安全配慮義務とは?違反となるケースや罰則などを徹底解説

近年、労働災害やパワハラ・セクハラ問題への関心が高まる中、企業にとって安全配慮義務はますます重要になっています。

安全配慮義務は、企業(事業者)が労働者の安全と健康を守るために必要な配慮をする義務であり、企業にとって最も重要な義務の一つといえるでしょう。

本記事では、安全配慮義務の基礎知識から、違反事例、職種別解説、企業が取るべき対策までをわかりやすく解説します。

安全配慮義務違反を防ぎ、従業員の安全と健康を守るために、そして企業自身の存続のために、本記事を参考に適切な対策を講じていただければ幸いです。

目次

安全配慮義務とは

安全配慮義務とは何でしょうか?

弁護士

企業や個人が行動する際、他者への損害を防ぐために必要な注意と配慮を払うことを法的に求められる義務です。

安全配慮義務は、労働契約法第5条と労働安全衛生法に基づく義務です。

安全配慮義務の対象者

自社の従業員はもちろん、派遣社員や直接労働契約を結んでいない下請け企業の従業員も、同じ労働環境にいる場合には安全配慮義務の対象に含まれます。

また、同じ労働環境ではない海外勤務者に対しても、安全配慮義務があることに留意しましょう。

☞安全配慮義務の対象者

  • 自社の従業員
  • 自社の下請け企業の従業員
  • 派遣社員
  • 海外勤務をしている従業員

安全配慮義務の範囲

安全配慮義務における具体的な対策内容については、実は法律で決められていません。

企業や業種によって配慮すべき場面は様々なため、幅広く安全配慮のための対策を講じる必要があり、一般的には「職場環境配慮義務」「健康配慮義務」の2点を軸としています。

職場環境配慮義務

労働環境

  • 職場設備の安全性
  • 作業環境の安全性
  • 労働時間
  • 休憩時間
  • 過重労働対策

安全教育

  • 安全な作業手順の教育
  • 機械設備の操作方法の教育
  • 災害発生時の対応方法の教育

健康配慮義務

健康管理

  • 定期健康診断の実施
  • メンタルヘルス対策

疲労管理

  • ストレス対策

その他

  • セクシャルハラスメント対策
  • パワハラ対策

労災(労働災害)との違い

安全配慮義務は、労災発生の予防を目的とした事業者の義務です。

労災(労働災害)は、安全配慮義務違反によって発生した損害を補償する制度です。

安全配慮義務
目的労働災害の発生防止
根拠労働契約法第5条、労働安全衛生法
責任事業者
内容安全な職場環境の整備、安全教育の実施、健康管理の実施など
違反した場合民事責任、刑事責任
労災(労働災害)
目的労働災害による損害の補償
根拠労働災害保険法
責任労災保険
内容休業補償、傷病補償、遺族補償など
支給条件業務上の負傷または疾病

安全配慮義務違反が認められた場合の罰則

安全配所義務に違反した場合、やはり罰則はあるのでしょうか?

弁護士

労働災害が発生した場合には、企業は損害賠償責任や刑事責任を負う可能性があります。

安全配慮義務違反の罰則

安全配慮義務違反は、労働災害発生時に事業者に民事責任を負わせる可能性が高いですが、刑事責任を問われるケースは限定的です。

民事責任:労働災害発生時に、労働者や遺族に対して損害賠償責任を負う

刑事責任:労働災害発生時に、業務上過失致死傷罪などの刑事責任を問われる可能性がある

民事責任

安全配慮義務違反が認められた場合、事業者は以下の民事責任を負う可能性があります。

損害賠償責任:労働者や遺族に対して、死亡損害、治療費、休業損害、慰謝料などの損害賠償責任を負う

不法行為責任:労働者に対して、不法行為責任に基づく損害賠償責任を負う

刑事責任

安全配慮義務違反が故意による場合は、以下の刑事責任を問われる可能性があります。

業務上過失致死傷罪:労働災害により労働者が死亡または負傷した場合、業務上過失致死傷罪として、懲役刑または罰金刑

労働安全衛生法違反:労働安全衛生法に違反した場合、6月以下の懲役または50万円以下の罰金刑

安全配慮義務違反となるケース

安全配慮義務違反の要件

安全配慮義務違反が成立するためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。

  1. 労働災害発生の予見可能性
    事業者が労働災害発生を予見できたかどうかが問われます。
  2. 労働災害発生の回避可能性
    事業者が労働災害発生を回避できたかどうかが問われます。
  3. 事業者による安全配慮義務の懈怠
    事業者が安全配慮義務を怠っていたかどうかが問われます。

《職種別》安全配慮義務違反の事例

広告代理店(東京地裁平成12年9月26日判決)
長時間労働による過労死・過労自殺

事例:2017年、広告代理店の女性新入社員が長時間労働による過労自殺で亡くなった。

厚生労働省の調査:長時間労働(月80時間超)が常態化している事業場では、そうでない事業場と比べて、脳・心臓疾患による死亡リスクが約1.5倍高くなっている。

安全配慮義務違反:長時間労働による過労死・過労自殺は、安全配慮義務違反として、事業者に損害賠償責任を負わせる可能性がある。

裁判所は、広告代理店の安全配慮義務違反を認め、遺族に対して約1億4千万円の損害賠償金を支払う和解が成立。 また、当時の社長と上司2人が、労働基準法違反(過労死防止措置)で書類送検となった。

