意匠権は知的財産権の一種で、工業製品の意匠(デザイン)を保護するための権利です。
意匠権は特許庁から意匠登録を受けることで発生します。
意匠権を取得することで、コピー品・模倣品の製造や販売を防止し、ブランドの保護を図ることができます。
今回は、意匠権の概要や具体例、取得するメリット、意匠登録の要件、登録出願手続きなどについてわかりやすく解説していきます。
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経営者・個人事業主の方へ
意匠権とは?
意匠権とはどのような権利なのでしょう?
意匠権とは、工業製品の「独創的な意匠(デザイン)」を考案した人に対して与えられる独占的な権利です。
意匠の考案者が特許庁に意匠登録出願をし、審査で認められると、その人に意匠権が発生し、それ以外の人は同一の意匠や類似の意匠を用いた製品を勝手に製造したり販売したりすることができなくなります。
意匠権の存続期間は出願の日から25年です。
例えば、ティーカップは熱い液体を保持できる容器と取っ手があれば最低限の機能が成り立ちますが、容器の模様や取っ手の形状などを工夫することで、見た目にも楽しめる製品や、より機能的で使い勝手のよい製品にすることができます。
意匠権制度は、こうした工夫(意匠)を保護し、工夫の考案を奨励することにより、産業振興を図ることを目的としています。
意匠権で保護されるのは、工業的に利用できる(工業生産によって複製・量産できる)意匠で、新規性があり、簡単には考案できないものに限られます。
意匠権の具体例
意匠権の対象となる意匠は、意匠法や関連法規・ガイドラインで細かく定められています。
「物品の意匠」「建築物の意匠」「画像の意匠」が基本となる意匠で、それらの「部分」や組み合わせ(「組物」「内装」)の意匠も対象となります。
それぞれの意匠の定義と具体例を表にまとめます。
種類 | 定義 | 具体例 |
物品の意匠 | 有体物・動産の外観デザイン(形状、模様、色彩、または形状・模様・色彩の結合) | 電化製品、家具、衣服、包装用紙(パッケージ)などの外観デザイン |
建築物の意匠 | 土地に定着している人工構造物の外観デザイン(同上) | 建物・土木構造物(橋など)の外観デザイン |
画像の意匠 | 情報機器を操作するための画像(操作画像) | Webサイトやアプリ画面に配される操作用ボタン・アイコン(選択ボタン、購入ボタン、調節用スライダーなど)のレイアウト ゲーム機のメニュー画面のレイアウト | アプリの起動用アイコン
情報機器が機能を発揮した結果として表示される画像(表示画像) | 何らかの情報を伝えるために機器から外部の壁・地面などに投影される画像(経路誘導のための画像など) ※機器で再生されるゲームソフトや映画などのコンテンツ画像は、機器から独立していると考えられるため、操作画像にも表示画像にも該当せず、意匠法の保護対象とはならない | 機器内蔵のシステム(計測システム・予測システムなど)が計算した結果を画像にして機器の画面に表示したもの|
部分意匠 | 物品・建築物の部分の外観デザイン | 独特な形状をした外壁など、建築物の一部分のデザイン | 取っ手・外枠など、物品の特徴的な一部分のデザイン
操作画像・表示画像の一部分 | 操作画像・表示画像の特徴的な一部分 | |
物品・建築物の機能を発揮するために物品・建築物に取り付けられている画像 | コピー機・デジタルカメラの操作画面などの画像 | |
物品・建築物の機能の結果を表示するために物品・建築物に取り付けられている画像 | 電子メトロノームの表示画面やデジタルカメラのモニター画面などの画像 | |
組物の意匠 | 複数の物品・建築物・画像で構成され、同時に使用され、全体として統一のある物品・建築物・画像 | 全体として1つのシリーズをなす絵柄が描かれているなど、物語性・観念的関連性のあるセット物 | 形状や模様、色彩に統一感があり、同時に利用されることが想定された家具セット、食器セット、建物群など
内装の意匠 | 複数の物品・建築物・画像で構成され、全体として統一された内装 | 店舗やオフィス、マンション共用部などの内装(什器・設備・壁・階段などのレイアウトや売り場構成) |
意匠権と著作権・特許権・商標権の違い
意匠権と知的財産権は、何が違うのですか?
