配置転換命令は、企業にとって重要な人事管理手段ですが、違法・無効な配置転換は重大なリスクを伴います。
従業員の権利を侵害しないためには、法的な要件を満たさなければなりません。
本記事では、配置転換命令が違法・無効となった具体的な裁判例や、適法とされるための条件について詳しく解説します。
また、従業員が配置転換を拒否した場合の、適切な対処方法についても紹介します。
企業として適切に配置転換を行うことで、従業員との信頼関係を損なわないように努めましょう。
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経営者・個人事業主の方へ
配置転換とは
配置転換って、単なる席替えではないですよね?
部署の変更や職務内容の変更を「配置転換」といいます。
概要
日本の企業では労働者を長期的に雇用する中で、配置転換を行い従業員のスキルアップや適材適所を図ることが一般的です。
配置転換は、従業員はさまざまな経験を積める一方で、企業は事業環境の変化に柔軟に対応できるメリットがあります。
ただし、必ずしも全ての状況で適法となるわけではありません。
配置転換は、法に沿って行うことが重要です。
労働契約上の配置転換命令権とは
配置転換命令権とは、会社が従業員に対して職務や勤務地の変更を命じる権利です。
行使するには、就業規則や労働契約書において、規定する必要があります。
たとえば、就業規則に「業務上必要がある場合、従業員に異動を指示できる」と記載されている場合は、これが根拠となります。
最高裁判決(昭和61年7月14日東亜ペイント事件)では、配置転換命令が労働契約上有効な場合、従業員の同意なしに命じられるとされています。
配置転換命令が違法とならないための条件
では、会社の都合だけで従業員を配置転換することができますか?
いくら配置転換命令権があるからといって、どんな配置転換でも命令できる訳ではありません。
場合によっては違法とみなされることもあります。
配置転換命令が違法とならないための3つの条件を確認しましょう。
「労働契約上の配置転換命令権」が会社にあること
上述の通り、就業規則等で配置転換についての規定が設けられている必要があります。
「配置転換命令権の濫用」に当たらないこと
配置転換命令権が労働契約上で根拠がある場合でも、権利の濫用に当たると判断されると違法とみなされることがあります。
具体的には、以下4つの点に注意が必要です。
- 業務上の必要性の有無
- 動機や目的が不当である
- 従業員に不利益が生じる配置転換である
- 合理的でない人員選択である
専門職として雇用した場合には他職種に配置転換することはできない
雇用の際に職務内容を限定した特別の合意がある場合、その合意の範囲内でのみ配置転換が可能です。
専門職として雇った従業員を、全く別の職種に配置転換することは違法とみなされる可能性がありますので注意しましょう。
配置転換命令の有効性が認められる判断基準とは
配置転換が違法にならないためにはどうすればいいでしょうか?
配置転換命令が合法と認められるためには、さまざまな要件を満たす必要があります。
業務上の必要性が存在する
配置転換命令を下す理由には、「業務上の必要性」が欠かせません。
例えば、組織の再編成や業績改善、従業員の能力開発といった正当な理由が必要です。
過去の裁判例では、業務効率化や人材育成といった目的が認められれば、配置転換の必要性が認められやすいとされています。
ただし、従業員への単なる嫌がらせや、合理的な理由がない場合は、業務上の必要性がないと判断される可能性があります。
企業は、配置転換しなければならない理由を明確にする必要があります。
不当な動機や目的でない
配置転換命令が不当な動機や目的で行われる場合、従業員に対する権利の濫用とみなされ、無効となる可能性があります。
不当な動機には、従業員を無理やり退職へ追いやることや、労働組合活動への報復などが含まれます。
例えば、労働組合活動を理由に配置転換を命じた場合、これは不当な目的とされ、違法となる可能性があります。
労働者に著しい不利益を負わせない
配置転換命令が有効であるためには、労働者に対して通常ではありえない不利益を与えてはいけません。
不利益の具体例には、以下のようなケースがあります。
- 持病を持つ従業員の健康状態に、悪影響を与える部署へ配置する
- 育児中の従業員に夜勤を命じる
万が一、配置転換が労働者に過度な負担を強いていると判断されると、違法となる可能性があります。
配置転換命令を違法・無効とした裁判例
配置転換命令について争った裁判例などはありますか?
