会社運営をする上で、取引先が倒産して債権の回収ができなくなるというリスクは、常に念頭に入れなければならないリスクです。
そのリスク管理の方法として利用を検討したいのが、取引信用保険なのですが、取引信用保険とはどのようなリスクをカバーしてくれて、どのようなメリットがあるのでしょうか。
このページでは、取引信用保険についてお伝えします。
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経営者・個人事業主の方へ
取引信用保険とは?
取引信用保険とは、取引先が倒産するなどで、債務の履行をすることができなくなった場合に、保険金が支払われるタイプの保険です。
会社・法人の取引においては、期日を決めて支払いを行う、いわゆる掛取引が利用されます。
そのため、売掛金・受取手形といったものは、その会社が支払日までに倒産などをした場合には回収ができなくなります。
取引の規模にもよりますが、ケースによってはその回収ができないことによって、自社も債務の支払いができなくなり倒産するという連鎖倒産のおそれもあります。
取引信用保険は、このようなリスクを回避し、キャッシュフローを安定させるための保険です。
取引信用保険の具体的な補償内容
取引信用保険の具体的な補償内容はどのようなものでしょうか。
一般的な信用取引保険の補償対象となるのは、以下の内容です
- 継続的な売買契約に基づく売掛金
- 建設・工事等の請負債権
保険金は次のようなケースで支払われます
- 取引先が破産手続き・民事再生手続き・会社更生手続きを開始した、特別清算の開始の申立があったとき
- 取引先が取引金融機関または手形交換所の取引停止処分を受けたとき
- 取引先の財産に対して強制執行が行われた・仮差押命令が発せられた、または保全差押としての通知が発せられたとき
- 取引先の相続人の全員が相続の限定承認もしくは相続の放棄の申述をした、または財産の分離の請求がされた
- 取引先がその財産につき管理人を置かないままその住所または居所を去った後1年を経過してもその取引先の生存が確かめられないとき
取引先が個人であることが前提の4.5.は、取引先を法人に限るような場合には適用されません。
取引信用保険の保険料・保険金相場
取引信用保険の保険料の相場はおおむね、年額で債権額の1%~3%となっています。
例えば、支払限度額が1,000万円である場合で2%である場合には、年額20万円前後程度になります。
当然この割合は、加入する会社や、取引先の信用状態、保険をかける取引の件数・取引金額などの事情によって異なります。
保険金は、のいずれか少ない方を採用している会社が多いです。
・ 債権額 ✕ 縮小率 = 保険金の額
・(保険会社が設定している)上限額
また、縮小率の相場はおおむね90%~95%で設定。
例えば、縮小率を90%・補償上限を1,000万円と設定した場合に、
500万円が回収不能となった場合には、
- 500万円✕90%=450万円
- 補償上限1,000万円
となるため、支払われる額は少ない方である450万円となります。
2,000万円が回収不能となった場合には、
- 2,000万円✕90%=1,800万円
- 補償上限1,000万円
となるため、支払われる額は少ない方である1,000万円となります。
取引信用保険とファクタリングの違いは?
