「舌の剣は命を断つ」
このことわざは、発言する言葉次第では、身を滅ぼす危険が起こり得るというものです。
現在、インターネットや交流の場で発される一つ一つの言葉が、重大な結果を招くことがあります。
もはや、ひとくちに誹謗中傷と片付けられるものではなくなってきました。
そこで本記事では、どういったケースで誹謗中傷に対する慰謝料請求が可能なのか、条件や具体的な事例を用いて解説していきます。
記事に入る前に・・・
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誹謗中傷を受けた時、慰謝料請求はできる?
「これは許せない」というような誹謗中傷を受けた時、実際慰謝料を請求できるのでしょうか?
結論から言えば、誹謗中傷の程度によるものの「慰謝料請求は可能」です。
では、慰謝料請求をするには、どのような条件を満たせば良いのでしょうか?
名誉毀損罪と慰謝料請求の条件
そもそも誹謗中傷というのは、悪口や嘘などをついて他人を傷つける行為を指します。
内容によっては「名誉毀損罪」や「侮辱罪」などに該当し、刑事責任を問われるケースもある悪質な行為です。
そして、名誉毀損罪が成立するには、以下の3つの条件が必要です。
- 公然性
誹謗中傷が不特定多数の人が知り得る形で行われている必要があります。
たとえば、インターネット上の書き込みや公の場での発言などがこれに該当します。 - 事実の摘示
人の社会的評価を損なう可能性のある事実が明らかにされている必要があります。
これには検証可能な内容が必要で、単なる意見や感情表現は含まれません。 - 名誉を毀損する内容
発言や書き込みが社会的評価を低下させる恐れがある場合、名誉毀損の要件を満たします。
実際に社会的評価が低下している必要はなく、低下する可能性があれば足ります。
刑事裁判と民事裁判の違い
誹謗中傷が、上記3つの条件を満たしていると名誉毀損罪が成立します。
ただし、これはあくまで刑事事件上の話に過ぎません。
刑事責任を問う刑事裁判の場では、当事者の罪について判断するものの、被害者に対する慰謝料の支払いが命じられるわけではありません。
慰謝料について争いたいのであれば、民事裁判の場で争うことになります。
というのも、誹謗中傷をめぐる裁判は、刑事裁判と民事裁判に分けられています。
刑事裁判は加害者に対する罰則を求めるもので、民事裁判は被害者が加害者に対して慰謝料などの損害を請求するものです。
この2つは、目的がまったく異なるため、慰謝料請求がしたいのであれば、刑事責任を問う刑事事件ではなく、民事事件として加害者に対して訴えていく必要があります。
誹謗中傷による慰謝料の相場とは
どのくらいの慰謝料が取れるのでしょうか?
誹謗中傷を受けた際の慰謝料請求は、被害の程度によって大きく異なりますが、とはいえ、一般的な慰謝料の相場というものは存在します。
名誉毀損による慰謝料の相場
名誉毀損が確認された場合の慰謝料相場は、個人の場合で「10~50万円程度」、企業の場合で「50~100万円程度」になるケースが多くなっています。
ただし、ここでの相場は、誹謗中傷の内容や被害者の社会的立場によって、大きく変動する可能性があります。
たとえば、事実無根の誹謗中傷であった場合や、具体的な金銭的損失が伴う場合には、慰謝料が上乗せされるケースが一般的です。
慰謝料が高額になりやすいケース
では、どういったケースで慰謝料は高額になりやすいのでしょうか?
慰謝料が高額になりやすいのは、被害者が有名人や公人である場合です。
社会的影響力が強いため、誹謗中傷による損害が大きく発生しやすく、慰謝料が高額になりやすい傾向があります。
また、同様の理由から、加害者が有名人や公人であるケースでも、社会的影響力を考慮した上、高額な慰謝料の支払いを命じるケースがあります。
その他にも、一般の方であっても、示談による解決が行われた場合は、高額の慰謝料が設定されやすくなります。
というのも、示談というのは裁判所が関与するわけではなく、あくまでも当事者同士の間で話し合われる内容です。
よって、当事者双方が合意したのであれば、一般的な相場(裁判で認められてきた相場)よりも、高額になるケースは多々あります。
示談金には法的な上限はありません。
交渉によって金額が決まるため、もし話し合いを有利に進めたいのであれば、弁護士を介した交渉をするのがおすすめです。
ケースで学ぶ誹謗中傷での慰謝料請求
どのような誹謗中傷なら慰謝料請求できるでしょうか?