企業が下した配置転換命令が違法・無効と判断された具体的な裁判例を5つ紹介します。
配置転換命令を行う際に、企業側が留意すべき重要なポイントも合わせて見てみましょう。
エルメスジャポン事件
エルメスジャポン事件は、大手システム会社出身のシステム技術者が中途採用されたものの、部署内で他の従業員とトラブルを起こし、配置転換された先が倉庫係だった、という事件です。
この配置転換について裁判所は「システム専門職としてキャリアを積んでいくという従業員の期待に配慮せず、本人の理解を求める手続きもとっていない」として、配置転換命令を違法としました。
この判例は、配置転換が合理的な業務上の必要性に基づかず、今後の労働者の職務経歴に著しい影響を与える場合、違法とされる可能性があることを示しています。
安藤運輸事件
安藤運輸事件は、運送業者が運行管理の資格者を採用したものの、事故が頻発したため、賃金は変わらず、従業員は新設される倉庫部門に移動させられた、という事件です。
しかし、裁判所は、運行管理から排除するほどの支障はなく、無効との判決を下しました。
この事例は、資格を活かし運行管理を担当するという本人の期待に反していると判断されたのです。
つまり、今回の配転は、会社側の「権利の濫用」に当たるというわけです。
この判例は、配転命令が業務上の必要性を欠き、労働者に不利益を与える場合に無効となることを示しています。
医療法人社団弘恵会事件
医療法人社団弘恵会事件では、医療法人がデイケア部門の従業員を意思に反する新設部署に異動させ、精神的苦痛を与えるという目的のもとに配置転換をしました。
さらに、その後二度の配転を行い、業務中はカメラを設置して、従業員を監視していたとのことです。
裁判所は、この配置転換が不当な動機・目的によるものであり、無効と判断しました。
また、従業員に精神的苦痛を与えたとして、会社側に慰謝料100万円の支払いが命じられました。
この判例は、配置転換が労働者に精神的苦痛を与える目的で行われた場合、その命令は無効とされることを示しています。
インテリム事件
インテリム事件では、ある従業員が勤務態度や成績不良を理由に、配置転換させられました。
貸与したスマートフォンの回収や年俸の減額など、合理性を欠いた対応を含め、配転命令の違法性が問われた事件です。
裁判所は「業務上必要性がない配置転換であり、権限濫用である。これは不法行為を構成する」と判断しました。
会社側の対応に合理的な理由がないため、違法な配置転換として、従業員の請求が認められたのです。
この判例は、単なる嫌がらせや懲罰目的の配置転換は違法とであることを示しています。
NTT東日本(北海道・配転)事件
NTT東日本事件は、北海道内の従業員が北海道から東京への配置転換を命じられ、会社に対し慰謝料および配転の無効を請求した事件です。
裁判所は、業務上の必要性は認められたものの、従業員の家族の介護状況に配慮せず、著しい不利益を負わせたため、権利濫用という理由で、この配置転換は違法だと判断しました。
就業規則には職種や勤務地の限定に関する記載がありませんでした。
しかし、会社の規模からすれば、異業種や遠隔地への配転は十分に考えられます。
よって、職種や勤務地の限定が明示されておらず、両者で合意されていたとは認められないと判断されたのです。
この判例は、配転命令が労働者に過度な不利益を与える場合や、業務上の必要性が明らかでない場合は、違法となることを示しています。
違法・無効な配置転換を行った際のリスク
もしも違法な配置転換を命令してしまった場合、何かリスクはありますか?
