会社のお金を持ち逃げされた!業務上横領・窃盗? 会社が講じるべき対応や防止策について解説

2014年10月、ネッツエスアイ東洋株式会社という会社の経理部員が、会社のお金約15億6,000万円を横領していたとして、神奈川県警に逮捕されました。

この事件で小口現金を8年にもわたり横領していたもので、大々的に報じられました。

このような巨額な横領でなくても、レジの現金が合わないのが日常茶飯事であるなど、会社のお金を持ち逃げに頭を悩ます方も多いのではないでしょうか。

このページでは、会社のお金を持ち逃げされた場合の法律問題や、会社としてどう対応するか、防止策などについてお伝えします。

「弁護士に相談なんて大げさな・・・」という時代は終わりました!

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目次

従業員が会社のお金を持ち逃げ

従業員が会社のお金を持ち逃げした場合の法律問題については、刑事と民事について分けて考える必要があります。

刑事事件

従業員がお金を持ち逃げした場合には、

  • 業務上横領罪
  • 窃盗罪
  • 詐欺罪

が成立します。

業務上横領罪

まず、会社からのお金の持ち逃げについて、業務上横領罪(刑法253条)が成立しえます。

他人から預かっている物を自分の物にしてしまう行為のことを横領といいます。

業務に関係なく横領する単純横領罪(刑法252条)が5年以下の懲役刑であるのに対して、「業務上」他人から預かっている物を横領する業務上横領は10年以下の懲役刑と、刑が加重されています。

「業務上」というのは「社会生活上の地位に基づいて、反復継続して行われる事務」のことをいい、仕事で他人の金銭を預かっているようなケースは業務にあたります。

前述の経理部員が金庫の現金を横領したケースはもちろん、銀行口座を預かっている経理業務担当者が口座から勝手にお金を下ろしてしまうような場合も業務上横領に該当します。

窃盗罪

お金を預かっているとはいえない従業員が、会社のお金を持ち逃げする場合には、窃盗罪(刑法235条)が成立します。

窃盗罪も10年以下の懲役刑となっています。

詐欺罪

例えば、集金をする権限がないのに、取引先に赴いて集金をして行方不明となっているような場合があります。

この場合には、従業員が取引先に対して詐欺を行ったことになり、詐欺罪(刑法246条)が成立します。

詐欺罪も10年以下の懲役刑となっています。

民事上の法律問題

従業員がお金を持ち逃げした場合には、次のような民事上の法律問題が発生します。

不当利得返還請求権

法律上の原因なく得た利益がある場合に、これを返還するように求める請求権が、不当利得返還請求権です(民法703条)。

わかりやすく言うと、不当な方法で得た利益を相手方に返還させるための権利とも言えます。

お金を持ち逃げした従業員は、持ち逃げした金額について不当利得返還請求権が発生します。

お金を持ち逃げしたような場合には、民法704条の悪意の受益者に該当し、利息・損害を付して返還する必要があります。

従業員に対して、持ち逃げしたお金を返してもらうための権利です

不法行為損害賠償請求権

不法行為によって財産上の損害を受けた場合には、加害者に対して損害賠償を請求する権利が発生します(民法709条)。

従業員によるお金の持ち逃げは不法行為ですので、不法行為に基づいて損害賠償責任を負うことになります。

従業員が持ち逃げしたことによって、生じた損害を補償するための権利です。

労働契約上の懲戒処分

従業員と会社は労働契約を結んでいます。

労働契約の中で、従業員が問題行為を起こした場合には、使用者は従業員に対して懲戒処分(不当な行為に対する制裁)を下すことができます。

懲戒処分には、

  • 譴責・戒告・訓戒
  • 減給
  • 出勤停止・停職・懲戒休職
  • 降格
  • 諭旨解雇
  • 懲戒解雇

などがあります。

なお、問題行動があったからといって、全件懲戒解雇にできるわけではなく、問題行動の悪質性に応じて処分が相当でなければならないとされています。

ただ、会社のお金を持ち逃げする行為は、あまりに額が僅少であるような場合を除いて通常は懲戒解雇をしても妥当であると考えられています。

懲戒解雇とは、懲戒処分の中で最も重く、解雇予告手当も退職金もなく即日解雇される。離職票にも懲戒解雇を受けた記録が残るので再就職にも影響を及ぼします。

表見代理として債権が消滅する

集金をする権限がないのに、取引先に集金をしてそのまま逃げてしまった場合には、刑事事件としては詐欺罪が成立しうることは、先にお伝えした通りです。

この場合、集金する権限がない人にお金を支払っても、取引先は債務を履行したことにはならないので、会社としてはもう一度取引先に支払うように主張することができます。

ただし、この集金にあたって、会社が集金の権限を与えたような外形を作り出していて、そのことを信じてお金を支払った場合には、表見代理(民法109条・110条・112条やこれらの条文を準用する)の規定によって、もう一度取引先に支払ってもらうように主張できないことがあります。

