過労死ラインの目安は何時間?月残業80時間の基準と残業管理のポイント

近年では、長時間労働による過労死が、深刻な社会問題となっています。

企業の人事労務担当者の方は、過労死ラインの理解やその対策に頭を悩ませているのではないでしょうか。

本記事では、厚生労働省が定める過労死ラインの具体的な基準から、2021年の労災認定基準改正のポイント、そして企業が取るべき具体的な予防対策まで、わかりやすく解説しています。

企業の人事労務担当者の方はもちろん、従業員の健康管理に関心をお持ちの管理職の方にも参考になる内容となっていますので、ぜひ最後までご覧ください。

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目次

月80時間・100時間が過労死ラインの目安

企業にとって、従業員の長時間労働管理は欠かせない責務です。

時間外労働が一定時間を超えると、従業員の健康被害リスクが高まり、企業の法的責任も問われかねません。

弁護士

このような健康障害のリスクが高まる労働時間の基準として、「過労死ライン」が定められています。

具体的には、どのような基準があるのでしょうか?

過労死ラインの定義

過労死ラインとは
健康被害に発展するリスクが高まる時間数を示す基準のこと

厚生労働省の基準では、以下のいずれかに該当する場合、業務と疾病との関連性が強いとされています。

  • 発症前1ヶ月間に100時間を超える時間外労働がある場合
  • 発症前2~6ヶ月間を平均して月80時間を超える時間外労働が認められる場合

また、月45時間を超える時間外労働から、業務と疾病発症との関連性が強まることが明らかになっています。

なお、過労死ラインの評価基準には、2021年9月の改正により、労働時間以外の負荷要因も含めた総合的な評価へと見直されました。

厚生労働省が定める労災認定基準

2021年の改正では、過労死の労災認定において以下の4点が変更されました。

  1. 労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価
  2. 過重業務の他に、新たな負荷要因の追加(休日を挟まない連続勤務など)
  3. 業務と発症との関連性が強いと判断できる場合の明確化
  4. 対象疾病への「重篤な心不全」の追加

これらの改正によって、たとえ労働時間が過労死ラインを下回っていたとしても、不規則な勤務形態や精神的な緊張を伴う業務が日常的に行われている場合には、労災認定される可能性があります。

労働基準法上の規制と過労死等防止対策推進法

労働基準法では、労働時間の上限を月45時間、年360時間と定めています。

特別条項付き36(サブロク)協定(時間外労働の上限を超えて労働させることを認める協定のこと)を締結した場合でも、以下の制限が設けられています。

  • 年間の時間外労働は720時間以内
  • 単月の時間外労働は100時間未満
  • 複数月(2~6ヶ月)の平均時間外労働は月80時間以内

また、2014年に制定された過労死等防止対策推進法では、国や事業主の責務として、過重労働を防止するための具体的な対策実施が義務付けられました。

同法に基づき、企業には労働時間の適正管理や健康管理体制の整備が求められています。

残業時間が80時間以下でも労災認定されることがある?

厚生労働省の基準によれば、月45時間を超える時間外労働から、徐々に健康障害のリスクが高まることが指摘されています。

2021年9月の認定基準改正では、以下の点が明確化されました。

  • 過労死ラインを下回る場合でも、それに近い時間外労働がある場合
  • 不規則な勤務時間が継続している場合
  • 精神的・身体的負荷が大きい業務がある場合

これらの要因が複合的に存在する場合、80時間以下でも労災認定される可能性があります。

そうならないためにも、企業側には労働時間の適正管理、業務負担の平準化、従業員の健康管理体制の強化などが求められます。

過労死の原因と健康への影響

過重労働による健康被害は、単に労働時間の長さだけでなく、業務の質や労働環境なども含めたさまざまな要因によって引き起こされます。

特に気をつけなければならないのはどのような病気でしょうか?

