契約は口頭でも成立しますが、企業が顧客や取引先などと契約する場合には、特に契約書となる「書面」を作成して残しておく必要性が高くなります。
ところが、正式に契約書が作成された後でも、契約の条件や内容に変更が生じることも少なくありません。
その際には、不動産業界などでは「契約書をまき直す」などといった表現が使われることがあります。
「契約書のまき直し」とは、いったいどのようなことを意味するのでしょうか?
本記事では、契約書のまき直しのほかに、企業法務における契約変更や契約終了、契約におけるトラブルへの対処法も含めて解説していきます。
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契約書のまき直しとは
契約書で定めている内容に変更が生じた場合に、契約書を差し替え破棄して新たな契約書を作成して再締結したり、契約書を破棄することなく変更点のみを覚書などで変更したりすることをいいます。
契約内容の大部分が見直されるような場合を除いて、すでに作成された契約書について「覚書(おぼえがき)」などで変更する方法が広く利用されています。
なお、覚書は、法的拘束力がない旨を記載していない限り、契約書と同様の効力を持つ文書です。
覚書のほかに「念書」「変更契約書」などという文言で表現されることもありますが、文言は違っても実務的には同じものとして捉えておいてよいでしょう。
ちなみに、覚書などで変更する場合には、すでに作成された契約書は「原契約書」と呼ばれます。
覚書で契約書をまき直す方法
では、原契約書の内容について、覚書を作成してまき直す方法をみていきましょう。
変更内容や変更箇所を確認する
原契約書に記載されている内容や契約条件に変更が生じたときには、まず、契約の相手方と変更内容と変更箇所を確認する必要があります。
契約をまき直す前提として、契約当事者双方が共通の認識のもとで変更に合意していなければならないためです。
なお、原契約において、変更に関して条件が定められているときには、その定めに従って変更手続きを進めていきます。
覚書で出来るかを検討して作成する
契約書の内容を変更するにあたって、変更内容が原契約書の大部分に及んでいたり、重要事項であったりするときには、新たな契約書を作成して旧契約書を差し替え破棄する必要があるといえるでしょう。
また、軽微な変更であっても、何度も覚書で変更されており、変更内容が分かりにくくなっていたりするときには、覚書でなく新たな契約書を作成することも視野に入れて検討する必要があります。
その上で、覚書で契約書を変更することにした場合には、後からトラブルにならないように明確に変更内容を記載して作成し、当事者双方がそれぞれ保管しておくようにします。
新旧対照表を作成する
変更箇所を明らかにするためにも、必要に応じて新旧対照表を作成して、変更前と変更後の規定をわかるようにしておくこともおすすめです。
変更箇所には下線をひいておき、一目で変更箇所が分かるようにしておくとよいでしょう。
収入印紙を貼付の有無を確認する
覚書の内容に「重要な事項」についての変更が含まれている場合には、印紙税の課税対象となる文書となり、収入印紙の貼付が必要になります。
たとえば、工事請負契約書で定めた内容について、工事代金の支払方法を覚書で変更する場合には、重要な事項についての変更にあたり、覚書に収入印紙の貼付が必要です。
どのような事項が重要な事項にあたるのかは、国税庁のホームページなどで確認することができます。
契約書のまき直しに関するポイント
契約書のまき直しについてのポイントを確認していきましょう。
契約内容の変更に関するポイント
2020年4月1日には改正民法が施行され、瑕疵担保責任※1が契約不適合責任に変わるなど法改正にともなって契約内容を変更する必要性が生じることもあります。
そのため、契約内容を変更する場合には、法改正にも対応した内容になるよう注意しなければなりません。
また、変更内容については明確に定め、当事者双方が合意の上で変更することが後日のトラブルを防ぐための重要なポイントになります。
※1瑕疵担保責任とは、傷物(欠陥品)を売ったり作ったりしたときに負うことになる責任
新たに契約書を作成する際のポイント
すでにある契約書の内容について大幅に見直すなどの事情によって、新たな契約書を作成し直す場合には、すでにある契約書について失効させなければなりません。
もし失効させなかった場合には、二重に矛盾した内容が記載されている契約書が存在してしまうことになります。
そうなれば、企業内でうまく引継ぎがなされなかった場合には、どちらの契約書によるべきものが判断できず、トラブルになるリスクがあります。
そのため、新たに契約書を作成する際には、すでにある契約書を明確に失効させることが重要なポイントになります。
覚書を交わす際のポイント
契約書が文書で作成されている場合には、契約内容の変更があれば、原契約書はそのまま残し、覚書・変更契約書などによって変更するケースも少なくないでしょう。
その際には、どの原契約書に対する変更であるのか分かるように、原契約を明確に特定することがポイントになります。
また、書面が「覚書」「念書」などの名称である場合でも、契約書と同じ効力がある重要な書面であることを認識しておくことも大切です。
契約終了の方法とポイント
ここからは、契約の変更ではなく、契約を終了する場合の方法とポイントをみていきます。
契約書の条項を確認する
契約終了を検討する場合には、相手方と締結した契約書において、契約終了に関してどのような定めをしているかを確認する必要があります。
契約期間や違約金などの定めのほか、原状回復義務や秘密保持義務、競業避止義務※などの契約終了後も残る債務についても確認しておき、契約終了すべきタイミングであるかどうかを判断するとよいでしょう。
1競業避止義務とは所属する企業の不利益となる競業行為を禁ずるもの
契約終了を相手に伝える
契約の終了を決めた場合には、できるだけ早く相手にその旨を伝えることが重要なポイントです。
契約終了は、相手に不利益や負担を発生させる可能性のある行為です。
