経歴詐称は懲戒解雇の対象となる?事例・対処方法を紹介

会社の事業拡大のために人員を増やすことは、会社の今後の業績アップのためにはとても大切なことですよね。

それも、役員待遇で即戦力として迎えるとなると、それなりに給料も支払うことになるので責任重大です。

ところが、実際の働きぶりが期待していたものと違う、前職の経歴を信じて採用したにもかかわらずその前職で実際に働いていた部署が、どうやらこちらが聞いていたものと違っていた。

必要なスキルが全く伴っていない。さらには、聞いていた大学もどうやら偽りだった。

こんなことが実際に起こったらどうしますか?

「経歴詐称として解雇したい。」そう思いますよね?

今回の記事はそんな時どう対処すればいいのか?事例とともに、紹介していきたいと思います。

目次

経歴詐称とは何か?

どこからが経歴の詐称に当たりますか?
すべて本当のことを伝えなければなりませんか?

弁護士

経歴詐称とは、自分の経歴や能力・資格等に関して意図的に偽り、事実とは異なる情報を提示することを指します。

つまり、実際よりも自分を良く見せるために嘘の情報を相手に提供する行為です。

詐称している部分によって以下のように名称が変わります。

  • 学歴詐称
    就職活動やキャリアアップのために、実際に卒業していない学校名を履歴書に記載した場合
  • 経歴詐称
    前職の企業名や所属部署・業務内容・実績などを偽った場合
  • 犯罪歴詐称
    犯罪歴を隠したり、偽ったりした場合

懲戒処分が有効と認められるための要件

少しでも嘘をついたらすぐに解雇となってしまうのでしょうか?

弁護士

懲戒処分が有効と認められるには、以下4つの要件が必要です。

  • 就業規則に懲戒事由が明記されていること
    従業員が守るべき就業規則や雇用契約書に、懲戒処分に関することが明記されていること
  • 事実の確認をすること
    推測や疑念ではなく、懲戒事由に該当する客観的で合理的な理由があることが証拠により認められること(労働契約法第15条)
  • 懲戒処分の種類・量定が社会通念上相当であること
    重すぎる懲戒処分は無効となる。懲戒処分の種類や量刑が処分事由相当であることが必要
  • 懲戒処分の適正手続を経ていること
    就業規則に基づいて公正かつ公平なプロセスを経ること(弁明の機会の付与が必要)

経歴詐称が懲戒解雇の対象となる理由

少しでも自分をよく見せようとしただけなのに…。
経歴詐称はそんなに悪いことでしょうか?

弁護士

経歴詐称は、基本的に犯罪には当たりませんが、場合によっては詐欺罪や私文書偽造罪に該当することもありますよ。

「経歴の詐称が事前にわかっていれば会社はその従業員を採用しなかった。」ということが1つ大きな理由にあげられます。

また、経歴詐称は会社にとって深刻な問題を引き起こす可能性があり、会社の信頼性と整合性を守るために必要な措置だということです。

以下が、懲戒解雇の理由にあげられます。

信頼性と誠実性の欠如

従業員が自身の資格、経験、スキルなどを偽る行為は雇用関係の信頼を揺るがします。

信頼できない従業員は、組織内の他のメンバーや顧客との信頼関係を損なう危険性が大きいです。

契約違反

雇用契約や就業規則は、誠実さと正直さが従業員に要求されます。

経歴詐称はこれらの基本的な義務に違反する行為と見なされ、契約違反の理由として懲戒解雇を正当化することができます。

職務遂行能力への疑問

従業員が自らの能力を過大評価している可能性があり、従業員がその職務を適切に遂行できない可能性があます。

職場での生産性低下や他の従業員への負担増加、さらには重大な過ちを犯す可能性があります。

会社の評判・安全性への潜在的なリスク

特定の職種、特に高度な専門知識や技術を要する職種の場合、経歴詐称によって会社の信頼が失われる恐れがあり、顧客等への安全が危険にさらされる可能性があります。

企業に重大な影響を与える経歴の詐称に該当するもの

本当にしてはいけない経歴詐称はどんなものでしょうか?

