な課題となっています。
従業員の健康と安全を脅かし、企業の評判や業績にも悪影響を及ぼすこの問題に、多くの企業が頭を悩ませていることでしょう。
本記事では、カスハラの定義から具体的な対策まで、企業が知っておくべき重要な情報を網羅的に解説します。
経営者や人事担当者の方々に、カスハラ対策の重要性と具体的なアプローチを理解していただき、より安全で生産性の高い職場環境づくりにお役立ていただければ幸いです。
「弁護士に相談なんて大げさな・・・」という時代は終わりました!
経営者・個人事業主の方へ
ハラスメントの現状

ハラスメント問題は深刻化の一途を辿っています。
パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントは減少傾向にある一方で、カスタマーハラスメント(カスハラ)は増加傾向にあります。
弁護士約2人に1人がカスハラの被害に遭っているという調査結果もあり、特にサービス業を中心に深刻化しています。

周りでも「カスハラに遭った」という話をよく聞きます。
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは?
厚生労働省の定義によると、
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの
とされています。
カスハラとクレームの違いは?
カスハラとクレームの違いは、その目的と態度にあります。
クレームは通常、サービスの向上や品質改善を目的とした建設的な要求や依頼です。
企業はクレームを通じて改善点や反省点を見出すことができます。
一方、カスハラは嫌がらせや理不尽な要求が主な目的です。
カスハラを行う人は、企業や従業員に対して過度な要求や脅迫的な態度をとることがあります。
例えば、些細なミスに対して土下座を要求したり、SNSで企業の悪評を広めると脅したりすることは、カスハラに該当します。
カスハラはクレームとは異なり、企業の改善につながるものではなく、むしろ従業員の精神的健康や企業の業績に悪影響を与える可能性があります。
カスハラ行為が増えた背景
カスハラ行為が増加した背景には、複数の要因が考えられます。
- ストレス社会の影響
職場や家庭でのストレスが増大した結果、一部の人々はこのストレスの捌け口として、立場の弱い従業員に対してカスハラ行為を行うことがあります。 - 「お客様は神様」という考え方の誤解
日本特有の「お客様は神様」という考え方が、一部の顧客によって誤解され、過度なサービスや要求を正当化する根拠として使われることがあります。 - 企業間のサービス格差
企業によってサービス内容やレベルが異なることから、一部の顧客が独自の基準を設け、それに満たない企業に対して理不尽な要求をすることがあります。 - 過剰なサービス競争
企業間の競争が激化し、過剰なサービスが当たり前になったことで、一部の顧客の期待値が不当に高くなり、結果カスハラに発展してしまうことがあります。 - SNSの普及
ソーシャルメディアの普及により、顧客が簡単に企業の評判を左右できるようになりました。
これを悪用し、「SNSで拡散する」と脅す人々も増えています。
これらの要因が複合的に作用し、カスハラ行為の増加につながっていると考えられます。
カスハラ行為の例
カスハラ行為には様々な形態がありますが、主に以下のようなものが挙げられます。
| 長時間拘束 | 電話やカウンターで長時間にわたり従業員を拘束し、業務を妨害する行為 |
| 暴言や侮辱 | 従業員に対して「死ね」「クズ」などの暴言を吐いたり、人格を否定したりするような侮辱的な言動をとる |
| 脅迫 | 「SNSで広めてやる」「上司を呼べ」などと脅す行為 |
| 不当な要求 | 商品の無料提供や過剰な賠償金を要求する |
| 身体的な攻撃 | 暴力を振るったり、身体を触ったりする行為 |
| 差別的言動 | 性別や国籍、年齢などを理由に差別的な発言をする |
| 執拗な要求 | 同じ内容を繰り返し要求し、従業員を精神的に追い詰める |
| 土下座の強要 | 些細なミスに対して土下座を要求するなど、過剰な謝罪を強要する |
| 個人攻撃 | 特定の従業員を名指しで批判したり、個人的な情報を暴露したりする |
| 不退去 | 店舗や事務所から退去するよう求められても、居座り続ける行為 |
これらの行為は、従業員の精神的健康を害するだけでなく、業務の妨げになり、企業全体にも悪影響を及ぼす可能性があります。
カスハラは単なる「困った客」の問題ではなく、従業員の人権や企業の業務遂行に関わる重大な問題として認識しましょう。
企業がカスハラを放置すると起こるリスク

カスタマーハラスメント(カスハラ)を放置することは、企業にとって深刻な問題を引き起こす可能性があります。
弁護士従業員の健康被害だけでなく、企業の評判や業績にも大きな影響を及ぼす可能性があるため、早急な対策が必要です。

具体的には、どのようなリスクが考えられるでしょうか?
