モデル就業規則とは、厚生労働省が発行している就業規則のテンプレート(ひな形)です。
法令面での信頼性が高いことから、多くの企業に参照され、ほとんどそのままの形で採用している企業も少なくないようですが、モデル就業規則はあくまでモデル例に過ぎず、利用する上でいくつか注意すべき点もあります。
厚生労働省以外にも、それぞれ特徴のある就業規則テンプレートを公開しているところがあります。
今回は、就業規則そのものの基本原則を確認し、モデル就業規則の概要やその他のテンプレートを簡単に紹介してから、モデル就業規則の条文と注意点を1条ずつ見ていくことにします。
「弁護士に相談なんて大げさな・・・」という時代は終わりました!
経営者・個人事業主の方へ
就業規則とは
まずは就業規則がどのようなものかを知っておきましょう。
概要
「労働者」とは「労働契約(雇用契約)によって企業に継続的に雇用される人」を指し、就業規則とは多数の労働者に画一的に適用される労働契約の内容をまとめたものにほかなりません。
すべての規則を1つの規則集にまとめる必要はなく、例えば給与については「給与規程」、服務上の規律については「服務規程」として別々にまとめることも可能です。
どんな名称・形式であれ、労働条件や服務上の規律について定めた条文の全体をまとめて「就業規則」と呼びます。
就業規則の作成・届出・周知
常時10人以上の労働者を雇用する企業は、就業規則の作成が義務づけられています。
就業規則は事業場(支社や営業所、店舗など)ごとに作成します。
就業規則を作成した場合、内容について事業場の労働組合(または労働者の過半数を代表する者)に意見を求め、その意見を付した上で、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。
さらに、作成した就業規則は以下のような方法を用いて全労働者に周知しなければなりません。
- 就業規則を記載した書面を労働者一人ひとりに配布する
- 就業規則を記載した書面を見やすい場所に掲示するか備え付ける
- 就業規則をパソコン上のファイルなどの電子媒体に記録し、労働者が常時内容を確認できる状態にする
就業規則の記載事項
就業規則には必ず以下の事項を記載しなければなりません(絶対的必要記載事項)。
- 始業・終業時刻
- 休憩時間
- 休日・休暇
- 賃金(基本給や定期的な手当、割増賃金)の決定・計算・支払いの方法、締め日、支払い時期
- 昇給
- 退職、解雇事由
これら以外で、事業場の労働者全体に適用するルールを設ける場合、すべて就業規則に記載する必要があります(相対的必要記載事項)。
労働基準法では、例として「退職手当」「臨時の賃金や賞与」「最低賃金額」「労働者の費用負担」「安全・衛生」「職業訓練」「災害補償・業務外傷病扶助」「表彰」「制裁」が挙げられています。
その他、法令や労働協約に反しない範囲で自由に項目を加えることができます(任意的記載事項)。
当然のことながら、就業規則は法令や労働協約に反してはならないとされています(労働基準法第92条)。
モデル就業規則とは何か?
モデル就業規則とは、厚生労働省が関連法令に則って作成した就業規則のテンプレート(ひな形)です。
法令改正の度に改定されており、参照する場合は常に最新のバージョンかどうか確認する必要があります。
また、モデル就業規則はあくまで厚生労働省が考える平均的な模範例に過ぎません。
労働者保護の観点から、法令で最低限必要とされている以上の条件が盛り込まれている箇所があったり、労務トラブルを予防する上で不足している事項もあったりします。
モデル就業規則はそのまま引き写すのではなく、各企業の実情に合わせて適宜修正・加筆して用いる必要があります。
なお、厚生労働省はモデル就業規則以外にパートタイム・有期雇用向けテンプレート(パートタイム・有期雇用労働者就業規則の規定例)も公開しています。
どこからダウンロードできる?
厚生労働省が作成したモデル就業規則の最新版は厚生労働省のサイトで公開されています。
閲覧に適したPDF版と、編集が容易なWord版があります。
パートタイム・有期雇用労働者就業規則の規定例はこちらのサイトで入手できます。
厚生労働省以外が発行する「モデル就業規則」や無料テンプレートについて
モデル就業規則といえば今回紹介する厚生労働省作成のものを指すのが一般的ですが、各地の商工会や業界団体なども独自の「モデル就業規則」を発行しています。(中小規模事業者向けモデル就業規則や各業種向けモデル就業規則など)
各団体のサイトで一般公開されているものと、会員だけに配布されているものがあります。
また、労務関係のクラウドサービスや士業事務所などが無料の就業規則テンプレートを配布しています。
モデル就業規則「第1章 総則」の条文と解説
ここからはモデル就業規則の条文を1条ずつ見てきます。
この章では就業規則の目的や雇用形態別の適用範囲などが定められます。
以下、斜体となっている条文はすべて厚生労働省「モデル就業規則令和5年7月版」から引用しています。
第1条
(目的)
第1条 この就業規則(以下「規則」という。)は、労働基準法(以下「労基法」という。)第89条に基づき、__株式会社の労働者の就業に関する事項を定めるものである。
2 この規則に定めた事項のほか、就業に関する事項については、労基法その他の法令の定めによる。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html
「就業に関する事項」では漠然とし過ぎているため、厚労省以外が作成したモデルや企業の実例では「労働者の労働条件、服務規律その他の就業に関する事項」などとするケースが多いようです。
第2項(「この規則に定めた事項のほか……」)は、就業規則に記載されていない事項については労働基準法をはじめとする法令に基づいて処理することを述べています。
就業に関するすべての事項・問題点を就業規則で網羅することはできず、想定外の問題が生じる可能性もあるため、このように記載しておきます。
第2条
(適用範囲)
第2条 この規則は、__株式会社の労働者に適用する。
2 パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。
3 前項については、別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する。
不合理な待遇差とならない範囲であれば、雇用形態(正社員・有期契約社員・パート社員・臨時従業員など)によって労働条件を別にし、雇用形態別の就業規則を作成することができます。
モデル就業規則では正社員とパート社員からなる会社を想定しています。
その場合、各就業規則の適用範囲を明確にし、本則(全労働者向けまたは正社員向けの就業規則)にそれを明記する必要があります。
モデル就業規則では、「パートタイム向け就業規則にはパートタイム特有の事項だけをまとめ、一般的な事項についてはパートタイム労働者にも本則を適用する」という立場を取っています。
正社員とパートタイム労働者の就業規則を完全に分ける(パートタイム労働者に適用されるルールはすべてパートタイム向け就業規則にまとめる)ことも可能で、その場合、第3項は不要です。
第3条
(規則の遵守)
第3条 会社は、この規則に定める労働条件により、労働者に就業させる義務を負う。
また、労働者は、この規則を遵守しなければならない。
モデル就業規則以外では、「会社および労働者はともにこの規則を守り、互いに協力して業務の運営(社業の発展)に努めなければならない」という趣旨の文面がよく見られます。
モデル就業規則「第2章 採用・異動等」の条文と解説
第4条
(採用手続)
第4条 会社は、入社を希望する者の中から選考試験を行い、これに合格した者を採用する。
採用手続きに関係して、内定取り消しに関する定めをここに記載しておくケースも散見されます。
法律上は内定の段階で雇用契約が成立するため、内定取消しは解雇にあたります。
就業規則には解雇の事由を明記する必要がありますが、モデル就業規則では内定取り消し事由に関する条文が不足しています。
内定取り消しに絡むトラブルを避けるため、「次のいずれかに該当する場合は選考試験合格後に採用を取り消すことがある」として、内定取り消し事由(卒業の不達成や免許の不取得、内定後に行われた信用失墜行為、面接・提出書類での虚偽申告・経歴詐称など)を記載しておいた方がよいでしょう。
第5条
(採用時の提出書類)
第5条 労働者として採用された者は、採用された日から__週間以内に次の書類を提出しなければならない。
- 住民票記載事項証明書
- 自動車運転免許証の写し(ただし、自動車運転免許証を有する場合に限る。)
- 資格証明書の写し(ただし、何らかの資格証明書を有する場合に限る。)
- その他会社が指定するもの
2 前項の定めにより提出した書類の記載事項に変更を生じたときは、速やかに書面で会社に変更事項を届け出なければならない。
モデル就業規則には記載がありませんが、「身元保証書」の提出を採用時に求めるケースがあります。
身元保証書については提出義務をめぐってトラブルになりやすいため、提出を求める場合は就業規則に明記しておいた方がよいでしょう。
第6条
(試用期間)
第6条 労働者として新たに採用した者については、採用した日から__か月間を試用期間とする。
2 前項について、会社が特に認めたときは、試用期間を短縮し、又は設けないことがある。