給与と損害賠償の相殺について

損害賠償請求をする一方、会社は労働契約にもとづいて従業員に給与の支払いを行う必要があります。

会社は、損害賠償を請求する一方で、給与の支払いをしなければならないのは面倒ですので、支払うべき給与分を損害賠償に充てる相殺をしたいと考えるのは当然でしょう。

しかし、給与については全額支払わなければならないという原則が労働基準法24条1項に規定されており、相殺をして給与を支払わないのはこの規定に違反することになり、刑事罰も課される可能性があります(労働基準法120条1号)。

ただ、従業員の同意を得ることができれば、相殺も可能と解釈されているのですが、このような場合に同意を得ることは難しく、形式的な同意も無理やり同意させられたと解釈されることもあるので、相殺については慎重に行うようにしましょう。

持ち逃げした金額分を、給与から勝手に天引きする行為はNG

会社のお金を持ち逃げされた場合の会社の対応方法

以上の法律的な問題を踏まえて、会社のお金を持ち逃げされた場合には、会社はどのような対応をすべきかを検討しましょう。

従業員の解雇(会社役員の解任)

会社のお金の持ち逃げが発覚した場合、まずそのままでは従来どおり会社と従業員の労働契約が残ったままになっていて、給与の支払い義務を否定できなくなります。

そのため、まずは懲戒処分として解雇を行いましょう。

もし、お金の持ち逃げをしたのが会社役員である場合には、会社役員を解任するために、株主総会を招集します。

損害賠償請求

損害賠償請求を行います。

上述したように、法律的には不当利得返還請求権と不法行為損害賠償請求権の両方が成立しますが、両者があるからといって2倍分請求できるわけではありません。

お金の持ち逃げをするようなケースの多くで、そのお金は使い込んでしまっているので、回収が難しいことが想定されます。

このような場合には、身元保証人に対して請求を行います。

任意で損害賠償請求に応じない場合や、相手の財産に強制執行をする必要があるような場合には、強制執行の債務名義を取得するために、裁判を起こすなどが必要です。

被害届の提出・刑事告訴・告発

会社のお金を持ち逃げした場合には、上述したように業務上横領罪・窃盗罪・詐欺罪などの犯罪が成立しえます。

そのため、被害届の提出や刑事告訴をしましょう。

被害届の提出とは警察に対して被害の申告をするものであり、刑事告訴とは被害者が加害者に対して処罰を求める意思表示をするもので、警察は刑事告訴があると捜査を行う義務が発生します。

刑事告発は、被害者以外の者がおこなうもので、詐欺罪では被害者は顧客先になるので、会社としては刑事告発を行うことになります。

刑事事件として逮捕された場合には加害者は起訴されないために、また起訴された場合でも、執行猶予がつくように・刑が少しでも軽くなるように、被害弁償として金銭の支払いや金銭支払いの約束をすることがあります。

これによっていくらかは回収できる可能性があります。

また、回収できる見込みがないような場合は、後述する損金算入のための経理処理をするエビデンスにするために、被害届を提出したことが必要となることがあります。

持ち逃げされたお金を損金として経理処理を行う

持ち逃げされたお金を損金として経理処理を行いましょう。

持ち逃げされたお金は雑損失として経理処理をすることが可能です。

500,000円を持ち逃げされたとして、次のように仕訳を行います。

(雑損失)500,000 / (現金)500,000

お金が戻ってきた場合には、雑収益として計上します。

(現金)500,000 /(雑収益)500,000

この経理処理をするためのエビデンス(証憑)として、被害届の提出したことを証明するために、被害届の写し(コピー)を利用することになりますので、被害届を提出する場合には、提出時に受付印などを押したものをコピーしてもらう必要があります。