従業員の離職率増加と人材確保の困難
カスハラを放置すると、従業員の離職率が上昇し、人材確保が困難になるリスクがあります。
厚生労働省の調査によると、カスハラが発生した企業の22.6%で「従業員が休職・退職した」という結果が出ています。
カスハラによって従業員が大きなストレスを抱え、精神的に疲弊してしまうと、仕事を続けることが困難になります。
特に、暴力や土下座の強要、ネットでの誹謗中傷などを経験した従業員は、より大きなストレスを感じる傾向にあります。
また、カスハラの対応に追われることで、本来の業務に集中できない状況が続くと、従業員は「自分は今いったい何をやっているんだろう」という気持ちになり、やるせなさや不安感が高まります。
これらの要因が重なり、従業員の離職につながる可能性が高くなります。
さらに、カスハラが頻発する職場の評判が広まれば、新たな人材の確保も困難になることも予想されます。
企業イメージの低下と業績悪化
カスハラを放置することで、企業のイメージが低下し、業績が悪化するリスクがあります。
特に近年では、ソーシャルメディアの普及により、カスハラの被害者や目撃者が簡単に情報を拡散できるようになりました。
「ネットに書き込んでやる」「評判を悪くするぞ」といった脅し自体もカスハラに該当しますが、実際にそのような行動を取る人もいます。
たとえ事実と異なる情報であっても、一度ネット上に広まってしまうと、その影響を完全に取り除くことは困難です。
このような評判の低下は、顧客離れや取引先との関係悪化につながり、最終的には企業の業績を直接的に脅かす可能性があります。
法的リスクと賠償責任
カスハラを放置することで、企業は法的リスクと賠償責任を負う可能性があります。
労働契約法第5条には、使用者(企業)の安全配慮義務が規定されています。
これは、従業員が安全に就業できるように必要な配慮をする義務を企業に課すものです。
カスハラへの対策を怠り、従業員が精神的・身体的な被害を受けた場合、企業は安全配慮義務違反として訴えられる可能性があります。
カスハラによって従業員が心身に不調をきたした場合、従業員から企業に対する損害賠償請求がなされる可能性があります。
また、カスハラが原因で従業員がうつ病などの精神疾患を発症した場合、労災として認定されるケースも増えています。
厚生労働省によると、2024年度に仕事上の強いストレスが原因でうつ病などの精神障害になり、労災と認められた人は1,055人で、そのうちカスハラによる労災は108人を占めています。
このような法的リスクは、企業に金銭的な損失をもたらすだけでなく、社会的信用の失墜にもつながる可能性があります。
生産性の低下と業務効率の悪化
カスハラを放置することで、企業全体の生産性が低下し、業務効率が悪化するリスクがあります。
厚生労働省の調査によると、カスハラが発生した企業の61.3%で「従業員の意欲・エンゲージメントが低下した」という結果が出ています。
カスハラへの対応に時間と労力を割かれることで、本来の業務に支障が出てしまいます。
また、カスハラへの対応に追われることで、他の顧客へのサービス提供にも影響が及び、顧客満足度の低下や顧客離れを招く可能性もあるでしょう。
企業がカスハラに備えて対策すべきこと

カスタマーハラスメント(カスハラ)への対策は、企業にとって喫緊の課題となっています。
弁護士従業員を守り、企業の健全な運営を維持するためには、具体的かつ効果的な対策を講じる必要があります。

どのような対策をすべきなのでしょうか?
