労働基準監督署からの通知が届き、「会社運営に問題があったのでは?」「内部告発された?」と不安になったことはありませんか?
労働基準監督署からの通知が届くと、思わず驚いてしまうでしょう。
ですが、適切に対応すれば大きな問題になることはありません。
ただし、通知を無視し、調査に協力しないと強制捜査や刑事罰の対象となる場合もあります。
本記事では、通知を受け取った際の適切な対応から、無視した場合のリスクまで、企業経営者が知っておくべきポイントを紹介します。
法令遵守と効率的な事業運営を両立させたいとお考えの方は、ぜひ最後までご覧ください。
「弁護士に相談なんて大げさな・・・」という時代は終わりました!
経営者・個人事業主の方へ
労働基準監督署とはなにか
労働基準監督署は、厚生労働省の管轄下にある行政機関です。
労働者の権利を守り、安全で健康的な職場環境を確保する役割を担っています。
労働基準監督署は、具体的には何を行っているのでしょうか?
労働基準法や労働安全衛生法など、さまざまな労働関連法規の遵守を監督し、労働条件の改善や労働災害の防止に取り組んでいます。
労働基準監督署に通報されたらどうなるのか
労働基準監督署に通報があった場合、まず通報内容の精査が行われます。
法令違反の可能性が認められれば、調査が開始されます。
調査で実施される内容は、主に以下のとおりです。
- 事業場への立入り
- 帳簿類の検査
- 従業員への聴取など
調査の結果、法令違反が確認された場合は是正勧告が出されます。
企業は是正勧告を受けた場合、指定された期間内に改善措置を講じ、その内容を労働基準監督署へ報告しなければなりません。
改善が不十分な場合や、悪質な違反が認められた場合は、より厳しい処分を下される可能性があります。
通報を受けた時点で、即座に罰則が科されるわけではありませんが、調査に非協力的な態度を取ることは避けるべきです。
定期監督
定期監督とは、労働基準監督署が計画的に実施する調査のことです。
特定の問題や通報がなくても、無作為に選ばれた事業場を対象に行われます。
目的は、労働関係法令の遵守状況を確認し、違反を未然に防ぐことです。
調査では、主に以下の内容がチェックされます。
- 労働時間管理
- 賃金支払い
- 安全衛生管理
- 就業規則
定期監督では、上記の調査だけでなく、労働者や代表への聞き取りも行います。
企業や労働者は、日頃から法令を遵守し適切な労務管理を行う必要があります。
また、労働基準監督署からの監査や指導に備え、法令に基づいた対応が常にできるよう体制を整えておくことも重要です。
なお、基本的に定期監督の拒否はできません。
申告監督
申告監督は、労働者からの具体的な相談や申告を受けて行われる調査です。
つまり、労働者からの「内部告発」によって実施されるものです。
具体的には、以下の問題が事実であるかどうかを調査します。
- 残業代未払い
- 労働条件の不当な変更
- ハラスメントなど
調査方法は、主に申告内容に関連する書類や記録の精査、関係者への聴取などです。
企業は、日頃から従業員との良好なコミュニケーションを心がけ、労働問題が発生しないよう努めましょう。
また、問題が発生した場合は、速やかに対応し、解決を図る必要があります。
災害時監督
災害時監督は、労働災害が発生した際に行われる調査です。
事故の原因究明や再発防止策の検討が主な目的となります。
この監督で行われる調査は、以下のような内容です。
- 事故現場の状況確認
- 関連設備の点検
- 安全管理体制など
企業は、災害発生時の対応手順を明確にし、従業員に周知しておく必要があります。
また、日頃から安全教育を徹底し、危険予知活動を実施するなど、予防的な取り組みも重要です。
労働災害が発生した場合は、速やかに労働基準監督署に報告し、誠実に調査へ協力することが求められます。
再監督
再監督は、過去の監督で指摘された問題点の改善状況を確認するために行われる調査です。
是正勧告や指導を受けた企業が、指定された期間内に適切な改善措置を講じたかどうかを確認します。
また、指定期日までに是正報告書を提出しなかった企業に対しても、行われます。
再監督で重点的にチェックされるのは、前回の指摘事項に関する改善状況です。
企業は、指摘を受けた問題点について、真摯に対応し、確実に改善を行うことが求められます。
単に表面的な対応だけでなく、根本的な原因解決に取り組むことが重要だといえるでしょう。
調査の進み方の全体像
