未払い金の回収方法は?回収不能にならないための対策を解説


売掛金などの未払いが発生した場合、債権者側の企業が行動を起こして未払い金回収を図る必要があります。

当事者間の交渉で決着がつかなければ、支払督促や民事訴訟など、裁判所がからむ手続きも必要になってきます。

未払い金回収の方法や注意点、回収にかかる費用、弁護士への依頼が必要かどうかなど、未払い金回収をするなら知っておきたい基礎知識をわかりやすく解説します。

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目次

未払い金回収とは

未払い金回収(債権回収)とは、売掛金などの金銭債権が支払期日までに支払われなかった場合に、何らかの手段を講じて金銭の回収を図ることを言います。

*売掛金・・・作業や売上の対価として将来的に金銭を受け取る権利

例えば、売掛金が取引先から期日通りに入金されなかった場合、まずは電話などで連絡して期日の再確認を求め、支払いを促すことになるかと思いますが、当事者間で日常的に行われるこうした行為も、未払い金回収の一種です。

当事者間のやりとりでは回収が難しい場合には、弁護士を通した働きかけや、支払督促・民事裁判などの法的な手続きによって回収を図ることになります。

未払い金回収が必要になるケース

債務者側が支払いをしない事情としては以下のようなものが考えられます。

  1. 単なる忘却、会計ミス、振込処理の遅れ
  2. 商品・サービスの不良などを理由に支払いを拒否している
  3. 取引後に資金繰りが悪化し支払いが困難になった
  4. すでに資金難に陥っていて支払い能力がない(支払う意思がない)にも関わらず取引をした
  5. 倒産してしまった

①のケースであれば取引先に連絡して確認をとることで未払いが解消できるでしょう。

ただし、支払い日程などの面で認識の違いがあったり、先方の手続きに問題が見られたりする場合には、今後のことを考えて問題点を解消しておく必要があります

②のケースでは、先方の企業体質に問題がある場合や、下請いじめに該当する場合、自社側に多少の責任がある場合などもあり、当事者間の協議では十分に解決しにくいことが少なくありません。

問題をこじらせる前に弁護士などの専門家に相談したほうがよいでしょう。

未払い金回収が必要になる典型的なケースは③~⑤です。

これらの事情が判明した場合は迅速に未払い金回収の行動を起こす必要があります。

時間が経つほど状況が悪化し、他の債権者との競争も激化し、回収の可能性が下がる恐れがあります。

⑤で相手方が破産・特別清算・民事再生などの法的整理手続きに入った場合、基本的には法令や裁判所の判断に従って、他の債権者と一体となって債権の回収を図ることになります。

未払い金回収を行う際の注意点

未払い金回収を行う際には以下のような点に注意する必要があります。

  • 債権額、回収コスト、リスク(未回収となるリスクや今後の事業・取引への影響など)を総合的に考慮して、回収の方針や具体的な方法を検討する
  • 未払いが発生した原因や相手との関係性を考えて適切な回収手段を講じる
  • 時間が経つほど状況が悪化する(例えば相手方の資金繰りが悪化する)ケースが多いので、早期に対応を開始する
  • 未払い発生から時間が経っている場合には時効も考慮する

未払い金回収時の「時効」について

未払い金回収が長期化した場合、債権の消滅時効にも注意する必要があります。

債権には時効があり、債権という権利を行使しないまま一定期間が経過すると権利が消滅します(消滅時効)。

予め支払期限を定めて行う通常の取引の場合、現行の民法(2020年4月1日施行)では支払期限から5年で時効となります。

債権の行使とは、具体的には以下のことを指します。

  1. 実際に債務の弁済(売掛金全額の支払いなど)を受ける
  2. 債権の存在を債務者に認めさせる(債務者が支払いの猶予を求めるなど、間接的に債権の存在を認めた場合も含む)
  3. 売掛金の一部や利息(遅延損害金)の支払いを受けるなど、債務者に一部でも債務を果たしてもらう(債務者が債権全額の存在を認めたことになる)
  4. 裁判などで債権の存在を確定してもらう

