内部通報制度とは?企業が導入・運営するための必要事項を徹底解説

「内部通報」というと、企業にとってマイナスな影響を及ぼすイメージを持つ方も少なくないものでしょう。

しかし実際には、内部通報制度は、企業にとって自浄作用を高めたり、コンプライアンス経営を推進したりといった重要な役割を果たす制度です。

令和4年6月1日からは、改正公益通報者保護法が施行され、企業はこれまで以上に内部通報制度への適切な対応が求められることになりました。

本記事では、「企業が知っておきたい内部通報制度」として、法改正された内容も含めてメリットなどを徹底解説していきます。

目次

内部通報制度とは?

内部通報制度って何?

内部通報制度とは、公益通報制度のうち、企業内部における通報対応の仕組みのことをいいます。

公益通報者保護法では、労働者が企業などで通報の対象となる事実が生じていることなどを所定の通報先に通報することを「公益通報」として保護の対象にしています。

所定の通報先には、企業内、監督官庁などの行政機関、報道機関や消費者団体等の外部機関の3つが該当しますが、内部通報制度は、「企業内」が通報先になる場合の制度といえます。

内部通報と内部告発の違い

内部通報と混同されやすい言葉として、内部告発があります。

内部告発は、企業の内部者が外部に対して、企業の法令違反行為などを明らかにすることをいいます。

一方、内部通報は、企業の内部者が企業の法令違反行為などを明らかにしますが、通報先が企業になる点で内部告発と異なります。

内部通報制度は何のためにある?

内部通報制度は、企業にとって自浄作用を高めたりコンプライアンス経営を推進したりするために重要な制度といわれています。

内部通報制度を整備することによって、企業は、企業内部の通報の受付窓口において、早期に法令などに違反する行為を発見しやすくなります。

そして、違反行為を自社で早期に是正できることによって、最小限の損害に抑えながら、自浄作用を働かせることができます。

また、内部通報制度が機能すれば、法令違反行為の再発防止につながる仕組みの整備が進み、さらなる違反行為を未然に防ぐことにもつながり、コンプライアンス経営が推進されることになります。

内部通報制度を導入するメリットとは?

企業が内部通報制度を導入すると、主に次のようなメリットを享受できる可能性があります。

不祥事や不正の早期発見・早期対処が可能になる

内部通報制度を導入した場合、企業の一部で行われている法令等違反行為についても、早期発見が可能になります。

内部通報制度が適切に機能していれば、通報によって適切な早期対処が可能になるため、消費者などへの被害や企業の損失を最小限にとどめることにつながります。

また、内部通報は企業内が通報先になるものなので、外部に内部告発なされたときよりも、企業が主体となって適切な対応がしやすいというメリットもあります。

企業内の違反行為の抑止力になる

内部通報制度が導入されていれば、企業内で法令違反行為をすれば、内部通報されるリスクを従業員それぞれが感じながら業務を行うことになります。

そのため、企業内で内部通報の対象になるような行為について抑止力が働き、不祥事や不正の予防にもつながります。

企業価値の向上や持続的発展につながる

内部通報制度が導入され、適切な運用が行われたときには、組織の自浄作用が向上することになります。

また、コンプライアンス経営の推進にもつながるので、消費者や取引先、従業員、株主、地域住民などからの信頼を得られることになるでしょう。

そのため、結果として、企業価値の向上や持続的発展につながるというメリットを享受できる可能性があります。

内部通報制度(公益通報制度)の対象事実とは?