上述の通り、裁判に発展するリスクや労働環境の悪化など、様々な影響が考えられます。
違法・無効な配置転換を行った場合、企業は様々なリスクに直面します。
社会的な信用にも関わるため、これらのリスクを理解し、適切な対応が求められます。
配置転換が無効となるリスク
従業員が違法・無効な配置転換を主張し、元の配置に戻すよう請求することがあります。
例えば、配置転換命令が業務上の必要性を欠く場合や、不当な動機・目的で行われた場合、裁判所はその命令は効力がないと判断する可能性が高いでしょう。
もしも配置転換命令が無効となった場合、企業は部署間の人員バランスを再調整しなければなりません。
そうなると、大きな経済的負担が生じる可能性があります。
パワハラによる損害賠償請求リスク
配置転換に伴い、パワーハラスメント(パワハラ)とみなされる行為が行われた場合、企業は損害賠償責任を負う可能性があります。
例えば、従業員に対する嫌がらせのために配置転換した場合、その従業員から精神的苦痛を理由に損害賠償を請求されることがあります。
このような事態が公になると、他の従業員からの信頼を失い、離職率の上昇を招く可能性も考えられるでしょう。
また、企業に対する信頼性や、ブランドイメージが損なわれる恐れもあります。
労働環境が悪化するリスク
違法・無効な配置転換が繰り返されると、従業員の仕事に対する士気が低下し、労働環境が悪化する恐れがあります。
企業と従業員の信頼関係が崩れ、優秀な人材の離職や労働組合との対立が激化するリスクが高まります。
労働組合とのトラブルは、労働争議の発展や会社のイメージダウンにつながる可能性があります。
また、従業員が企業を離れる原因にもなりえます。
離職率が高まると、人材確保や育成において大きなコストがかかり、さまざまなリスクを抱えることになるでしょう。
法的制裁を受けるリスク
違法な配置転換が明らかになると、労働基準監督署や裁判所から制裁を受ける可能性があります。
特に、労働基準法や労働組合法などの法令に違反した場合、企業は罰金や営業停止などの行政処分を受けることも。
また、労働者から不当な配置転換を受けた裁判を起こされ、企業側が敗訴すれば、社会的信用が損なわれるでしょう。
従業員が配置転換を拒否した場合の対処方法
違法にならないように配慮した場合でも、従業員から配置転換を拒否されてしまったらどうしようもないのでしょうか?
従業員が配置転換を拒否した場合、企業は適切に対処する必要があります。
従業員に理由を聞き取る
まず、従業員が配置転換を拒否する理由を確認しましょう。
拒否の理由が正当であり、従業員に著しい不利益を与えるものである場合、その配置転換命令は認められない可能性があります。
例えば、家庭の事情や健康問題など、配置転換が従業員に過度な負担を与える場合は、企業側の再検討が必要です。
配置転換の必要性を説明する
次に、配置転換の必要性を従業員に丁寧に説明します。
業務上の必要性や配置転換後の勤務条件、職務内容について詳細に説明し、従業員の理解を求めることが重要です。
従業員の理解を得られる説得ができれば、配置転換に納得してもらえるでしょう。
代替案を検討・提示する
従業員が配置転換に対して強く拒否する場合は、代替案を検討することも一つの方法です。
例えば、今回提案したところとは違う部署への配置転換や、家で業務が遂行できるリモートワークの導入など、従業員の状況に応じた柔軟な対応を提案します。
このようにして、従業員の負担を軽減しつつ、会社の業務が円滑に遂行できるような提案をしましょう。
法的アドバイスを取得する
代替案を提案しても、従業員が配置転換を拒否し続ける場合は、合法な配置転換であることを伝える必要があります。
その場合、人事に関する法的な知識が不可欠です。
弁護士に相談し、配置転換命令の適法性や対応策について助言を受けましょう。
そうすることで、今後のトラブルを未然に防げるでしょう。
懲戒処分を検討する
最終的に、従業員が正当な理由なく配置転換を拒む場合は、懲戒処分を視野に入れる必要があります。
ただし、懲戒処分が適切に行われなかった場合、裁判に発展し、企業にとって不利な結果となる可能性があります。
なお、労働契約法第十五条では、以下のように定められています。
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=419AC0000000128
懲戒処分は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる必要があります。
そのため、懲戒処分は慎重に行うべきであり、事前に弁護士から法的助言を受けることが望ましいでしょう。
まとめ
配置転換命令は、適切に行われなければ法的なトラブルに発展する可能性があります。
配置転換する際には、労働契約上の権利に基づき、業務上の必要性を明確にしなければなりません。
また、不当な動機や目的がないこと、労働者に過度な不利益を与えないよう注意することが重要です。
違法・無効な配置転換を行った場合、企業は損害賠償請求や労働環境の悪化といったリスクを抱えることになります。
適切に配置転換することで、労働環境の改善や、企業成長を促します。
従業員との良好な関係を維持し、法的リスクを回避するためにも、配置転換に関する正しい知識を取り入れ、適切に対応しましょう。
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