弁護士

代表的なものは以下の3つが挙げられますが、その他細かな体調不良にも気を配る必要があります。

過労死に至る代表的な疾患

過労死に至る疾患には、主に「脳血管疾患」「心臓疾患」「精神疾患」などがあります。

それぞれ詳しく見てみましょう。

脳血管疾患(脳出血、脳梗塞など)

脳血管疾患は過労死の主要な原因の一つです。

具体的には以下の疾患が労災認定の対象となります。

  • 脳内出血(脳出血)
  • くも膜下出血
  • 脳梗塞
  • 高血圧性脳症

上記の疾患は、長時間労働による血管への負担が蓄積することで、発症リスクが高まります。

特に高血圧状態が悪化すると、脳の血管が破れる(出血)または詰まる(梗塞)可能性が高くなります。

心臓疾患(心筋梗塞、狭心症など)

2021年の認定基準改正により、心臓疾患の範囲が拡大されました。

現在、以下の疾患が対象となっています。

  • 心筋梗塞
  • 狭心症
  • 心停止
  • 重篤な心不全
  • 大動脈解離

これらの疾患は、長時間労働や不規則な勤務、精神的ストレスなどによる心臓への負荷が原因で発症することがあります。

特に心筋梗塞や狭心症は、急性の心臓トラブルとして命に関わるリスクが高い疾患です。

精神疾患(うつ病、過労自殺)

精神疾患については、発症前6ヶ月間における業務による強い心理的負荷が認められることが重要な判断基準となります。

特に以下のような労働時間の状況が認められる場合、労災認定される可能性が高くなります。

  • 発症1ヶ月前に160時間以上の時間外労働
  • 発症前2ヶ月連続で月120時間の時間外労働
  • 発症前3ヶ月連続で月100時間の時間外労働

これに加え、職場でのハラスメントや重大な業務ミスへの対応を強いられるなど、心理的な負荷が著しく高い場合も、うつ病や過労自殺を引き起こす可能性が指摘されています。

長時間労働が健康に及ぼす具体的な影響

長時間労働は、心身の健康に深刻な影響を与えることがあります。

特に、疲労の蓄積と身体的負担・睡眠不足による事故のリスクの2つの側面が問題となります。

疲労の蓄積と身体的負荷

長時間労働身体に疲労が蓄積すると、さまざまな健康問題を引き起こします。

特に注意が必要な症状として、以下のようなものが挙げられます。

  • 通常と異なる頭痛の頻発
  • 顔や手足の片側の麻痺
  • めまいや立ちくらみ
  • 胸やみぞおちの圧迫感

これらの症状が見られた場合、深刻な病気の前兆の可能性があります。

放置せず、早急に医療機関へ受診しましょう。

睡眠不足による事故のリスク

長時間労働は必然的に睡眠時間の減少につながります。

その結果、以下のようなリスクが発生します。

  • 通勤時の交通事故リスクの増加
  • 業務中の事故発生率の上昇
  • 判断力や集中力の低下

睡眠不足を軽く考える人もいるかもしれませんが、その影響は深刻です。

場合によっては、大きな怪我や取り返しのつかない事故につながることもあります。

過労死ラインを超える前にできること

弁護士

長時間労働による健康被害を防ぐためには、事前の予防措置が重要です。

これは、企業と従業員の双方が積極的に取り組む必要があるといえますね。

労働時間を適切に管理する方法

労働時間を大幅にオーバーさせないためにも、企業側は様々な方法で管理を徹底する必要があります。

タイムカードや勤怠システムの活用

労働時間を適切に管理するためには、以下のような客観的な記録方法の導入が必要です。

  • ICカードやタイムカードによる出退勤記録
  • PCの使用時間履歴の活用
  • 勤怠管理システムによる自動集計

勤怠管理システムでは、残業時間が一定の基準を超えた場合に自動でアラートを発する機能や、勤務間インターバルの確認機能など、過重労働を防ぐための機能が実装されています。