弁護士

例えば、その事業(職務)が企業運営や顧客の安全に直結する場合には、企業に重大な影響を与える経歴詐称に該当します。

以下が、企業に重大な影響を与える経歴詐称に該当するものになります。

  • 専門資格や免許の偽造
  • 学歴の詐称
  • 職務経歴捏造
  • 業績の誇張
  • 技術や言語スキルの詐称

学歴詐称による懲戒解雇が有効・無効とされる事例

懲戒解雇が有効な場合も無効な場合も、最終的な判断は具体的なケースの事実関係や適用される法律、そして企業が従業員に対して設けた規則や手続きによって大きく異なります。

そのため、弁護士等に具体的な法的アドバイスを求めることがとても重要になってきます。

懲戒解雇が有効とされる事例

重要な職務に直接関係する学歴の詐称

職務を遂行する上で必須事項の学位や専門知識を有することが採用決定基準だった場合

明らかな詐称の証拠

従業員が提出した学歴証明書が偽造又は、虚偽の情報が意図的に提供されたことが明白な場合

企業の評判や業務遂行への重大な影響

学歴詐称が公になり企業の信頼性や評判に損害を与える可能性がある場合、又は従業員の資格詐称が業務遂行に重大な問題を引き起こす可能性がある場合

懲戒解雇が無効とされる事例

職務遂行に必須ではない場合

従業員が詐称した学歴が職務の遂行に直接影響しない、または該当する職務に必要なスキルや知識を従業員が実際に有している場合

解雇手続きの違法性または不適切性

解雇にいたるまで、A~Cの項目が当てはまるもの

  1. 労働法や社内規定に沿っていない
  2. 適正な手続きが踏まれていない
  3. 従業員に対して十分な説明や反論の機会が提供されていない場合

比例原則の欠如

従業員の詐称の内容が比較的軽微で、実際の業務遂行に影響がない、または従業員が特別な技能を持っていてその技能が業務に直接貢献している場合など、即時解雇が妥当な判断か問われることも。

※比例原則の欠如とは・・・懲戒事由の重さに比例して懲戒処分が重くなること

職歴詐称による懲戒解雇が有効・無効とされる事例

職歴詐称による懲戒解雇が有効とされる場合

職務遂行に必須の資格を有していない場合

医師や弁護士等、特定の技術資格が必要な職種で、その該当する資格や免許を取得していると詐称していた場合

経験やスキルを大幅に誇張して申告しその結果として重要な職務を遂行できない場合

職務遂行に直接影響する重要なスキルや経験を偽り、その実力不足が業務に深刻な支障をきたす場合

詐称が企業の信頼性や評判に影響を与える場合

従業員の職歴詐称が公になることで企業の信頼性や市場における評判に重大な損害を与える場合

職歴詐称による懲戒解雇が無効とされる場合

詐称が職務遂行能力に全く影響しない場合

実際に経験がないにもかかわらず「1年間営業職の経験あり」と履歴書に記載されていたが、入社後高い営業成績を収めている場合など

詐称を行った従業員の担当作業の質や能力には影響しない場合

実際に経験がないにもかかわらず「1年間事務職の経験あり」と履歴書に記載されていたが、事務能力が重視されていない営業職で採用された場合など

適切な調査を行わずに採用した場合

就職面接時に虚偽の職歴を話されていたが、会社(企業)側が十分な確認・調査を行わず採用してしまった場合など

犯罪歴詐称の事例

弁護士

犯罪歴詐称については、先の2つの詐称よりも厳しい処罰となる可能性が高くなります。

金融機関の従業員

銀行や投資会社など金融機関では、一般的に従業員の調査が厳しく行われることが少なくありません。

もし従業員が犯罪歴(特に詐欺や横領などの金融犯罪)を詐称していたことが発覚した場合、信頼性の問題から直ちに解雇される可能性が高いです。

保育士や教師

子供たちと日常的に接する職業では、犯罪歴(特に性犯罪や暴力犯罪)を隠して雇用されたことが後に発覚した場合、子供たちの安全を守るために即座に解雇対象となる可能性が高いです。

公的機関の職員

公務員や警察官など、公的な職務を担う人物が犯罪歴を詐称していたことが判明した場合、公共の信頼を損なうため、厳しい処分が下される可能性があります。

前職における懲戒処分歴詐称の事例

信頼を要する職務での詐称

金融業界・公共サービス・教育機関など、高い倫理基準や信頼性が求められる職種で、過去の懲戒処分歴を隠していた場合。

特に懲戒の理由が、金銭的な不正や職務上の重大な違反に関連していた場合、その詐称は重大な信頼の損失のため、懲戒解雇の正当な理由になる

安全に直結する職務での詐称

建設業・製造業・運輸業など安全が最優先される職種で、安全に関する過去の違反や懲戒処分を隠した場合。

従業員の安全意識やコンプライアンスの観点から重要な情報を隠していたといえるため、詐称が発覚した場合には解雇の根拠となる

職務遂行能力に影響を及ぼす懲戒処分の詐称

懲戒処分を受けた理由が詐欺行為・不正行為または職場での不適切な行動に関連する場合。

特に人間関係のトラブルや対人関係に起因する懲戒処分の詐称は、直接その人の信頼性と誠実さに疑問を持つことにつながり、懲戒解雇の正当な理由になり得る。

リーダーシップと管理能力への影響

現職で管理職やリーダーとして職務についていて、前職での懲戒処分の理由が職務上の不適切な判断や倫理的な問題であった場合、管理能力やリーダーであることへの信頼を失う可能性がある。