公益通報者保護法は、通報対象事実である法令違反行為が行われた(まさに違反行為が行われようとしている場合も含む)旨の通報について、公益通報として保護の対象にしています。

改正前の公益通報者保護法では、法律で規定している犯罪行為や最終的に刑事罰につながる行為を対象としていました。

具体的には、刑法や食品衛生法、金融商品取引法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律などの約480もの法令が通報の対象として含まれています(令和4年5月1日時点)。

しかし、自動車メーカーの無資格者による完成検査などが社会問題となったことなどを受けて、改正法では、これらの行為のほかに過料の制裁の対象となる行為についても追加されることになりました。

企業における内部通報等の実例

公益通報者保護法にもとづいて、大企業の多くが内部通報制度を導入するなかで、企業の不祥事とともに内部通報の問題点が明らかになる事件が相次いで発生しました。

企業と8年間闘争を強いられた事例

機密情報をもつ取引先の人物を引き抜こうとしている上司の行為について内部通報した従業員が、企業から報復的な配置転換や制裁的な人事評価を受ける。

従業員は、企業に対して配置転換の無効と損害賠償を求める訴訟を起こし、最終的には、従業員の請求が認められることにはなりましたが、8年という長い歳月が裁判に費やされることになりました。

内部通報が発端となったパワハラの事例

複数の人物が特定の対象者の内規違反について内部通報したが、同社にいる対象者の親が権力を背景に「つぶす」などと脅し、内部通報者が降格やうつ病による休職などに追い込まれた。

内部通報の対象者の親の権力に影響を受けて辞任を迫ったり脅したりした7人は、停職などの懲戒処分を受けることになりました。

また、内部通報の対象者の親は、強要未遂容疑で書類送検され、民事でも損害賠償請求の訴訟が提起されるなどの事態になりました。

これまでの内部通報制度の問題点は?

改正前の公益通報者保護法では、実例でもご紹介したように、内部通報者が特定され不利益な取り扱いを受けるなど、内部通報制度の実効性が問題となっていました。

内部通報制度があったとしても、内部通報することによって不利益を被ったり、制度を利用しても改善が見込まれなかったりするのであれば、機能せず制度の意義がありません。

そのため、改正法では、内部通報制度の実効性を高めるために通報者の保護を強化・拡大するための規定が設けられています。

改正公益通報者保護法による企業の対応義務

改正法では、主に次のような点が改正されることになり、企業は対応を義務付けられることになりました。

必要な体制整備の義務化

改正法では、事業者に公益通報に適切に対応するための必要な体制(内部公益通報対応体制)の整備を義務づけています。また、業務への従事者の指定に関しても義務づけています。

これらの義務は、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については、努力義務とされていますが、中小企業を含むすべての事業者が法適用の対象になります。