具体的な3つの事例をご紹介します。
職場内で誹謗中傷をしたケース
本事例は、職場内でのコミュニケーションが原因で慰謝料が認められたケースです。
背景
ある上司が部下に対して送ったメールに誹謗中傷が含まれていました。
このメールは、他の多くの同僚もCCで受け取っており、社内で広く共有されたため、「公然性」の条件を満たしています。
誹謗中傷の内容
メールには以下のような表現が含まれていました。
「やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います。当SC(サービスセンター)にとっても、会社にとっても損失そのものです。」
「あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。あなたの仕事なら業務職でも数倍の実績を挙げますよ。」
「これ以上、当SCに迷惑をかけないでください。」
慰謝料が認められた主な理由
上記表現は、部下の職務能力を公然と疑問視し、さらには個人の価値まで否定するものであったため、社会的評価を著しく低下させるものと判断されました。
このように、たとえ職場という内部のコミュニケーションであっても、侮辱的な内容が含まれている場合、それが公然と共有されれば名誉毀損の対象となり得ます。
SNS上で誹謗中傷をしたケース
本事例は、インターネットという公共の場で行われた誹謗中傷に関するものです。
背景
あるマンション管理組合の理事長が隣の土地で作業を行うA商店を題材にし、SNS上で過激な言葉を使用し名誉毀損について問われました。
誹謗中傷の内容
SNSには、以下のような内容が投稿されていました。
「A商店最期の日」という挑発的なタイトル。
「作業中の舞い散る粉じんで窓は開けられず、重機の騒音でテレビも聞こえない」
「窓やバルコニー、駐車場の車は砂だらけで迷惑この上ない」
こうした投稿は、事業者であるA商店に対して非常に否定的なイメージを投げかけるものであり、A商店の社会的評価を著しく損なうものでした。
慰謝料が認められた主な理由
SNSの投稿はインターネット上に公開され、不特定多数の人がアクセス可能な状態でした。
また、SNS上で投稿された内容が事実として提示されており、これが真実であるかのように公表されています。
最終的に、投稿された内容と、管理組合の理事上という影響の大きさを鑑み、慰謝料の支払いが命じられています。
このケースは、インターネット上の言論がどれだけ広範囲に及ぶ影響を持つのか、そして、法的な責任を伴うことを示す事例となりました。
ご近所内で誹謗中傷をしたケース
本事例は、日常生活の中で誹謗中傷がどのように法的な問題に発展するかを示すものです。
背景
被害者の近隣に住んでいた3人の主婦らは、偽りの情報や侮辱的な意見を近所で広めました。
この言動により、被害者の評判は地域内で著しく低下し、最終的には職を失うことになります。
耐え難くなった被害者は、家族と共に引っ越しを余儀なくされます。
誹謗中傷の内容
3人の主婦らは、以下のような内容を近所に言いふらしていました。
「あのご家庭、旦那が年下女性と浮気しているらしい」
「奥さんも同じように職場で不倫、ダブル不倫だって」
「けがらわしいから早く消えてほしい」
こうした悪口は地域に広まり、被害者は外に出るのが苦痛になってしまいました。
慰謝料が認められた主な理由
3人の主婦らの心無い言葉は、虚偽の情報であるにも関わらず、まるで事実であるかのように広められ、社会的評価の低下を引き起こしました。
結果として、被害者が職を失い、さらに住む家を変える羽目になっています。
被害者の負った心の傷は多大なものであったことも含め、慰謝料の支払いが命じられています。
誹謗中傷発生~慰謝料請求までの流れと手順
誹謗中傷された時、どのように慰謝料請求すればいいのでしょうか?