3 試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入社後14日を経過した者については、第53条第2項に定める手続によって行う。
4 試用期間は、勤続年数に通算する。
試用期間の長さを制限する法律はありませんが、あまりに長い試用期間は労働者の地位を不安定にするため、望ましくないとされています。
モデル就業規則には試用期間短縮・省略の記載しかありませんが、試用期間の延長を行いたいのであれば、就業規則に延長可能な日数を記載しておく必要があります。
第3項では試用期間中の解雇とその事由が定められています。
入社後14日までは即日解雇も可能ですが、14日経過以降は通常の解雇と同様に30日前の解雇予告など(=第53条第2項に定める手続き)が必要になります(労働基準法第21条)。
後半部分はそのことを述べています。
第7条
(労働条件の明示)
第7条 会社は、労働者を採用するとき、採用時の賃金、就業場所、従事する業務、労働時間、休日、その他の労働条件を記した労働条件通知書及びこの規則を交付して労働条件を明示するものとする。
労働契約を締結する際には労働者に労働条件を明示する必要があります(労働基準法第15条)。
労働条件通知書には基本的な条件のみを記載し、詳細については「就業規則の第○条を参照」という形にしておくのが一般的です。
第8条
(人事異動)
第8条 会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。
2 会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させることがある。
3 前2項の場合、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。
労働者に出向を命じるためには、就業規則や労働協約で出向に関する事項を定めておく必要があり、第2項はそのための規定です。
出向命令に関する定めがない場合、出向の度に労働者の同意を得ることが必要になります。
就業場所・従事業務の変更命令にはそうした規制はありませんが、トラブル防止の観点から規定を設けておくのが望ましいとされています。
第9条
(休職)
第9条 労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。
- 業務外の傷病による欠勤が__か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき:__年以内
- 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき:必要な期間
2 休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。
3 第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。
休職・復職はトラブルが生じやすい事項であるため、より詳細な規程を設けておいた方がよいでしょう(断続的な欠勤の通算、休職事由ごとの要件・休職期間、休職中の義務、復職の条件・手続きなど)。
モデル就業規則の「所定の期間休職とする」という文言は曖昧であるため、「休職を命ずることがある」などに変更した方がよいでしょう。
モデル就業規則「第3章 服務規律」の条文と解説
第10条・第11条
(服務)
第10条 労働者は、職務上の責任を自覚し、誠実に職務を遂行するとともに、会社の指示命令に従い、職務能率の向上及び職場秩序の維持に努めなければならない。
(遵守事項)
第11条 労働者は、以下の事項を守らなければならない。
- 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと。
- 職務に関連して自己の利益を図り、又は他より不当に金品を借用し、若しくは贈与を受ける等不正な行為を行わないこと。
- 勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと。
- 会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと。
- 在職中及び退職後においても、業務上知り得た会社、取引先等の機密を漏洩しないこと。
- 酒気を帯びて就業しないこと。
- その他労働者としてふさわしくない行為をしないこと。
服務規律に属する雑多な事項が遵守事項としてまとめられています。
ここは企業の裁量の幅が大きい部分です。
モデル就業規則に挙げられているもの以外では、以下のような事項がしばしば遵守事項に記載されます。
- 他の従業員や顧客、取引先に配慮した服装・言動
- 職場の整理整頓
- 禁煙・分煙(喫煙場所)
- 会社内での政治活動・宗教活動の禁止(または事前許可制)
- 賭博・暴行などの職場秩序を乱す行為の禁止
- 就業中は私用スマートフォン・携帯電話の電源を切っておくこと
「整理整頓」「禁煙・分煙」は安全衛生(モデル就業規則では第10章・第58条)に関する事項でもあります。
機密情報の管理・漏洩(上記⑤)については別途詳細な規程を設けた方がよいでしょう。
服務規律に関連し、内部不正や盗難の発生時における所持品検査について定めた条文を設けることもあります。
第12条〜第15条
(職場のパワーハラスメントの禁止)
第12条 職務上の地位や人間関係などの職場内の優越的な関係を背景とした、業務上 必要かつ相当な範囲を超えた言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。
(セクシュアルハラスメントの禁止)
第13条 性的言動により、他の労働者に不利益や不快感を与えたり、就業環境を害するようなことをしてはならない。
(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの禁止)
第14条 妊娠・出産等に関する言動及び妊娠・出産・育児・介護等に関する制度又は措置の利用に関する言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。
(その他あらゆるハラスメントの禁止)
第15条 第12条から前条までに規定するもののほか、性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。
第12条〜第14条のハラスメントについては、防止措置を講じることが法律で義務づけられています。
厚生労働省の指針では以下の事項を就業規則などで定めるよう求めています。
- 禁止の規定
- 対処の方針・内容
- ハラスメントについての相談などを理由に不利益な取扱いをされない旨の定め
モデル就業規則では禁止規定と対処内容の一部(第68条・懲戒事由)しか記載がありませんが、他の部分も就業規則内に記載するか、別途ハラスメント規程を作成して詳細を定める必要があります。
第16条
(個人情報保護)
第16条 労働者は、会社及び取引先等に関する情報の管理に十分注意を払うとともに、自らの業務に関係のない情報を不当に取得してはならない。
2 労働者は、職場又は職種を異動あるいは退職するに際して、自らが管理していた会社及び取引先等に関するデータ・情報書類等を速やかに返却しなければならない。
服務規律の遵守事項⑤と関連する事項です。
個人情報の適正な管理に関する対策は事業主の義務ですが、モデル就業規則では個人情報保護に関する規定が曖昧で不十分だと感じられる部分もあります。
個人情報保護については別途規程を作成して詳細を定めるのが一般的です。
第17条
(始業及び終業時刻の記録)
第17条 労働者は、始業及び終業時にタイムカードを自ら打刻し、始業及び終業の時刻を記録しなければならない。
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」などを参照し、自社の実態に即して適切な記録方法を定めておくことが必要です。
第18条
(遅刻、早退、欠勤等)
第18条 労働者は遅刻、早退若しくは欠勤をし、又は勤務時間中に私用で事業場から 外出する際は、事前に__に対し申し出るとともに、承認を受けなければならない。ただし、やむを得ない理由で事前に申し出ることができなかった場合は、事後に速やかに届出をし、承認を得なければならない。
2 前項の場合は、第45条に定めるところにより、原則として不就労分に対応する賃金は控除する。
3 傷病のため継続して__日以上欠勤するときは、医師の診断書を提出しなければな らない。
事前申出・事後届出のタイミング(期限)や手段について、具体的に規定しておいた方がよいでしょう。
モデル就業規則「第4章 労働時間、休憩及び休日」の条文と解説
労働時間・休憩時間と休日に関する定めは絶対的必要記載事項です。
第19条・20条
労働時間・休憩時間と休日について、週休2日などの各制度に沿った規程例が記載されています。
自社で採用している制度に合わせ、各種法令・ガイドラインに則って適切な規程を設ける必要があります。
例1
完全週休2日制を採用する場合の規程例(労働時間及び休憩時間)
第19条 労働時間は、1週間については40時間、1日については8時間とする。
2 始業・終業の時刻及び休憩時間は、次のとおりとする。ただし、業務の都合その他やむを得ない事情により、これらを繰り上げ、又は繰り下げることがある。この場合、前日までに労働者に通知する。