テレビ局
セクハラ

事例:2020年、テレビ局の男性アナウンサーが女性職員に対するセクシャルハラスメントで懲戒処分を受けた。

安全配慮義務違反:職場におけるセクシャルハラスメントは、労働者の安全と健康を脅かす行為であり、安全配慮義務違反として、事業者に損害賠償責任を負わせる可能性がある。

裁判所は、テレビ局の安全配慮義務違反を認め、被害者に対して約2千万円の損害賠償金を支払う和解が成立。

建設業
転落・墜落事故

事例:2022年、建設現場で作業員が安全帯を着用せずに作業中に転落し死亡した。

労働災害防止協会の調査:建設業における転落・墜落事故は、死亡災害の約半数を占めている。

安全配慮義務違反:安全帯の着用義務・安全な足場の設置義務を怠り、転落・墜落事故が発生した。

製造業
機械による切断事故

事例:2021年、製造工場で作業員が機械の安全装置が不備で機械に巻き込まれ、指を切断した。

厚生労働省の調査:製造業における機械による事故は、労働災害全体の約2割を占めている。

安全配慮義務違反:機械の安全装置が不備で、機械による切断事故が発生。また、安全な作業手順の教育が不十分で、機械による切断事故が発生した。

裁判所は、製造工場の安全配慮義務違反を認め、作業員に対して約3千万円の損害賠償金を支払う判決を下した。

医療・介護職
患者・利用者への暴力

事例:2023年、病院で看護師が患者から暴力を受けて負傷した。

安全配慮義務違反:暴力発生時の対応方法についての教育が不十分で、患者・利用者からの暴力を受けた。

安全配慮義務違反:安全な職場環境の整備が不十分で、患者・利用者からの暴力を受けた。

サービス業
顧客からの暴力

事例:2022年、コンビニエンスストアで店員が客から暴力を受けて負傷した。

安全配慮義務違反:暴力発生時の対応方法についての教育が不十分で、顧客からの暴力を受けた。

安全配慮義務違反:安全な職場環境の整備が不十分で、顧客からの暴力を受けた。

安全配慮義務を果たすために企業がすべき対策

安全配慮義務は、単に法律で定められている義務というだけでなく、企業が従業員に対して負う倫理的な責任であり、企業の持続的な発展のためにも不可欠なものといえるでしょう。

安全配慮義務違反にならないように、どのような対策をすべきでしょうか?

弁護士

以下の5つの対策を講じることが重要です。

安全装置・マニュアルの設置、労働環境の整備

  • 安全装置の設置
    機械設備に安全装置を設置することで、機械による事故を防ぐことができます。
  • マニュアルの作成
    作業手順書や安全マニュアルを作成することで、労働者が安全な作業方法を理解することができます。
  • 労働環境の整備
    換気設備や照明設備など、労働環境を適切に整備することで、労働者の健康を守ることができます。

労働時間・休暇の管理

  • 長時間労働の防止
    長時間労働は、過労死・過労自殺などの原因となるため、労働時間を適切に管理する必要があります。
  • 休暇の取得促進
    労働者が十分な休息を取れるよう、休暇取得を促進する必要があります。

産業医・カウンセラーの設置

  • 産業医による健康管理
    産業医による定期的な健康診断や健康相談を実施することで、労働者の健康状態を把握し、健康問題の早期発見・対応が可能となります。
  • カウンセラーによるメンタルヘルス対策
    カウンセラーによるメンタルヘルス相談を実施することで、労働者の心理的な負担を軽減することができます。

定期的な健康診断・面談の実施

  • 定期的な健康診断
    定期的な健康診断を実施することで、労働者の健康状態を把握し、健康問題の早期発見・対応が可能となります。
  • 面談の実施
    労働者と定期的に面談を実施することで、労働者の悩みや不安を把握し、適切な対応を取ることができます。

ハラスメント対策と教育

  • ハラスメント防止策
    ハラスメント防止策を策定し、ハラスメント研修を実施することで、ハラスメントの発生を防止することができます。
  • 教育の実施
    労働者に対して、安全配慮義務に関する教育を実施することで、労働者が安全意識を高めることができます。

まとめ

一口に「安全配慮義務」と言っても、業種や企業規模によって対策内容は多岐に渡ります。

しかしながら安全配慮義務をおろそかにしてしまうと、従業員の安全と健康が損なわれる危険性があり、さらには労働災害や損害賠償請求、刑事責任に発展するリスクがあります。

企業と従業員にとって、双方の利益を守るための重要なルールである安全配慮義務について、本記事を参考にしていただき、企業存続のための足掛かりにしていただければ幸いです。

弁護士

木下慎也 弁護士

大阪弁護士会所属
弁護士法人ONE 代表弁護士
大阪市北区梅田1丁目1-3 大阪駅前第3ビル12階
06-4797-0905

弁護士として依頼者と十分に協議をしたうえで、可能な限り各人の希望、社会的立場、その依頼者らしい生き方などをしっかりと反映した柔軟な解決を図ることを心掛けている。

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