皆で、会社を良いものにしていこうと日々業務に勤しんでいるなかで、
長年働いている職員が、いまだに仕事のミスが多い…
何度も注意をして、始末書も書いてもらわなきゃいけない職員がいて困っている…
こう言ったことが積み重なり、会社に相応しくない職員がいた場合、「クビにしたい!」と思われることもあるのではないでしょうか。
事業をおこなう上で、職員を守りつつ業績を上げることは会社を残していく為に、とても大事だからこそ、もしも、そのような職員がいた場合、実際に「クビ=普通解雇」にすることは可能なのでしょうか。
今回は、大切な職員と会社を守るために、「普通解雇」をする場合の注意点や、メリット・デメリットをご案内いたします。
この記事を読んでいただき、より居心地のよい会社にするための参考にしていただけますと幸いです。
「弁護士に相談なんて大げさな・・・」という時代は終わりました!
経営者・個人事業主の方へ
普通解雇とは
普通解雇とは、使用者による一方的な労働契約の解約のことです。
わかりやすくいうと、会社側から一方的に「『クビ』を宣言される」ということです。
労働者が労働契約の本旨に従った労務を提供しないことにより、債務不履行を理由として労働契約を解約するものであり、処分内容によって、解雇の種類が異なるものになります。
そのなかでも今回は、「普通解雇」についてご説明いたします。
普通解雇のメリット
実際に普通解雇をするとなった場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。
事業者側・職員側双方に少なからずメリットはあります。
事業所側のメリット
事業所側のメリットは、職員の意思にかかわらず、職員の労働者としての地位を失わせることができることです。
そして、職員の債務不履行行為に対して、注意指導だけでなく、普通解雇という毅然とした態度を取ることで、事業所内の規律を守ることにも繋がります。
なお、普通解雇の理由としては、
- 能力不足
- 経歴詐称
- 度重なる遅刻や欠勤
- 協調性の欠如
- 業務命令違反
といった5つの理由があげられます。
職員側のメリット
従業員にとってのメリットは、懲戒解雇や諭旨解雇に比べて、不利益が小さいことです。
具体的には、
- 解雇予告(解雇予告手当の支払い)が受けられる
- 退職金が満額もらえる
- 失業保険が会社都合退職扱いになる
という3点です。
普通解雇のデメリット・リスク
普通解雇を行う上でデメリットはありますか?
もちろんデメリットも多少存在します。
事業所側のデメリット
解雇は従業員にとって大きなストレスや不安を引き起こすため、従業員の意欲低下に伴いストレスが重なり、さらに離職率があがるリスクがあります。
また、解雇を頻繁に行っている場合、在籍している職員が将来のキャリア形成が描けず転職を余儀なくしてしまい、事業の存続に影響が大いに関わってくる可能性があります。
職員側のデメリット
職員側のデメリットは、普通解雇をされた場合、「仕事」を失うということになります。
その後の生活を守る為にも、失業保険の受取手続きや、転職活動をしなくてはなりません。
普通解雇の要件
普通解雇をするための条件はありますか?
普通解雇を行うにあたり、双方が納得するための要件があります。
普通解雇の要件としては主に4つあり、以下にてご説明いたします。
法律が定める解雇禁止に該当しないこと
【解雇禁止期間】
業務上負傷や療養休業期間及びその後30日、産前産後休業期間およびその後の30日。
この期間中労働者は、特定の期間中は解雇されません。
さらにその後30日間も解雇が無効とされます。
ただし、やむを得ない事由により事業の係属が不可能となった場合を除きます。
やむを得ない事由の有無は経営者の独自判断ではなく、労働基準監督署長の認定が必要です。
労働者が特定の状況下で安定した雇用を確保できるようにするための保護措置として導入されています。
【解雇禁止事由】
- 国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇(労基法第3条)
- 労働者が労働基準監督署に対して申告したことを理由とする解雇(労基法第104条)
- 労働組合の組合員であること、労働組合の正当な行為をしたこと等を理由とする解雇(労組法第7条)
- 女性であること、あるいは女性が婚姻、妊娠、出産したこと、産前産後の休業をしたことを理由とする解雇(男女雇用機会均等法第8条)
- 育児休業の申出をしたこと、又は育児休業をしたことを理由とする解雇(育児・介護休業法第10条)
- 介護休業の申出をしたこと、又は介護休業をしたことを理由とする解雇(育児・介護休業法第16条)
客観的に合理的理由があること
客観的合理的理由とは、対象従業員との労働契約を終了させなければいけないほどの能力不足、規律違反などの非違行為、あるいは経営上の必要性の存在です。
就業規則のある会社の場合、就業規則において解雇事由を定める必要があります(労働基準法89条3項)ので、就業規則で定められた解雇事由にあてはまることが、客観的合理的理由となります。
このため、就業規則に書いていない理由での解雇は無効になります。
解雇が社会通念上の相当性があること
当該従業員の行動が、就業規則上の解雇事由にあてはまるとしても(客観的合理的理由)、解雇をもって臨むことが社会的に相当でない・過酷すぎる、という場合には、社会通念上相当とはいえず、解雇が無効になります。
具体的には、
- 当該従業員の処分歴
- 反省の態度
- 過去の勤務態度
- 改善の見込み
- 会社の注意喚起の有無や頻度
- 解雇を回避すべく対応(配置転換や出向等)の有無
- 他の従業員との処分の均衡
などが考慮されます。