意匠権は著作権、特許権、商標権と同じく知的財産権の一種です。
これらの違いを解説します。
知的財産権とは
発明やデザイン、著作などの知的創造活動で生み出された成果に対して与えられる独占的な権利を総称して、知的財産権と呼びます。
知的財産権のうち、特許庁への登録により発生する権利は産業財産権と呼ばれます。
意匠権、特許権、実用新案権、商標権が産業財産権に属します。
著作権について
著作権とは、言葉や音、絵、映像などを用いて作られる著作物の作者に自動的に与えられる権利です。
著作権には「著作者人格権」と「著作財産権」があります。
著作物とは「思想や感情を創作的に表現したもの」であり、作品として読んだり見たり聞いたりして楽しまれるようなものを指します。
こうしたものについては、作者に自動的に著作権が与えられます。
一方で、意匠権は道具として使われるもの(物品・建築物・画像)に施されるデザインを保護する権利であり、特許庁への登録により発生します。
建築物やキャラクターものなどは「作品」と「道具」の境界にあり、著作権で保護されることもあれば意匠権で保護されることもあります。
例えば、アニメ・マンガ・ゲームなどの作品に描かれるキャラクター画像には著作権が発生し、作中キャラクターの画像が描かれたTシャツ・文房具などの「キャラクターグッズ」や、作中キャラクターそのものを玩具化したフィギュア・ぬいぐるみなどを他人が勝手に製造・販売すれば、著作権侵害となります。
作中キャラクターではなくオリジナルのキャラクターをぬいぐるみなどの玩具として商品化した場合、そのキャラクターは著作物とは見なされないので、意匠権で保護する必要があります。
裁判で著作権を否定された有名な事例に「ファービー人形」があります。
特許権について
特許権は、自然法則を利用した技術的かつ高度な発明に対して与えられる権利です。
特許権の対象となるのは、これまでにない機能を有する物品を発明した場合(物の発明)や、製造・測定・通信などのプロセスを大きく変えるような新方式を発明した場合(方法の発明)です。
物の発明と見なされるためには、新規性のある機能が物に備わっている必要があります。
この点、意匠権は物の外観に関する工夫に対して与えられるものであり、物に新しい機能を加えるような工夫である必要はありません。
同一の物品に新しい機能と美感を高める工夫の両方が備わっていれば、特許権と意匠権の両方を取得することもあり得ます。
商標権について
商標とは、商品・サービスを提供する事業者が自己の商品・サービスを他社・他人のものと区別するために使用する識別標識(名称・ロゴ・キャラクターなど)です。
商標は文字、図形、記号、色、音、立体などからなり、商品やそのパッケージ、店舗で使用する食器や什器、広告、Webサイトなどに表示されます。
商標は商品・サービス・企業を区別するもの、意匠は商品の外観を向上するものであり、目的が異なりますが、視覚的なデザインの商標は意匠と似ているところがあり、同様のデザインで商標権と意匠権の両方を取得するケースもあります。
例えば、企業の顔となる作中キャラクターや地域のマスコットキャラクター(ゆるキャラ)の画像を商標(ロゴ)として登録する一方で、同キャラクターのキャラクターグッズやぬいぐるみ・着ぐるみについて意匠登録を行うケースなどです。
意匠登録の要件
出願された意匠に対しては、意匠法や特許庁のガイドライン(意匠審査基準)などに基づいて厳正な審査が行われ、審査に通過したものだけが意匠として登録されます。
意匠登録の審査では主に以下の7つの要件を満たしているかどうかが検討されます。
1,工業上利用できること
意匠は工業上利用できるものでなければなりません。
「工業上利用できる」とは、「同一のものを複数製造・建築・作成できる(量産できる)」ことを指し、性質上同一物が作成できないもの(美術品など)は対象外となります。
2,新規性があること
出願時点においてすでに公知となっている意匠(国内外で広く知られている意匠、頒布・公刊された資料に掲載されている意匠、Webサイトで公開されている意匠)や、公知の意匠に類似した意匠は、登録対象外となります。
3,容易に思いつけないこと(創作非容易性)
意匠が独創的で、その製品分野の標準的な知識を持つ人であっても容易には思いつけないものである必要があります。
4,意匠が具体的であること
意匠登録出願時には、審査官が意匠の内容を具体的に把握できるように、文章・図面などにより以下の事項を明確に説明する必要があります。
- 意匠が用いられる物品・建築物・画像の用途・機能
- 意匠の形状など、デザインの詳細
- (部分意匠の場合)意匠登録を受けようとする部分の用途・機能、位置・大きさ・範囲、その他の部分との境界
5,意匠ごとに出願していること
意匠出願は1意匠ごとに行うこととされています。
単一の物品・建築物・画像の意匠か、機能・形態の面でまとまりのある一組の物品・建築物・画像の意匠が一意匠と見なさます。