企業としての基本方針の明確化と周知
カスハラ対策の第一歩として、企業はカスハラに対する基本方針を明確に定め、社内外に周知する必要があります。
この方針には、カスハラを許容しない企業の姿勢、従業員を守る決意、カスハラへの対応手順などを含めるべきです。
- カスハラの定義と具体例
- カスハラを許容しない企業の姿勢
- カスハラが発生した場合の対応手順
- 従業員の安全と健康を最優先する方針
- カスハラ被害者への支援体制
この基本方針を社内で周知することで、従業員に安心感を与え、カスハラに関して意見を述べやすい環境を作ることができます。
また、この方針を顧客や取引先にも公開することで、カスハラ防止への理解と協力を求めることができます。
例えば、航空業界大手のANAグループとJALグループが共同で策定した「カスタマーハラスメントに対する方針」のように、業界をリードするような明確な姿勢を示すことも有効です。
このような取り組みは、従業員を守る企業の姿勢を示すだけでなく、優秀な人材の確保にもつながる可能性があります。
カスハラ対応マニュアルの作成と従業員教育
カスハラに効果的に対応するためには、具体的な対応マニュアルを作成し、従業員に対して適切な教育を行うことが重要です。
マニュアルには事項を詳細に記載します。
- カスハラ発生時の初期対応手順
- 上司や専門部署への報告方法
- カスハラ行為者への対応方法
- 被害者(従業員)のケア方法
- 警察や弁護士への相談基準
このマニュアルを基に、定期的な研修やロールプレイングを実施することで、従業員のカスハラ対応スキルを向上させることができます。
また、過去のカスハラ事例や対応策を共有することで、同様の事態が発生した際に一貫した対応が可能になります。
さらに、「自分の責任だと思わない」「被害を受けたらすぐに上長に報告する」といった啓発的メッセージを日々伝えることも重要です。
これにより、従業員がカスハラを一人で抱え込まず、組織全体で対応する文化を醸成することができます。
相談窓口の設置と対応体制の整備
カスハラ被害を受けた従業員が安心して相談できる窓口を設置し、適切な対応体制を整備することも重要でしょう。
この相談窓口は、カスハラ専用のものでも、既存のハラスメント相談窓口を活用しても問題ありません。
また、相談窓口の存在と利用方法を全従業員に周知しましょう。
定期的に案内を行い、カスハラ被害を受けた際には、ためらわずに相談するよう促します。
相談窓口の設置と運営にあたっては、以下の点に注意が必要です。
- 相談者のプライバシーを厳守する
- 相談しやすい雰囲気づくりを心がける
- 相談対応者に適切な研修を行う
- 相談内容に応じて、速やかに適切な部署や専門家につなぐ
- 相談したことによる不利益取り扱いを禁止する
さらに、相談窓口だけでなく、カスハラ発生時の対応フローを明確にしておくことも重要です。
たとえば、事実関係の確認、被害者への配慮措置、加害者への対応、再発防止策の検討などのステップを明確にし、組織全体で一貫した対応ができるようにします。
証拠の収集と記録の徹底
カスハラ対策において、証拠の収集と記録の徹底は非常に重要です。
これは、カスハラ行為の実態を正確に把握し、適切な対応を取るためだけでなく、万が一法的措置が必要になった場合の備えとしても重要です。
具体的な証拠収集と記録の方法について
- カスハラ行為の日時、場所、内容を詳細に記録する
- カスハラ行為者の言動を可能な限り正確に記録する
- 目撃者がいる場合は、その証言を記録する
- 電話でのやり取りは、可能であれば録音する(ただし、事前に相手の同意を得ることが望ましい)
- メールやSNSでのやり取りは、スクリーンショットなどで保存する
- 防犯カメラの映像がある場合は、保存しておく
これらの記録は、カスハラ対応の際の判断材料となるだけでなく、警察や弁護士に相談する際の重要な証拠となります。
また、記録を蓄積することで、カスハラの傾向分析や再発防止策の検討にも役立ちます。
