正社員を解雇(クビに)するには?条件と手続きを解説

「正社員を簡単に解雇することはできない」と聞いたことがある企業の代表や人事担当者の方は、多いのではないでしょうか。

しかし、実際には正社員の解雇が認められるケースはあります。

この記事では、正社員の解雇に関する法的な条件や、よくある疑問について詳しく解説していきます。

解雇権濫用法理や試用期間中の扱い、退職金の取り扱いなど、人事管理に欠かせない重要なポイントを分かりやすく解説していきます。

従業員の雇用について悩みを抱える経営者や人事担当者の方は、ぜひ参考にしていただけると幸いです。

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目次

正社員は解雇(クビに)できないと言われる理由

確かに、一度正社員になってしまえば簡単にはやめさせられなくなるという風潮がありますよね。

弁護士

正社員を簡単に解雇できない理由の一つに、日本の雇用制度と労働法の特徴が挙げられます。

多くの会社・従業員の中で終身雇用の考え方が根付いており、正社員は長期的な雇用関係を前提としています。

また、雇用の安定性を重視する社会通念、労働組合の存在、解雇が労働者の生活に与える影響への配慮なども要因です。

これらにより、正社員の解雇は最後の手段として位置づけられています。

そして、法律上においても正社員の解雇は厳しく規制されています。

後述しますが、労働契約法第16条は、解雇権濫用法理を定め、「客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当でない解雇を無効」としています。

また、労働基準法第19条では、業務上の傷病による休業期間とその後30日間、産前産後の休業期間とその後30日間の解雇を禁止しています。

さらに、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法なども特定状況下での解雇を禁止しています。

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このように、様々な法律によって正社員を解雇することはハードルが高くなっています。

解雇されにくくなるおかげで日々の安心が得られる、ということですね。

しかしながら、「正社員を一切解雇できない」という法律はないので、正社員の解雇が全く不可能、というわけではありません。

法律上解雇が許されないパターン

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上記でも簡単に触れましたが、特定の条件下で解雇を禁止する法律がいくつかあります。

法律違反にならないように、しっかりと確認する必要がありますね。

労働基準法19条

労働基準法19条は、業務上の傷病による休業期間とその後30日間、および女性の産前産後休業期間とその後30日間の解雇を禁止しています。

これらの期間中は、従業員に懲戒解雇事由に該当するような重大な非違行為があっても、原則として解雇することはできません。

ただし、天災等のやむを得ない事由で事業継続が不可能になった場合や、企業側が補償を支払った場合は例外とされています。

男女雇用機会均等法による解雇禁止

男女雇用機会均等法第9条では、妊娠中~出産後1年以内の女性労働者を解雇する場合には事業主が「妊娠・出産等を解雇の理由とするものでない」ことを立証できなければ、解雇を無効としています。