企業は、収集されたデータを定期的に分析し、従業員の労働時間や休憩状況を確認することが重要です。

また、過重労働が発生している場合は、速やかに対策を講じる必要があります。

36協定の適用範囲と限界

36協定とは、労働基準法第36条に基づき、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて残業や休日出勤を行う際に、労使間で締結する協定のことです。

この協定には明確な上限規制があります。

  • 原則として月45時間、年360時間まで
  • 特別条項でも年720時間以内
  • 複数月平均で月80時間以内
  • 単月で100時間未満

これらの上限を超える残業は、たとえ36協定を締結していても違法となります。

そのため、企業は36協定を締結する際に、労働時間の管理体制を整え、労働者が過重労働にならないよう配慮することが求められます。

労働基準監督署への届出と指導

労働基準監督署は、企業の労働時間管理や過重労働防止対策について、定期的な監督指導を行っています。

月80時間を超える時間外労働が確認された事業場においては、重点的な監督が実施されます。

過重労働が疑われる事業場に対し、労働基準監督署は以下の措置を取ることがあります。

  • 是正勧告や指導を行い、違反が改善されるよう促す
  • 改善が見られない場合には、法的措置(罰則や告発)を適用する

そのため、企業は労働時間の記録を適切に保管し、必要な届出を遅滞なく行う必要があります。

心身の健康を守るための2つのポイント

産業医との連携

従業員50人以上の事業場では、産業医を選任することが義務付けられています。

産業医は過重労働対策や職場環境改善において、重要な役割を果たします。

具体的な過重労働対策には、以下のようなものがあります。

  • 残業が月80時間を超える従業員への面接指導
  • 健康障害防止のための助言指導
  • 職場環境の改善提案

産業医を通じた予防的な健康管理を行うことにより、従業員の健康を守るだけでなく、職場全体の生産性向上や離職率の低下にもつながります。

定期的な健康診断の重要性

定期的な健康診断は、従業員の健康状態を把握する上で欠かせない取り組みの一つです。

健康診断は従業員の健康状態を把握し、病気の早期発見や予防につながるだけでなく、職場全体の健康管理にも役立ちます。

  • 過重労働による健康影響の早期発見
  • メンタルヘルスチェックの実施
  • 結果に基づく就業上の配慮 など

特に、長時間労働者については、より詳細な健康診断や、結果を踏まえた事後措置が必要です。

これによって、従業員の心身の健康を守ることにつながります。

企業と従業員が取るべき対策

弁護士

過重労働の防止には、企業と従業員双方の積極的な取り組みが不可欠です。

具体的には、どのように取り組めばいいでしょうか?