①一般勤務
始業・終業時刻 休憩時間 始業 午前__時__分 __時__分から__時__分まで 終業 午後__時__分 ②交替勤務
(イ)1番(日勤)
始業・終業時刻 休憩時間 始業 午前__時__分 __時__分から__時__分まで 終業 午後__時__分 (ロ)2番(準夜勤)
始業・終業時刻 休憩時間 始業 午前__時__分 __時__分から__時__分まで 終業 午後__時__分 (ハ)3番(夜勤)
始業・終業時刻 休憩時間 始業 午前__時__分 __時__分から__時__分まで 終業 午後__時__分 3 交替勤務における各労働者の勤務は、別に定めるシフト表により、前月の__日までに各労働者に通知する。
4 交替勤務における就業番は原則として__日ごとに__番を__番に、__番を__番に、__番を__番に転換する。
5 一般勤務から交替勤務へ、交替勤務から一般勤務への勤務形態の変更は、原則として休日又は非番明けに行うものとし、前月の__日前までに__が労働者に通知する。
(休日)
第20条 休日は、次のとおりとする。
- 土曜日及び日曜日
- 国民の祝日(日曜日と重なったときは翌日)
- 年末年始(12月__日〜1月__日)
- 夏季休日( __月__日〜__月__日)
- その他会社が指定する日
2 業務の都合により会社が必要と認める場合は、あらかじめ前項の休日を他の日と振り替えることがある。
例2
1か月単位の変形労働時間制(隔週週休2日制を採用する場合)の規程例(労働時間及び休憩時間)
第19条 1週間の所定労働時間は、__年__月__日を起算日として、2週間ごとに平均して、1週間当たり40時間とする。
2 1日の所定労働時間は、7時間15分とする。
3 始業・終業の時刻及び休憩時間は、次のとおりとする。ただし、業務の都合その他やむを得ない事情により、これらを繰り上げ、又は繰り下げることがある。この場合において業務の都合によるときは、 __が前日までに通知する。
始業・終業時刻 休憩時間 始業 午前__時__分 __時__分から__時__分まで 終業 午後__時__分
(休日)
第20条 休日は、次のとおりとする。
- 日曜日
- __年__月__日を起算日とする2週間ごとの第2土曜日
- 国民の祝日(日曜日と重なったときは翌日)
- 年末年始(12月__日〜1月__日)
- 夏季休日(__月__日〜__月__日)
- その他会社が指定する日
2 業務の都合により会社が必要と認める場合は、あらかじめ前項の休日を他の日と振り替えることがある。
例3
1年単位の変形労働時間制の規程例(労働時間及び休憩時間)
第19条 労働者代表と1年単位の変形労働時間制に関する労使協定を締結した場合、当該協定の適用を受ける労働者について、1週間の所定労働時間は、対象期間を平均して1週間当たり40時間とする。
2 1年単位の変形労働時間制を適用しない労働者について、1週間の所定労働時間は40時間、1日の所定労働時間は8時間とする。
3 1日の始業・終業の時刻、休憩時間は次のとおりとする。
①通常期間
始業・終業時刻 休憩時間 始業 午前__時__分 __時__分から__時__分まで 終業 午後__時__分 ②特定期間(1年単位の変形労働時間制に関する労使協定で定める特定の期間をいう。)
始業・終業時刻 休憩時間 始業 午前__時__分 __時__分から__時__分まで 終業 午後__時__分 ③1年単位の変形労働時間制を適用しない労働者の始業・終業の時刻、休憩時間 は次のとおりとする。
始業・終業時刻 休憩時間 始業 午前__時__分 __時__分から__時__分まで 終業 午後__時__分
(休日)
第20条 1年単位の変形労働時間制の適用を受ける労働者の休日については、1年単位の変形労働時間制に関する労使協定の定めるところにより、対象期間の初日を起算日とする1週間ごとに1日以上、1年間に__日以上となるように指定する。その場合、年間休日カレンダーに定め、対象期間の初日の30日前までに各労働者に通知する。
2 1年単位の変形労働時間制を適用しない労働者の休日については、以下のとおり指定し、月間休日カレンダーに定め、対象期間の初日の30日前までに各労働者に通知する。
- 日曜日(前条第3号の特定期間を除く。)
- 国民の祝日(日曜日と重なったときは翌日)
- 年末年始(12月__日〜1月__日)
- 夏季休日(__月__日〜__月__日)
- その他会社が指定する日
第21条
(時間外及び休日労働等)
第21条 業務の都合により、第19条の所定労働時間を超え、又は第20条の所定休日に労働させることがある。
2 前項の場合、法定労働時間を超える労働又は法定休日における労働については、あらかじめ会社は労働者の過半数代表者と書面による労使協定を締結するとともに、これを所轄の労働基準監督署長に届け出るものとする。
3 妊娠中の女性、産後1年を経過しない女性労働者(以下「妊産婦」という。)であって請求した者及び18歳未満の者については、第2項による時間外労働又は休日若しくは深夜(午後10時から午前5時まで)労働に従事させない。
4 災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合には、第1項 から前項までの制限を超えて、所定労働時間外又は休日に労働させることがある。ただし、この場合であっても、請求のあった妊産婦については、所定労働時間外労働又は休日労働に従事させない。
第2項は労働基準法36条に基づく労使協定(いわゆる36協定)のことです。
モデル就業規則では「過半数代表者と」となっていますが、実際には以下のいずれかと協定を結びます(①と②を合わせて「労働者代表」と呼ばれます)。
- 事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(過半数労働組合)
- ①が存在しない事業場では、過半数代表者(監督・管理の地位にある者以外で、民主的な選出方法により労働者の過半数を代表する者として選出された者)
第22条
労働時間等設定改善法で義務化されている勤務間インターバル制度について定めた条文です。
この制度は、終業時刻から次の始業時刻の間に一定以上のインターバル(休息時間)を設けるものです。
インターバルの満了時刻が次回勤務の所定始業時刻を過ぎてしまう場合の取り扱いにはいくつかの考え方があり、モデル就業規則には2つの規程例が記載されています。
例1
インターバル時間と翌日の所定労働時間が重複する部分を働いたものとみなす場合(勤務間インターバル)
第22条 いかなる場合も、従業員ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに少なくとも、○時間の継続した休息時間を与える。ただし、災害その他避けることができない場合は、この限りではない。
2 前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、当該始業 時刻から満了時刻までの時間は労働したものとみなす。
例2
勤務開始時刻を繰り下げる場合(勤務間インターバル)
第22条 いかなる場合も、従業員ごとに1日の勤務終了後、次の勤務の開始までに少なくとも、○時間の継続した休息時間を与える。ただし、災害その他避けることができない場合は、この限りではない。
2 前項の休息時間の満了時刻が、次の勤務の所定始業時刻以降に及ぶ場合、翌日の始 業時刻は、前項の休息時間の満了時刻まで繰り下げる。
モデル就業規則「第5章 休暇等」の条文と解説
休暇に関する事項は絶対的必要記載事項です。
法令で定められた休暇(年次有給休暇など)については必ず記載しなければなりません。
それ以外の休暇については事業主の判断に任されます。
第23条・第24条
(年次有給休暇)
第23条 採用日から6か月間継続勤務し、所定労働日の8割以上出勤した労働者に対しては、10日の年次有給休暇を与える。その後1年間継続勤務するごとに、当該1年間において所定労働日の8割以上出勤した労働者に対しては、下の表のとおり勤続期間に応じた日数の年次有給休暇を与える。
勤続期間 6 か月 1年 6 か月 2年 6 か月 3年 6 か月 4年 6 か月 5年 6 か月 6年 6 か月以上 付与日数 10日 11日 12日 14日 16日 18日 20 日 2 前項の規定にかかわらず、週所定労働時間30時間未満であり、かつ、週所定労働日数が4日以下(週以外の期間によって所定労働日数を定める労働者については年間所定労働日数が216日以下)の労働者に対しては、下の表のとおり所定労働日数及び勤続期間に応じた日数の年次有給休暇を与える。
週所定 働日数 1 年間の所定労働日数 6 か月 1年 6 か月 2年 6 か月 3年 6 か月 4年 6 か月 5年 6 か月 6年 6 か月以上 4日 169日〜216日 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日 3日 121日〜168日 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日 2日 73日〜120日 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日 1日 48日〜72日 1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日 3 第1項又は第2項の年次有給休暇は、労働者があらかじめ請求する時季に取得させる。ただし、労働者が請求した時季に年次有給休暇を取得させることが事業の正常な運営を妨げる場合は、他の時季に取得させることがある。