また、女性労働者の結婚を理由とした解雇も禁止しています。

これらに違反した場合、指導や勧告対象となる可能性があり、これに従わない場合には最大で20万円の過料が科される場合もあります。

労働組合法による解雇禁止

労働組合とは
労働者が主体の、労働における賃金・労働時間などの条件の維持改善を目的とした団体のこと

労働組合法では、労働組合への加入や正当な組合活動を理由とする解雇が禁止されています。

国籍・信条・社会的身分による差別的解雇の禁止

労働基準法第3条は、労働者の国籍、信条、または社会的身分を理由とする差別的な取り扱いを禁止しています。

これらを理由とする解雇は、明らかに法に違反しており到底受け入れられるものではありません。

雇用における平等と公平性を守るため、企業はこの点に特に注意を払う必要があります。

内部告発者保護法による解雇の制限

公益通報者保護法により、従業員が法令違反行為を通報したことを理由として解雇することは禁止されています。

この法律は、企業の不正を防止し、社会の健全性を維持するために重要な役割を果たしています。

内部告発を理由に解雇された場合、その解雇は無効となりますので注意が必要です。

育児・介護休業法による解雇の制限

育児・介護休業法は、従業員が育児休業や介護休業を申請したこと、または取得したことを理由とする解雇を禁止しています。

この法律は、仕事と家庭の両立を支援し、従業員の権利を守るために設けられています。

育児や介護のための休業を理由に解雇することは、明らかに違法となりますので注意しましょう。

正社員をクビにするには?解雇するための条件

正社員の解雇は、法律上で厳しく規制されているんですね。

弁護士

正社員を解雇するには、解雇をするに至る条件を満たす必要があります。

この条件を満たさない場合、解雇は無効となる可能性が高く、会社側には大きなリスクが生じる可能性も少なくありません。

①合理性・相当性

解雇が認められるためには、客観的にみて合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められることが必要です。

これは労働契約法第16条に明記されている「解雇権濫用法理」の核心部分です。

客観的に合理的な理由とは、第三者から見ても解雇が妥当だと判断できるような理由を指します。

例:労働者の能力不足、規律違反行為、経営上の必要性で解雇が妥当であると判断

これらの理由のみでは理由として不十分なため、その内容などが解雇に値するほど重大であることが求められる。

社会通念上の相当性とは、一般的な常識に照らして解雇が適切であると判断されることを意味します。

これには、解雇に至るまでの経緯や手続きの適切さ、他の従業員との公平性なども含まれます。

例:問題のある従業員に対する対応の内容

  • まず口頭での注意や指導を行う。
  • 口頭での注意・指導で改善が見られない場合に書面での警告を行う。

このように、段階的な手順を踏んでいくことが必要。

②就業規則に基づく手続きの遵守

解雇を行う際には、就業規則に定められた手続きを厳密に遵守することが重要です。

多くの会社の就業規則には、解雇事由や懲戒処分の種類、その適用手順などが明記されています。

例えば、懲戒解雇の場合、就業規則で定められた懲戒委員会の開催や、本人への弁明の機会を与えるなどの手続きを踏むことが必要です。

これらの手続きを遵守せずに解雇を行った場合、たとえ解雇理由自体に正当性があったとしても、解雇が無効となる可能性があります。

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特に、懲戒解雇のような重い処分を行う場合は、より慎重な手続きが求められます。

また、就業規則自体が適切に作成され、従業員に周知されていることも重要です。

就業規則が従業員に周知されていない場合、その規定に基づく解雇が無効とされる可能性があります。

③解雇予告または解雇予告手当の支払い

労働基準法第20条は、使用者が労働者を解雇する場合、少なくとも30日前に予告をするか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うことを義務付けています。

この規定は、突然の解雇から労働者を保護し、新たな職を探す時間的余裕を与えるためのものです。

解雇予告の期間は、解雇日の30日前から開始する必要があります。

例えば、6月30日付けで解雇をする場合、遅くとも5月31日までに予告を行わなければなりません。

また、予告期間を短縮する場合は、短縮した日数分の平均賃金を支払う必要があります。

例えば、10日前に解雇予告をした場合、足りない20日分の平均賃金を支払わなければなりません。

ただし、天災その他やむを得ない事由で事業の継続が不可能になった場合や、労働者としての責任を問うべき理由で解雇する場合で、労働基準監督署長の認定を受けた場合は、予告や予告手当なしに即時解雇が可能です。

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しかし、この認定を受けるハードルは高く、安易に適用することはできません。

よくある解雇理由と解雇が認められる条件

弁護士

正社員の解雇は法律で厳しく規制されていますが、一定の条件を満たせば認められる場合があります。

解雇を検討する際は、様々な条件を慎重に検討し、適切な手続きを踏むことが重要ということですね。

能力不足

能力不足を理由とする解雇は、単に期待した成果が出ていないだけでは認められません。

  1. 能力不足が客観的に明らかで、労働契約の継続が困難なほど重大であること
  2. 会社が従業員に改善の機会を十分に与え、指導や教育を行ったにもかかわらず、改善が見られないこと
  3. 今後も改善の見込みが低いこと