ただし、個人情報やプライバシーに関わる情報の取り扱いには十分注意しましょう。
記録の保管方法や閲覧権限などについても、明確なルールを設けておく必要があります。
従業員のメンタルヘルスケアの強化
カスハラの被害を受けた従業員のメンタルヘルスケアは非常に重要です。
ある企業が設けている従業員専用の相談窓口には、「クレーム対応からメンタル不調となり一度休職し、その後復職したものの、受話器に触れたり電話の音を聞いたりするだけで震えが起こってしまい、再度休職することになった」という、深刻な相談が寄せられた事例もあります。
従業員へのメンタルヘルスケアには、まず産業医や臨床心理士との連携強化が重要です。
専門家との連携を迅速に行うことで、回復までにかかる時間を短縮することができるでしょう。
また、ストレスチェックの実施やメンタルヘルス研修を定期的に行うことにより、重度のメンタル不調に陥る前にケアすることが可能になります。
さらに、カウンセリングサービスの提供や復職支援プログラムの整備を行うことで、一度休職してしまった場合でも、よりスムーズに復職につなげることができるでしょう。
これらの対策を通じて、カスハラによる従業員のメンタルヘルス悪化を予防し、早期発見・早期対応を可能にすることが重要です。
また、従業員同士で日頃の悩みや気持ちを共有し、互いにサポートし合える機会を定期的に設けることも効果的です。
カスハラに関する法令について

カスタマーハラスメント(カスハラ)に関しては、直接的に規制する法律は2025年時点では存在しませんが、複数の法令が関連しています。
なお、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)等が一部改正の動きを見せており、一部の規定については令和8年4月1日に施行予定です。

今の時点では、どのような法令が関係しているのでしょうか?
弁護士民法や刑法など大小さまざまな法令が関連していますので、以下で解説します。
労働契約法
第5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定されています。
これは「安全配慮義務」と呼ばれ、企業がカスハラから従業員を守る法的根拠となります。
従業員がカスハラの被害を訴えたにも関わらず何も対策を講じない等、企業の安全配慮義務違反が認められた場合、企業は損害賠償責任を負う可能性があります。
実際にカスハラによって従業員が精神的ダメージを受けたケースで、企業の安全配慮義務違反を認め、従業員への損害賠償を命じた判例も存在します。
労働施策総合推進法・厚生労働省指針
この法律に基づいて、厚生労働省が「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(通称:パワハラ指針)を策定しています。
この指針では、カスハラについて「顧客等からの著しい迷惑行為」として言及されており、企業に対して以下のような取り組みを求めています。
| 相談窓口の設置 | カスハラの被害を受けた従業員が相談できる窓口を設け、その存在を従業員に周知すること。 |
| 適切な対応 | 相談を受けた際に、相談内容や状況に応じて適切に対応できる体制を整備すること。 |
| 被害者への配慮 | カスハラの被害を受けた従業員のメンタルヘルスケアや、加害者となる顧客等への対応方法(例:一人で対応させない)などを検討すること。 |
| 防止のための取り組み | カスハラ対応マニュアルの作成や従業員研修の実施など、予防的な措置を講じること。 |
これらの取り組みは、現時点では法的な義務ではなく努力義務にとどまっています。
しかし、企業がこれらの対策を怠った結果、従業員がカスハラによって深刻な被害を受けた場合、安全配慮義務違反として企業の責任が問われる可能性があります。
民法|損害賠償責任
民法は、個人間の権利義務関係を規定する法律であり、カスハラに関しては特に不法行為に基づく損害賠償責任が重要です。
民法709条では、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定められています。