4 前項の規定にかかわらず、労働者代表との書面による協定により、各労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日を超える部分について、あらかじめ時季を指定して取得させることがある。
5第1項又は第2項の年次有給休暇が 10 日以上与えられた労働者に対しては、第3項 の規定にかかわらず、付与日から1年以内に、当該労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただし、労働者が第3項又は第4項の規定による年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。
6 第1項及び第2項の出勤率の算定に当たっては、下記の期間については出勤したものとして取り扱う。
- 年次有給休暇を取得した期間
- 産前産後の休業期間
- 育児・介護休業法に基づく育児休業及び介護休業した期間
- 業務上の負傷又は疾病により療養のために休業した期間
7 付与日から1年以内に取得しなかった年次有給休暇は、付与日から2年以内に限り繰り越して取得することができる。
8 前項について、繰り越された年次有給休暇とその後付与された年次有給休暇のいずれも取得できる場合には、繰り越された年次有給休暇から取得させる。
9 会社は、毎月の賃金計算締切日における年次有給休暇の残日数を、当該賃金の支払明細書に記載して各労働者に通知する。
(年次有給休暇の時間単位での付与)
第24条 労働者代表との書面による協定に基づき、前条の年次有給休暇の日数のうち、1年について5日の範囲で次により時間単位の年次有給休暇(以下「時間単位年休」という。)を付与する。
(1)時間単位年休付与の対象者は、すべての労働者とする。
(2)時間単位年休を取得する場合の、1日の年次有給休暇に相当する時間数は、以下のとおりとする。
- 所定労働時間が5 時間を超え6 時間以下の者…6時間
- 所定労働時間が6 時間を超え7 時間以下の者…7時間
- 所定労働時間が7 時間を超え8 時間以下の者…8時間
(3)時間単位年休は1時間単位で付与する。
(4)本条の時間単位年休に支払われる賃金額は、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の1時間当たりの額に、取得した時間単位年休の時間数を乗じた額とする。
(5)上記以外の事項については、前条の年次有給休暇と同様とする。
一定の継続勤務に応じた一定以上の有給休暇の付与は、労働基準法第39条で定められた事業主の義務(労働者の権利)です。
労働者代表(過半数労働組合または過半数代表者)との労使協定があれば時間単位での付与も可能です。
第25条
(産前産後の休業)
第25条 6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産予定の女性労働者から請求があったときは、休業させる。
2 産後8週間を経過していない女性労働者は、就業させない。
3 前項の規定にかかわらず、産後6週間を経過した女性労働者から請求があった場合は、その者について医師が支障ないと認めた業務に就かせることがある。
これらは労働基準法65条に定められた事業主の義務(労働者の権利)です。
なお、産前産後休業の請求・取得を理由として不利益な扱い(解雇や降格など)をすることは男女雇用機会均等法で禁止されています(以下、第26条〜第28条についても同様)。
第26条
(母性健康管理の措置)
第26条 妊娠中又は出産後1年を経過しない女性労働者から、所定労働時間内に、母子保健法に基づく保健指導又は健康診査を受けるために申出があったときは、次の範囲で時間内通院を認める。
- 産前の場合
妊娠23週まで……4週に1回
妊娠24週から35週まで ……2週に1回
妊娠36週から出産まで ……1週に1回
ただし、医師又は助産師(以下「医師等」という。)がこれと異なる指示をしたときには、その指示により必要な時間- 産後(1年以内)の場合
医師等の指示により必要な時間2 妊娠中又は出産後1年を経過しない女性労働者から、保健指導又は健康診査に基づき勤務時間等について医師等の指導を受けた旨申出があった場合、次の措置を講ずる。
- 妊娠中の通勤緩和措置として、通勤時の混雑を避けるよう指導された場合は、原則として__時間の勤務時間の短縮又は__時間以内の時差出勤を認める。
- 妊娠中の休憩時間について指導された場合は、適宜休憩時間の延長や休憩の回数を増やす。
3 妊娠中又は出産後の女性労働者が、その症状等に関して指導された場合は、医師等の指導事項を遵守するための作業の軽減や勤務時間の短縮、休業等の措置をとる。
これは男女雇用機会均等法(12条・13条)に定められた事業主の義務(労働者の権利)です。
第27条
(育児時間及び生理休暇)
第27条 1歳に満たない子を養育する女性労働者から請求があったときは、休憩時間のほか1日について2回、1回について30分の育児時間を与える。
2 生理日の就業が著しく困難な女性労働者から請求があったときは、必要な期間休暇を与える。
これらは労働基準法第67条・68条に定められた事業主の義務(労働者の権利)です。
第28条
(育児・介護休業、子の看護休暇等)
第28条 労働者のうち必要のある者は、育児・介護休業法に基づく育児休業、出生時育児休業、介護休業、子の看護休暇、介護休暇、育児・介護のための所定外労働、時間外労働及び深夜業の制限並びに所定労働時間の短縮措置等(以下「育児・介護休業 等」という。)の適用を受けることができる。
2 育児・介護休業等の取扱いについては、「育児・介護休業等に関する規則」で定める。
これらの措置は育児・介護休業法に定められた事業主の義務(労働者の権利)です。
多数の条文を定める必要があるため、別途規程を作成するのが一般的です。
第29条・第30条・第31条
(不妊治療休暇)
第29条 労働者が不妊治療のための休暇を請求したときは、年○日を限度に休暇を与える。
2 労働者が不妊治療のための休業を請求したときは、休業開始日の属する事業年度(毎年4月1日から翌年3月31日まで)を含む引き続く5事業年度の期間において、 最長1年間を限度に休業することができる。
(慶弔休暇)
第30条 労働者が申請した場合は、次のとおり慶弔休暇を与える。
- 本人が結婚したとき__日
- 妻が出産したとき__日
- 配偶者、子又は父母が死亡したとき__日
- 兄弟姉妹、祖父母、配偶者の父母又は兄弟姉妹が死亡したとき__日
(病気休暇)
第31条 労働者が私的な負傷又は疾病のため療養する必要があり、その勤務しないことがやむを得ないと認められる場合に、病気休暇を__日与える。
これらの休暇は法令で定められているものではなく、事業主の判断で任意に設けるものです。
ただし、不妊治療休暇については厚生労働省が積極的な普及を図っており、不妊治療休暇の導入に対して補助金を支給する制度があります。
また、従業員101人以上の企業では次世代育成支援対策推進法に基づく「一般事業主行動計画」の策定が義務づけられていますが、厚生労働省の指針では、行動計画の中に不妊治療休暇制度などの措置を盛り込むのが望ましいとされています。
第32条
(裁判員等のための休暇)
第32条 労働者が裁判員若しくは補充裁判員となった場合又は裁判員候補者となった場合には、次のとおり休暇を与える。
- 裁判員又は補充裁判員となった場合……必要な日数
- 裁判員候補者となった場合……必要な時間
これは労働基準法第7条で定められた事業主の義務(労働者の権利)です。
モデル就業規則「第6章 賃金」の条文と解説
この章では定期的に支払う給与と昇給、賞与(臨時の賃金)について定められます。
賞与以外は絶対的必要記載事項(賞与は相対的必要記載事項)です。
賃金に関しては定めなければならない事項が多いため、別途賃金規程を作成するケースが少なくありません。
第33条〜第39条
(賃金の構成)
第33条 賃金の構成は、次のとおりとする。
手当の例としては、他に、住宅手当・別居手当(単身赴任手当)・子女教育手当・営業手当などがあります。
(基本給)
第34条 基本給は、本人の職務内容、技能、勤務成績、年齢等を考慮して各人別に決定する。
(家族手当)
第35条 家族手当は、次の家族を扶養している労働者に対し支給する。
- 18歳未満の子……1人につき月額__円
- 65歳以上の父母……1人につき月額__円
(通勤手当)
第36条 通勤手当は、月額__円までの範囲内において、通勤に要する実費に相当する額を支給する。
(役付手当)
第37条 役付手当は、以下の職位にある者に対し支給する。
部長……月額__円
課長……月額__円
係長……月額__円
2 昇格によるときは、発令日の属する賃金月から支給する。この場合、当該賃金月においてそれまで属していた役付手当は支給しない。
3 降格によるときは、発令日の属する賃金月の次の賃金月から支給する。
(技能・資格手当)
第38条 技能・資格手当は、次の資格を持ち、その職務に就く者に対し支給する。