誹謗中傷を受けた場合、被害者が取るべき具体的な手順の流れは以下のとおりです。
発信者情報開示請求
誹謗中傷してきた相手がインターネット上であったため特定できない、という場合は、「発信者情報開示請求」を行う必要があります。
具体的には、IPアドレスの開示を求めるところからはじまります。
誹謗中傷がインターネット上で行われた場合、まずはその発信源となるIPアドレスの開示をサイト運営者に要求します。
IPアドレスは、オンライン上の活動を特定するための「デジタル住所」とも言えるものです。
サイト運営者からIPアドレスを取得した後、そのIPアドレスを提供しているインターネットサービスプロバイダー(ISP)に対して、具体的な契約者情報の開示を請求します。
場合によっては、法的手続きを用いるなどし、裁判所から開示命令を出してもらうことで、誹謗中傷してきた相手の詳細な情報を手に入れることができます。
慰謝料請求
相手が特定できた(できている)のであれば、次は慰謝料請求を行います。
慰謝料請求については、一般的には内容証明郵便を用いる方法で行われます。
内容証明郵便とは、郵便局に発送した書面の内容を証明してもらうという方法で、最終的に裁判へと移行した際に、裁判所へ証拠として提出できる書面となります。
示談交渉
相手に慰謝料請求をしたからといって、相手が支払いに応じるとは限りません。
その場合は、直接または弁護士を通じて相手との示談交渉を行います。
この段階で、双方の合意に基づく示談により慰謝料が決定されることが多いです。
裁判
示談がなかなか成立しない場合は、裁判を起こすしかありません。
しかし、裁判には時間と費用がかかるため、そのメリットとデメリットをしっかりと考慮した上で進める必要があります。
裁判を検討する際は、得られる可能性のある額と、かかる時間、及び費用のバランスについてしっかり考慮した上で、判断するようにしてください。
誹謗中傷による慰謝料請求時の注意点
慰謝料請求する際に何か注意すべきことはありますか?
誹謗中傷による慰謝料請求は、ただ単に請求するだけではなく、様々な問題が伴うことに留意すべきです。
以下では、慰謝料請求時の5つの注意点をまとめてみました。
時効を確認すること
慰謝料請求には時効があり、誹謗中傷を知ったとき、または被害者が加害者を知った時から3年間と定められています。
この期間を過ぎると、慰謝料を請求する権利が失われるため注意が必要です。
相手の状況を考慮すること
慰謝料を請求する前に、誹謗中傷を行った人物を特定することが必須です。
となれば、発信者情報の開示を求める手続きが必須であり、情報が消失しないうちに迅速な行動が求められます。
しかし、たとえ相手を特定できたとしても、相手に十分な資力がなければ、慰謝料を受け取ることは困難です。
相手の資金状況を把握することも重要なポイントの1つです。
警察の介入は期待できないこと
誹謗中傷による慰謝料請求は民事事件であり、警察は介入しません。
刑事訴追を求める場合は、別途警察に告訴する必要がありますが、これは慰謝料請求とは直接関連しないため、別物として考える必要があります。
慰謝料は多額になりにくいこと
誹謗中傷による慰謝料の金額は、一般的に高額とはいえません。
前述したとおり10~50万円程度で、内容によっては10万円を下回るケースもめずらしくはありません。
これに対して、弁護士費用などの出費を考慮すると、手元に残る金額はほとんどなく、費用倒れの可能性は常に念頭に置くべきです。
とにかく労力がかかること
特にインターネット上での誹謗中傷の慰謝料請求の場合、相手を特定するところからはじめなければなりません。
また、相手がはじめから特定できていたとしても、その後は慰謝料請求、示談交渉とスムーズに進まない要因がいくつもあります。
最終的には裁判も見据える必要があり、とにかく労力がかかる手続きであるということに留意しましょう。
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まとめ
誹謗中傷を受けた際、慰謝料請求することは可能です。
しかし、そのためには公然性、事実の摘示、名誉を毀損する内容といった条件を満たす必要があります。
また、慰謝料の相場はケースにより若干異なるものの、決して高額とはいえません。
内容次第で高額になることもありますが、慰謝料請求するとなれば、時効や相手の経済状況、費用や労力がかかることを踏まえた上、慎重に判断する必要があります。
もし、誹謗中傷事件の対処でお悩みであれば、弁護士への相談からはじめてみましょう。
あらかじめ、弁護士保険などで、今後の様々なリスクに備えておくことをおすすめします。
東 拓治 弁護士
福岡県弁護士会所属
あずま綜合法律事務所
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【弁護士活動20年】
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