お金の持ち逃げをされた場合の対応で注意すべきこと

お金の持ち逃げをされた場合の対応として注意すべきことを確認しましょう。

お金の持ち逃げをした証拠をきちんと集める

最も重要な事として、お金の持ち逃げをした証拠をきちんと集めましょう。

刑事事件として立件してもらう、民事上の請求を行う、懲戒解雇を行う、どのような場合でも証拠もなしにお金の持ち逃げを主張することはできません。

お金の持ち逃げに関する証拠はきちんと集めるようにしましょう。

会社の対応は迅速に行う

お金を持ち逃げしたような場合、そのお金を使ってしまったり、第三者に渡す、隠匿するなど、時間が経てば経つほどお金を返してもらえる可能性は低くなります。

また、証拠の収集も、時間が経てば経つほど難しくなります。

会社としての対応は、迅速に行う必要があると考えておきましょう。

調査の対象者に気づかれないように調査を行う

冒頭の小口現金に手を付けているような場合には、長期間・少しづつお金を持ち逃げしていることもあり、まだその従業員が勤務していることもあります。

この場合、社内調査を大々的に行ってしまうと、対象者に気付かれてしまい、証拠隠滅や逃亡などにつながってしまいます。

場合によっては会社の機密情報や顧客の個人情報などを持ち逃げして、被害が広がるようなことにもなりかねません。

調査の対象者に気づかれないように調査を行うようにしましょう。

経理担当者の持ち逃げには銀行や税理士の力を借りる

持ち逃げの中でも経理担当者の持ち逃げには銀行や税理士の力を借りましょう。

経理担当者は、会社の小口現金を預かっていたり、帳簿・データ・請求書などを改ざんする・水増し請求をするなど、お金を持ち逃げすること・証拠を隠匿することが容易な地位に居ます。

そのため、経理・経理事務に精通していないと、お金の持ち逃げを見抜けない場合があります。

経理担当者の行動を調べる場合には、お金の流れに詳しい税理士や、取引先である銀行に協力を依頼することが不可欠です。

相手の居場所がわからなくなっている場合

お金の持ち逃げをしている従業員が、そのまま居場所がわからず連絡先がとれなくなっている、ということも珍しくありません。

このような場合に、自宅・よく立ち寄るところなどを探したり、親族・知人に連絡をとって捜索をすることがあります。

しかし、捜索には時間や労力がかかる上に、逃げた従業員が探し回っていることを知ってしまった場合には、より捜索が難しくなるかもしれません。

このような場合に、警察に捜索願いを出したり、探偵・調査会社に依頼をすることも検討しましょう。

被害届・刑事告訴は弁護士に相談しながら行う

会社のお金の持ち逃げは、上述したように刑事事件となりうるものです。

警察に犯罪行為を認知してもらうために、被害届の提出・刑事告訴をすることは欠かせません。

ただ、警察が捜査する義務を負うことになる刑事告訴は、警察の側でも受け付たくないのが実情で、現実にはいろいろな理由をつけて受け付けてもらえないことがあります。

そのため、弁護士に相談しながら行うようにしましょう。

会社の代表者がお金を持ち逃げしたような場合

会社のお金を持ち逃げしたのが会社の代表者である場合にはどのような対応が必要でしょうか。

会社に他に役員がいるような場合には、その役員が主導して事態を収集することになり、会社の運営が難しくなっている場合には、会社の精算・破産・特別精算をすることが通常でしょう。

会社に役員が他に居ないような場合には、残った従業員は早急に会社を退職すべきです。

会社を退職するにあたって不利な取扱をされないように、弁護士に相談しながら退職のための手続きを行いましょう。

会社のお金を持ち逃げされないための対策

会社のお金を持ち逃げされないためには、どのような対策が有効的でしょうか。

小口現金の取り扱いをしない

会社のお金の持ち逃げを防ぐための方法として、小口現金の取り扱いをしないことが挙げられます。

小口現金は持ち出しやすい上に、レジのお金のように目立つ場所にあるわけではないので、隠れて持ち逃げをしやすい状態にあるといえます。

経理担当者などこれを預かっている人であればもちろん、預かっているわけではなくても小口現金の管理場所を知っているような場合には、容易に持ち出しやすいです。

小口現金の取り扱いをせずに、一律経費精算とすることを検討しましょう。

小口現金のチェックの頻度を高める

どうしても小口現金の取り扱いをしなければならない場合には、小口現金のチェックを頻繁に行いましょう。

小口現金の利用についてのルールをしっかり定めて、小口現金の帳簿上の残高と、現実に管理している現金が一致しているかのチェックを定期的に行いましょう。

すでにチェックをしている場合には、その頻度を高めることで、不正をしづらくするようにしましょう。

出金のためのシステムを見直す

お金を出金するためのシステムを見直しましょう。

よくあるシステムとしては、お金の出金には金額の多寡を問わず出金伝票を作成・発行するようにして、管理者の承認を得るようにしましょう。

これは、先方から送られてきた請求書を経理担当者に渡して精算してもらう方法を採っている会社もありますが、このような方法では架空の請求書を作成して金銭を横領することができてしまいます。