安全・衛生管理者(安全衛生推進者を含む。)……月額__円
食品衛生責任者……月額__円
調理師……月額__円
栄養士……月額__円
(精勤手当)
第39条 精勤手当は、当該賃金計算期間における出勤成績により、次のとおり支給する。
- 無欠勤の場合……月額__円
- 欠勤1日以内の場合……月額__円
2 前項の精勤手当の計算においては、次のいずれかに該当するときは出勤したものとみなす。
- 年次有給休暇を取得したとき
- 業務上の負傷又は疾病により療養のため休業したとき
3 第1項の精勤手当の計算に当たっては、遅刻又は早退__回をもって、欠勤1日とみなす。
第40条〜第43条
これらは時間外労働・休日労働に対する割増賃金の割合や計算方法、割増賃金の代わりに取得可能な代替休暇について規定した条文です。
割増賃金算出のベースとなる賃金には、以下の賃金は含みません。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われる賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
割増賃金の支給義務や割増賃金率の下限は労働基準法第37条や関連法令で定められており、以下の条文の記載はそれを元にしています。
ただし、「時間外労働45時間超~60時間以下」の割増率35%と「1年間の時間外労働の時間数が360時間を超えた部分」の割増率40%は、法定下限(25%)を上回る値となっています。
これは、36協定に関する指針第5条第3項の「割増賃金率は法定下限を超える率とするように努めなければならない」という規定を踏まえたものです。
法定下限に設定しても法律違反にはなりませんし、指針に合わせるとしても、25%を少しでも上回れば十分です。
(割増賃金)
第40条 時間外労働に対する割増賃金は、次の割増賃金率に基づき、次項の計算方法により支給する。
(1)1か月の時間外労働の時間数に応じた割増賃金率は、次のとおりとする。この場合の1か月は毎月__日を起算日とする。
- 時間外労働45時間以下……25%
- 時間外労働45時間超~60時間以下……35%
- 時間外労働60時間超……50%
- ③の時間外労働のうち代替休暇を取得した時間……35%(残り15%の割増賃金は代替休暇に充当する。)
(2)1年間の時間外労働の時間数が360時間を超えた部分については、40%とする。この場合の1年は毎年__月__日を起算日とする。
(3)時間外労働に対する割増賃金の計算において、上記(1)及び(2)のいずれにも該当する時間外労働の時間数については、いずれか高い率で計算することとする。
2 割増賃金は、次の算式により計算して支給する。
(1) 月給制の場合
- 時間外労働の割増賃金
- 休日労働の割増賃金(法定休日に労働させた場合)
- 深夜労働の割増賃金(午後10時から午前5時までの間に労働させた場合)
(2)日給制の場合
- 時間外労働の割増賃金
- 休日労働の割増賃金
- 深夜労働の割増賃金
(3)時間給制の場合
- 時間外労働の割増賃金
- 休日労働の割増賃金
- 深夜労働の割増賃金
3 前項の1か月の平均所定労働時間数は、次の算式により計算する。
(1年単位の変形労働時間制に関する賃金の精算)
第41条 1年単位の変形労働時間制の規定(第19条及び第20条)により労働させた期間が当該対象期間より短い労働者に対しては、その労働者が労働した期間を平均し1週間当たり40時間を超えて労働させた時間(前条の規定による割増賃金を支払った時間を除く。)については、前条の時間外労働についての割増賃金の算式中の割増 率を0.25として計算した割増賃金を支払う。
(代替休暇)
第42条 1か月の時間外労働が60時間を超えた労働者に対して、労使協定に基づき、次により代替休暇を与えるものとする。
2 代替休暇を取得できる期間は、直前の賃金締切日の翌日から起算して、翌々月の賃金締切日までの2か月とする。
3 代替休暇は、半日又は1日で与える。この場合の半日とは、午前(__:__〜__:__)又は午後(__:__〜__:__)のことをいう。
4 代替休暇の時間数は、1か月60時間を超える時間外労働時間数に換算率を乗じた時間数とする。この場合において、換算率とは、代替休暇を取得しなかった場合に支払う割増賃金率50%から代替休暇を取得した場合に支払う割増賃金率35%を差し引いた15%とする。また、労働者が代替休暇を取得した場合は、取得した時間数を換算率(15%)で除した時間数については、15%の割増賃金の支払を要しないこととする。
5 代替休暇の時間数が半日又は1日に満たない端数がある場合には、その満たない部分についても有給の休暇とし、半日又は1日の休暇として与えることができる。ただし、前項の割増賃金の支払を要しないこととなる時間の計算においては、代替休暇の時間数を上回って休暇とした部分は算定せず、代替休暇の時間数のみで計算することとする。
6 代替休暇を取得しようとする者は、1か月に60時間を超える時間外労働を行った月の賃金締切日の翌日から5日以内に、会社に申し出ることとする。代替休暇取得日は、労働者の意向を踏まえ決定することとする。
7 会社は、前項の申出があった場合には、支払うべき割増賃金額のうち代替休暇に代替される割増賃金額を除いた部分を通常の賃金支払日に支払うこととする。ただし、当該月の末日の翌日から2か月以内に取得がなされなかった場合には、取得がなされないことが確定した月に係る賃金支払日に残りの15%の割増賃金を支払うこととする。
8 会社は、第6項に定める期間内に申出がなかった場合は、当該月に行われた時間外労働に係る割増賃金の総額を通常の賃金支払日に支払うこととする。ただし、第6項に定める期間内に申出を行わなかった労働者から、第2項に定める代替休暇を取得できる期間内に改めて代替休暇の取得の申出があった場合には、会社の承認により、代替休暇を与えることができる。この場合、代替休暇の取得があった月に係る賃金支払日に過払分の賃金を精算するものとする。
第43条
(休暇等の賃金)
第43条 年次有給休暇の期間は、所定労働時間労働したときに支払われる通常の賃金を支払う。
2 産前産後の休業期間、育児時間、生理休暇、母性健康管理のための休暇、育児・介護休業法に基づく育児休業期間、介護休業期間、子の看護休暇期間及び介護休暇期間、慶弔休暇、病気休暇、裁判員等のための休暇の期間は、無給/通常の賃金を支払うこととする。
3 第9条に定める休職期間中は、原則として賃金を支給しない(__か月までは__割を支給する)。
年次有給休暇に対しては、以下のいずれかの額の賃金を支払い、どの額を採用するか就業規則に定めておく必要があります(モデル就業規則では②を採用)。
- 平均賃金
- 所定労働時間働いたときに支払われる通常の賃金
- 健康保険法第40条第1項に定める標準報酬月額の30分の1に相当する額(1の位は四捨五入)
③を採用するには労使協定が必要です。
第2項の休暇については無給・有給いずれも可能ですが、有給とする場合は具体的な賃金額を定めます(モデル就業規則では「通常の賃金」)。
第3項で言及される「第9条」は、業務外傷病などによる休職命令について定めた条文です。
第44条
(臨時休業の賃金)
第44条 会社側の都合により、所定労働日に労働者を休業させた場合は、休業1日につき労基法第12条に規定する平均賃金の6割を支給する。この場合において、1日のうちの一部を休業させた場合にあっては、その日の賃金については労基法第26条に定めるところにより、平均賃金の6割に相当する賃金を保障する。
これは労働基準法第26条に定められた事業主の義務(労働者の権利)で、休業手当と呼ばれます。
第45条
(欠勤等の扱い)
第45条 欠勤、遅刻、早退及び私用外出については、基本給から当該日数又は時間分の賃金を控除する。
2 前項の場合、控除すべき賃金の1時間あたりの金額の計算は以下のとおりとする。
(1)月給の場合……基本給÷1か月平均所定労働時間数(1か月平均所定労働時間数は第40条第3項の算式により計算する。)
(2)日給の場合……基本給÷1日の所定労働時間数
労働基準法第24条・労働契約法第6条・民法第624条をもとに、「賃金は実際に労働しなかった分については支払う義務がない」と考えるのが原則となっています(ノーワーク・ノーペイの原則)。
ただし有給休暇・休業手当は例外です。
モデル就業規則でもこの原則にしたがって欠勤・遅刻・早退を理由とする賃金減額を定めています。
「時間数によらず遅刻・早退3回で欠勤扱いにして1日分減額する」といった規程がしばしば見られますが、実際の時間分を超えた減給をすることは制裁(懲戒処分)に当たります。
例えば「3回で計3時間の不労があり、それに対して1日(8時間)分の減給をする」場合、5時間分は制裁としての減給になります。
制裁としての減給には、「一回の額が平均賃金の一日分の半額を超えてはならない」「総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない」という制限があります(労働基準法第91条)。
一律に「遅刻・早退○回で欠勤扱い」とする規則はこの制限に抵触するケースを生じさせる恐れがあり、望ましくありません。
なお、精勤手当(第39条)の支給要件は企業の裁量に任される部分なので、出勤日数の計算において「遅刻・早退○回で1日欠勤扱い」とすることは可能です。
第46条