出願書類に複数の物品・建築物・画像が記載されており、それらの間に機能・形態上のまとまりがないと審査官に判断された場合、登録が拒否されます。
6,誰よりも先に出願(先願)していること
意匠登録は早い者勝ちであり、同一・類似の意匠が複数出願された場合には先に出願した人のみが登録を受けられます(出願が別々の日であれば早い日の出願者、同日であれば当事者間の協議で決定した1人の出願者)。
7,意匠登録を受けられない意匠に該当しないこと
以下に該当する意匠は対象外となります。
- 公序良俗に反するもの
- 周知・著名な商標・標章を模したものなど、他人の業務に係る物品・建築物・画像と混同のおそれがあるもの
- 物品・建築物・画像の機能・用途にとって不可欠な形状・表示内容のみからなるもの
(それに新規性があれば、特許権などで保護されうる)
意匠権取得の効果・メリット
意匠権を取得すると、「意匠の実施」(意匠を使った製品の製造・販売など)をコントロールする権利が与えられます。
従業員が創作した意匠については、使用者が意匠権を取得する取り決めにすることも可能です。
意匠の実施をコントロールすることで、経済的利益の確保やブランドの保護・向上を図ることができます。
意匠権の法的効果① 意匠の実施権
原則として、意匠権者(意匠権を取得した人)だけが、以下の行為(意匠の実施)を業として(事業の上で)行うことができます。
- その意匠(同一の意匠や類似の意匠)を用いた物品・建築物を製造・建築すること、使用すること(例えば店舗の設備や内装として使用すること)、譲渡(販売)すること、貸し渡すこと、輸出・輸入すること
- その意匠を用いた画像(ソフトウェアなど)を作成すること、情報通信回線を通した提供(販売など)を行うこと
- その画像を記録・内蔵する媒体・機器を譲渡(販売)すること、貸し渡すこと、輸出・輸入すること
- その意匠を用いた物品・建築物・画像を展示するなどして、譲渡や貸し渡し、提供を他者に申出ること
意匠権者は自らこれらの行為(意匠の実施)を行うだけでなく、意匠を実施する権利(実施権)を他者に与えることも可能です。
例えば、他者と一定期間のライセンス契約を結び、実施権を与える代わりに実施料(ライセンス料)を受け取る、という形で意匠権を利用できます。
他者に与えることができる実施権には「専用実施権」と「通常実施権」があり、特許庁に実施権設定の登録を行うことで有効になります。
実施権を与えられる側にとっては、専用実施権の方が有利です。
そのため、通常実施権よりもライセンス料が高く設定されるのが通例です。
意匠権の法的効果② 職務創作
原則として、意匠権者(意匠権を取得した人)だけが、以下の行為(意匠の実施)を業として(事業の上で)行うことができます。
従業員・職員が業務の一環として意匠の創作を行うこと(例えばデザイン部門のデザイナーが自社製品のデザインを考案すること)は職務創作と呼ばれ、個人的な創作とは異なる扱いがされます。
職務として意匠を考案した従業員が意匠権を取得した場合、使用者(雇用主である会社など)には自動的に通常実施権が与えられます。
使用者は、自由にその意匠を事業に用いることができます。
また、以下のような条項を労働契約・就業規則で定めることが許されています。
- 職務創作の意匠権を受ける権利(特許庁に意匠登録申請を行って意匠権を取得する権利)は使用者に帰属すること
- 従業員が取得した意匠権は使用者が承継すること
- 意匠権を取得する従業員は使用者に専用実施権を与えること
こうした条項により使用者が意匠に関する権利を取得した場合、従業員には職務創作の対価としてふさわしい程度の経済的利益(金銭など)を受け取る権利が発生します。
意匠権取得のメリット① 経済的利益の確保
優れた意匠は製品に付加価値を与え、企業の競争力や収益を向上させる力を持つと考えられますが、他者(他人・他社)が同一・類似の意匠を用いた製品(コピー品)を販売すれば、そうした力が弱まったり失われたりしてしまいます。
意匠権を取得すれば、コピー品の製造・販売・輸入などを差し止めたり、コピー品によって生じた損害の賠償を請求したりできるようになり、意匠から得られる経済的利益を独占できます。
意匠を自らは使用せず、ライセンス契約によって他者に使用させることで利益を得ることも可能です。
意匠権取得のメリット② 製品ブランドや企業ブランドの保護・向上
優れた意匠は製品の認知度・イメージの向上をもたらし、ブランド性を高めます。
他の製品ラインナップや企業そのもののイメージも向上させて、企業ブランドの確立に寄与することもあります。
他者がコピー品を販売するとそうした効果は弱まり、最悪の場合、コピー品の方がブランド性を獲得してしまう恐れがあります。
意匠権を取得しコピー品を防止することで、安定的にブランドの保護・向上を図ることができます。
また、意匠権を取得することそのものが製品のデザイン性の高さを保証する結果となり、製品の信頼性・イメージを高めてくれます。
意匠登録の出願方法と費用
意匠登録したいのですが、どのような手順になりますか?