1が適わない場合、時効前に2~4を行うことで時効をリセットする(時効のカウントを0に戻す)ことができます。

これを「時効の中断」と言います。

また、民事調停や支払督促、訴訟などの裁判所が絡む手続きを開始すると、その手続きに関わる一定期間は時効の成立を先延ばしにすることができます。

督促状などで相手方に支払いを催告するだけでも6ヶ月間は先延ばしできます(ただし催告で先延ばしできるのは1回のみ)。

これを「時効の完成猶予」と言います。

未払い金回収が長期化した場合、「時効の中断」や「完成猶予」を成立させるような回収方法を検討することが必要になってきます。

未払い金回収の方法

未払い金回収には以下のような方法があります。

  1. 電話や面会による交渉
  2. 内容証明郵便による督促状送付
  3. 債権の相殺・譲渡・代位権行使
  4. 民事調停
  5. 支払督促
  6. 民事訴訟
  7. 強制執行

1. 電話・面会による交渉

電話・メールでの連絡や取引先責任者との面会によって支払いに関する交渉を行うことは、未払い金回収の最初の一歩です。

先方が誠意ある対応をしてくれない場合や、取引内容などを巡って争いがある場合、弁護士を通して交渉することで問題が解消することもあります。

2. 内容証明郵便による督促状送付

内容証明郵便とは、郵便物の謄本や郵送記録を郵便局に保存することで、「いつ誰が誰にどんな内容の郵便物を送ったか」を証明できるサービスです。

内容証明郵便で支払いの督促(催告)を行うことには以下のような効果があります。

  • 債権者としての意思表示を公的に(裁判などで)証明できる
  • 正式な請求であるという印象を与え、「無視したら法的措置に移行する」というメッセージを伝えることができる
  • 消滅時効の完成猶予(催告から6ヶ月間)を確実に成立させることができる(普通の郵便などで督促状を送ると、催告の事実や日付が確定できない恐れがある)

内容証明郵便による督促状に「期限までに支払わなければ法的措置を講じる」といった一文を加えることもあります。

弁護士名義で内容証明郵便を送ると、さらに強いメッセージを伝えることができます。

なお、内容証明郵便で送った督促状の受け取りが拒否されたり、不在により返送されたりした場合にも、配達日時や受取拒否・不在などのデータが残るため、催告の意思表示や日付を証明することができます。

3. 債権の相殺・譲渡・代位権行使

相手方に対して債権だけでなく債務もある場合、それらを相殺することで(例えば売掛金と買掛金を相殺して)実質的に未払い回収を果たすことができます。

債権の相殺には合意は不要で、一方的に相殺の意思表示をすることで行えます。

内容証明郵便を用いると相殺の意思表示を確実に行うことができます。

債権を第三者に譲渡し、債権の一部を回収することもできます(債権の売値は帳簿額より下がるので、全額は回収できません)。

あるいは、相手方が別の会社に対して有している売掛金を債務の代わりに譲渡してもらい、その別の会社から売掛金を取り立てるといった方法もあります。

取引契約に債権の相殺や譲渡を禁止する特約が入っている場合、相手方の同意を得なければ相殺や譲渡は難しくなります。

相手方が第三者に対して有している債権を(譲渡してもらうのではなく)こちらが代わりに行使し、第三者から売掛金などを取り立て、自社の債権と相殺するという手段もあります(債権者代位権の行使)。

4. 民事調停

民事調停とは、裁判所において裁判官・調停員の関与のもとで当事者が協議し、紛争の解決を図る手続きです。

調停は当事者間の合意によって成立します。成立した調停内容には判決と同様の効果があり、相手方が調停に従わない場合には強制的な取り立て(強制執行)が可能になるケースもあります。

5. 支払督促

支払督促は単なる督促状の送付とは異なり、裁判所を通して行う督促の手続きです。

支払督促は相手方(債務者)の所在地を管轄する簡易裁判所に申し立てます。

相手方から一定期間内に異議申し立てがなされなければ、さらに仮執行宣言を付した支払督促を行います。

これにも異議が申し立てられなければ、強制執行(裁判所による財産の差し押さえと債権者への分配)の申し立てを行うことができ、これが認められれば強制的に未払い回収を行うことができます。