カスハラの文脈では、この条文に基づいて、カスハラ行為者が被害者に対して以下の損害賠償責任を負う可能性があります。
- 精神的損害
カスハラによって被害者が精神的苦痛を受けた場合、慰謝料の請求が可能です。 - 財産的損害
カスハラが原因で休職や退職を余儀なくされ、収入が減少した場合、その損失分の賠償を求めることができます。 - 治療費
カスハラによって心身の不調をきたし、医療機関での治療が必要になった場合、その費用の賠償を請求できます。
また、企業に対しても損害賠償請求が行われる可能性があります。
例えば、企業がカスハラ対策を怠った結果、従業員が被害を受けた場合、安全配慮義務違反として企業の責任が問われることがあります。
さらに、カスハラ行為者の行為によって企業が損害を被った場合(例:対応に多大な時間とコストがかかった、企業の評判が著しく低下したなど)、企業がカスハラ行為者に対して損害賠償を請求することも法的には可能です。
これらの民事上の責任は、カスハラ抑止の一つの手段として機能します。
カスハラ行為者に対して金銭的な制裁を科すことで、同様の行為の再発を防ぐ効果が期待できる、ということです。
また、企業にとっても、適切なカスハラ対策を講じることで法的リスクを回避することが可能でしょう。
刑法・軽犯罪法|刑事上の責任
カスハラの中には、刑法や軽犯罪法に抵触し、刑事責任を問われる可能性のある行為も含まれます。
刑法・軽犯罪法は、社会秩序を維持し、個人の権利を保護するために存在しており、悪質なカスハラ行為に対しては厳しい罰則を設けています。
| 暴行罪(刑法208条) | 身体に対する不法な有形力の行使 |
| 傷害罪(刑法204条) | 人の身体を傷害すること |
| 脅迫罪(刑法222条) | 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫すること |
| 強要罪(刑法223条) | 脅迫や暴行を用いて人に義務のないことを行わせること |
| 名誉毀損罪(刑法230条) | 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損すること |
| 侮辱罪(刑法231条) | 事実を摘示せずに公然と人を侮辱すること |
| 威力業務妨害罪(刑法234条) | 威力を用いて人の業務を妨害すること |
また、軽犯罪法では、以下のような行為が罰則の対象となる可能性があります。
| 粗野又は乱暴な言動で他人の平穏を害する行為(軽犯罪法1条14号) |
これらの罪に該当すると判断された場合、カスハラ行為者は罰金や懲役などの刑事罰を科される可能性があります。
例えば、従業員に対して暴行を加えたり、土下座を強要したりする行為は、状況によっては暴行罪や強要罪に該当する可能性があります。
「SNSで拡散してやる」といった脅迫的な言動は脅迫罪に、長時間にわたって店舗に居座り従業員の業務を妨害する行為は威力業務妨害罪に該当する可能性があります。
これらの刑事罰の存在は、カスハラ行為の抑止力としての機能と、カスハラ対策における最後の砦として重要な役割を果たしています。
ただし、これらの法律の適用は慎重に判断される必要があり、軽微な案件では警察が動かないこともあります。
そのため、企業としては、これらの法的措置を最終手段として位置づけつつ、日頃からのカスハラ防止策や初期対応の充実に力を入れることが重要です。
カスハラの判例

カスタマーハラスメント(カスハラ)に関する判例は、企業が取るべき具体的な対応策やカスハラ対策の必要性を示唆しています。
弁護士以下では、カスハラに関連する代表的な判例を紹介し、その意義を解説します。

事例を知っておくことで、どう対応すべきかが見えてきますね。
小学校教諭へのカスハラ事例
2018年11月30日甲府地方裁判所において、小学校教諭がカスハラ被害を受けたケースに関する判決が下されました。
事件の内容(抜粋)