特に長期勤続の正社員の場合、より厳格な基準が適用されます。

例えば、その能力不足が企業経営や運営に実際に支障や損害を与えている、または重大な損害を与える恐れがあるほどでなければなりません。

また、配置転換などの代替措置を検討したが困難であることも示す必要があります。

能力不足の判断は、同じ職位の他の従業員との比較や、客観的な業績指標を用いて行うことが重要です。

また、指導や教育の内容、頻度、期間などを記録し、改善の機会を十分に与えたことを証明できるようにしておくことが望ましいでしょう。

業務態度・協調性不足

業務態度の悪さや協調性の欠如も、一定の条件を満たせば解雇理由となり得ます。

  1. 協調性不足により、具体的な業務上の支障が生じていること
  2. 会社が改善のための指導や機会を十分に与えたにもかかわらず、改善が見られないこと
  3. 他の従業員との均衡を考慮しても、解雇が妥当と判断されること

協調性不足による解雇が認められるものとしては、会社の業種、従業員の地位、協調性不足の具体的な内容や程度、それによる具体的な支障の有無や程度などを総合的に考慮して判断されます。

例えば、チームワークが特に重要な職種であれば、協調性の欠如がより重大な問題として扱われる可能性があります。

また、単に性格の不一致というだけでは不十分で、具体的な業務上の支障が生じていることを示す必要があります。

その理由の一端として、チーム内のコミュニケーション不足によるプロジェクトの遅延や、顧客とのトラブルの頻発などが挙げられます。

改善のための取り組みとして、個別面談、研修への参加、メンター制度の導入などを行い、その経過と結果を記録しておくことが重要です。

※メンター制度とは…経験の浅い社員や新入社員に対して、業務の進め方やキャリアの形成に関するアドバイスやサポートを行う仕組み

無断欠勤

無断欠勤は、一定の条件下で解雇理由となり得ます。

  1. 無断欠勤が相当期間(目安として2週間以上)続いていること
  2. 会社が出勤を督促しても応じないこと
  3. 無断欠勤の原因が従業員の責めに帰すべき事由であること

無断欠勤の解雇有効性は、欠勤の回数・期間・程度、正当な理由の有無、業務への支障の程度、会社からの注意・指導・教育の状況、本人の改善の見込みや反省の度合い、過去の非行歴や勤務成績なども考慮されます。

例えば、2週間程度の無断欠勤で即座に解雇するのは難しいかもしれませんが、度重なる無断欠勤や、長期間にわたる無断欠勤で、会社からの連絡にも応じない場合は、解雇が正当化される可能性が高くなります。

ただし、無断欠勤の背景に従業員のメンタルヘルスの問題や、職場でのハラスメントなどがある場合は、慎重な対応が必要です。

会社は、従業員の状況を確認し、必要に応じて産業医との面談や、カウンセリングの機会を提供するなどの対応を検討しましょう。

経営不振による整理解雇

会社の経営状況悪化による解雇(整理解雇)は、以下の4つの要件を満たす必要があります。

  1. 人員削減の経営上の必要性があること
  2. 解雇回避のための相当の努力を行ったこと
  3. 被解雇者の選定基準が合理的であること
  4. 労働者や労働組合との協議など、解雇の手続きが適切であること

経営不振による解雇は、労働者に落ち度がないため、特に慎重な判断が求められます。

会社は、残業の削減や一時帰休の実施、希望退職の募集など、解雇以外の手段を尽くしたことを示す必要があります。

人員削減の必要性については、単に一時的な業績悪化だけでなく、会社の存続に関わるような深刻な経営状況であることを示す必要があります。

財務諸表や経営計画などの客観的な資料を用いて、人員削減の必要性を説明できるようにしておくことが重要です。

解雇回避努力としては、役員報酬のカット、従業員の賃金削減、新規採用の停止、配置転換、グループ会社への出向など、様々な選択肢を検討したことを示す必要があります。

被解雇者の選定基準は、年齢、勤続年数、職能、世帯の状況などを考慮し、公平で合理的なものでなければなりませんし、選定過程の透明性も重要です。

労働者や労働組合との協議については、経営状況の説明、人員削減の必要性、解雇回避努力の内容、被解雇者の選定基準などについて、十分な説明と協議を行ったことを示す必要があります。

解雇する場合も退職金を支払う必要がある?

