最近ニュースなどで耳にする「行政指導」。
言葉だけは聞いたことがあるけれど、実際に自分の会社が「行政指導」対象になった場合どう対応すればいいのか?
会社を運営されている方には、とても気になることだと思います。
万が一自分の会社に、「行政指導」が入った場合、どのように対応・対処することが適切なのか?
この記事で、分かりやすく解説をしていきます。
「弁護士に相談なんて大げさな・・・」という時代は終わりました!
経営者・個人事業主の方へ
行政指導とは?
行政指導とは具体的にどのようなものを指すのでしょうか?
行政機関が特定の業者へ行う指導のことを指します。
似た単語で「行政処分」という言葉がありますので、違いについても解説します。
「行政指導」と「行政処分」の違い
「行政指導」と「行政処分」は、どちらも行政機関が行います。
どのように違ってくるのか、順番に確認していきましょう。
一般的に、行政指導は助言・勧告・警告・指導などの形で行われ、法令遵守の促進や社会秩序の維持を目的としています。
その為、行政指導には強制力がありません。
納得がいかない場合は従う必要はありませんが、指導に従わない場合は行政処分が行われる可能性がありますので注意が必要です。
まず行政指導を受けた場合、なぜ行政指導を受けたのか、納得がいくまで追求することも可能です。
その際は、弁護士などの専門家に相談し、書面での理由説明を求めることもできるので、気になる方は交渉してみましょう。
例えば、罰金・免許の取消・差し止め処分などが行政処分の一例となります。
法令違反や公共の利益の侵害などの場合に行われ、法的強制力を持っています。
つまり、法令違反などに対する罰則や制裁なので、対象者の権利や権限に大きな影響を与えます。
「行政指導」の目的と意義
「行政指導」は、行政機関が特定の個人や事業者に対して、法令遵守や適正な行動を促し、指導することです。
では、その目的と意義とはどのようなものなのか見ていきましょう。
~目的~
行政指導によって、法令や規則を守るように誘導し、違反が生じる前に予防することが主な目的です。
また、法令違反や問題が発生した場合は、行政指導を通じて問題解決のための適切な修正・指導を行います。
例えば、
リフォーム会社が「お宅の屋根がずれているように見えるので点検をしましょう。無料で点検できますので。」などと、屋根工事の契約を結ばせるという目的を事前に告げずに勧誘を行った。
その後、クーリングオフを求めた消費者に対し、「材料費がかかっているからクーリングオフは無効。材料費を支払え」と対応を拒否した。
こういった場合、特定商取引法などに規定する不当な取引行為(勧誘目的不明示、迷惑解除妨害)の疑いがあることから、行政指導を行う必要があります。
~意義~
行政指導に法的拘束力はありませんが、「任意での協力を求めます」という意味合いがあります。
いきなり強制力のある行政処分を行うのではなく、まずは行政指導によって任意での協力を求めることは、解決策をともに模索することができるというメリットがあります。
また、行政指導は、法的な強制力を持たないため、より柔軟な対応が可能となります。
対象者との協力関係を保ちながら、適切な解決策へ導くことができる点が大きな意義と言えるでしょう。
行政指導を行うことで、紛争や訴訟に発展する前に、問題を解決する手段として行政指導が機能すれば、その後の対処や対応で時間を取られることもなく、大きな損害となることを避ける効果もあります。
行政指導に従わないとどうなる?
行政指導は任意の要請であるため、必ず従う必要はありません。
行政手続法32条2項では、行政指導に従わないということを理由に不当な扱いをすることを禁止しています。
そのため、指導に従わないという理由のみで不利益を被ることはありません。
例外として、行政機関が法的措置を取ることを前提として、指導を行う場合があります。
指導に従わない場合、最終的には法的措置が取られる可能性があることも念頭に置いておいた方がよいでしょう。
また、行政指導に従わなかったことが周囲に知られてしまった場合、企業としての信頼が損なわれるリスクがあるということも注意したほうがいいでしょう。
行政指導の具体事例
行政指導は、具体的にどのように指導を進めていくのでしょうか?