児童の保護者から理不尽な言動を受けた教諭に対し、学校長が事実関係を冷静に調査・判断することなく、一方的に教諭に謝罪を求めた。
裁判所は、この学校側の対応が不適切だったとして、学校を設置する自治体に対して教諭への損害賠償を命じた。
この判例は、教育現場に限らず、あらゆる業種の企業にとって重要な示唆を含んでいます。
カスハラが発生した際には、事実関係を丁寧に確認し、カスハラ被害者の立場に立った対応を行うことが求められます。
また、顧客や取引先からの要求であっても、それが明らかに不当である場合には、毅然とした態度で対応することの重要性も示唆しています。
小売業従業員のカスハラ対応事例
2018年11月2日、東京地方裁判所で、小売業の従業員が買い物客とのトラブルに関連して勤務先を訴えた事例について判決が下されました。
事件の内容(抜粋)
スーパーの従業員Aと顧客Bとの間でトラブルが発生。顧客Bは雇用主であるスーパー側に、従業員Aの退職要求等を要求。
従業員Aは雇用主の対応に対し、安全配慮義務違反だと主張。
この判例では、従業員Aが顧客Bとのトラブルにおいて適切な対応を取れなかったとして、勤務先に対して安全配慮義務違反を理由に損害賠償を請求しました。
しかし、裁判所は従業員の以下3点の理由から訴えを退け、企業の安全配慮義務違反を否定しました。
- 企業が入社時に苦情を申し出る顧客への対応を指導していたこと
- サポートデスクの設置や近隣店舗のマネージャーとの連絡体制の連携が整備されていたこと
- 深夜店舗の2名体制など、相談体制が十分に整えられていたこと
この判例からは、入社時や定期的な研修でカスハラ対応を指導すること等の「従業員教育の重要性」、また、サポート体制の整備(従業員が一人で対応せずに済むような体制作り等)が重要であると読み解くことができます。
さらには、店舗間や上司との迅速な連絡体制の構築や、特にリスクの高い時間帯での複数人体制を導入する等の「人員配置の工夫」も企業の安全配慮義務違反を否定する材料になっています。
企業がカスハラ対策を適切に行っていれば、たとえカスハラが発生したとしても、必ずしも法的責任を問われるわけではないことを示しています。
つまり、事前の対策と体制整備が、企業にとって法的リスクを軽減する上で非常に重要であることを裏付けています。
看護師への暴力事例
2013年2月19日、東京地方裁判所で、病院に入院中の患者から暴力を受けた看護師が、勤務先の病院を訴えた事例について判決が下されました。
事件の内容(抜粋)
Y病院に勤務していた看護師Xが、業務中入院患者から2度暴力を受けた。
その後に適応障害となり、就労が困難な状況に至って休職していたところ、同病院から解雇通告を受けたため、安全配慮義務違反による損害賠償と、解雇が無効であるとして解雇後の賃金を請求。
最終的に、患者からの暴力行為に対して病院の安全配慮義務違反が認められ、看護師に対して約1900万円の損害賠償が命じられた。
この判例は、直接的にはカスハラを扱ったものではありませんが、顧客(患者)からの暴力行為に対する企業(病院)の責任を明確にした点で、カスハラ対策にも重要な示唆を与えています。
- 顧客からの暴力行為に対する企業の責任
顧客といえども、従業員に対する暴力行為は許されず、企業はそれを防ぐ義務がある - 安全配慮義務の範囲
企業の安全配慮義務は、顧客からの暴力行為からも従業員を守ることを含む - 事前の対策の重要性
暴力行為のリスクが予見可能な場合、企業は適切な予防措置を講じる必要がある - 損害賠償額の大きさ
従業員の安全を脅かす行為に対しては、高額の賠償金が命じられる可能性がある
特に、暴力行為など従業員の身体的安全を脅かすようなカスハラに対しては、セキュリティの強化、従業員への安全教育、緊急時の対応マニュアルの整備などが求められます。
また、この判例は、カスハラが単なる接客上の問題ではなく、従業員の安全と健康に関わる重大な問題であることを法的に認識させた点でも重要です。
企業は、カスハラ対策を従業員の安全管理の一環として位置づけ、組織的かつ継続的に取り組む必要があるといえるでしょう。