そのため、相手への配慮を示すことによって信頼関係を築いておけば、契約終了に伴う問題が発生したときでもスムーズに解決できる可能性が高くなります。
契約を終了する
契約書に、契約期間が定められており、その期間の満了によって契約を終了させる場合には、基本的に特段の手続きは必要ありません。
一方、契約書に自動更新の定めがある場合には、定められている内容に従った解約期間・方法で解約する必要があります。
また、契約は、当事者の合意によって終了させることができるので、契約書に記載されている時期でなくても、相手方との交渉次第では契約終了ができることがあります。
合意によって契約を終了する場合には、後日トラブルになることを防ぐためにも合意内容を記載した合意解約書を作成しておくことがおすすめです。
契約が守られなかった場合の対応方法
相手方が契約の内容を守らない場合には、次のような方法で対処できる可能性があります。
契約内容を確認する
まず、相手方にどのような対応をすべきか判断するためにも、契約書でどのような定めをしているかを確認する必要があります。
相手方が契約を守らなかったときには、最終的には債務不履行による法定解除が可能になりますが、その前提となる相手方への催告などの行為の必要性も確認するとよいでしょう。
また、債権が時効にかかっていないかといった事項についても、ケースに応じて確認する必要があります。
話し合いによる解決を目指す
契約書で契約内容を確認した後は、相手方との話し合いによる解決をめざします。
たとえば、契約で定めた時期に売買代金の支払いがなされなかったような場合には、相手と話し合うことによって、売買代金の一部だけ受領したり支払い期限を延期したりといった柔軟な方法で早期に解決できる可能性があります。
また、契約を債務不履行によって解除する場合には、約束が守られなかったことによって自社に生じた損害についての賠償額などを話し合いで解決できる可能性があります。
内容証明郵便を送付する
電話やメールなどで催告しても相手が応じない場合や、相手との話し合いが上手くいかず後日トラブルになる可能性がある場合などには、相手に内容証明郵便を送付します。
内容証明郵便は、送付した文書の内容や日時が記録される郵便であるため、後日トラブルが深刻化して法的手段で解決する際の重要な証拠書類になります。
また、内容証明郵便が送付された相手は、心理的なプレッシャーを受けるため、話し合いに応じる姿勢を引き出したり早期解決につなげられたりする効果も期待できます。
ADRや裁判所の調停を利用する
ADRとは、訴訟手続によらずに民事上の紛争の解決をしようとする裁判外紛争解決手続のことをいいます。
当事者間での解決が難しい場合には、ADRや裁判所の調停において解決を図ることも一つの方法となります。
ADRや裁判所の調停では、中立的な立場の第三者が入り、当事者双方の主張を聞いて解決策を探るため、当事者間で話し合うよりも冷静に問題解決できる可能性があります。
しかし、あくまでも話し合いによる合意を目指す手続きなので、合意できなければ手続きは終了します。
訴訟・強制執行する
契約が守られない場合に、相手との話し合いによる解決が出来なければ、裁判所の訴訟手続きなどで判決を得て強制執行することが最終的な解決策になります。
裁判所の手続きは、訴訟だけでなく、支払い督促や少額訴訟などの簡易的・迅速に進められる手続きもあるため、ケースに応じてどのような手続きがよいかを判断する必要があります。
また、強制執行には、直接的に相手に履行させる直接執行のほか、支払い義務を与えて心理的なプレッシャーによって履行をうながす間接執行や、第三者に履行させてその費用を相手に請求する代替執行という方法もあります。
トラブルへの対処法
契約書に関するトラブルについては、次のような対処法が考えられます。
公正証書を作成しておく
契約書に関するトラブルについては、あらかじめ契約書を公正証書にしておくことが一つの対処法になります。
公正証書は、公証人が当事者の申立てに基づいて作成する文書であり、強い法的効力がある文書です。
そのため、公正証書で契約をしている場合には、契約の内容について後日トラブルになったときでも、強力な証拠として機能します。
そして、公正証書は公証役場に保管されるため、契約書の紛失などのリスクにも対応できます。
また、最大のメリットといえるのが、公正証書には、速やかに強制執行を可能にする効力がある点です。
通常、契約が守られない場合には、裁判所の判決などを得てから強制執行しなければならず、多大な時間や労力が必要になります。
しかし、公正証書には判決と同じ効力が与えられているため、判決を得なくても強制執行が可能になり、速やかに解決がはかれることになります。
弁護士に相談する
企業間では、日々様々な取引が発生しており、すべての契約書を公正証書にしておくことは、費用や時間もかかり現実的とはいえません。
そのため、企業の契約実務においては、弁護士に相談してトラブルの生じにくい適切な契約書を作成しておき、トラブル発生の際には速やかに対応できる体制を整えておくことが重要だといえます。
弁護士に相談した場合には、契約書に関する法的アドバイスが受けられるほか、トラブル発生時には相手方との交渉を任せることができます。
また、契約が守られない場合には、適切な法的手段を選択することができるので、企業における負担を軽減できることにつながります。
まとめ
本記事では、契約書のまき直しのほか、企業法務における契約変更や契約終了、契約におけるトラブルへの対処法もふくめて解説していきました。
契約に関しては、企業における取引では、特に契約書を作成しておき、企業内の他の社員も確認できるようにしておく必要があります。
また、後日の紛争を防ぐためにも、適切な方法によって契約変更・契約終了を行い、トラブルが発生したときでも速やかに弁護士などに相談しながら解決を図ることが重要になります。
なお、今後の様々なリスクに備えて、弁護士保険へご加入いただくこともオススメします。
東 拓治 弁護士
福岡県弁護士会所属
あずま綜合法律事務所
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