(賃金の計算期間及び支払日)
第46条 賃金は、毎月__日に締め切って計算し、翌__日に支払う。ただし、支払日が休日に当たる場合は、その前日に繰り上げて支払う。
2 前項の計算期間の中途で採用された労働者又は退職した労働者については、月額の 賃金は当該計算期間の所定労働日数を基準に日割計算して支払う。
「賃金は毎月1回以上、一定の支払日を定めて支払う」という原則(労働基準法第24条)に基づく条文です。
第47条
(賃金の支払と控除)
第47条 賃金は、労働者に対し、通貨で直接その全額を支払う。
2 前項について、労働者が同意した場合は、労働者本人の指定する金融機関の預貯金 口座又は証券総合口座へ振込により賃金を支払う。
3 次に掲げるものは、賃金から控除する。
- 源泉所得税
- 住民税
- 健康保険、厚生年金保険及び雇用保険の保険料の被保険者負担分
- 労働者代表との書面による協定により賃金から控除することとした社宅入居料、財形貯蓄の積立金及び組合費
「賃金は、通貨で、直接労働者にその全額を支払う」のが原則です(労基法第24 条)。
ただし、同意があれば本人指定の金融機関への振り込みなども許されます。
また、法令に基づく控除(①〜③)や、労働者代表との書面による協定がなされたものについての控除(④)が可能です。
第48条
(賃金の非常時払い)
第48条 労働者又はその収入によって生計を維持する者が、次のいずれかの場合に該当し、そのために労働者から請求があったときは、賃金支払日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払う。
- やむを得ない事由によって1週間以上帰郷する場合
- 結婚又は死亡の場合
- 出産、疾病又は災害の場合
- 退職又は解雇により離職した場合
①〜③は労働基準法第25条・同法施行規則第9条、④は労働基準法第23条に定められた事業主の義務(労働者の権利)です。
第49条
(昇給)
第49条 昇給は、勤務成績その他が良好な労働者について、毎年__月__日をもって行うものとする。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は、行わないことがある。
2 顕著な業績が認められた労働者については、前項の規定にかかわらず昇給を行うことがある。
3 昇給額は、労働者の勤務成績等を考慮して各人ごとに決定する。
昇給に関する規定も絶対的必要記載事項です。
第50条
(賞与)
第50条 賞与は、原則として、下記の算定対象期間に在籍した労働者に対し、会社の業績等を勘案して下記の支給日に支給する。ただし、会社の業績の著しい低下その他 やむを得ない事由により、支給時期を延期し、又は支給しないことがある。
算定対象期間 支給日 __月__日から__月__日まで __月__日 __月__日から__月__日まで __月__日 2 前項の賞与の額は、会社の業績及び労働者の勤務成績などを考慮して各人ごとに決定する。
賞与に関する規定は相対的必要記載事項として労働基準法に明記されているものです。
モデル就業規則には支給日に関する在籍要件がないため、賞与支給時にすでに退職している従業員に対しても支給義務が発生します。
これを避けたいのであれば、「退職などにより支給日にすでに在籍していない者には支給しない」といった規定を設けます。
第51条
本条は定年退職について定めた条文です。
定年年齢と定年後の雇用パターンの違いに応じた4つの例が記載されています。
高年齢者雇用安定法に基づき、定年年齢は60歳以上に設定する必要があります。
また、定年後も65歳までは雇用確保措置をとることが義務づけられており(70歳までは努力義務)、例2以降はそれを踏まえています。
なお、例2以降にある「退職事由」は次条で定められます。
例1
定年を満70歳とする例(定年等)
第51条 労働者の定年は、満70歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。
例2
定年を満65歳とし、その後希望者を継続雇用する例(定年等)
第51条 労働者の定年は、満65歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。
2 前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者については、満70歳までこれを継続雇用する。
例3
定年を満60歳とし、その後希望者を継続雇用する例(満65歳以降は対象者基準あり)(定年等)
第51条 労働者の定年は、満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。
2 前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者については、満65歳までこれを継続雇用する。
3 前項の規定に基づく継続雇用の満了後に、引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者のうち、次の各号に掲げる基準のいずれにも該当する者については、満70歳までこれを継続雇用する。
- 過去○年間の人事考課が○以上である者
- 過去○年間の出勤率が○%以上である者
- 過去○年間の定期健康診断結果を産業医が判断し、業務上、支障がないと認められた者
例4
定年を満65歳とし、その後希望者の意向を踏まえて継続雇用または業務委託契約を締結する例(ともに対象者基準あり)(定年等)
第51条 労働者の定年は、満65歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。
2 前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者のうち、次の各号に掲げる基準のいずれにも該当する者については、満70歳までこれを継続雇用する。
- 過去○年間の人事考課が○以上である者
- 過去○年間の出勤率が○%以上である者
- 過去○年間の定期健康診断結果を産業医が判断し、業務上、支障がないと認められた者
3 第1項の規定にかかわらず、定年後に業務委託契約を締結することを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない者のうち、次の各号に掲げる業務について、業務ごとに定める基準のいずれにも該当する者については、満70歳までこれと業務委 託契約を継続的に締結する。
なお、当該契約に基づく各業務内容等については、別途定める創業支援等措置の実施に関する計画に定めるところによるものとする。
- ○○業務においては、次のいずれの基準にも該当する者
ア.過去○年間の人事考課が○以上である者
イ.当該業務に必要な○○の資格を有している者- △△業務においては、次のいずれの基準にも該当する者
ア.過去○年間の人事考課が○以上である者
イ.定年前に当該業務に○年以上従事した経験及び当該業務を遂行する能力が あるとして以下に該当する者
(1)○○○○ (2)△△△△
第52条
(退職)
第52条 前条に定めるもののほか、労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。
- 退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して__日を経過したとき
- 期間を定めて雇用されている場合、その期間を満了したとき
- 第9条に定める休職期間が満了し、なお休職事由が消滅しないとき
- 死亡したとき
2 労働者が退職し、又は解雇された場合、その請求に基づき、使用期間、業務の種類、 地位、賃金又は退職の事由を記載した証明書を遅滞なく交付する。
民法627条によると、期間の定めのない雇用契約では労働者はいつでも解約(退職)の申し入れをすることができ、会社が同意しなくても、申し入れから2週間で自動的に退職となります。
①の後半はそれを踏まえた条文です。
原則としては、就業規則に定められた日数の方が優先され、例えば「退職願を提出して3週間を経過したとき」となっていれば2週間ではなく3週間で退職成立となります。
ただし、極端に長い日数を定めていると「公序良俗に反する」として無効になる恐れがあります。
③で言及される「第9条」は、傷病などによる休職・復職を定めた条文です。
第53条
(解雇)
第53条 労働者が次のいずれかに該当するときは、解雇することがある。
- 勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、労働者としての職責を果たし得ないとき。
- 勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき。
- 業務上の負傷又は疾病による療養の開始後3年を経過しても当該負傷又は疾病が治らない場合であって、労働者が傷病補償年金を受けているとき又は受けることとなったとき(会社が打ち切り補償を支払ったときを含む。)。
- 精神又は身体の障害により業務に耐えられないとき。
- 試用期間における作業能率又は勤務態度が著しく不良で、労働者として不適格であると認められたとき。
- 第68条第2項に定める懲戒解雇事由に該当する事実が認められたとき。
- 事業の運営上又は天災事変その他これに準ずるやむを得ない事由により、事業の縮小又は部門の閉鎖等を行う必要が生じ、かつ他の職務への転換が困難なとき。