カスハラが起こった際に企業が対応するフロー

カスタマーハラスメント(カスハラ)が発生した際、企業は迅速かつ適切に対応する必要があります。
従業員を守り、企業としての責任を果たすためには、明確な対応フローを準備し、組織全体で共有しておくことが重要です。
カスハラが発生した場合、最初に行うべきは、事前に定められた連絡フローに従って、責任者への情報共有と引き継ぎです。
この段階では、現場の従業員が一人で対応を抱え込まないことが極めて重要です。
- カスハラを受けた従業員は、直ちに上司や現場責任者に状況を報告する。
- 報告を受けた責任者は、状況を把握し、必要に応じて現場に急行する。
- 責任者は、対応の引き継ぎを行うかどうかを判断する。
- 深刻なケースの場合、人事部門や法務部門にも速やかに連絡する。
この段階で重要なのは、従業員の安全を最優先することです。
暴力や脅迫など、従業員の身体的・精神的安全が脅かされる恐れがある場合は、直ちに警察への通報も検討します。
また、この初期対応の段階から、後の分析や対策に役立つよう、できる限り詳細な記録を取り始めることが重要です。
日時、場所、関係者、具体的な言動などを可能な限り正確に記録します。
カスハラ行為者の主張を冷静に聴き取り、記録することが次のステップです。
- 客観的な態度を保つ:感情的にならず、中立的な立場で聴き取りを行う。
- 傾聴の姿勢:顧客の話を遮ることなく、最後まで聞く。
- 具体的な内容の確認:曖昧な表現があれば、具体的に説明を求める。
- 記録の徹底:主張の内容、時系列、具体的な言動を詳細に記録する。
- 複数人での対応:可能であれば、複数の従業員で対応し、記録の正確性を高める。
この段階での記録は、後の対応や分析、さらには法的措置が必要になった場合の証拠としても重要です。
顧客の同意が得られれば、会話の録音も検討しますが、事前に録音の了解を得ることが必要です。
また、顧客の要求内容が妥当であるか、要求を実現するための手段や態様が社会通念上相当であるかを慎重に判断します。
この判断は、次のステップでの対応方針を決定する上で重要になります。
顧客の主張を聴き取った後、その場で対応するか、持ち帰って検討するかを判断します。
この判断は状況に応じて適切に行う必要があります。
| 現場での対応が適切な場合 | 持ち帰りが適切な場合 |
| ・明らかな事実誤認や誤解に基づく軽微なクレーム ・迅速な対応で解決可能な問題 ・顧客の感情が高ぶっておらず、冷静な対話が可能な場合 | ・複雑な問題で、詳細な調査や検討が必要な場合 ・顧客の要求が過度または違法性を含む可能性がある場合 ・顧客の感情が高ぶっており、冷静な対話が困難な場合 ・組織としての判断や法的な見解が必要な場合 |
持ち帰る場合は、顧客に対して丁寧に説明し、回答の目途や次の連絡方法を明確に伝えます。
この際、安易な約束や謝罪は避け、「事実関係を確認の上、適切に対応させていただきます」といった中立的な表現を用いることが重要です。
また、現場での対応か持ち帰りかの判断基準を事前にマニュアル化しておくことで、一貫した対応が可能になります。
判断に迷う場合は、必ず上司や専門部署に相談するよう従業員に指導しておくことも大切です。
持ち帰って検討することになった場合、会社としての対応方針を慎重に決定し、顧客に通知します。
- 事実関係の再確認:収集した情報を基に、事実関係を詳細に確認する。
- 法的観点からの検討:必要に応じて顧問弁護士に相談し、法的リスクを評価する。
- 組織内での協議:関係部署(人事、法務、広報など)と協議し、総合的な判断を行う。
- 対応方針の決定:顧客の要求に応じるか、毅然とした態度で拒否するか、妥協点を探るかなどを決定する。
- 回答内容の作成:決定した方針に基づき、顧客への回答内容を慎重に作成する。
顧客への回答の際は、以下の5つを意識しましょう。
- 客観的な事実に基づいた説明を心がける。
- 感情的な表現を避け、冷静かつ丁寧な言葉遣いを用いる。