労働基準監督署の調査は、通常、次のような流れで進みます。
- 調査の開始通知や立入検査の実施
- 帳簿類の確認
- 従業員への聴取
- 調査結果に基づいて、法令違反の有無を判断
違反が認められた場合は、是正勧告や指導が行われ、企業は改善報告を提出します。
改善が不十分な場合は、再監督が実施されることもあります。
悪質な違反や改善が見られない場合は、より厳しい処分につながる可能性もあるでしょう。
企業は、調査の各段階で誠実に対応し、必要に応じて労務管理の専門家や弁護士のアドバイスを受けることが賢明と言えます。
労働基準監督署からの通知が来る理由と通知方法
たとえ違反をしていなくても、通知が来る可能性があるのですね。
労働基準監督署からの通知は、企業の労働環境や法令遵守状況を確認するために送られます。
これは、労働者の権利を保護し、適切な労働条件を確保するために欠かせない手続きです。
通知を受け取った企業は、真摯に対応することが求められます。
監督官が事業所を訪問する際の通知
労働基準監督官が事業所を訪問する際、事前に通知が送られることもあります。
この通知書には以下の内容が記載されています。
- 訪問の日時
- 調査の場所
- 調査の目的
- 準備すべき書類
- 問い合わせ先
なお、全ての訪問に事前通知があるわけではありません。
時間外労働の実態確認や就業規則の備え付け状況など、抜き打ちで確認が必要な場合は、事前通知なしに調査が行われることもあります。
通知方法は電話やFAXまたは郵送で行われ、通知を受け取ったら指定された日時に必要な書類を用意し、担当者が対応できるよう準備します。
もしも「指定された日時はどうしても対応できない」という場合には、どうするのがいいのでしょうか?
指定された日時に対応が難しい場合には、速やかに労働基準監督署に連絡し、日程調整を行いましょう。
出頭を命じる通知
労働基準監督署から出頭を命じる「出頭要求書」が届くこともあります。
この通知に明記されているのは、出頭の日時、場所、持参すべき書類などです。
出頭を命じる通知は、労働基準法に基づいて発行されます。
企業は、この通知を無視してはいけません。指定された日時に、必ず労働基準監督署へ出頭する必要があります。
出頭時には、要求された書類を全て準備し、質問に対して誠実に回答することが求められます。
もし指定された日時に出頭できない場合は、速やかに労働基準監督署に連絡し、日程変更の相談をしましょう。
「指定された日に出頭するのを忘れていた!」という場合、どうなるのでしょうか?
無断で出頭を拒んだ場合は、法令違反とみなされる可能性があります。
通知が来る理由と調査の背景
労働基準監督署からの通知は、労働関係法令の遵守状況を確認するために行われます。
これは、労働者の権利を守り、公正な労働環境を維持するために欠かせない取り組みです。
調査の背景には、法令違反の疑いや労働者からの申告などがあります。
労働基準法違反のケース
労働基準法違反は、労働基準法に違反する行為のことです。
労働基準法とは、労働者の保護を目的としており、賃金や労働時間、休暇や労働条件などに関する最低基準を規定したものです。
もし違反した場合、労働者の権利を侵害するだけでなく、企業にとっても重大なリスクを負う可能性があります。
違反の内容は多岐にわたりますが、特に注意が必要な内容について以下で紹介します。
労働時間に関する違反
労働時間に関する違反は、指摘される件数が多い問題の一つです。
例えば、法定労働時間を超える残業や、適切な休憩時間の未確保などが該当します。
特に、36協定の未締結や上限規制の違反は重大な問題となります。
労働基準法第36条に基づいているため「36(さぶろく)協定」と呼ばれます。
労働基準法では、1日の労働時間は8時間、1週間の労働時間は40時間までと定められています。
これを超える時間外労働や休日労働を行う場合は、36協定を締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません。
割増賃金に関する違反
割増賃金の未払いや不適切な計算も、よく見られる違反です。
時間外労働、休日労働、深夜労働に対する割増賃金の支払いは法律で義務づけられています。
具体的には、1日8時間または週40時間を超える労働では25%以上の割増率で賃金が加算されます。
また、深夜手当の割増率も、通常の労働日または労働時間の25%以上です。