- その他前各号に準ずるやむを得ない事由があったとき。
2 前項の規定により労働者を解雇する場合は、少なくとも30日前に予告をする。予告しないときは、平均賃金の30日分以上の手当を解雇予告手当として支払う。ただし、予告の日数については、解雇予告手当を支払った日数だけ短縮することができる。
3 前項の規定は、労働基準監督署長の認定を受けて労働者を第67条第1項第4号に定める懲戒解雇にする場合又は次の各号のいずれかに該当する労働者を解雇する場合は適用しない。
- 日々雇い入れられる労働者(ただし、1か月を超えて引き続き使用されるに至った者を除く。)
- 2か月以内の期間を定めて使用する労働者(ただし、その期間を超えて引き続き使用されるに至った者を除く。)
- 試用期間中の労働者(ただし、14日を超えて引き続き使用されるに至った者を除く。)
4 第1項の規定による労働者の解雇に際して労働者から請求のあった場合は、解雇の理由を記載した証明書を交付する。
一般的に、解雇は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして、無効」となります(労働契約法第16条)。
第1項には「相当」と考えられるケースが挙げられています(③は労働基準法第81条によります)。
モデル就業規則に付された解説のなかで解雇が禁止されるケースが列挙されています。
実際の場面で事業主側が判断を間違わないよう、解雇禁止ケースを「解雇しない場合」として就業規則に盛り込んでおいてもよいでしょう。
第2項は労働基準法第20条に定められた事業主の義務です。
モデル就業規則「第8章 退職金」の条文と解説
第54条〜56条
これらは退職金について定めた条文です。
退職金は相対的必要記載事項として労働基準法に明記されているものです。
退職金制度を設ける場合、対象となる労働者の範囲、支給要件、金額計算方法、支払い時期、不支給・減額の事由などを記載する必要があります。
第55条第2項で言及される「第9条」は、傷病などによる休職・復職を定めた条文です。
(退職金の支給)
第54条 労働者が退職し又は解雇されたときは、この章に定めるところにより退職金を支給する。ただし、第68条第2項により懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。
2 継続雇用制度の対象者については、定年時に退職金を支給することとし、その後の 再雇用については退職金を支給しない。
(退職金の額)
第55条 退職金の額は、退職又は解雇の時の基本給の額に、勤続年数に応じて定めた下表の支給率を乗じた金額とする。
勤続年数 支給率 5 年未満 1.0 5年〜10年 3.0 11年〜15年 5.0 16年〜20年 7.0 21年〜25年 10.0 26年〜30年 15.0 31年〜35年 17.0 36年〜40年 20.0 41年〜 25.0 2 第9条により休職する期間については、会社の都合による場合を除き、前項の勤続年数に算入しない。
(退職金の支払方法及び支払時期)
第56条 退職金は、支給事由の生じた日から__か月以内に、退職した労働者(死亡による退職の場合はその遺族)に対して支払う。
モデル就業規則「第9章 無期労働契約への転換」の条文と解説
第57条
(無期労働契約への転換)
第57条 期間の定めのある労働契約(有期労働契約)で雇用する従業員のうち、通算契約期間が5年を超える従業員は、別に定める様式で申込むことにより、現在締結している有期労働契約の契約期間の末日の翌日から、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)での雇用に転換することができる。
2 前項の通算契約期間は、平成25年4月1日以降に開始する有期労働契約の契約期 間を通算するものとする。ただし、契約期間満了に伴う退職等により、労働契約が締結されていない期間が連続して6ヶ月以上ある従業員については、それ以前の契約期間は通算契約期間に含めない。
3 この規則に定める労働条件は、第1項の規定により無期労働契約での雇用に転換した後も引き続き適用する。ただし、無期労働契約へ転換した時の年齢が、第49条に規定する定年年齢を超えていた場合は、当該従業員に係る定年は、満__歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。
これは平成25年4月1日施行の改正労働契約法に対応した条文です。
有期労働契約から無期労働契約に転換した場合、契約期間以外の労働条件は、直前の有期労働契約書の内容が引き継がれます(契約書で「引き継がれない」としている部分は除きます)。
転換前後で適用される就業規則が変わる場合、本則や有期契約労働者向け就業規則にそのことを明記する必要があり、第3項はそれについて述べた部分です。
モデル就業規則はもともと有期雇用労働者にも適用される規則(パートタイムの場合はパートタイム向け規程に記載がない事項については適用される規則)であり、転換後には、定年退職に関する修正点を除き、全文がそのまま適用されるという立場を取っています。
「有期雇用労働者には別の就業規則があり、本則は適用されない」「転換後には無期転換労働者向けの就業規則が適用される」など、モデル就業規則と異なる立場の場合、第3項を大きく書き換える必要があります。
モデル就業規則「第10章 安全衛生及び災害補償」の条文と解説
安全衛生と災害補償に関する事項は相対的必要記載事項とされています。
しかし、健康診断やストレスチェックなど、労働安全衛生法により事業者に義務づけられている制度もあり、実質的には必ず記載しなければならない事項が少なくありません。
第58条
(遵守事項)
第58条 会社は、労働者の安全衛生の確保及び改善を図り、快適な職場の形成のために必要な措置を講ずる。
2 労働者は、安全衛生に関する法令及び会社の指示を守り、会社と協力して労働災害の防止に努めなければならない。
3 労働者は安全衛生の確保のため、特に下記の事項を遵守しなければならない。
- 機械設備、工具等の就業前点検を徹底すること。また、異常を認めたときは、速やかに会社に報告し、指示に従うこと。
- 安全装置を取り外したり、その効力を失わせるようなことはしないこと。
- 保護具の着用が必要な作業については、必ず着用すること。
- 20歳未満の者は、喫煙可能な場所には立ち入らないこと。
- 受動喫煙を望まない者を喫煙可能な場所に連れて行かないこと。
- 立入禁止又は通行禁止区域には立ち入らないこと。
- 常に整理整頓に努め、通路、避難口又は消火設備のある所に物品を置かないこと。
- 火災等非常災害の発生を発見したときは、直ちに臨機の措置をとり、 __に報告し、その指示に従うこと。
労働安全衛生法では、労働災害の防止と快適な職場環境の形成に取り組むことが事業主の義務とされており、本条はそれに対応したものです。
各事業所の実態に照らし、適切な条項を定める必要があります。
健康増進法に基づき受動喫煙対策も求められます。
敷地内全面禁煙とする場合は④⑤をそのように書き換えます。
第59条〜第63条
これらの条文は労働安全衛生法に定められた事業主の義務に対応するものです。
(健康診断)
第59条 労働者に対しては、採用の際及び毎年1回(深夜労働に従事する者は6か月ごとに1回)、定期に健康診断を行う。
2 前項の健康診断のほか、法令で定められた有害業務に従事する労働者に対しては、 特別の項目について、定期に健康診断を行う。
3 第1項及び前項の健康診断の結果必要と認めるときは、一定期間の就業禁止、労働 時間の短縮、配置転換その他健康保持上必要な措置を命ずることがある。
第2項の「特別な健康診断が必要な業務」は、労働安全衛生法施行令第22条にまとめられています。
(長時間労働者に対する面接指導)
第60条 会社は、労働者の労働時間の状況を把握する。
2 長時間の労働により疲労の蓄積が認められる労働者に対し、その者の申出により医師による面接指導を行う。
3 前項の面接指導の結果必要と認めるときは、一定期間の就業禁止、労働時間の短縮、配置転換その他健康保持上必要な措置を命ずることがある。
(ストレスチェック)
第61条 労働者に対しては、毎年1回、定期に、医師、保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を行う。
2 前項のストレスチェックの結果、ストレスが高く、面接指導が必要であると医師、保健師等が認めた労働者に対し、その者の申出により医師による面接指導を行う。
3 前項の面接指導の結果必要と認めるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等、必要な措置を命ずることがある。
(労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱い)
第62条 事業者は労働者の心身の状態に関する情報を適正に取り扱う。
厚生労働省の指針に従って情報の取扱規程を定める必要があります。
(安全衛生教育)
第63条 労働者に対し、雇入れの際及び配置換え等により作業内容を変更した場合、その従事する業務に必要な安全及び衛生に関する教育を行う。
2 労働者は、安全衛生教育を受けた事項を遵守しなければならない。
第64条
(災害補償)
