どの職種の事業でも大なり小なり、従業員の人手不足は問題として挙がっているのではないでしょうか?
そのような中で、面接をクリアし本採用前の試用期間中に、従業員の妊娠が発覚した場合、会社としてどのような対応を取るのが適切なのでしょうか?
この記事で分かりやすく解説していきたいと思います。
「弁護士に相談なんて大げさな・・・」という時代は終わりました!
経営者・個人事業主の方へ
使用期間中の妊娠における解雇は可能か
体調不良や万が一のことがあってもいけないし、労働を控えるように伝えてもいいのではないでしょうか。
まず、第一に大切なこととして、「妊娠を理由に解雇することは不当である」ということを覚えておいてください。
試用期間中の従業員が妊娠した場合の対応
労働基準法や男女雇用機会均等法により、妊娠や出産を理由に解雇や不利益な扱いをすることは違法となります。
たとえ妊娠が発覚したからといって、試用期間での契約解除は許されません。
会社側の対応としては、従業員の健康状態や今後の働き方に関して、まず本人と話し合いを行いましょう。
妊娠中は体調が変化しやすいため、従業員の体調や要望を確認することが大切です。
医師の指示に応じて業務の軽減や勤務時間の調整を行うことが求められる場合もありますので、可能な限り対応するようにしましょう。
特に、身体に負担のかかる業務をしている場合は、配慮した業務の割り振りが必要です。
また、妊娠発覚から産休終了までの期間を試用期間にカウントしないのは、従業員の不利益となってしまいますので注意しましょう。
さらに、妊娠したこと自体を理由として、試用期間を延長することはできません。
ただし、試用期間の評価が妊娠とは無関係な業務能力や勤務態度に基づくものであれば、通常の基準に従って判断することができます。
業務ができないことを理由に解雇することもNG
試用期間中の妊娠を理由とする解雇は、「男女雇用機会均等法」や「労働基準法」に違反する不当な解雇とされています。
事例紹介
ある企業で試用期間中に妊娠が判明した従業員が「引き続き雇用を求める」という内容を雇用主に報告。
その後、その雇用主から「業務に支障が出る」「母体の保護を考えると商品を持ち運ぶ業務は無理と考える」「試用期間中であることから辞めさせても解雇には当たらないと考える」との理由で、解雇を通告されました。
しかし、従業員は、妊娠を理由とする解雇は「均等法第9条」で明確に禁止されていると反論。
労働局雇用均等室は双方の主張を踏まえ、この解雇を違法と判断し企業側に解雇撤回を命じました。
試用期間中であっても、妊娠を理由に解雇することは認められず、企業は母性保護措置を講じる義務があります。
内定時点で妊娠が発覚した場合内定取り消しはできる?
採用面接時には気づかず、内定後に妊娠が発覚した場合でも、企業は妊娠を理由とする内定の取り消しを行うことはできません。
男女雇用機会均等法では、妊娠・出産を理由とした不利益な扱いを禁止しており、内定取り消しもその対象に含まれます。
通常、内定取り消しをする場合、客観的に合理的と認められる必要があります。
妊娠したことのみを理由として内定取り消しをすることは、客観的に合理的ではなく、社会通念上相当とも言えないため、無効と判断されるでしょう。
また、採用面接で妊娠の有無を質問することもマタハラや違法な男女差別につながるおそれがあり、不適切な質問となりますので注意が必要です。
妊娠中の解雇に関する法律
試用期間中の妊娠発覚による解雇と、妊娠中や出産後1年以内に解雇することは、法律で禁止されています。(男女雇用機会均等法9条)
試用期間中に妊娠が発覚したとしても、それを理由に解雇することは不当解雇に当たります。
もしかして、妊娠中の解雇について、複数の法律が関係していますか?
