下請法とは?概要や対象となる取引、違反した場合の取扱いなどをわかりやすく解説

下請事業者として仕事をしていると、元請事業者の会社より無理な要求をされたり、不公正であると感じたりすることを行われることがあります。

「会社員のような立場でもないし、仕方の無いことか…」と諦めてしまう方も多いのですが、その中には下請法という法律に違反していて、何らかの対応・対策をとることができる場合も少なくありません。

この記事では、そのような思いをされる方へ諦めてしまう前に「下請法」について知っていただき、今後の対策としてお役にたつ情報をお伝えします。

目次

下請法とは

下請法とは、下請代金の支払遅延等を防止することによって、親事業者の下請事業者に対する取引を公正なものとして、下請事業者の利益を守る為の法律です。

その目的は「国民経済の健全な発達に寄与」することにあります(下請法1条)。

正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」といいます

元請事業者が下請事業者に業務を発注する場合、元請事業者は下請事業者に対して優位な立場にあります。

そのため、元請事業者が、一方的に代金を減額したり・報酬の支払いを遅延したり、不当な取引をすることも少なくありません。

こういった時、下請取引の公正化を図って下請事業者を守る為に、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法を定めたものが「下請法」です。

独占禁止法にも優越的地位の濫用というものがありますが、個別具体的事案での実質的判断になりますが、下請法では対象取引について類型的にルールを定めていることになります。

下請法違反にならない場合でも独占禁止法違反になる、ということがあるので注意が必要です

下請法の対象となる取引について

下請法の対象となる取引は次の4つがあります。

製造委託(下請法2条1項)

製造委託とは、製品を製造・販売・修理している親事業者が、規格・品質・形状・デザイン・ブランドなどを細かく指定されたものを、下請事業者に製造・加工する作業を委託する取引のことをいいます。

修理委託(下請法2条2項)

修理委託とは、

  • 製品の修理を営んでいる親事業者が修理のプロとして、請け負う製品の修理の全部又は一部を下請事業者に委託する取引
  • 親事業者が自社で使用する製品を自社で修理のプロへ依頼する場合に、修理の一部を下請事業者に委託する取引

をいいます。

情報成果物作成委託(下請法2条3項)

情報成果物作成委託(ソフトウェアやアプリの開発)とは、

  • 情報成果物の提供や作成を専門とした親事業者が、その情報成果物の作成の全部または一部を下請事業者に委託する取引
  • 親事業者が自社で使用する情報成果物の作成を業として自社で作成する場合に、作成の全部または一部を下請事業者に委託する取引

をいいます。

役務提供委託(下請法2条4項)

役務の提供を営む親事業者(土木工事、修繕、運送、広告、仲介、飲食等)が、請け負った役務の全部または一部を下請事業者に委託する取引をいいます。

建設業の下請けについては建設業法に規定があるため注意

元請事業者・下請事業者の関係が問題になることが多い事業は建設業といわれています。

建設業を守る為の規定は、別途、建設業法に存在するので注意をしましょう。

下請法の指導・勧告件数の推移

下請法の指導・勧告件数の推移を確認しましょう。

指導件数

公正取引委員会が発表した「令和4年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組」によると、指導件数は次の通りとなっています。

多少の増減はありながらも、令和4年は前年よりも700件も指導の件数が上回っています。

コロナウイルス感染症対策で厳しい経済状況に置かれる昨今、更に件数が増える可能性があるといえるでしょう。

勧告件数

上記の公正取引委員会が公表している資料において、勧告件数は次の通りとなっています。

下請法における義務【元請事業者側】

下請法によって元請事業者にはどのような義務が生じるのでしょうか。

下請代金の支払い期日を60日以内に設定する(下請法2条の2)

元請事業者に課せられる義務の1つ目は、下請代金の支払い期日を60日以内の、できるだけ短い期間に定める義務です。

元請事業者は下請事業者に仕事をさせておきながら、自社の支払いを遅らせることで、自社の資金のやりくりを改善することができてしまいます。

このような、優位な立場を利用して支払いを遅らせることを防ぐために、下請代金の支払い時期を60日以内に設定するように定めています。

発注内容の書面化(下請法3条)

元請事業者に課せられる義務の2つ目は、発注内容を書面化することです。

この規定に基づいて相手に交付する書面のことを『3条書面』と呼びます

書面化すべき内容としては、下請法3条の「下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則」において、次のように定められています。