もし割増賃金を労働者に支払わなかった場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金を科せられる可能性があります。
そのため、企業は労働時間を正確に記録し、適切な割増率で賃金を計算・支払うことが求められます。
労働条件の明示に関する違反
労働者がどのような条件で働くかを事前に確認し、適正な労働環境で働けるようにするための規定で、定年後の再雇用や非正規雇用者にも適用されます。
雇用時に労働条件を書面で明示することは、労働基準法15条で定められている義務です。
賃金、労働時間、休日など、重要な労働条件を明確に示さないことは違反となります。
違反した場合、30万円以下の罰金が科せられることもあります。
就業規則に関する事項
就業規則に関する違反も頻繁に指摘されます。
この就業規則は、労働基準法に基づき、以下の内容を記載する必要があります。
- 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の場合には就業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成・届出・周知が義務づけられています。
また、労働基準監督署の調査では、就業規則の内容が法令に違反していないか、適切に更新されているかも確認されます。
労働安全衛生法違反のケース
労働安全衛生法違反も、労働基準監督署の調査対象となります。
労働安全衛生法では、労働者の安全と健康を確保するためにさまざまな義務を定めています。
例えば、定期的な健康診断の実施、安全衛生委員会の設置、作業環境の整備などが含まれます。
近年では、長時間労働対策の一環として、労働時間の客観的な把握が義務化されました。
具体的には、タイムカードやPCログなどを用いて、労働時間を適切に記録・管理することが求められています。
ストレスチェックの実施など、メンタルヘルス対策も欠かせない項目となっています。
企業は、定期的な社内点検や従業員教育を通じて、安全かつ健康的な職場環境の維持に努めなければなりません。
通知を無視した場合のリスク
労働基準法違反に対する指摘や是正勧告を無視すると、企業は行政からの厳しい監視対象となり、最終的には罰則や刑事責任を負う可能性があります。
企業の社会的評価も著しく低下し、ブランドイメージの悪化や人材確保の困難に直結する恐れも考えられます。
通知への適切な対応は、企業の信頼性と法的立場を守るために不可欠であるといえますね。
強制的な捜査を受けるリスク
労働基準監督署からの通知を無視すると、強制的な捜査を受ける可能性が高くなります。
労働基準監督官は、労働基準法に基づき、司法警察官と同様の権限を持っています。
これは、法令違反の疑いがある場合強制的に立ち入り調査を行う権限を含む、ということです。
通知を無視すると、企業は自主的な改善の機会を逃すだけでなく、より厳しい強制調査の対象となる可能性があります。
強制的な捜査では、事前の準備や説明の機会が限られてしまうため、企業にとって不利な状況に陥るでしょう。
さらに、企業の社会的信用を大きく損なう可能性もあります。
刑事罰のリスク
労働基準監督署の調査妨害や、虚偽報告を行うと、企業は刑事罰の対象となる可能性があります。
労働基準法では、以下のような行為に対して罰則が設けられています。
- 臨検監督を拒否
- 虚偽の陳述
- 帳簿書類の提出を拒否
さらに、是正勧告に従わない悪質な場合は、懲役刑の対象となることもあります。
この処罰は企業(法人)に対してだけでなく、責任者個人に対しても適用される可能性があります。
刑事罰を受けると、企業の評判を著しく損ない、事業継続に重大な影響を与えるでしょう。
また、メディアで報道された場合、企業イメージの低下や取引先との関係悪化など、長期的な影響も考えられます。
通知に対する対応手順と注意点
通知が突然来たら慌ててしまいそうです。
労働基準監督署からの通知には、企業は適切かつ迅速な対応が求められます。
法令遵守の姿勢を示し、調査へ協力しましょう。
誠実な対応は、問題の早期解決と企業の信頼性の向上につながります。
真摯かつ迅速に対応することが重要
労働基準監督署からの通知を受けた場合、最も重要なのは真摯かつ迅速な対応です。
通知を無視したり、対応を遅らせたりすることは、企業にとって大きなリスクとなり得ます。
まず、通知を受け取ったら、その内容を慎重に確認し、指定された期日や要求事項を確認しましょう。