反社会的勢力への所属歴の詐称は懲戒解雇になる?

例えば、反社会的勢力と付き合いがあることを隠していた場合にはどうなりますか?

弁護士

程度によって、懲戒解雇できるかできないかが変わります。

服務規程や採用時の誓約書などに「反社会的勢力との関係を有していない」と明記されていて、従業員がサインをしている場合には、懲戒解雇ができる可能性が高いです。

ただし、反社会勢力とどの程度のかかわりがあったのか?その程度によっては解雇できない可能性もありますので、弁護士などの専門家に確認をすることをおすすめします。

注意点

懲戒処分を言い渡した従業員を社内公表する制度を設けている場合、社内公表をする目的は、他の社員に対しても問題行動があれば処分することを示し、社内の規律意識を高めることにあるのではないでしょうか。

しかし、公表する方法や内容によっては、名誉棄損に当たるとして、懲戒処分を受けた従業員が会社に対して損害賠償請求をするリスクもありますので注意が必要です。

【主な注意点】

  • 客観的な「事実・懲戒処分内容のみ」を公表するようにする
  • セクハラ、パワハラなどを理由とする懲戒処分の場合には、被害を受けた社員のプライバシーに配慮する

病歴詐称で懲戒解雇はできる?

病歴を隠し入社し、その病気が理由で仕事ができない状態であれば、経歴詐称として懲戒解雇ができる可能性はあります。

反対に、病歴を隠して入社をしても、従事する仕事に支障が出ていない場合には解雇をすることは難しいでしょう。

【主な注意点】

・病歴はデリケートな情報であり、会社が調査しない限りは入社前に知ることは難しい

・精神病などの一部の病気は目に見えず見つけることは困難

・入社前に健康診断書の提出、または最終面接段階で提出してもらうなど、健康状態をしっかりとチェックする

経歴詐称にあたる履歴書とは

履歴書に虚偽内容を書くことは、いわゆる経歴詐称に該当します。

弁護士

経験がないことを「ある」と記載することだけではなく、経験が「あった」ことを申告しないことも経歴詐称に含まれます。

経歴詐称にあたる主な項目

  • 学歴・職歴の有無や在籍期間
    入学・卒業の時期をずらして書いたり、短い期間の職歴をわざと書かなかったりすることは経歴詐称に当たります。
  • 業務内容や職位の詐称
    部署で行っていた業務でも実際に自分が担当したことのない業務を「経験あり」と書いたり、部下の人数を水増ししたりなども経歴詐称に当たります。
  • 資格の有無
    実際に持っていない資格を「持っている」と書くことはもちろん、資格テストの点数を水増しすることも経歴詐称に当たります。
  • 犯罪歴、病歴、年収、転職回A
    犯罪歴や病歴・転職理由については、詳細まで書く必要はありません。しかし短期間で転職した会社を合算して1社としたり、犯罪歴をまとめて1件としたり等は経歴詐称に当たります。

履歴書の「賞罰欄」の「罰」について

履歴書における「賞罰」とは、「受賞歴」と「犯罪歴」のことです。

公的な受賞歴を履歴書に記載することで、これまでの自身の実績を企業にアピールすることができます。

一方の「罰」とは、「懲役刑」や「罰金刑」といった刑法犯罪の有罪歴を示しています。

弁護士

つまり、「罰」とは、犯罪歴があったかどうかを企業に伝えるためのものとなります。

こういった経歴は、履歴書に賞罰欄がなければ書く義務はありません。

ただし、履歴書に賞罰欄があったり、面接で賞罰について質問されたりした場合には告知義務が発生します。

経歴詐称を理由に懲戒解雇する場合の流れ

経歴詐称した従業員を実際に解雇するには、どのような流れになりますか?