企業側の取り組み

企業と従業員が取るべき対策

過重労働の防止には、企業と従業員双方の積極的な取り組みが不可欠です。

残業削減とその具体例

効果的な残業削減のためには、企業全体での取り組みが必要です。

具体的には、以下のような施策があります。

  • 残業の事前許可制の導入
  • 勤務間インターバル制度(11時間以上の休息時間確保)の実施
  • 業務の効率化と分担の見直し
  • ノー残業デーの設定

特に残業の許可制を導入することで、漫然とした残業を防ぎます。

これにより、「残業ありき」の働き方から「効率的な業務遂行」へと転換が図れます。

組織風土の改革

長時間労働を前提とした従来の組織風土は、現代の働き方にそぐわない場合があります。

以下のように、職場環境を変革する必要があります。

  • 相談窓口の設置と周知
  • 労働時間ではなく成果による評価制度の導入
  • 上司が率先して定時退社
  • 従業員の声を反映させる仕組みづくり

弁護士や専門家への相談

過重労働対策のため、以下の専門家の知識を活用することが有効です。

それぞれの専門家が持つ専門知識を生かすことで、労働者の健康管理や職場環境の改善を図れます。

  • 社会保険労務士による36協定の適正な運用確認
  • 労働専門弁護士による労務管理体制の確認
  • 産業医との連携強化

従業員側の対処法

過重労働を防ぐには、以下のような従業員側の対処も不可欠です。

適切な労働時間の自己管理

従業員自身による、適切な労働時間管理が必要です。

具体的には、以下の内容を実践しましょう。

  • 労働時間を正確に記録する
  • 業務の優先順位を明確にする
  • 定期的に休憩を取る
  • 十分な睡眠時間を確保する

周囲とのコミュニケーション

健康管理には、周囲との適切なコミュニケーションも不可欠です。

特に職場におけるコミュニケーションは、従業員の心身の健康を支えるために必要なものであり、メンタルヘルスの改善や職場環境の向上にも良い効果をもたらします。

具体的には、以下の方法でコミュニケーションが図れます。

  • 上司への業務量の報告
  • 同僚との協力体制の構築
  • 産業医への相談
  • 家族との健康状態の共有

過労死ラインの関連データと統計

弁護士

厚生労働省が公表した「過労死等の労災補償状況」を基に、過労死問題の実態を分析してみましょう。

過去のデータから、今後の課題が見えますね。

業種別の過労死発生率

令和5年度過労死等の労災補償状況」(厚生労働省)によると、業種別の請求件数は以下のとおりです。

道路貨物運送業244件
卸売業、小売業135件
建設業123 件

支給決定数は以下のとおりです。

道路貨物運送業75件
卸売業、小売業29件
宿泊業、飲食サービス業25 件

過労死等に関する労災請求および支給決定件数が前年度と比較して増加しています。

具体的な疾患の状況は、以下のとおりです。

疾患結果
精神疾患関連請求件数:3,575件(うち自殺212件)
支給決定件数:883件
支給決定割合:24.6%
脳・心臓疾患関連請求件数:1,023件(うち死亡247件)
支給決定件数:216件
支給決定割合:21.1%(死亡割合:52.3%)

違法な長時間労働の実態

長時間労働が疑われる事業所に対する監督指導が、労働基準監督署によって毎年行われています。

そこでは、違法な長時間労働の実態が明らかとなりました。

令和4年の実施結果によると、調査の対象となった33,218事業場中、違法な時間外労働があったものは14,147事業場(42.6%)でした。

主な健康障害防止に関する指導状況は、以下のとおりです。(指導事業場数:13,296件)

面接指導等の実施2,202件
調査審議の実施1,866件
月45時間以内への削減5,944件
月80時間以内への削減7,305件
面接指導等が実施できる仕組みの整備等564件
メンタルヘルス対策に関する調査審議の実施523件

このデータから、長時間労働やそれに伴う健康障害のリスクが、未だに社会全体で課題となっていることがわかります。

まとめ

過労死ラインとは、発症前1ヶ月間に100時間、または2~6ヶ月間平均で月80時間を超える時間外労働を指します。

しかし、2021年の基準改正により、この時間数に達していなくても、労働時間以外の負荷要因を考慮し、労災認定されるようになりました。

さらに、月45時間を超える時間外労働から、健康への影響が出やすいことも明らかになっています。

このような過労死を防ぐためには、企業による適切な労務管理が不可欠です。

休憩時間を11時間以上確保し、客観的な方法で労働時間を管理するとともに、産業医との連携による従業員の健康管理も重要です。

また、残業の事前許可制を導入し、定時退社を推進するなど、具体的な施策を通じて、企業側は長時間労働の抑制を図る必要があります。

一方、従業員自身も自らの健康を守るための取り組みが求められます。

「長時間労働は当然」という考えを改め、効率的な働き方を意識することが大切です。

企業と従業員が協力しながら、過重労働のない、健全な職場環境を築いていくことが、過労死予防の基本となります。

弁護士

木下慎也 弁護士

大阪弁護士会所属
弁護士法人ONE 代表弁護士
大阪市北区梅田1丁目1-3 大阪駅前第3ビル12階
06-4797-0905

弁護士として依頼者と十分に協議をしたうえで、可能な限り各人の希望、社会的立場、その依頼者らしい生き方などをしっかりと反映した柔軟な解決を図ることを心掛けている。

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