よく「解雇の場合は退職金は払わなくていい」と言われますが、実際はどうなんでしょうか?

弁護士

解雇の際の退職金支払いについては、一律に「必要」または「不要」と断言することはできません。
会社の退職金規程や解雇の種類、状況によって判断が分かれます。

通常「退職金」と「特別退職金」の2種類があり、それぞれ異なる取り扱いがなされます。

通常退職金について

通常退職金とは
会社の退職金規程に基づいて支給される退職金のこと

解雇の場合でも、原則として通常退職金を支払う必要がありますが、懲戒解雇の場合は例外となることがあります。

退職金の支給は法律で義務付けられているわけではなく、各会社の規程によって決められています。

多くの会社では、解雇の場合を会社都合退職として扱い、自己都合退職よりも退職金の支給額を増額する制度設計をしています。

これは、突然の解雇によって従業員が被る不利益を軽減するための配慮と言えます。

一方、懲戒解雇の場合は、多くの会社で退職金の不支給や減額を規定しています。

しかし、裁判例では、就業規則に定めた不支給事由に該当する場合でも、退職者に著しい背信行為があったと認められる場合に限って退職金の不支給を認める傾向にあります。

弁護士

つまり、懲戒解雇だからといって、自動的に退職金が支給されないわけではありません。

重要なのは、退職金規程の内容と、その規程が従業員に適切に周知されているかどうかです。

退職金規程が明確に定められ、従業員に周知されていない場合、解雇時に退職金の支給を拒否することは難しくなります。

特別退職金について

特別退職金とは
通常の退職金制度とは別に、会社が任意に支払う退職金のこと

これは主に、退職勧奨の際や解雇の無効を争われた場合に、労働者を説得する材料として提案されることが多いものです。

特別退職金の相場は、一般的に賃金の3ヶ月分から6ヶ月分程度とされていますが、事案によっては支給されないこともあれば、1年分以上となることもあります。

これは、個別の状況や交渉の結果によって大きく変動します。

特別退職金は法的な支払い義務があるものではありませんが、円満な退職や紛争解決のための重要な交渉材料となります。

例えば、会社の経営状況悪化による整理解雇の場合、特別退職金の支給を提案することで、従業員の理解を得やすくなることがあります。

また、不当解雇として訴訟になった場合でも、和解交渉の中で特別退職金の支給が話し合われることがあります。

この場合、特別退職金は、解雇の無効を認めつつも労働契約を終了させる代わりの補償金的な性質を持つことになります。

特別退職金の金額や支給条件は、個別の交渉によって決められるため、労使双方が納得できる条件を探ることが重要です。

弁護士

特別退職金を支給する場合は、通常の退職金との関係税務上の取り扱いにも注意が必要です。

まとめ

正社員の解雇は、法律によって厳しく規制されています。

解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。

また、解雇回避努力や適切な手続きも重要です。

ただし、能力不足や重大な非行など、一定の条件を満たせば解雇は可能です。

退職金については、「通常退職金」と「特別退職金」があり、支払いの要否は状況によって異なります。

解雇を検討する際は、法的リスクを十分に考慮し、専門家に相談しながら進めていくことが大切です。

弁護士

畝岡 遼太郎 弁護士

大阪弁護士会所属

 

西村隆志法律事務所

大阪市北区西天満2丁目6番8号 堂島ビルヂング501号
TEL:06-6367-5454

ひとりひとりに真摯に向き合い、事件解決に向け取り組んでます。気軽にご相談が聞けて、迅速に対応できる弁護士であり続けたいと考えております。 

※事前予約いただければ平日夜間や土日にも対応可能です。

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