「お前はバカだ」
「お前は犯罪者だ」
このように相手から言われたとき、これは名誉毀損に当たるのでは?と思った人は多いはずです。
結論から言うと、「お前」という言葉自体は犯罪になりません。
問題になるのは、その後に続く言葉の内容と、誰かに聞こえる状況だったかどうかの2点です。
この2点によって、名誉毀損罪(刑法230条)になるのか、侮辱罪(刑法231条)になるのか、あるいはどちらも成立しないのかが決まります。
本記事では、パターン別の判断基準や法務省が公表した実際の処罰事例、被害を受けた場合の対処法について、弁護士監修のもと解説します。
記事に入る前に・・・
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「お前」という言葉だけでは名誉毀損にも侮辱罪にも該当しない

弁護士「お前はバカだ」と言われた場合、犯罪になる可能性があるのは「バカだ」の部分です。

そうなのですか?勘違いしていました…。
「お前」という言葉は、ただの呼びかけに過ぎません。
法的な判断は、後に続く言葉の内容で決まります。
法律が問題にするのは「お前」の後に続く言葉
名誉毀損罪(刑法230条)と侮辱罪(刑法231条)はどちらも、人の社会的な評価を下げる発言についてが対象となります。
「お前」という呼びかけ自体は社会的評価を下げるものではないため、それ単体では両罪ともに成立しません。
問題になるのは以下の2点です。
- 後に続く言葉が具体的な事実を含むかどうか
- その発言が不特定多数に聞こえる状況だったかどうか
この組み合わせによって、名誉毀損罪の成立・侮辱罪の成立・どちらも不成立、の3パターンに分かれます。
侮辱罪の可能性があるパターン
「お前はバカだ」「お前はクズだ」のように、抽象的な罵倒(具体的な事実を含んでいない)は、名誉毀損罪には当たりません。
ただし、不特定多数に聞こえる状況であれば侮辱罪(刑法231条)が成立する可能性があります。
名誉毀損罪の可能性があるパターン
「お前は昔、横領で捕まっただろ」「お前は不倫している」のように、真偽を確認できる具体的な事実が含まれる場合は、名誉毀損罪の検討対象になります。
発言した内容が虚偽であっても真実であっても、ケースによっては名誉毀損罪が成立する可能性もあります。
名誉毀損罪と侮辱罪、どちらが成立するかを決める基準とは


「名誉棄損」と「侮辱」、似ているように感じますが…。
弁護士2つの罪を分けるのは「事実の摘示があるかどうか」の1点だけです。
| 名誉毀損罪 | 侮辱罪 | |
| 根拠条文 | 刑法230条 | 刑法231条 |
| 事実の摘示 | 必要 | 不要 |
| 公然性 | 必要 | 必要 |
| 法定刑 | 3年以下の懲役または50万円以下の罰金 | 1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 |
| 公訴時効 | 3年 | 3年 |
「事実の摘示」とは
たとえば「前科がある」「横領した」「不倫している」などは、事実の摘示にあたります。
一方、「バカ」「クズ」「気持ち悪い」は個人の主観的な評価であり、真偽を確認する手段がないため事実の摘示には該当しません。
2-2,名誉毀損罪が成立する発言の例
- 「お前は学生時代に窃盗で捕まっただろ」
- 「お前は職場の上司と不倫している」
- 「お前の会社は反社と取引がある」
これらは、いずれも具体的な事実を含み、相手の社会的な評価を下げる内容です。
原則として、その事実が真実かどうかは、成立要件に影響しません。
侮辱罪が成立する発言の例
- 「お前はバカだ」
- 「お前はクズ以下だ」
- 「お前は死ね、消えろ」
これらの言葉に具体的な事実は含まれていませんが、公然と人を侮辱する発言として侮辱罪の対象になり得ます。
2022年7月の法改正で侮辱罪は厳罰化されており、以前より重い処罰が科される可能性があります。
グレーゾーンはどう判断するか
「お前はヤリマンだ」「お前はワキガだ」のように、事実とも主観とも取れる発言は、判断が難しいケースです。
法務省が公表した事例集では、こうした発言が実際に侮辱罪として処罰された記録もあります。
グレーゾーンの発言については、発言の前後の文脈や状況も含め、弁護士に判断を仰ぐことをおすすめします。
「公然と」という条件を満たさないと、どちらの罪も成立しない