そのため、出金伝票を作成した上で、上席が承認するという方法で出金するように改めましょう。

出金伝票には、

  • 日付
  • 支払先の氏名・名称
  • 勘定科目
  • 摘要
  • 金額
  • 承認欄

などをテンプレートで作成しておいて、会社で統一して利用しましょう。

なお、出金伝票は領収書・レシート同様に7年の保存義務があるので注意しましょう。

預金を下ろす・振り込みを一人で行わせない

預金を下ろしたり、振り込みをする作業を一人で行わせないようにしましょう。

例えば、

  • 預金通帳と銀行印を別々の人が管理する
  • ネットバンキングを管理している人と送金のためのカードやパスワード管理を別々に行う

などが挙げられます。

経理担当者によるお金の持ち逃げは、現金を一人で下ろせる・一人で振り込みができることで容易になります。

そのため、預金を下ろす・振り込みをするのを一人でさせないで、他人の関与を必ずさせるようにしましょう。

身元保証人を設定してもらう

労働契約において身元保証人を設定してもらうことを徹底しましょう。

会社に損害を与えたときに、身元保証人に損害賠償を請求することができ、このような保証人を設定してもらっておくことは、会社のお金の持ち逃げ防止にも繋がります。

なお、雇用条件として身元保証人を設定することを条件に雇用することは適法で、雇用後に身元保証人を設定しなかったことから「労働者の責に帰すべき事由(労働基準法20条1項)」として解雇することも認められています(東京地裁平成11年12月16日判決:シティズ事件)。

どうしても身元保証人を用意できないような場合には、保証人代行サービスを利用してもらうことも検討しましょう。

懲戒解雇のための就業規定を確認・整備する

懲戒解雇のための就業規定に不備は無いか確認を行い、不備がある場合にはきちんと整備しましょう。

従業員が会社のお金を持ち逃げするようなことがあっても、会社に解雇・懲戒解雇に関する規定がなければ、解雇ができなくなってしまいます。

テンプレートなどを参考にしているような場合には、通常は解雇に関する基本的な規定が盛り込まれていますが、念のため就業規則を確認し、自社の事情に即した整備が必要がないかをきちんと確認するようにしましょう。

従業員によるお金の持ち逃げを相談するなら

従業員によるお金の持ち逃げについては、どのような人に相談すれば良いのでしょうか。

弁護士

従業員によるお金の持ち逃げについては、被害届の提出・刑事告訴や民事上の請求、懲戒解雇などの法的問題による解決をする必要があります。

また、従業員のお金の持ち逃げの証拠としてどのようなものを確保するのか、現在確保できている証拠が十分なのかを把握する必要もあります。

そのため、弁護士に相談することは不可欠であるといえるでしょう。

従業員によるお金の持ち逃げ防止のための社内規定の整備などの相談をしたい場合にも、弁護士に相談すべきでしょう。

警察

従業員によるお金の持ち逃げを刑事事件として取り扱ってもらうためには、警察への相談も必要となります。

被害届の提出や刑事告訴を行うのも警察に対して行うことになるのですが、証拠が少ない場合には刑事事件化には慎重になることが考えられます。

警察への相談は、弁護士に相談しながら行うようにしましょう。

探偵・調査会社

お金を持ち逃げした従業員が行方不明になっているような場合には、居所を探す必要があります。

そのために、探偵・調査会社に相談するようにしましょう。

ただ、仮に行方不明になっている場合でも、身元保証人が居て損失を補填できるような場合には、あえて持ち逃げした本人を探す必要はありません。

探偵・調査会社が必要かは、弁護士に相談してみましょう。

まとめ

このページでは、従業員によるお金の持ち逃げについてお伝えしました。

従業員によってお金を持ち逃げをされた場合には、民事・刑事に関する問題に対応する必要があります。

お金の持ち逃げのおそれが強いような場合には、弁護士に相談することも多くなりますので、弁護士保険への加入もリスクコントロールの観点から検討してみてください。

弁護士

木下慎也 弁護士

大阪弁護士会所属
弁護士法人ONE 代表弁護士
大阪市北区梅田1丁目1-3 大阪駅前第3ビル12階
06-4797-0905

弁護士として依頼者と十分に協議をしたうえで、可能な限り各人の希望、社会的立場、その依頼者らしい生き方などをしっかりと反映した柔軟な解決を図ることを心掛けている。

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