債権の回収・キャッシュフローの改善の方策にファクタリングというものがあります。
ファクタリングとは、入金時期が到来していない売掛金などの債権を売却することをいい、早期に売掛金などの債権を回収するための方策の一つです。
つまり、取引信用保険は、取引先が倒産などで回収ができなくなった場合の保険の話であり、ファクタリングとは全く違う話です。
取引信用保険の加入メリット
取引信用保険に加入するとどのようなメリットがあるのでしょうか。
資金繰りが悪化するリスクの防止
取引先が倒産し、売掛金が回収できなくなると、自社の資金繰りも悪化することになり、連鎖倒産に繋がりかねません。
取引信用保険は、回収できなかった場合の全額の補償を行うものではなく、さらに保険料の支払いが必要となりますが、万が一取引先が倒産して1円も回収できなくなるよりは負担は少ないです。
以上より、取引信用保険は、取引先が倒産する等で資金繰りが悪化するリスクを防ぐことができます。
取引先の与信管理の強化
取引信用保険を利用する際には、保険会社が取引先の与信について調査を行います。
そのため、自社による取引先の与信管理のほかに、保険会社の調査によってダブルチェックを行うことができます。
また、保険会社の調査結果を教えてもらうことができ、信用状態に不安があるのがわかれば取引額を縮小することも可能となります。
以上より、取引先の与信管理の強化に役に立ちます。
保険会社の与信管理はプロが行うので、自社で与信管理に自信がないような場合に、参考にすることができる点でも頼もしいといえるでしょう。
取引先との取引額を引き上げることができる
取引先の与信状態に不安がある場合には、取引をする場合でも、大きな額の取引がし辛いです。
取引信用保険に加入していれば、回収のリスクを軽減することができます。
そのため、取引の額を引き上げることも可能な場合もあります。
自社の取引先からの信用の向上
取引信用保険を利用していれば、自社の資金繰り・キャッシュフローが安定することになります。
その結果、関係者・ステークホルダーとしては、取引先の倒産による連鎖倒産リスクが低い会社として評価してもらうことができ、また、自社を取引先とする相手からの信用の向上が見込め、より多くの取引の機会を得る・大きな額の取引ができるというメリットがあります。
銀行融資を受ける際に、貸し倒れにより連鎖倒産のリスクが低いのは、良い評価につながるでしょう。
節税
支払う保険料は損金に算入することが可能です。
そのため、節税になるというメリットもあります。
取引信用保険のデメリット
一方で取引信用保険には次のようなデメリットも存在します。
保険料を支払わなければならない
当然ですが、取引信用保険に加入するためには、保険料の支払いをしなければなりません。
保険料は、債権の額に一定のパーセンテージで決まるので、債権の額が大きければ大きいほど、負担は大きいといえます。
保険会社による与信審査を受ける必要がある
次に、保険会社による与信審査を受ける必要があることです。
保険会社はどのような売掛金についても補償するわけではなく、取引先の信用状態を調査した上で、契約をするかどうか、保険料や保険金の支払いについて決めることになります。
すでに取引先の信用状態が悪化しているようなケースでは、契約に応じてもらえないこともありますし、補償の金額などを低く設定されることもあります。
補償対象が指定できない可能性がある
取引信用保険の補償対象は、取引先全部・売上のうち上位10社など、保険会社が指定する場合があります。
このような場合には、特定の会社のみと補償対象を指定して契約をすることができません。
取引信用保険の加入ステップ
取引信用保険の加入は次のようなステップで行われます。
①取引先の選定を行う
補償の対象とする取引先が選べる場合には、まずどの取引先との取引について取引信用保険を利用するかを選定します。
保険会社によっては取引先すべてを対象とする、売上高・債権残高の上位○位までという取引の範囲が決められています。
特定の取引についてのみ対象にしたい場合には、それが可能な保険会社を選びましょう。
②取引先情報を告知する
取引先に関する情報を告知します。
申込時に保険会社より取引先についての情報提供が求められますので、その情報を提供します。
多くの場合保険会社が用意した告知書などのフォーマットがあるので、それに記載して提出する形で情報の提供が行われます。
③保険会社による調査
保険会社が告知書に記載された内容について調査を行います。
④審査および契約条件の決定
調査結果をもとに、
- 契約に応じるか
- 保険料をいくらにするか
- 補償割合や支払い限度額をいくらにするか
などの条件を決定します。
⑤契約
契約条件に納得が得られたら、契約を行います。
まとめ
このページでは、取引信用保険についてお伝えしました。
取引先が倒産した場合に、貸し倒れとなる売掛金などを補填してもらえるのが取引信用保険で、貸し倒れリスクに対応するほか、保険会社の審査による信用調査をしてもらえること、貸し倒れリスク軽減で自社の信用力が上がること、などのメリットがあります。
売掛金の回収のために弁護士に依頼する弁護士保険を利用することと同様に、あわせて検討してみるのも良いでしょう。
東 拓治 弁護士
福岡県弁護士会所属
あずま綜合法律事務所
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