第64条 労働者が業務上の事由又は通勤により負傷し、疾病にかかり、又は死亡した 場合は、労基法及び労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に定めるところにより災害補償を行う。
業務上の事由による負傷・疾病に対する補償は、労働基準法で定められた事業主の義務です。
一部の例外を除き、労働者を雇用する企業は労働者災害補償保険(労災保険)への加入が義務づけられています。
業務上の事由や通勤による負傷・疾病に対しては基本的に労災保険で対応しますが、業務上の事由によるものについては、労災保険で不足する分の補償を労働者から請求される場合があります。
モデル就業規則「第11章 職業訓練」の条文と解説
職業訓練は相対的必要記載事項として労働基準法に明記されているものです。
(教育訓練)
第65条 会社は、業務に必要な知識、技能を高め、資質の向上を図るため、労働者に対し、必要な教育訓練を行う。
2 労働者は、会社から教育訓練を受講するよう指示された場合には、特段の事由がない限り教育訓練を受けなければならない。
3 前項の指示は、教育訓練開始日の少なくとも 週間前までに該当労働者に対し文書で通知する。
モデル就業規則「第12章 表彰及び制裁」の条文と解説
表彰・制裁に関する事項(種類や程度、懲戒事由)は相対的必要記載事項として労働基準法に明記されているものです。
第66条〜第68条
(表彰)
第66条 会社は、労働者が次のいずれかに該当するときは、表彰することがある。
- 業務上有益な発明、考案を行い、会社の業績に貢献したとき。
- 永年にわたって誠実に勤務し、その成績が優秀で他の模範となるとき。
- 永年にわたり無事故で継続勤務したとき。
- 社会的功績があり、会社及び労働者の名誉となったとき。
- 前各号に準ずる善行又は功労のあったとき。
2 表彰は、原則として会社の創立記念日に行う。また、賞状のほか賞金を授与する。
(懲戒の種類)
第67条 会社は、労働者が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。
- けん責
始末書を提出させて将来を戒める。- 減給
始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5 割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。- 出勤停止
始末書を提出させるほか、 日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は 支給しない。- 懲戒解雇
予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。
(懲戒の事由)
第68条 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。
- 正当な理由なく無断欠勤が__日以上に及ぶとき。
- 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。
- 過失により会社に損害を与えたとき。
- 素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。
- 第11条、第12条、第13条、第14条、第15条に違反したとき。
- その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。
2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第53条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。
- 重要な経歴を詐称して雇用されたとき。
- 正当な理由なく無断欠勤が__日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき。
- 正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、__回にわたって注意を受けても改めなかったとき。
- 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき。
- 故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき。
- 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く。)。
- 素行不良で著しく社内の秩序又は風紀を乱したとき。
- 数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度等に関し、改善の見込みがないとき。
- 第12条、第13条、第14条、第15条に違反し、その情状が悪質と認められるとき。
- 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用したとき。
- 職務上の地位を利用して私利を図り、又は取引先等より不当な金品を受け、若しくは求め若しくは供応を受けたとき。
- 私生活上の非違行為や会社に対する正当な理由のない誹謗中傷等であって、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為をしたとき。
- 正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき。
- その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき。
最高裁判例により、就業規則に定めのない事由での懲戒は無効とされているため、懲戒事由は十分に吟味して定めておく必要があります。
第2項⑩の「第12条〜第15条」はハラスメントについて定めた条文を指します。
モデル就業規則「第13章 公益通報者保護」の条文と解説
第69条
(公益通報者の保護)
第69条 会社は、労働者から組織的又は個人的な法令違反行為等に関する相談又は通報があった場合には、別に定めるところにより処理を行う。
公益通報者(勤務先内での会社・個人による不正を通報する人)は、公益通報者保護法で保護されます(通報を理由にした解雇の無効、不利益扱いの禁止、損害賠償請求の制限)。
「通報」は行政機関や報道機関に知らせることだけでなく、社内で上司などに報告・相談すること(内部通報)も含みます。
常時使用する労働者の数が 301 名以上の事業者は、内部通報に関する規程・担当者・相談窓口を設けることが義務づけられています(それ以外の事業者においては努力義務)。
モデル就業規則「第14章 副業・兼業」の条文と解説
第70条
(副業・兼業)
第70条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。
- 労務提供上の支障がある場合
- 企業秘密が漏洩する場合
- 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
- 競業により、企業の利益を害する場合
平成30年1月以前は第11条(服務規律の遵守事項)に「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」という条項が置かれていましたが、社会情勢の変化や判例を踏まえて改訂され、副業・兼業を容認する趣旨の本条が追加されました。
法律上は副業・兼業は規制されておらず、基本的には個人の自由に属します。
判例によると、就業規則で副業・兼業を実際に禁止できる(それに基づく懲戒処分が有効と判断される)のは、第2項①〜④に該当するケース(実際に問題が生じた場合や、生じる可能性が高い場合)に限られます。
したがって、副業・兼業を一律に禁止するような条文は望ましくなく、届出制か許可制にして、上記①〜④を禁止・制限ケースとして明記しておくのが得策です。
届出制をとる場合、届け出る時期(事前なのか、事後でよいのか)等、明確にしておいた方がよいでしょう。
モデル就業規則「附則」の条文と解説
附則 (施行期日)
第1条 この規則は、 __年__月__日から施行する。
就業規則は社内に周知させる必要があるため、施行期日は周知を行う日付より後に設定します。
就業規則の変更に伴い注記が必要な場合、附則に記載するとよいでしょう。
例えば、経過措置(一定の条項につき所定期間内は以前の就業規則を適用するという措置)に関する事項などです。
まとめ
いかがでしょうか?
モデル就業規則は、あくまでも厚生労働省が発行している就業規則のテンプレートであり、これをそのまま使用しなければならないという訳ではありませんが、法令面での信頼性が高いことがうかがえます。
会社の事業内容や規模によっても必要な条項等は変わりますが、参考にするとよいかと思います。
もしも作成した就業規則が法的に問題ないかどうかを確認したい場合には、企業法務を専門とする弁護士などに相談するとよいでしょう。
東 拓治 弁護士
福岡県弁護士会所属
あずま綜合法律事務所
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【弁護士活動20年】
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