意匠登録の手続きの流れと意匠出願・登録にかかる費用をまとめます。
意匠登録の手続きの流れ
意匠登録は以下のような流れで行われます。
- 先行意匠の調査
特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」の検索機能などを用いて登録済み意匠を調査し、登録の可否を事前に検討 - 意匠登録出願書類(出願願や図面など)の用意
- 登録出願
- 方式審査
出願書類の不足の有無、書式の適切さなどをチェック - 4に関する補正指令~補正書提出
(4で不備が見つかった場合) - 実体審査
意匠登録要件を満たすかどうか審査官が検討 - 拒絶理由通知
(6で登録要件を満たさないと判断された場合、その理由が出願者に通知される) - 補正書・意見書提出
(7の通知を受け取った場合、出願書類の不備を補正した書類や出願者の反論を記した書類を提出できる) - 審査結果(登録査定または拒絶査定)の送付
- 登録料の納付~意匠設定登録
(意匠権発生)
意匠出願は自分でできる?
意匠登録の出願は弁理士(特許事務所)に依頼するのが一般的ですが、自分で行うこともできます。
自分で出願すれば費用を節約できる反面、出願書類や補正書・意見書の作成ではかなりの時間と手間、知識を求められます。
意匠登録の出願にかかる費用
自分で意匠登録出願を行う場合、主な費用は特許庁に納める出願費用と登録料です。
- 出願費用:16,000円(出願時に納付)
- 登録料:登録後1年~3年は毎年8,500円、4年~25年は毎年16,900円
出願を弁理士に依頼した場合、これらに加えて弁理士費用(出願時に支払う手数料と登録時に支払う成功報酬)がかかります。
弁理士費用は事務所によって大きく異なります。目安として15~20万円程度です。
意匠審査で拒絶された場合の対応
実体審査において意匠登録要件(上述の①~⑦のいずれか)を満たしていないと判断されると、出願者に拒絶理由通知書が送られます。
拒絶理由通知書には、要件を満たしていないと判断された理由が記載されています。
出願者は、通知書に記載された理由に応じて出願書類を修正するか、審査官の判断に反論する意見書を提出することができます。
出願書類の修正は手続補正書で行います。
手続補正書・意見書を提出しても判断がくつがえらず、登録拒絶査定となった場合、出願をあきらめるか、出願内容を変更して再出願するか、特許庁に拒絶査定不服審判を申し立てることになります。
拒絶査定不服審判でも査定がくつがえらなかった場合、最終的な手段として、知的財産高等裁判所に審決等取消訴訟を提起するという選択肢があります。
まとめ
意匠権は工業製品のデザインを保護するための権利です。
特許庁に意匠登録出願を行い、審査で意匠登録が認められると意匠権が発生し、その意匠を使った製品の製造・販売などを意匠権者が独占的にコントロールできるようになります。
それにより、コピー品の流布を防いで意匠から発生する経済的利益やブランド価値を保護したり、意匠のライセンス契約で利益を得たりすることが可能になります。
意匠登録の出願は弁理士に依頼して行われるのが通例です。
登録を受ける権利のある個人・会社が自ら出願を行うことも可能ですが、登録要件の把握や先行調査、出願書類の用意、登録拒絶を受けた場合の対応などの負担を考えると、ハードルはかなり高いと言えます。
また、様々な訴訟リスクに備え、あらかじめ弁護士保険などで、備えておくことはいかがでしょうか。
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