例えば、二人きりの場で何か侮辱的なことを言われた場合、これは名誉毀損罪や侮辱罪になるのでしょうか?
弁護士名誉毀損罪・侮辱罪ともに、成立する要件は、発言が「公然と」行われたかどうかです。
どれだけ侮辱的な言葉であっても、この条件を満たさない場合には、刑事上の罪には問えません。
「公然と」とは何か
「公然と」とは、不特定多数の人に伝わる可能性がある状況のことを指します。
実際にその場に多数の人がいない場合でも、伝わる可能性があれば公然性が認められます。
- 公然性あり
SNS・掲示板への投稿、職場で周囲に聞こえる声での発言、複数人が参加するグループチャットへの書き込み - 公然性なし
個室で1対1の口頭での発言、個人宛のメール・DM、鍵付きの非公開アカウントへの投稿
1対1で言われた場合は侮辱罪にならない
密室や個人間のやり取りで侮辱的な言葉を言われた場合、公然性の要件を満たさないため侮辱罪は成立しません。
たとえ精神的苦痛を受けたとしても、刑事上の罪に問うことは難しい状況です。
ただし、民事上の不法行為として、慰謝料請求ができる可能性はあります。
LINEやDMが公然性を満たすケース
原則として、1対1のDMやLINEは公然性を満たしません。
ただし以下のケースでは公然性が認められる可能性があります。
- グループLINEやグループチャットへの書き込み
- DMの内容をスクリーンショットして第三者に拡散した場合
- 鍵なしの公開アカウントへのリプライや引用投稿
SNS・掲示板への投稿は原則として公然性あり
XやInstagram・インターネット掲示板など不特定多数が閲覧できるプラットフォームへの投稿は、原則として公然性の要件を満たします。
匿名で投稿した場合も同様です。
近年では、発信者情報開示請求によって投稿者を特定するケースも増えており、「匿名だから何を言ってもよい」というわけではありません。
法務省が公表した「侮辱罪の事例集173件」からわかること

2025年9月12日、法務省は「侮辱罪の施行状況に関する刑事検討会」の第1回会議において、2022年7月の厳罰化以降に裁判が確定した173件の侮辱罪事例を初めて公表しました。
弁護士これは、架空の想定ではなく、実際に処罰された言葉と金額が記録された一次資料です。

この資料を見れば、どのような発言が該当するか傾向が見えてきますね。
173件のうち約6割がインターネット関連
侮辱罪による事例の内訳は、SNSや掲示板などインターネット関連が全体の約6割を占めています。
また、ネット中傷問題への社会的関心が高まり、処罰事例が目立つようになりました。
なお、この事例集を見る限り、「お前」という呼称自体が処罰された事例は確認できず、処罰されているのは「お前」ではなく、その後に続く人格否定的表現(例:「お前が馬鹿じゃ」「お前頭おかしいよ」など)であることも特徴的です。
実際に処罰された言葉の例
事例集に記載された具体的な言葉と処罰の内容は、以下のとおりです。
- 「キチガイ人殺し」をSNSに投稿→罰金10万円
- 「ヤリマン」をSNSに投稿→罰金10万円
- 「嫁相変わらず笑うときもい」を掲示板に投稿→罰金10万円
- 「大馬鹿。」「あほー。」「ごろつき。」等路上で放言→科料9,000円〜9,900円
- バス車内で「ばかが」と発言→科料9,000円
ネット上の発言は対面より重い処罰になる傾向がある
事例集によると、インターネット事案では罰金が科されるケースが約82%であるのに対し、対面などの非インターネット事案では約47%にとどまっています。
同じ「バカ」という言葉でも、SNSへの投稿と路上での発言では処罰の重さが異なるケースもあります。
同じ言葉でも状況次第で結果は変わる
事例集は法務省が公式に公表した資料ですが、全く同じ言葉・行為であっても、発言の前後の文脈・被害者との関係・発言の拡散状況などによって処罰の内容は変わります。
「事例集と同じ言葉だから裁判結果はこのくらいだろう」と判断することは危険です。
名誉毀損罪と侮辱罪の刑罰・慰謝料・時効の違い


名誉毀損罪と侮辱罪は、罰の重さや時効など、何がどのくらい違うのでしょうか?
弁護士侮辱罪は数年前に厳罰化しているので、併せて確認していきましょう。
刑事上の刑罰
名誉毀損罪の法定刑は、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。
侮辱罪は2022年7月の厳罰化以降、拘留・科料に加えて1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金に引き上げられました。
改正前は拘留または科料のみだったため、罰則の重さは大幅に変わっています。
なお、両罪はいずれも親告罪であり、告訴がなければ起訴できません。
民事上の慰謝料の相場
刑事罰とは別に、民事訴訟で慰謝料を請求できます。
一般的な相場は以下のとおりですが、発言の悪質性・拡散の規模・被害者の社会的立場などによって大きく変動します。
- 名誉毀損:数十万円〜数百万円程度
- 侮辱罪:数万円〜数十万円程度
名誉毀損のほうが事実の摘示を伴う分、権利侵害の程度が大きいとみなされ、慰謝料の相場も高くなる傾向があります。
時効はいつまでか
刑事上の公訴時効は、名誉毀損罪・侮辱罪ともに3年です。
侮辱罪は2022年の厳罰化以前は公訴時効が1年でしたが、法改正により3年に延長されました。
民事上の損害賠償請求権の時効は、被害者が損害および加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年のいずれか早いほうです。
時効が迫っている場合や、発言からすでに時間が経過している場合は、早急に弁護士へ相談することをおすすめします。
被害を受けたときにやるべきこと