実際にどのような法律が関係しているのか詳しく見てみましょう。
労働基準法第19条(解雇制限)
労働基準法第19条では、産前産後の女性を解雇することが原則禁止されています。
具体的には、産前6週間(多胎妊娠の場合14週間)および産後8週間の期間、女性は解雇されることがありません。
また、産後1年間は解雇が禁止されています。
※ただし、天災や会社の重大な経営理由など特別な事情がある場合は例外
また、労働基準法第65条(産前産後休業)では、産前6週間および産後8週間の休業を取得する権利を女性に保障しています。
試用期間中であっても、この権利は妊娠した従業員に適用されます。
産前産後休業は、母体保護の観点から認められている休業で、この期間中は事業主は対象者を就業させてはなりません。
この休業は産後の女性の体を回復させるために必要な期間ですので、母体を保護する目的の強制的な休業になります。
男女雇用機会均等法第9条(妊娠・出産を理由とする不利益取扱いの禁止)
男女雇用機会均等法第9条では、妊娠・出産を理由として解雇やその他の不利益な取扱いを行うことが禁止されています。
もちろん、試用期間中の従業員も含まれており、妊娠が発覚した場合、妊娠そのものを理由に契約を終了・解雇することは違法です。
また、男女雇用機会均等法第12条(母体健康管理措置の義務)では、事業主は妊娠中の従業員に対し、健康管理や職場での配慮を行う義務があるとされています。
たとえば、医師の指導に基づいて業務内容の調整や短縮勤務を提供するなど、健康を守るための対応が求められます。
妊娠中だけではなく、産後も使うことができる「母健連絡カード」の記載内容に応じて、男女雇用機会均等法第13条に基づく適切な対応が求められます。
※「母性健康管理指導事項連絡カード」については、各都道府県労働局雇用環境・均等部(室)へお問い合わせ下さい
育児・介護休業法第5条(産後パートナー育児休業の権利)
一歳に満たない子どもがいる場合、事業主に申し出ることによって、育児休業(第9条の2第1項に規定する出生時育児休業を除く。以下この条から第9条までにおいて同じ。)を取得することができるとされています。
つまり、この法律は主に育児や介護を対象としていますが、産前産後の休業取得に関しての規定も含まれています。
育児休業や短時間勤務など、産後の職場復帰に向けた措置が必要な場合、この法律も関係してきます。
過去の裁判例による保護
過去の裁判例では、妊娠中の解雇が不当とされたケースが多くあります。
妊娠を理由とする解雇の無効は、法律だけでなく実際の判例上でも非常に厳しく制限されていることがうかがえます。
たとえ試用期間中であっても、従業員が妊娠している場合、その解雇や不利益な扱いは労働基準法や男女雇用機会均等法により、強く規制されているといえるでしょう。
これらの法律に違反した場合、事業主は法的責任を問われる可能性が高いため、妊娠した従業員に対しては適切な対応を行い、法律を遵守することが重要だといえます。
試用期間中の妊娠を禁止することはできる?
そもそも、妊娠そのものを禁止することは誰にもできませんよね。
就業規則等で「試用期間中の妊娠を禁ずる」等の要件を設けることはできません。
妊娠・出産に関して不利益な取扱いをすることは、男女雇用機会均等法第9条で明確に禁止されています。
したがって、試用期間中の妊娠を禁じることはできませんし、試用期間中であっても妊娠を理由に不当な扱いを受けることは法律に反してしまいます。
ただし、出産機能に有害な業務については就業制限が適用される場合があります。
たとえば、化学物質や放射線にさらされる業務、重労働、長時間の立ち仕事などは、母体に悪影響を及ぼす可能性があるため、妊娠中の場合は業務を避けることが義務付けられています。
事業主はこうした業務環境に対し、母体への配慮をして適切な職務の変更や、作業軽減の対策を講じる必要があります。
育児休業の取得条件
試用期間中の妊娠による解雇はされないことが分かりましたが、その後の育児休業等についてはどうでしょうか?
