モンスタークレーマーとは?対応時の7つの注意点や事例を徹底解説

理不尽なクレームを突きつけるモンスタークレーマーが社会問題化し、国も対応マニュアルを公表する事態となっています。

企業としても、従業員保護や機会損失防止などの観点から、各社の実態に即したモンスタークレーマー対応策を検討しておく必要があります。

そこで、モンスタークレーマーの意味や特徴、対応する際の注意点、対応策を整備する上でのポイント、近年の事例について解説します。

目次

モンスタークレーマーって何?

モンスタークレーマーとは、企業などに対して明らかに理不尽な理由で苦情を訴え、度を越した要求(クレーム)を突きつける消費者を指します。「モンスタークレーマー」は和製英語で、理不尽で度を越した態度を「モンスター」と表現したものです。

親が学校・教師を攻撃する場合は「モンスターペアレント」、患者が医療機関・医療従事者を攻撃する場合は、「モンスターペイシェント」と言います。

そうした消費者は、以前は「クレーマー」と呼ばれていました。

「モンスターペアレント」という言葉が広まったことにより新たに「モンスタークレーマー」という表現が生まれ、「クレーマー」のなかでもとくに度を越した人を「モンスタークレーマー」と呼ぶようになりました。

消費者生活センターの相談現場では、「相談対応困難者」と呼ばれます。

モンスタークレーマーの行為は、企業側にとって不当で悪質な苦情・要求に当たり、対応する従業員に精神的苦痛を与え、現場業務に支障を来すことから、「カスタマーハラスメント」と呼ばれます(これも和製英語です)。

カスタマーハラスメントが社会問題化していることを受けて、厚生労働省は「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公表しました。

同マニュアルでは、カスタマーハラスメントを「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と位置づけています。

モンスタークレーマーの特徴とは

モンスタークレーマーの行動の特徴

モンスタークレーマーの行動には以下のような特徴があります。これらの特徴は、モンスタークレーマーを見分ける判断基準となります。

  • クレームの理由が理不尽
  • 要求が度を越している
  • 自己中心的で、丁寧に説明しても決して主張を曲げない
  • 企業側が求める事実確認には非協力的
  • 自分の主張を通すために不当な行動をとる

モンスタークレーマーは、例えば、自分の不注意で損害が生じているのに企業側のせいにしたり、常識外の過剰なサービスを期待し、その期待が外れたことで苦情を言ったりします。

そして、実際の損害額をはるかに超える金銭を要求したり、土下座を強要したり、あくまでも自分が期待するレベルのサービスを提供するように迫ったりします。

クレームの理由や要求が不当だとは思っておらず、自分の正当性を疑うことがないので、企業側が具体的に根拠を挙げて丁寧に説明を繰り返したとしても、自分の主張を変えることはなかなかありません。

モンスタークレーマーにとっては自分の主張は事実そのものであり、企業側が事実確認をしようとすると拒否したり、犯人扱い・馬鹿扱いされたと感じて怒りを爆発させたりすることがあります。

自分の主張が通らないとなると、威圧的な言動、対応者に対する人格攻撃、長時間の拘束、その場への居座り、連日来店してのクレーム、ネット上での誹謗中傷など、不当な行動に出るケースが少なくありません。

モンスタークレーマー対応時の7つの注意点

「対応次第でモンスタークレーマーを優良顧客に変える」というのは理想論に過ぎず、実現するのはテレビドラマの中くらいでしょう。

モンスタークレーマーに対しては、企業や従業員へのダメージをできる限り小さくすることを目標にして、以下のような点に注意して対応することが重要です。

①複数名・チームで対応する

一人だけで対応していると、モンスタークレーマーに威圧されてしまったり、相手の調子に巻き込まれて感情的になってしまったり、暴力行為やセクハラなどの被害にあったりするリスクが高まります。

複数名で対応することで、こうしたリスクを抑えることができます。

モンスタークレーマーらしき人物に対面した従業員は、一人で対応しようとせずに、同僚・上司に応援を求めるようにしてください。

現場従業員では対応が困難な状況であれば、すぐに現場監督者に対応を引き継ぎ、社内の相談窓口や本社・本部の担当部署と連携しながら対処します。

②必要に応じて場所を変える

店頭など、他の顧客がいる場所で対応すると、業務に支障が出たり、企業イメージに傷がついたりする恐れがあります。

必要に応じて応接室などへの移動を促すようにします。

③理不尽な主張であっても丁寧に聞き、要点をメモする

モンスタークレーマーの主張は、基本的に理不尽ですが、相手を理解しようとする態度で丁寧に話を聞くことで、相手の感情をなだめやすくなります。

モンスタークレーマーを撃退しようとするような態度で対応すると、火に油を注ぐ結果となるのが通例です。

相手が主張したことと食い違うことをこちらが言ったりすると、粗雑に扱われていると感じて怒りをエスカレートさせるケースがよくあるため、主張の要点をメモしながら聞くことが重要です。

④きちんと事実確認をする

一般的に、クレーム対応において事実確認は不可欠です。

事実確認には以下のような目的があります。

(1)クレームの発生原因、問題の焦点を明確化する
(2)企業側の責任の有無を明らかにする
(3)相手の感情をなだめる

(1)(2)を確認し、相手の主張が明らかに理不尽であれば、モンスタークレーマーであるという目星をつけることができます。

モンスタークレーマーは、通常なら問題にならないようなことにこだわったり、現実的にあり得ないような事実を主張したりするため、事実を確認するまでもないと感じられることも少なくありません。ですが、相手の主張に沿って事実確認をすることで、感情をなだめる効果が期待できます。