例えばネットなどで自分の悪口が拡散されていた場合、どのように対処すべきでしょうか?
弁護士被害に気づいた時点でまずやるべきことは、証拠の保全です。
時間が経過するほど投稿が削除されるリスクが高くなり、その後の手続きが難しくなります。
証拠を保全する
まずは、以下の方法で証拠を残してください。
相手に削除される前に、できるだけ早く行いましょう。
- SNS・掲示板の投稿はスクリーンショットを撮影する
- 投稿のURLをテキストで保存する
- 投稿日時・アカウント名・プロフィール画面も合わせて撮影する
- 対面での発言の場合は日時・場所・発言内容・証人の有無をメモする
スクリーンショットだけでは改ざんを疑われるケースもあるため、可能であればウェブ魚拓(インターネットアーカイブへの保存)も併用するとよいでしょう。
刑事告訴と民事訴訟、どちらを選ぶか
刑事告訴は、警察・検察に申告し、捜査・起訴を求める手続きです。
ただし告訴したからといって必ず起訴されるわけではなく、不起訴になるケースも少なくありません。
一方、民事訴訟は、慰謝料など金銭的な賠償を求めることを目的とする手続きです。
刑事告訴と並行して進めることも可能です。
相手が匿名の場合は、まず発信者情報開示請求などによって特定する必要があります。
このように、刑事告訴と民事訴訟は併用できる場合がありますが、目的や役割が異なります。
匿名の相手を特定する:発信者情報開示請求
SNSや掲示板への匿名投稿であっても、発信者情報開示請求によって投稿者を特定できる場合があります。
一般的な流れは、以下のとおりです。
- プラットフォーム事業者にIPアドレス等の開示を請求する
- 開示されたIPアドレスをもとにプロバイダに契約者情報の開示を請求する
- 特定できた相手に対して刑事告訴または民事訴訟を提起する
2022年の法改正により開示請求の手続きが一本化され、以前より迅速に特定できるようになりました。
弁護士に相談するタイミング
以下のいずれかに該当する場合は、早めに弁護士へ相談しましょう。
- 相手が匿名で発信者情報開示請求が必要となる場合
- 投稿が拡散しており削除対応を急ぐ必要がある場合
- 慰謝料請求を検討している場合
- 発言から時間が経過しており時効が迫っている場合
無料で初回相談を受け付けている法律事務所も多くあります。
一人で判断せず、まずは専門家に状況を伝えましょう。
侮辱罪や名誉毀損についてよくある質問

- 「お前なんか大嫌いだ」は名誉毀損や侮辱罪になりますか?
-
ならない
「大嫌いだ」は個人の感情表現であり、具体的な事実の摘示も抽象的な侮辱も含まない発言です。
名誉毀損罪・侮辱罪ともに成立しない可能性が高いです。
一方で、侮辱罪に当たるかどうかは、発言の内容だけでなく、前後の文脈や表現の態様、そのときの状況なども踏まえて判断されます。
そのため、単独の表現だけで判断するのではなく、発言全体について弁護士へ相談することが望ましいでしょう。
- 相手が真実を言っていても名誉毀損になりますか?
-
なる
名誉毀損罪は刑法230条で「事実の有無にかかわらず」成立すると定められており、つまり摘示した内容が真実であっても、成立する可能性があります。
真実を言えば許されるという認識は、誤りです。
ただし、公共の利害に関する事実について、公益を図る目的で摘示した場合は、例外的に違法性が阻却され、処罰の対象になりません。
- 侮辱罪は告訴しないと捜査されませんか?
-
されない
侮辱罪は親告罪であるため、被害者が告訴しなければ起訴できません。
被害を受けた場合は証拠を保全したうえで、警察または弁護士に相談し告訴手続きを進める必要があります。
- スクリーンショットは証拠として認められますか?
-
認められる
ただし改ざんを疑われるリスクを下げるため、投稿URL・投稿日時・アカウント情報も合わせて保存することが重要です。
ウェブ魚拓など第三者機関による証拠保全を利用すると、より確実です。
- 弁護士費用が払えない場合はどうすればいいですか?
-
各法律扶助制度を活用する
法テラス(日本司法支援センター)の審査を通過すれば、弁護士費用の立替制度を利用できます。
収入・資産が一定基準以下であることが条件です。
まず法テラス(0570-078-374)に相談してみてください。
また、法律事務所に分割支払いが可能か相談してみるのもよいでしょう。
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まとめ:「お前」に続く言葉と発言の場所で罪名が決まる
「お前」という言葉単体では犯罪になりません。
問題になるのは、後に続く言葉の内容と発言の状況です。
具体的な事実を含む発言は名誉毀損罪、抽象的な罵倒は侮辱罪の対象となることがあります。
1対1の発言は公然性を満たさず、どちらの罪も成立しないケースも少なくありません。
被害を受けたらまず証拠を保全しましょう。
名誉毀損・侮辱罪はグレーゾーンの発言も多く、自己判断には限界があります。
「これは訴えられるのか」「訴えたい」と感じた場合は、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

東 拓治 弁護士
福岡県弁護士会所属
あずま綜合法律事務所
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【弁護士活動20年】
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