いくつかの条件がありますが、基本的には取得可能です。
育児休業を取得できる労働者とは
育児休業を取得できる労働者の条件
男女を問わず取得が可能で、子どもが1歳(特定の条件に該当する場合は最大2歳)になるまでの間は、育児休業を取得することができます。
- 雇用保険被保険者であること
- 休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある(ない場合は就業した時間数が80時間以上の)完全月が12か月以上あること
労働契約の形態を問わず取得可能
正社員だけではなく、契約社員やパートタイム労働者なども期間の定めのある労働者も、育児休業を取得できます。
ただし、有期雇用契約の労働者の場合、育児休業を取得するためには次の条件を満たす必要があります。
- 同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること
- 子どもが1歳6か月になる日までに雇用契約が満了しないことが確実であること
- 労働者が育児休業を希望し事業主に申出を行う必要がある
※労働者は、休業開始希望日の1か月前までに事業主に対して申出を行う必要があります
育児休業取得は事業者の義務ではない
育児休業は、労働者が任意で利用できる権利です。
労働者から申し出があって初めて制度を利用できるもので、育児休業を取らせるのは事業主側の義務ではありません。
ただし、事業主は労働者やその配偶者の妊娠・出産を知った場合、労働者が利用できる制度を個別に知らせなければなりません。
育児休業給付金について
雇用保険の被保険者が、子の出生後8週間の期間内に合計4週間分(28日)を限度として、産後パパ育休(出生時育児休業・2回まで分割取得できます)を取得した場合、一定の要件を満たすと「出生時育児休業給付金」の支給を受けることができます。
育児休業給付金を受け取れる条件
1歳未満の子どもを養育するために、育児休業を取得した被保険者であること(2回まで分割取得可)と、育児休業を開始する前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある(ない場合は就業した時間数が80時間以上の)月が12か月以上あることが条件となります。
入社してすぐに妊娠した従業員は育休取得可能か
通常、育児休業を取得するには、同じ雇用主のもとで1年以上勤務していることが条件となっています。
入社後すぐに妊娠した場合、1年未満の勤務期間ではこの条件を満たさないため、育休を取得することはできません。
ただし、産前産後休業(産休)は試用期間中であっても取得可能です。
産休は雇用期間に関係なく、すべての女性労働者が取得する権利があります。
この期間の休業は労働基準法に基づいて保障されています。
1年未満の勤務でも育休を取得できる例外について
契約社員やパートタイム労働者の場合、雇用が継続される見込みがある場合は育休取得の可能性があります。
ただし、通常は正社員でも「1年以上の勤務」が条件となるため、例外的な措置が適用されるかは企業の規定や状況によります。
不適切な対応を行うことのリスク
試用期間中であっても、従業員に対する姿勢は誠実でないといけませんね。
試用期間中の妊娠に対する不適切な対応は、会社にとって重大なリスクを伴うことを忘れてはいけません。
妊娠を理由とした不当な解雇や理不尽な対応は、法律に違反するだけではなく、会社の社会的信頼を著しく損なう原因となります。
また、従業員からの訴訟やトラブルに発展した場合、賠償請求や企業イメージの悪化など、経済的にも打撃を受ける可能性があります。
そのため、こうした事態を未然に防ぎ法的な問題を正しく処理するために、労働問題に詳しい弁護士などの専門家に依頼することをおすすめします。
専門家(弁護士)のサポートを受けることで、労働者に対する適切な対応を行うことが可能となり、企業としての信頼性を守ることができます。
まとめ
試用期間中に妊娠が発覚した場合でも、企業が妊娠を理由に解雇や不利益な扱いをすることは違法です。
「男女雇用機会均等法」により、妊娠や出産を理由とした不当な扱いは禁止されているため、試用期間中であっても妊娠を理由に解雇した場合は、不当解雇とみなされる可能性があります。
妊娠は従業員の権利であり、それによって不利益を被ることがあってはなりません。
事業主として、法令を守り、従業員と良好な関係を築くためにも、柔軟で配慮ある対応が求められます。
そのためにも、専門家(弁護士等)への早期の相談をしつつ社内での規定を整えていくことが大切です。
東 拓治 弁護士
福岡県弁護士会所属
あずま綜合法律事務所
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