なお、内部公益通報対応体制整備義務や従事者指定義務に関して必要があると認めるときには、行政から報告徴収・助言・指導・勧告を受ける可能性があります。

勧告に従わない場合には、企業名などが公表されることもあります。

公益通報者に関する守秘義務

公益通報対応業務に関して知り得た事項であって、公益通報者を特定させるものを漏らしてはならないとする守秘義務についても、改正法で規定されました。

従事者または従事者であった者が正当な理由なく守秘義務に違反した場合には、30万円以下の罰金という刑事罰が規定されています。

通報の保護要件・対象事実の緩和

行政機関や外部へも通報しやすくするために保護要件が緩和されたほか、公益通報者の定義と通報対象事実の内容が拡大されました。

公益通報者の定義としては、これまで含まれていなかった役員および退職後1年以内の退職者が新たに追加されました。

また、通報対象事実の内容についても、刑事罰の対象となる行為だけでなく、行政罰の対象となる行為も追加されました。

内部通報制度に関する法務担当者の業務内容

では、実際に内部通報制度における業務内容はどのようなものかをみていきましょう。

企業の規模によって差異はあるかと思いますが、大まかな業務は以下の通りです。

内部通報の受付と対応

従業員から通報があった場合に、担当者は一次受付をします。通報内容の詳細を確認し、担当部署や関係者をつなぐ役目となります。

通報対象事実の調査

通報者からの内容が事実なのかを調査します。

関係部署や関係者への聞き取りや現場検証が主な方法となります。問題点の洗い出しの際、法的観点からサポートを行う役割を担います。

是正措置や再発防止策の検討・実施

通報内容の事実が確認できた場合、是正措置と再発防止のための対策を行うことが最重要事項となります。

是正措置として、違反行為者に対しては懲戒処分や役員の解任を行います

この際、不当な処分にならないよう法的観点から懲戒処分・解任の有効性を検討します。

さらに、再発防止のため第三者委員会の立ち上げや従業員へのコンプライアンス研修等を行い、社内における意識向上の支援も重要な役割といえます。

社内規定の整備や見直し

改正法では、事業者の従事者指定義務と内部公益通報対応体制整備義務を定める11条1項・2項については、必要な指針を定めることと規定しています。

そして、この規定によって定められた「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)」では、「この指針において求められる事項について、内部規程において定め、また、当該規程の定めに従って運用する」としています。

そのため、内部通報制度を導入する際には、企業は、指針で求められている事項について、内部規定に反映することが求められます。

また、内部通報制度の運用状況や適切な運用を保つため、適宜内部規定の整備・見直しを行います。

社外窓口との連携

内部通報先に社外窓口を設置している場合には、社外窓口担当者との連携を取り、社内との連絡役となります。

社外窓口への通報の場合、通報者は「自分が情報源だと絶対にばれたくない」と思っていることが多いため、情報の取り扱いを慎重に行う必要があります。

社内への教育や周知

内部通報対応体制を整備することに加えて、体制の運用者・利用者になる従業員などへの教育・周知が必要になります。

これは、従業員などが内部通報制度についての正しい知識をもっていなければ、制度の実効性を確保することは難しいためです。

具体的には、社員研修を行ったり、内部通報対応体制や通報受付窓口の存在を周知したり、体制の仕組みについても継続して情報提供できるようにしたりすることなどが挙げられます。

内部通報制度の導入時のポイント

内部通報制度を導入する際には、次のようなポイントに注意するとよいでしょう。

独立した通報窓口の設置

内部通報制度を導入する際には、内部通報を受け付ける通報窓口が、各部門から独立したものになるように注意しなければなりません。

なぜなら、企業においては、特定の部門や経営幹部が関与して法令違反行為をする事例もあり、これらの内部通報対象者が通報窓口に影響力を与えて、内部通報が適切に行われないリスクを回避しなければならないためです。

また、独立した通報窓口を設置するとともに、内部通報対応業務を行う部署や責任者を明確に定めて、責任感をもって実効的に業務が行われるようにすることもポイントになります。

通報に対する適切な調査・是正措置

内部通報を受け付けたときは、通報窓口においては、正当な理由がある場合を除いて、必要な調査が行われるようにしなければなりません。

そして、調査の結果、法令違反行為が明らかになった場合には、速やかに是正に必要な措置を取るようにすることも重要なポイントです。

また、是正措置後にも、適切に守られているかどうかを確認し、守られていなければ再度是正措置をとる必要があります。

通報者への不利益な取り扱いの防止措置

内部通報制度においては、内部通報を受けたあとの実効性の確保もポイントになります。

内部通報制度を導入しても、内部通報者に不利益な取り扱いがなされるおそれがあれば、内部通報体制を整備しても、その意義は失われてしまいます。

公益通報者保護法では、公益通報者が公益通報をしたことを理由とする不利益な取り扱いを禁止しています。

具体的には、解雇、降格、減給、退職金不支給などのほか、出向、転籍、懲戒処分など様々な行為が含まれています。

企業は、内部通報制度を導入する際には、これらの不利益な取り扱いを禁止するだけでなく、不利益な取り扱いが生じてしまった場合における救済・回復措置などを定めておくとよいでしょう。

たとえば、内部通報後に、内部通報者が不利益な取り扱いを受けていないかを把握するようにし、適切な救済・回復措置をとることを定めておくことが考えられます。

また、不利益な取り扱いを行った者に対して、懲戒処分などの厳正な処分を行うといった内容も定めておくことによって、内部通報対応体制への信頼感を高めることができます。

守秘義務の遵守への取り組み

公益通報者保護法では、公益通報対応業務従事者または従事者であった者は、正当な理由なく、業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものについて守秘義務を負うことを規定しています。