指定された日時に対応できない場合は、速やかに労働基準監督署に連絡し、日程調整しなければなりません。
また、社内で適切な対応チームを編成し、必要に応じて労務管理の専門家や弁護士のアドバイスを受けることも検討すべきです。
法的リスクを最小限に抑えつつ、適切に対応できるでしょう。
必要な資料の準備
労働基準監督署の調査では、さまざまな資料が必要となります。
一般的に要求される資料は、以下のとおりです。
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 出勤簿または勤怠記録
- 労働条件通知書
- 雇用契約書
- 就業規則
- 36協定書
- 安全衛生関連の記録
資料は、常に最新の状態で整備し、すぐに提示できるよう日頃から管理しておきましょう。
特に、労働時間管理や賃金計算に関する記録は詳細に保管し、必要に応じて説明できるようにしておくべきです。
また、デジタル化された記録がある場合は、紙ベースの資料と整合性が取れていることを確認しておきましょう。
内容に不一致があると、疑惑を持たれ、より詳細な調査の対象となる可能性があります。
調査への対応
労働基準監督署の調査に対しては誠実に、協力的な態度で臨みましょう。
調査官の質問には明確かつ正直に回答し、必要な情報や資料を迅速に提供することが求められます。
調査を拒否すると、企業側が不利な立場に追い込まれることもあるので、絶対にやめましょう。
調査の際は、以下の点に注意してください。
- 対応者を事前に決めておき、一貫した説明ができるようにする。
- 質問の意図を十分に理解してから回答する。不明点があれば、確認を躊躇しない。
- 推測や憶測での回答は避け、事実に基づいた回答を心がける。
- 改善すべき点が指摘された場合は、真摯に受け止め、改善の意思を示す。
- 調査の内容や指摘事項を正確に記録し、後の対応に活用する。
また、調査中に新たな問題が発見された場合も、隠蔽せずに正直に報告することが重要です。
隠蔽行為は、問題の悪化や信頼の喪失につながる可能性があり、企業にとって大きな損失となりかねません。
是正勧告に応じた改善
労働基準監督署の調査の結果、法令違反が認められた場合、是正勧告が出されます。
この是正勧告に対しても、迅速かつ適切に対応することが求められます。
- 是正勧告の内容を詳細に確認し、改善すべき点を明確にする。
- 改善計画を立案し、実行可能なスケジュールを策定する。
- 必要に応じて、労務管理の専門家や弁護士のアドバイスを受ける。
- 改善措置を実施し、その過程と結果を詳細に記録する。
- 指定された期日までに、改善報告書を作成し提出する。
是正勧告に従い、労働基準監督署から「改善した」と認められた場合は、調査完了です。
しかし、認められなければ、改善報告書の提出後も、追加の確認や再調査が行われる可能性もあります。
再調査はさらに厳しく追求されることが予想されるので、是正勧告の時点で、適切に対応したいものです。
また、是正勧告を機に、類似の問題が他の部署や事業所でも発生していないか確認し、全社的な改善につなげていきましょう。
このような積極的な姿勢は、将来的な問題の予防にもつながります。
まとめ
労働基準監督署からの通知は、適切に対応すれば大きな問題にはなりません。
ただし、通知を無視すると、強制捜査や刑事罰のリスクがあるため、企業は迅速に対応すべきです。
通知が届いたら、必要な資料の準備、調査への協力が欠かせません。
求められる対応を誠実かつ適切に行い、企業は法令遵守の姿勢を示しましょう。
また、日頃から労働関係法令を遵守し、適切な労務管理体制を整備しておくことが、問題の未然防止につながります。
労働基準監督署の調査は、自社の労務管理を見直し、改善する良い機会とも捉えられます。
なお、「適切な対応方法がわからない」「業務が忙しくて是正勧告に対応できる余裕がない」とお困りの場合は、弁護士などの法律の専門家へ依頼するのも一つの方法です。
木下慎也 弁護士
大阪弁護士会所属
弁護士法人ONE 代表弁護士
大阪市北区梅田1丁目1-3 大阪駅前第3ビル12階
06-4797-0905
弁護士として依頼者と十分に協議をしたうえで、可能な限り各人の希望、社会的立場、その依頼者らしい生き方などをしっかりと反映した柔軟な解決を図ることを心掛けている。
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