弁護士

基本的には4つのステップを踏むことになります。

経歴詐称を理由に従業員を懲戒解雇する場合、会社側は慎重に法律に従った手順を踏む必要があります。

その流れを確認していきましょう。

事実関係の確認

証拠収集

経歴詐称の疑いが持ち上がった場合、まず企業は具体的な証拠や情報を収集する必要があります。

履歴書や職務経歴書など、応募者が提出したその他の文書、および第三者からの情報(例:学歴や資格の有無)を確認しましょう。

対象者へのヒアリング

説明の機会

実関係を確認した後、会社側は従業員に対して経歴詐称の疑いについて説明をするための公平な場を設ける必要があります。

法律や就業規則の確認

法的要件の確認

経歴詐称が懲戒解雇の正当な理由となるかどうかは、該当する労働法や企業の就業規則、労働契約の内容によって変わります。

経歴詐称が法的な要件に沿っているかを改めて確認しましょう。

懲戒解雇の決定

決定の通知

会社側が懲戒解雇を決定した場合、その決定を従業員に通知します。

この通知には、解雇の理由、解雇の日付、従業員が異議を唱える手続き(該当する場合)を明記する必要があります。

(従業員側)異議申し立ての手続き

異議申し立て

従業員が懲戒解雇の決定に異議がある場合、会社側はその申し立てを受け、必要な対応をしていきます。

法的リスクの備え

専門家の意見を求める

懲戒解雇は訴訟や労働紛争のリスクを伴うため、弁護士などの専門家と連携し、解雇にいたるまでの過程を確認しましょう。

経歴詐称を理由に従業員を懲戒解雇する場合、適切な手続きを踏むことは法的な問題を避けるだけではなく、企業の評判やイメージを守る上で極めて重要なことです。

解雇予告のルールについて

いざ解雇を言い渡す際に決まりはあるのでしょうか?手順を追って見ていきましょう。

まず、就業規則に解雇事由を記載しておかなければなりません。

次に、会社側にとって正当な理由があっても解雇を行う際には、少なくとも30日前に「解雇の予告」をする必要があります。(労働基準法第20条1項)

解雇の予告を行わない場合には、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりませんので注意が必要です。

また、労働基準法による解雇のルールは、大きく分けて以下の4つです。

<労働基準法>

業務上災害のため療養中の期間とその後の30日間の解雇

産前産後の休業期間とその後の30日間の解雇

労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇

<労働組合法>

労働組合の組合員であることなどを理由とする解雇

<男女雇用機会均等法>

労働者の性別を理由とする解雇

女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことなどを理由とする解雇

<育児・介護休業法>

労働者が育児・介護休業などを申し出たこと、又は育児・介護休業などをしたことを理由とする解雇

従業員がこの4つのルールに該当する場合、解雇することは禁止されています。

補足:上記の解雇予告や解雇予告手当の例外
①「a労働者の責めに帰すべき事由」もしくは「b天災等やむを得ない事由で事業の継続が困難な場合」であり、② 労働基準監督署の解雇予告除外認定を受けた場合。
この①②を満たすと上記の解雇予告や解雇予告手当の支払いなしに即時解雇することができます。

派遣社員が経歴詐称していた際の対応

派遣社員の経歴詐称が発覚した場合は、まず派遣元に連絡します。

詐称の事実があったのかどうかを派遣元から派遣社員へ確認してもらい、経歴詐称があった場合には残念ですが実際に必要な経歴を持っている(会社が求めている)人材を改めて派遣するように派遣会社へ要請しましょう。

有期雇用である派遣社員は、契約期間の途中でクビ(契約終了)にすることは原則できません。

しかし、重大な経歴詐称が発覚した場合には、即日解雇(契約解除)をすることが可能です。

不当解雇や解雇権の乱用とされてしまうことを避けるため、派遣会社と連携を取りつつしっかりと事実確認をしたうえで処分の判断をしましょう。

まとめ

懲戒処分を行う場合、各手続で注意すべきことがたくさんありますが、各手続を適正に行うことでその後の社員とのもめ事を避けるメリットがあります。

その第一歩として、まずは就業規則を綿密に作ることをおすすめします。

本人への事実確認や法的手続きなど、専門的知識が必要になってきます。

是非専門的な知識のある専門家(弁護士等)に相談をしながら、なるべく速やかに手続きが進行していくことの手助けにこの記事がなれたなら幸いです。

弁護士
東拓治弁護士

東 拓治 弁護士
 
福岡県弁護士会所属
あずま綜合法律事務所
福岡県福岡市中央区赤坂1丁目16番13号上ノ橋ビル3階
電話 092-711-1822

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