支払督促は書類審査のみで行われるため手続きが簡便ですが、相手方が仮執行宣言を付した支払督促に対して2週間以内に異議を申し立てると、民事裁判(通常訴訟)に移行します。

その場合、初めから訴訟を提起するよりも手間と費用がかかってしまうことになります。

6. 民事裁判(通常訴訟・少額訴訟・和解)

以上の手段で解決できない場合、最終的には民事裁判により問題の決着を図ることになります。

支払いを求める金額が60万円以下の場合、通常の訴訟に代えて少額訴訟を選択することができます。

少額訴訟は原則的に1回の審理で判決が下りる、迅速な解決が図れます。

判決にいたる前に、裁判の場で和解にいたる例もあります。

また、訴訟提起前に当事者間の合意で和解を行うこともできます。

こうした和解は調書に記され、確定判決と同等の効力を持ちます。

7. 強制執行

仮執行宣言付きの支払督促が出されたときや、判決・和解が成立しても相手方がそれに応じた支払いを行ってくれないときには、裁判所に強制執行の申し立てを行います。

強制執行により相手方の不動産・動産を差し押さえて売却したり、債権を差し押さえてその債務者(強制執行の相手方に対して支払い義務のある第三者)から金銭を取り立てたりすることにより、債権を回収します。

未払い金が回収不能となる場合も

未払い金が回収不能となるケースは以下が考えられます。

消滅時効が完成している

前述の通り、消滅時効が完成している場合には回収不能となります。

相手方と全く連絡が取れていない(行方不明)

相手方の電話番号や住所等連絡先が分からない場合、事実上回収不能となります。

しかしながら、相手方が行方不明でも訴訟自体は行うことができ、場合によっては勝訴することも可能です

ただし、行方不明になった人物の財産状況などの確認は難しいため、回収不能となるケースがほとんどです。

相手方が自己破産、倒産した

相手方が法人の場合、破産手続の中で配当がある場合には回収できる可能性はあります。

相手方が個人の場合、免責許可を得ていた場合には回収不能となります。

逆に言えば免責が不許可の場合には回収できる可能性はありますが、相手方に支払い能力がない場合が多いため、現実的には回収不能なことが少なくありません。

相手方が法人・個人どちらの場合でも、破産した相手方に無理やり支払いを求めることはできませんし、犯罪となる恐れもありますので注意しましょう。(破産法275条)

相手方が亡くなっている

相手方が亡くなっている場合、直接本人への請求はもちろんできません。

この場合、相続人に対して請求することはできますが、相続放棄をしている場合やそもそも相続人がいない場合には回収が難しくなります。

相続財産管理人の選任申立てを行い相続財産から回収できることもありますが、基本的に回収は難しいと考えた方がよいでしょう。

未払い金が回収不能となった際の対応

未払い金の回収ができなくなってしまった時は、以下のような対応が必要です。

反対債権と相殺

相手方に対し反対債権(買掛金など)がある場合、未払い金と相殺することができます。

契約内容によっては、相殺が禁止されている場合もありますので、弁護士に一度確認してみましょう。

未払い金の放棄・損金処理

相殺ができず、未払い金の回収もできない場合、「未払い金の放棄・損金処理」を行うことができます。

たとえ未払い金が回収できていない場合でも書類上では「売上」として計上され、税金が科せられてしまいます。

これを回避するために、売掛金の権利を放棄し「損金」として計上します。

「未払い金(売掛金)について権利を放棄した」ということを明確にするため、債権放棄通知書を作成し、相手方に通知しましょう。

行政の融資

日本政策金融公庫が行っている「取引企業倒産対応資金(セーフティネット貸付)」を利用することができます。

利用を検討する場合、必要書類の提出・審査があるため、まずは公式サイトから問い合わせてみましょう。

日本政策金融公庫

未払い金回収で弁護士への依頼は必要?