⑤専門用語などは使わず、相手にわかるように説明する

業界用語を使ったり、相手にとって難しい言い回しをしたりすると、モンスタークレーマーの自尊感情を傷つけ、行動をエスカレートさせてしまうことがあります。

真摯に対応しているという態度を示すためにも、相手にとってわかりやすい言い方で丁寧に説明することが肝要です。

⑥安易に謝罪・譲歩をせず、できないことはできないときっぱり伝える

事実確認をする前に企業側の非を認めるような謝罪の仕方をしてしまうと、モンスタークレーマーは、自分の主張が通ると思い、さらに強い態度に出てくることが多いため、危険です。

事実確認をした上で企業側にも多少の過失があったと判明した場合や、クレームへの対応の仕方に問題があったと判断される場合には、非があった部分についてだけ限定的に謝罪します。

相手の要求に対しては、企業としてできることとできないことの線引きを明確にして、できないことはきっぱりと断ります。

安易に譲歩すると要求がエスカレートすることがあります。

対応不可能な要求を相手が繰り返してきたら、同内容の要求には今後一切対応しないことを伝え、必要であれば出入り禁止の通告などを行います。

⑦状況次第ではためらわずに弁護士や警察へ連絡する

相手が暴行や脅迫、業務妨害、長時間の居座りなどの違法行為をしかけてきた場合、警備員と連携して対応し、状況によっては企業内部でのクレーム対応は諦め、弁護士への相談や警察への通報を行います。

モンスタークレーマーに対する企業の対応策

モンスタークレーマーに対しては、事前対策なしで適切に対応をすることは非常に困難です。対応に当たる従業員の安全や精神衛生への配慮も求められます。

モンスタークレーマーのリスクに対応するために、企業として備えておくべき体制についてまとめます。

対応ルールの策定

以下のような点について社内ルールを定めておきます。

  • 相手がモンスタークレーマーかどうか現場従業員が判断するための基準
  • 店頭・電話・ネット書き込みなど、場面に応じた現場対応フロー
  • 現場とバックオフィス・相談窓口・本社/本部の間の連携方法(報告・相談・指示の流れ)

対応ルールについての周知・研修

モンスタークレーマーに対しては、通常の顧客に対する対応とはまったく異なった対応が必要になります。

対応ルールについて通り一遍の周知を行うだけでなく、現場での接客実務を盛り込んだモンスタークレーマー対応専門研修を定期的に行うなどして、従業員の対応力を高めることが重要です。

従業員の安全確保・精神衛生のための措置

モンスタークレーマーへの対応では、現場従業員に危害が加えられたり、精神的なダメージによる健康被害やモチベーション低下が引き起こされたりするリスクが高く、そうしたことが人材流出につながる恐れもあります。

モンスタークレーマーへの対応を現場従業員に押しつけるのではなく、社内全体で問題を共有し、現場での安全確保や事後の精神的ケアなどのバックアップ体制を構築しておく必要があります。

発生事案の情報共有と対応策の改善

実際に自社で発生したモンスタークレーマー事案を社内で共有し、対応ルールやバックアップ体制の改善などに活かしていくことが重要です。

モンスタークレーマーの事例集

店頭などの現場で頻繁に発生している類型的な事例と、事件・裁判に発展した事例を紹介します。

身近にあるモンスタークレーマー事例

以下のような事例が発生しています。

  • コロナ禍など、やむを得ない事情で生じている欠品に対し、苦情をわめき散らす
  • 商品が腐っていたというクレームを入れ、交換品・粗品を持って謝罪に来た担当者に対して長時間にわたる説教や人格攻撃を行う
  • 自らの不注意で店舗のドアにぶつかり、眼鏡を破損したにもかかわらず、店舗が悪いと主張し、壊れた眼鏡の代金と、眼鏡なしでは働けないため、その間の給与の補償(休業損害)を要求する
  • 注文せずに食べ放題の商品を皿に取っていたところを店員に注意されて根に持ち、後日来店して、店員に恥をかかされたと言って謝罪を要求する

モンスタークレーマーの事件・裁判事例

以下のように、事件・訴訟に発展した事例もあります。

2つめの事例では、モンスタークレーマーに対応する従業員をバックアップすべき立場の管理職の責任が裁判で問われています。

  • 商品に穴が開いていたというクレームを入れ、返金を受けた上で、店員に土下座を強要し、土下座した様子を撮影してSNSに投稿して、逮捕・略式起訴された事件
  • 生徒の親から担任教諭に対して理不尽な非難と謝罪要求があり、校長が事実確認もせずに親側に同調して教諭に土下座を強要するなどして、うつ病による休業を余儀なくさせたとして、校長の不法行為が認められ、国家賠償法に基づき市・県に295万円の支払いが命じられた事件

まとめ

モンスタークレーマーは理不尽な主張と度を越した要求を行い、企業側の説明には耳を貸しません。そして、事実確認には非協力的で、要求を通すためには犯罪的な行為に出ることもあります。

モンスタークレーマーへの対応では特別な配慮が必要になるため、事前に社内ルールや現場対応者のバックアップ体制を構築し、実践的な研修などを通して社内の対応力を高めておくことが重要です。

モンスタークレーマーへの対応では、相互に納得のいく解決に至ることは難しく、最終的に弁護士への相談などが必要になるケースも少なくありません。弁護士相談費用を補償する弁護士保険への加入も、モンスタークレーマー対応策として有用です。

弁護士

谷井 秀夫 弁護士

弁護士法人谷井綜合法律事務所
第一東京弁護士会所属

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