- 会社の方針や判断根拠を明確に示す。
- 必要に応じて、再発防止策や改善策を提示する。
- 法的リスクがある場合は、表現に十分注意する。
特に重要なのは、カスハラと判断される行為に対しては、毅然とした態度で対応することです。
不当な要求や脅迫に安易に応じることは、かえって問題を悪化させる可能性があります。
また、回答方法(書面、電話、対面など)も慎重に選択します。
内容によっては、書面での回答が適切な場合もあるでしょう。
対面での回答が必要な場合は、複数の従業員で対応するなど、安全面にも配慮します。
カスハラ対応の重要な一環として、被害を受けた従業員へのケアがあります。
カスハラは従業員に大きな精神的ストレスを与える可能性があるため、適切なケアを行うことが企業の責務です。
| 心理的サポート | 上司や人事部門による面談を実施し、従業員の心理状態を確認する。 必要に応じて、産業医やカウンセラーによる専門的なケアを提供する。 従業員が安心して相談できる環境を整える。 |
| 業務上の配慮 | 一時的な業務軽減や配置転換など、必要に応じて柔軟な対応を行う。 カスハラ行為者との接触を避けるなど、二次被害防止のための措置を講じる。 |
| 法的サポート | カスハラ行為が犯罪に該当する可能性がある場合、警察への届け出をサポートする。 必要に応じて、弁護士による法的アドバイスを提供する。 |
| フォローアップ | 定期的な面談を実施し、従業員の状態を継続的に確認する。 職場復帰のサポートや、長期的な心のケアを行う。 |
| 組織的な取り組み | カスハラ防止研修を実施し、全従業員の意識向上を図る。 カスハラ対応マニュアルを整備し、組織全体での対応力を強化する。 |
適切なケアは従業員の離職防止にもつながり、企業にとっても大きなメリットとなります。
カスハラ事案への対応が一段落したら、その経験を今後に活かすため、カスハラ対応マニュアルの見直しを行います。
このステップは、組織全体のカスハラ対応能力を向上させる重要な機会です。
マニュアル見直しのポイント
| 事例の分析 | 発生したカスハラの詳細を分析し、その特徴や傾向を把握する。 対応の成功点と改善点を明確にする。 |
| 予防策の強化 | 分析結果を基に、カスハラを未然に防ぐための新たな対策を検討する。 顧客対応の改善点や、サービス提供方法の見直しなどを行う。 |
| 初期対応の改善 | 初期対応の迅速性や適切性を評価し、必要に応じて改善する。 連絡体制や報告ルートの見直しを行う。 |
| 従業員教育の充実 | カスハラ対応スキル向上のための研修内容を更新する。 新たな事例を教材として活用し、実践的な教育を行う。 |
| 法的観点の強化 | 必要に応じて顧問弁護士と相談し、法的リスク管理を強化する。 最新の判例や法改正を反映させる。 |
| 組織体制の見直し | カスハラ対応の専門チームの設置や、既存チームの強化を検討する。 部門間の連携体制を改善する。 |
| テクノロジーの活用 | AI技術などを用いた新たなカスハラ対策ツールの導入を検討する。 |
| フィードバックの収集 | 従業員からカスハラ対応に関する意見や提案を積極的に集める。 顧客からのフィードバックも参考にし、サービス改善につなげる。 |
このように、カスハラ事案を単なるトラブルとして終わらせるのではなく、組織の成長と改善の機会として捉えることが重要です。
定期的なマニュアルの見直しと更新により、企業全体のカスハラ対応能力を継続的に向上させることができるでしょう。
まとめ
カスタマーハラスメント(カスハラ)は企業と従業員に重大な影響を与える問題です。
企業は明確な方針と対応体制を整備し、従業員教育を徹底する必要があります。
カスハラ発生時の適切な対応、被害従業員へのケア、継続的な改善も重要です。
カスハラ対策は従業員保護と企業の健全な運営に直結する重要な経営課題といえます。

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