行政指導は、基本原則や方式など、細かく法律で定められています。
どうしても行政指導に納得いかない場合には「行政指導を行う理由」について追及することもできます。
行政指導の基本原則
行政指導を行う行政機関は、行政機関の任務または担当事務の範囲を逸脱してはなりません。
つまり、任務外・所掌事務(担当事務)外の内容について行政指導はできないということです。
法律で各行政機関にはそれぞれ権限が配分されていますので、その範囲内で行政指導をしなければならないということです。
任意性の原則
行政指導は法的拘束力を持ちませんので、あくまでも任意であることが原則です。
指導を受ける側は従うかどうかを自由に決定できます。
そのため義務が発生しませんので、行政庁がお願いをして行政指導(勧告など)を行うというイメージになります。
このお願いに対しては、行政指導を受ける側は従う義務はありません。
比例性の原則
行政指導は、その目的を達成するために適切な範囲内で行われるものになるので、過剰な行政の介入や不合理な指導は避けなければなりません。
また、行政指導の内容やその理由を明確に伝え指導を受ける側が、きちんと理解し納得がいくように指導の根拠や目的を説明する必要があります。
公正性の原則
行政指導は公正で平等に行わなければなりません。
特定の個人や企業に対して不公平な指導を行ってはならないですし、行政指導を受ける側の意見や事情を考慮し、その権利や利益を尊重することが重要です。
行政指導の方式
行政指導の方式は、行政手続法第35条に定められています。
行政手続法35条の「行政指導の方式」は、2014年に改正されており、行政指導について書面交付が必要な場合と交付不要な場合とがあります。
行政指導の明確化の原則
行政指導に携わる者は、その相手に対して行政指導の趣旨や内容、並びに責任者を明確にしなければならない。
また、許認可等の権限を使う場合、下記に記した内容を提示することが義務付けられている。(2014年改正)
- 権限を行使できる根拠となる法令の条項
- 権限を行使できる要件
- 権限の行使が上記要件に適合する理由
分かりやすく言うと、行政指導に従わない場合は「許可の取消しの可能性があります」と伝える場合、その相手に対して「許可取消しや不許可」などの根拠となる法令等の条項や理由を示さなければならないということです。
この条文があることで、手続きの透明性が高まり不適切な行政指導を抑止することができ、行政指導の相手方の権利や利益を保護することができます。
行政指導の書面交付が必要な場合
行政指導が口頭でされた場合、その相手から指導内容を記載した書面交付を求められたときは、指導書面を交付します。
行政指導で書面交付が不要な場合
上記の通り、行政上支障がある場合、書面交付は不要ですが、それ以外でも下記に該当する場合は書面交付が不要となります。
- 相手に対してその場で完了・終了することを求める場合
- すでに文書又は電磁的記録(メールなど)によりその相手に通知されている内容を求める場合
行政指導の求め
行政手続法36条の3の「処分の求め」は、行政手続法36の2の「行政指導の中止等の求め」同様2014年に改正された内容になります。
「処分などの求め」とは、簡単にいうと法令違反を発見した第三者が、行政庁などに対して処分をしてもらうよう求めることができるというものです。
行政指導を求める場合には、求めている処分内容や行政指導を行う権限を持っている役所(行政機関)に対して行います。
注意点
- 誰でも処分の求めができる
- 利害関係人以外の者でも求めることができる
- 行政指導を求めた場合、根拠となる規定が法律上にあるものでないとならない
※つまり、条例や規則に根拠規定があっても行政指導の求めはできません。
申請にかかわる行政指導
申請に関連する行政指導とは、役所が申請の取り下げや内容の変更を求める指導のことです。
行政指導は*「非権力的な事実行為」であり、行政指導に従うかどうかは行政指導を受けた者の自由です。
行政指導を行う者は、申請者が行政指導に従うつもりがないとき、行政指導を継続することでその申請者の権利を妨げるようなことをしてはなりません。(行政手続法第33条)
つまり、「申請を取り下げてください!」「申請の内容を変更してください!」と求めたとしても、申請者が行政指導を受けるかは相手の自由ということです。
*「非権力的な事実行為」とは、法律や規則に基づく強制力を持たない行政機関が行うアドバイスや支援などの行為を指します。
許認可権限に関する行政指導
行政手続法第36条では、複数業者に向けて行政指導を実行する場合には、行政機関はあらかじめ指導する事案に応じて指針を決定し、*行政上特別な支障がない限りは明示しなければならないと定められています。
各都道府県にも独自の行政指導指針がありますので、ご自身の地域の指針がどのようなものなのかを確認されたい方は「都道府県名 行政指導指針」と検索すると色々出てきますので、参考にしてみるのもいいかもしれません。
重要なことは、複数の者に対して行政指導を行う場合、行政指導指針を定めることは義務であるということと、行政指導指針については、原則公表が必要であるということです。
例外として、*行政上特別な支障がある場合は、公表不要です。
*「行政上特別の支障があるとき」とは、定められた審査基準について、公にすると個別法の適正な運用に著しい支障をきたす恐れがあり、全体の利益を考えて公表しない方がよいと判断される場合。(多くの場合は事案に応じて判断されます)
行政手続法が適用されないケース
行政手続法が適用されないこともあるのですか?
行政手続法が適用されないのは、それぞれ各地方団体の行政手続条例などの定めによることになります。
行政手続法が適用されないケースとは、適用除外地方公共団体の機関の処分や地方公共団体に対する届出が提出された際に、
- その根拠となる規定が条例又は規則に置かれているもの
- 地方公共団体が行う行政指導、地方公共団体の機関が命令などを決める行為に関する手続については、行政手続法は適用されないので各団体の行政手続条例による(第3条第3項)
行政指導を受けた場合の対応
もしも行政指導を受けてしまったらどのように対応すべきでしょうか?