  • 元請事業者及び下請事業者の名称(識別できれば法人番号などでも良い)
  • 下請事業者に業務委託をした日、下請事業者の給付の内容・給付を受領する期日及び場所
  • 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日
  • 下請代金の額及び支払期日(すぐに決められない場合には算定方法を記載する)
  • 下請代金の全部又は一部の支払につき手形を交付する場合は、その手形の金額及び満期
  • 下請代金の全部又は一部の支払につき、親事業者、下請事業者及び金融機関の間の合意基づき、下請事業者が債権譲渡担保方式(借金の権利を他の人に売り、その権利を担保として使う)又はファクタリング方式(企業が持つ売掛金を、専門の金融機関や会社に売却する)若しくは併存的債務引受方式(企業が既存の債務を特定の方法で引き受ける取引手法を指します。これにはさまざまな契約や交渉が関与し、引受する企業は、債務を引き受けることで特定のリターンや利益を得ることが期待される)により金融機関から当該下請代金の額に相当する金銭の貸付け又は支払を受けることができることとする場合は、次に掲げる事項
    ・当該金融機関の名称
    ・当該金融機関から貸付け又は支払を受けることができることとする額
    ・当該下請代金債権又は当該下請代金債務の額に相当する金銭を当該金融機関に支払う期日
  • 下請代金の全部又は一部の支払につき、親事業者及び下請事業者が電子記録債権(電子記録債権法の発生記録をし又は譲渡記録をする場合は、次に掲げる事項
    ・当該電子記録債権の額
    ・電子記録債権法第16条第1項第2号に規定する当該電子記録債権の支払期日
    ・製造委託等に関し原材料等を親事業者から購入させる場合は、その品名、数量、対価及び引渡しの期日並びに決済の期日及び方法

上記の内容について、取引の内容によっては明確に記載できないこともあります。

明確に記載できない場合は、理由を締切日までに記載すれば良いとされています。

元請事業者の遵守行為(下請法4条)

元請事業者は、下請法4条に規定されている事項を遵守する義務があります。

内容については次項「下請法の遵守事項にあたる内容」で後述します。

遅延利息の支払義務(下請法4条の2)

下請代金の支払期日に代金の支払いをしなかった場合、遅延利息の支払いをする必要があります。

遅延利息の支払いは、当事者に特に定めがない場合、原則として民法の法定利息(2024年現在は3% 民法404条2項)で定められています。

下請代金に関しては、下請事業者の給付を受領した日から60日を経過した場合、その後支払をする日までの期間については、遅延利息の率を定める規則により14.6%とされています。

書類等の作成・保存の義務(下請法5条書類)

元請事業者は下請契約を行った場合、次の書面を作成し、保存する義務を負います。

  • 下請け事業者の名称等(番号、記号等による記載も可)
  • 下請契約をした日・給付の内容及びその給付を受領する期日・受領した給付の内容及びその給付を受領した日
  • 下請事業者の給付の内容について検査をした場合は、その検査を完了した日、検査の結果及び検査に合格しなかった給付の取扱い
  • 下請事業者の給付の内容を変更させ、又は給付の受領後に給付をやり直させた場合には、その内容及びその理由
  • 下請代金の額及び支払期日並びにその額に変更があった場合は増減額及びその理由
  • 支払った下請代金の額、支払った日及び支払手段
  • 下請代金の全部又は一部の支払につき手形を交付した場合は、その手形の金額、手形を交付した日及び手形の満期
  • 下請代金の全部又は一部の支払につき、親事業者、下請事業者及び金融機関の間の合意に基づき、下請事業者が債権譲渡担保方式又はファクタリング方式若しくは併存的債務引受方式により金融機関から当該下請代金の額に相当する金銭の貸付け又は支払を受けることができることとした場合は、次に掲げる事項
    ・当該金融機関から貸付け又は支払を受けることができることとした額及び期間の始期
    ・当該下請代金債権又は当該下請代金債務の額に相当する金銭を当該金融機関に支払った日
  • 下請代金の全部又は一部の支払につき、親事業者及び下請事業者が電子記録債権の発生記録をし又は譲渡記録をした場合は、次に掲げる事項
    ・当該電子記録債権の額
    ・下請事業者が下請代金の支払を受けることができることとした期間の始期
    ・電子記録債権法第16条第1項第2号に規定する当該電子記録債権の支払期日
  • 製造委託等に関し原材料等を親事業者から購入させた場合は、その品名、数量、対価及び引き渡しの日並びに決済をした日及び決済の方法
  • 下請代金の一部を支払い又は下請代金から原材料等の対価の全部若しくは一部を控除した場合は、その後の下請代金の残額
  • 遅延利息を支払った場合は、その遅延利息の額及び遅延利息を支払った日