前述の、未払い金の回収方法①~④は基本的に当事者間で事態解決を図る方法なので、弁護士を介さずに未払い金回収を果たすことも場合によっては十分可能でしょう。

もし今後も、相手方と取引を継続するのであれば、できれば当事者間で解決したほうがよいかもしれません。

その一方で、当事者間で解決しようとして話がこじれ、関係が悪化したり、回収が長期化し、回収が困難になったり、コストがかさんでしまったりするリスクもあります。

また、債権の譲渡や代位権行使などの第三者が絡んでくる方法では、法律関係が複雑になり、法的トラブルが発生するリスクが高まります。

こうしたリスクが懸念される場合、早めに弁護士に相談したほうがよいでしょう。

未払い金の回収方法⑤~⑦の方法は裁判所に判断・判決を求める手続きとなりますが、弁護士を代理人に立てず、法人の代表者などが申立や訴訟活動を行うことも可能です。

しかし、相手方に異議がある場合、十分な証拠を用意した上で公式に異議に応じる必要があり、専門家でないと対応が難しいでしょう。

したがって、一般的には弁護士に依頼するのが得策と言えます。

未払い金回収には様々な方法があり、債権の内容や自社および相手方の状況などに応じて適した手段が異なります。

未払い金回収の経験が豊富な弁護士であれば、効果的な回収方法を提案し、必要な手続きを迅速に遂行することで、回収率を高めてくれるでしょう。

未払い金回収にかかる費用

未払い金回収の方法に応じて以下のような費用がかかります。

  • 相手方への書類送付や訪問、当事者間の協議にかかる費用(郵便代やガソリン代、出張費など)
  • 債権譲渡や債権者代位権行使にかかる費用(譲渡契約にかかる事務費用・印紙代、第三者への取り立てにかかる費用)
  • 民事調停・支払督促・民事訴訟・強制執行で裁判所に納める手数料
  • 弁護士に依頼する場合は各種の弁護士費用

未払い金回収に時間・人員を割けば、その分だけ通常業務が圧迫されて売上低下・コスト増につながることもあり、これも広い意味では未払い金回収の費用と言えます。

民事訴訟の申立手数料は債権額で変わり、100万円に対し1万円、1,000万円に対して5万円などとなります。支払督促は民事訴訟の半額、民事調停は半額以下です。

強制執行では申立手数料(基本的に4,000円)と予納金が必要です。

予納金は裁判所によって異なり、差し押さえの対象や執行方法に応じて物件1件当たり数万円~10万円程度となります。

民事訴訟・強制執行の申立費用・予納金は最終的に敗訴側(強制執行を受ける側)が負担しますが、申立時には申立をした側がいったん全額を納めます。

弁護士費用は相談料、着手金(正式に依頼した段階で払う料金)、成功報酬(未払い金回収成功時に発生する料金)、経費実費(弁護士の交通費・出張費など)からなります。

大まかな相場としては、相談料が1万円~3万円程度、着手金が10万円~、成功報酬が未払い金回収額の10%~20%程度です。

まとめ

未払い金回収では的確な状況判断に基づいて最適な回収手段を選び、迅速に手続きを進める必要があります。

未払い金回収の経験が豊富な弁護士に依頼することで回収の可能性を高めることができますが、弁護士費用は比較的高額です。

債権の金額や未回収に終わるリスク、業務への影響などを総合的に考慮し、弁護士費用が割に合うかどうか検討してください。

なお、今後発生する可能性のある未払いに対しては、貸倒れを補填する取引信用保険や保証型ファクタリング、弁護士への依頼が必要になった場合に弁護士費用を補償してくれる弁護士保険などを利用することで、リスクを軽減することができます。

弁護士

木下慎也 弁護士

大阪弁護士会所属
弁護士法人ONE 代表弁護士
大阪市北区梅田1丁目1-3 大阪駅前第3ビル12階
06-4797-0905

弁護士として依頼者と十分に協議をしたうえで、可能な限り各人の希望、社会的立場、その依頼者らしい生き方などをしっかりと反映した柔軟な解決を図ることを心掛けている。

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