まずは理由を確認し、合理的なものであれば従うべきでしょう。
行政指導の理由を確認する
行政手続法により、規則が設定されています。
行政指導を受けた際には、行政指導の理由を記載した書面の交付を求めることもできます。
まずは理由を確認しましょう。
- 行政指導を実施する側が、相手に対して行政指導の趣旨や内容を明確に説明しているか?
- 権限を発動する場合は、その法律が適用される範囲や、その要件に適合する理由を示しているか?
それぞれ確認をすることは、とても大切なことになります。
合理的な行政指導には従うべき
行政指導の理由を確認した後、その理由が合理的であると判断した場合は行政指導に従う方が賢明といえます。
行政指導は、行政処分のようにその相手に義務を課したり権利を制限したりする法律上の拘束力はありません。
あくまでも自主的な協力を前提としていますので、行政指導に従うことは必須ではありません。
行政手続法32条2項では、行政指導に従わないからといって、不利益な取り扱いをすることは禁止していますので、そこは安心していいでしょう。
行政指導が終了したらすぐに監督官庁へ報告しましょう。
不合理的な行政指導に対しては中止を求める
行政指導の内容や理由が不合理な場合は、従わなくても問題はありません。
行政機関に対して従う意思がないことを伝え、行政指導の取りやめを求めましょう。
ただしその際には、行政処分を受ける恐れがありますので注意が必要です。
行政指導に従うか否かについては、将来的な行政処分のリスクを十分に検討することが重要です。
専門家と相談をしながら慎重に判断をすることをおすすめします。
行政指導に関する3つの判例
裁判などを経て行政指導に至った例はありますか?
3つの判例を紹介します。
判例1
「内部告発後に不当な異動」従業員、大塚食品を提訴(朝日新聞デジタル)
大塚食品(大阪市)の工場での衛生管理を内部告発した後、不当に配置転換されたため、うつ病を発症した男性社員が13日、同社に220万円の損害賠償を求め、大津地裁に提訴した。
滋賀県食品安全監視センターは食品衛生法に触れる恐れがあるため、大塚食品を行政指導した。
判例2
LINEアプリの利用者情報流出問題(朝日新聞デジタル)
LINEアプリの利用者情報が流出した問題で、運営するLINEヤフーの大株主の韓国IT大手ネイバーは、中間持ち株会社の株式について「持ち分の売却も含めて協議していく」との声明を発表した。
運営するLINEヤフーは2024年3月5日に総務省から行政指導を受けた。
また、個人情報保護委員会(個情委)は3月28日にLINEヤフーに対し、個人情報保護法に違反しているとして是正勧告を出している。
判例3
マイナカード証明書で誤交付(朝日新聞デジタル)
マイナンバーカードを使ったコンビニでの証明書の交付システムで、別人の書類が発行されるトラブルが新たに確認され、総務省は富士通に行政指導を行った。
また、2023年9月20日に、本人以外の預貯金口座の情報がマイナンバーに登録された問題で、個人情報保護委員会はデジタル庁に対してマイナンバー法と個人情報保護法にもとづく行政指導をしたと発表している。
まとめ
行政指導とは、政府や地方自治体が法律や規制を遵守し、公共の利益や秩序を維持するために行う、企業や個人に対する助言や指導のことです。
具体的には、法令遵守の促進や行政手続きの適正化、社会問題の解決などを目的としています。
行政機関や官僚が企業や個人に対して行う指導や監督活動も含まれています。
行政指導のポイントは下記3点です。
- 行政指導は、行政処分と違い、任意なので基本的には従わなくても良い
- 審査請求や取消訴訟は原則不可能だが、国家賠償請求訴訟は可能である
- 判例には、行政指導(勧告)が行政事件訴訟法における抗告訴訟の対象となり得ると判断されたものもある
行政機関から出される行政指導にはさまざまな内容があり対応も適宜変わってきます。
実際に行政指導を受けた場合も、あわてることがないようこの記事が参考になれば幸いです。
東 拓治 弁護士
福岡県弁護士会所属
あずま綜合法律事務所
福岡県福岡市中央区赤坂1丁目16番13号上ノ橋ビル3階
電話 092-711-1822
【弁護士活動20年】
御相談に対する迅速,正確かつ多面的な解決策の提供を信条としています!
話しやすく、アットホームな雰囲気を心がけておりますので安心して気軽にご相談下さい。
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
2019年よりミカタ少額短期保険(株)が運営する法律メディアサイトです!
日常生活で困ったこと・疑問に思ったこと等、
法律に関するトラブル解決方法やお役立ち情報を、
弁護士監修のもと発信しています♪
----------------------------------------------------------------------------------------------------------------