守秘義務に反した場合には、従事者等が30万円以下の罰金が科される可能性があるほか、企業においても体制整備義務を果たしていないと評価され、行政上の措置の対象になる可能性があります。

そのため、企業は、守秘義務を遵守するための取り組みとして、内部規定やマニュアルなどの整備や従業員教育、内部監査部門や社外の専門家による確認などの取り組みを行うなどの対応が必要になります。

内部通報制度の認証制度とは

内部通報制度の認証制度とは、2018年に消費者庁が創設した、内部通報制度を適切に整備・運用している事業者を高く評価する制度です。

認証制度は大きく分けて2つの制度があります。

自己適合宣言制度事業者自らが認証基準に照らして自身の内部通報制度を審査(自己審査)し、事業者から申請を受けた指定登録機関が事業者の確認の結果を登録する
第三者認証制度中立公正な第三者機関が事業者の内部通報制度を審査・認証する

どちらも以下の3つを目的としています。

  • 内部通報制度の適切な整備・運用を促進すること
  • 内部通報制度に対する信頼性・透明性を高めること
  • 内部通報制度の活用を促進すること

認証の基準は、

  • 内部通報制度の目的と役割
  • 通報の対象
  • 通報の窓口
  • 通報の秘密保持
  • 通報への対応

の5つで構成されており、認証されている企業の従業員はもちろん、株主や消費者からの信頼感や企業ブランドの向上を得られるメリットがあります。

なお、2020年6月に施行された改正公益通報者保護法との兼ね合いにより、内部通報制度認証(自己適合宣言登録制度)を見直す態勢に入り、2023年11月現在休止となっています。

内部通報制度を弁護士に相談するメリットとは?

内部通報制度の導入に関しては、弁護士に相談することがおすすめです。

弁護士に相談した場合のメリットとしては、次のようなものが挙げられます。。

適切な法的アドバイスが受けられる

内部通報対応体制を整備して実効性のある仕組みをつくるためには、公益通報者保護法などの法律や指針などの知識・理解が必要不可欠になります。

ところが、様々な業務を担当する中で、これらの専門的な知識・理解を正確に得ることは、そう簡単ではありません。

しかし、弁護士に相談した場合には、的確な法的アドバイスを受けることができるので、確実に実効性のある制度を導入・運用できる可能性が高くなります。

社外窓口として機能できる

内部通報制度を導入している企業では、社内だけでなく社外にも内部通報窓口を設置しているケースも少なくありません。

社外窓口は、内部通報についての客観的で中立的な対応が期待できるほか、内部通報者の匿名性を確保しやすいといった利点があります。

内部通報制度の社外窓口として機能することが可能であり、そういった面からも内部通報制度の導入について弁護士に相談することはメリットになります。

トラブルへの迅速な法的対処が可能になる

内部通報制度によって法令違反行為などを発見した場合に、従業員などとトラブルになったり法的な対処が必要になったりすることもあります。

そういったトラブルの解決に向けた交渉や法的対処については、弁護士の専門分野といえるので、弁護士に相談しておけば迅速な対応につながり、事態を早期に収拾できる可能性が高くなります。

まとめ

本記事では、「企業が知っておきたい内部通報制度」として、改正された内容も含めて解説していきました。

公益通報者保護法の対象はすべての企業であり、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者であっても、内部通報対応体制を整備する努力義務があります。

しかし実効性のない内部通報対応体制を整備しても、その意義は失われてしまいます。

そのため、新たに内部通報制度を設ける際には、弁護士などの法律の専門家に相談しながら進めていくことがおすすめになります。

弁護士
東拓治弁護士

東 拓治 弁護士
 
福岡県弁護士会所属
あずま綜合法律事務所
福岡県福岡市中央区赤坂1丁目16番13号上ノ橋ビル3階
電話 092-711-1822

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