下請法の遵守事項にあたる内容

上述した元請事業者が遵守すべき事項として、下請法4条1項・2項に記載される次の事項を行ってはなりません

  • 下請事業者の落ち度が無く下請事業者の給付の受領を拒む
  • 下請代金を支払期日の経過後に支払わない
  • 下請事業者の落ち度がなく下請代金を減額する
  • 下請事業者の落ち度がないのに下請事業者の給付を受領した後に下請事業者にその給付に係る物を引き取らせる
  • 下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し、通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定める
  • 下請事業者の給付の内容を均質にし又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除いて、自己の指定する物を強制して購入させ又は役務を強制して利用させる
  • 下請法違反に対して下請事業者が公正取引委員会又は中小企業庁長官に対しその事実を知らせたことを理由として、取引の数量を減らし、取引を停止し、その他不利益な取扱いをする
  • 元請事業者に対する給付に必要な半製品、部品、附属品又は原材料(以下「原材料等」という。)を自己から購入させた場合に、下請事業者落ち度がないのに、当該原材料等を用いる給付に対する下請代金の支払期日より早い時期に、支払うべき下請代金の額から当該原材料等の対価の全部若しくは一部を引いた金額、又は当該原材料等の対価の全部若しくは一部を支払わせる
  • 下請代金の支払につき、当該下請代金の支払期日までに一般の金融機関による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付する
  • 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させる
  • 下請事業者の落ち度がないのに、下請事業者の給付の内容を変更させ、又は下請事業者の給付を受領した後に給付をやり直させる

下請法に違反するとどうなる?

下請法に違反した場合には、下請法等によって、次のようなペナルティを受ける可能性があります。

遅延利息が加重される(下請法4条の2)

下請法に違反して下請代金の支払期日に支払わない場合には遅延利息の支払いが必要です。

上述したように、通常は民法の法定利息の3%ですが、下請事業者の給付を受領した日から起算して60日を経過した場合、その後支払をする日までの期間については、遅延利息の率を定める規則により14.6%とされています。

行政処分の対象となる

下請法に違反している場合、公正取引委員会は監督官庁として次のようなことをさせることができます(下請法9条)。

  • 取引に関する報告をさせる
  • 事業所への立ち入り
  • 帳簿書類その他物件を検査させることができる

これらの権限を行使することで、下請法違反を是正させます。

損害賠償請求の対象となる可能性がある

下請法に違反する行為で相手に損害を与えた場合には、民法などの法律により、損害賠償請求の対象にもなる可能性があります。

ただし、下請法違反が直ちに損害賠償請求であったり、合意無効などになるとは限りませんので、弁護士などに相談しましょう。

勧告が行われる

下請法違反についての勧告が行われます。

公正取引委員会は、下請法違反について勧告を行うことができるとされています(下請法7条)。

この勧告は、会社名や行った行為について違反があった場合、公表されます。

公表は公正取引委員会のホームページ上などで行われますが、会社の規模や行為の態様によっては大きく報道され、企業イメージを損ねることに繋がりかねません。

2023年6月29日、家電量販店ノジマが下請代金を違法に減額したとして勧告を受けたことが報じられました。

刑事罰の対象になる

下請法違反をした場合、刑事罰の対象となることがあります。

3条書面を交付する義務、および5条書類の保存義務に違反した場合:50万円以下の罰金(下請法10条)

下請法9条に基づく報告・立ち入り・帳簿書類その他物件の検査を拒んだり嘘をついた場合:50万円以下の罰金(下請法11条)

下請法に違反した場合の対処方法と相談先

元請事業者が下請法に違反した場合、下請事業者はどのように対処すべきか、どこに相談すべきでしょうか。

元請事業者が下請法に違反した場合の対応方法

元請事業者が下請法に違反した場合の対応方法として次の対応方法が挙げられます。

交渉・裁判

元請事業者に対して下請法違反について交渉し、下請法違反の状態を続けるのであれば裁判を起こし解決することが考えられます。

公正取引委員会に下請法違反を申告し行政処分・勧告をしてもらう

公正取引委員会は、下請法違反に対して行政処分や勧告を行うことができます。

これらの権限を行使してもらうことで、下請法違反の状態を解消してもらうことが考えられます。

元請事業者が下請法に違反した場合の相談先

では、元請事業者が下請法に違反した場合の相談先にはどのようなものがあるのでしょうか。

公正取引委員会

下請法違反に対して各種権限を持つ公正取引委員会に相談をすることができます。

公正取引委員会では下請法違反について、来所しての相談・郵送・オンライン申告をすることができるようになっています。

弁護士

下請法違反の相手と交渉をする、裁判を起こす場合には、弁護士に相談しましょう。

直接相手と交渉・裁判を行う場合はもちろん、公正取引委員会に下請法違反の事実を申告する場合でも、下請法違反の事実や証拠の収集・整理に力を貸してもらえるでしょう。

まとめ

この記事では、下請法違反についてお伝えしました。

元請事業者は下請事業者に対して優位な立場であり、これを濫用することで不公正な取引が行われるおそれがあり、これを防止するために下請法が規定されています。

被害にあった場合には、公正取引委員会に申告することのほか、公正取引委員会への申告をスムーズ・確実におこないつつ、相手に民事上の請求をする上での争点を的確に把握できてスムーズに進めることができる弁護士へ相談することが望ましいといえます。

監修弁護士

弁護士 吉原崇晃

第一東京弁護士会所属
吉原綜合法律事務所

所在地 東京都港区港南2-16-1品川イーストワンタワー4階
TEL 03-6890-3973

戦略法務として、商標・著作権・景品表示法など表示関係全般や企業法務、男女トラブルや交通事故などの私的問題、社内研修まで幅広く扱う

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