就業規則及び労働協約の手続を経ていること
企業や組織は、従業員と雇用主の間のルールや条件を明確にするために就業規則や労働協約を策定し、それらの手続きを正式に行う必要があります。
これらの規則や協約が適切な手続きを経て策定・合意され、従業員に周知され、適用されていることを意味し、労働者と企業側の合意が必要であり、法的な手続きを経て定められます。
事業所側のメリット
適切な手続きに従って解雇が行われた場合、不適切な行動や業務遂行能力の不足などの問題を解決することができる。
また、解雇によって経営の効率性や生産性を向上させることができる場合がある。
事業者側のデメリット
不当解雇や手続きの不備があると、企業側に法的リスクや評判の損失をもたらす可能性がある。
職員側のメリット
労使合意のもとの解雇となる為、不当な解雇から免れる。
職員側のデメリット
不当解雇となってしまった場合、精神的苦痛等の理由から法的手続きを取る必要がある。
また、転職活動の際に不利になってしまう可能性がある。
普通解雇を進める手順
普通解雇を行うにあたり、手順を1~4でご説明いたします。
1,解雇条件を満たすかの事前調査
まず、解雇をするとなると事前に調査をしなくてはなりません。
調査する内容としては、以下3つになります。
解雇事由を特定すること
解雇するためには、労働者に対して具体的な契約上の義務違反があることを指摘する必要があります。
心身の傷病、能力不足、成績不良、勤怠不良、業務命令違反、職場での非違行為など、具体的な事実がなければ、解雇は行えません。
契約不履行が将来的に継続されると予測されること
事業所側は、ある特定の時点をもって「この労働者は不適格者である」と判断し、その理由で解雇できると考えていることが多いのですが、裁判官は、過去に関わらず今後も不適格状態が継続するのかという視点を持ちながら、解雇が可能かの判断をしています。
解雇が最終手段となっていること
解雇が最終的に正しい判断であるかを判断することは非常に悩ましいです。
その為、裁判になった際には裁判官の人生観に影響をされる可能性もあります。
大手企業や中小企業によっては、社内での配置転換や状況が異なります。
会社が解雇を回避するべき努力をしていることを裁判官に理解してもらう為にも、現状を詳細に伝える必要があります。
2,解雇理由をまとめた書面の作成
当該職員が解雇対象となった場合は、解雇理由等をまとめた文書の作成をしておく必要があります。
解雇後に、要件を満たしているかが問題となる可能性を未然に防ぐために書面に記載する必要があります。
また、従業員より、なぜ、自身が解雇されなくてはならないのかを尋ねられるケースも多いため、書面の作成が必要となります。
3,解雇予告を行う
事業所が従業員を解雇するには、基本的に30日前に解雇予告をしなければならないという決まりがあります。
ただし、30日分の平均賃金を支給すれば、解雇予告は不要となります。
この時に支給するお金を「解雇予告手当」と言います。
4,解雇通知書を送る
従業員へ解雇通知書を送る。
記載内容
- 解雇する従業員の氏名
- 社名・代表者名
- 解雇予告通知書の作成日
(直接手渡しの場合は「手渡す日」/郵送する場合は、「発送する日」) - 解雇する日
- 「解雇します」と断定的な意思表示の文
- 解雇理由
- 該当する解雇理由を定めた就業規則の条文
事業所側のメリット
会社と従業員を守る為の手続きができる。
また、解雇予告手当を支払うことにより、在職者へ不穏を漂わせないメリットがある。
事業所側のデメリット
事前調査で本当に解雇をすべきかを見分けないと、不当解雇となってしまう可能性があるので、抜かりない準備が必要。
職員側のメリット
「予告解雇」を言い渡された場合、給料は補償される。
また、予告されることにより、心の準備ができる。
職員側のデメリット
「即日解雇」の場合、突然、その日に退職しなくてはならない為、混乱してしまう可能性がある。
また、退職後のその後の生活費を賄うためにも転職活動等行わなければいけなくなり、生活の余裕がなくなる。
普通解雇と懲戒解雇の違い
懲戒解雇は従業員の不正行為や重大な違反をおかした際に行う解雇のことです。
社会的観点から重大な違反をした場合の判断とはなりますが、「契約違反」や「社内規則違反」、「違法行為といった問題行為が該当します。
また、業務に関連しない職場以外の行為でも、社会的な評判に悪影響があると認められたり、会社の評判や業務に支障をきたすおそれがあると判断されたりした場合、懲戒解雇の対象になります。
普通解雇と諭旨解雇の違い
懲戒解雇に値するか、それよりも少し軽い非行・違法行為があった場合に、懲戒解雇を回避する為に従業員へ自主的に退職を求めることを「諭旨(ゆし)解雇」といいます。
ただ、普通解雇と異なる点として、自主退職や合意退職に当たるものの為、解雇ではなく、自主退職や合意退職といわれています。
まとめ
今回は、大切な従業員と会社を守るために、「普通解雇」をする場合の注意点や、メリット・デメリットについてご紹介いたしました。
「普通解雇」を行うこと自体、事業所側にとっては心苦しい点もあるかとは思いますが、在籍している従業員と会社を守る為にも、うやむやにしてはいけないところとなります。
今回の記事を読んでいただき、もし、実際に「クビ=普通解雇」にしなくてはならない従業員がいた場合には、正しい手順を踏んでいただき、不当な解雇とならないようしっかりと見極めて手続きを行ってください。
あらかじめ弁護士保険などで、今後の様々なリスクに備えておくことをおすすめします。
山本 勝哉 弁護士
山本法律事務所
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