就業規則は変更できる?!変更手続と注意すべき5つのポイントを解説

「先代から事業を受け継いだが、就業規則が創業当時のままで、法改正や現状に対応しきれていない」

「コロナ禍によってテレワークが主体となる働き方に変化し、従来の就業規則では対応しきれなくなった」

このようなケースでは、会社の就業規則の変更を検討する必要があります。

就業規則は、労働者の労働環境などを定めるものであると同時に、トラブルになったときに会社を守ることができる根拠にもなりえます。

そのため会社側にとっても、就業規則を変更して、いざというときに困ることのないように整備しておく必要性があります。

本記事では、就業規則の変更について、変更手続と注意すべき5つのポイントを解説していきます。

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目次

就業規則とは

そもそも就業規則とは、どのようなものなのでしょうか。

就業規則とは

就業規則とは、労働時間や賃金などの労働条件や職場の服務規律などを定めた書面のことをいいます。

いわば、会社内で守るべきルールを明らかにしている書面といえます。

就業規則は、労働者にとっては、労働条件等が明確になるなど安心して働くことにつながる役割を果たします。

また、会社にとっては、労働者とのトラブルを未然に防いだりトラブルを解決する根拠になったりするなど、会社を守る役割を果たします。

就業規則の作成義務

労働基準法では、“常時10人以上”の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成して行政官庁に届け出る必要があることを規定しています。

“常時10人以上”とは、10名以上の正社員がいるときだけでなく、正社員とパートタイム・アルバイトの合計が10名以上であるときも含まれます。

なお、常時使用する労働者が10名未満の事業場には、就業規則の作成義務は課せられていませんが、労使ともにメリットがあるので、できるだけ作成した方がのぞましいといえます。

就業規則は変更できる?

就業規則の作成後、法改正や労働条件の見直しなどがあれば、就業規則の内容と実態が異なってくる可能性があります。

しかし、就業規則を変更することについては、

  • 「一旦定めた社内ルールを変更することができるのか」
  • 「変更できるとしても、複雑な手続きが必要になるのではないか」

といった心配をされる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、就業規則の変更は、一定の手続きを踏むことによって、比較的容易に行うことが可能です。

したがって、会社としては、出来る限り実態にそくした就業規則に変更・更新することがのぞましいといえます。

就業規則変更までの4ステップ

就業規則を変更するためには、次の4ステップを経る必要があります。

1. 就業規則変更案の検討・作成

就業規則の変更手続きにおいては、まず会社側で変更点を明らかにし、変更案を作成する必要があります

変更後の内容は、会社の実態にそくした内容で、法令や労働協約に違反しないものにしなければなりません。

なお、会社が就業規則を変更する際には、労働基準法によって、“労働者の代表”の“意見を聴かなければならない”と定められています。

労働者の代表とは、「労働組合(労働者の過半数で組織する労働組合がある場合)」または「労働者の過半数を代表する者(労働者の過半数で組織する労働組合がない場合)」をいいます。

“労働者の過半数を代表する者”は、事業場の労働者全員の意思に基づいて選出された者をいいます。

具体的には、投票や挙手などの方法で過半数の労働者の支持を得た者であって、管理監督する地位(労働条件を管理する労務部長など)ではない者が該当します。

また、“意見を聴かなければならない”とは、意見を求めなければならないという意味です。

労働者の同意を得なければならない、反対意見を説得しなければならない、ということではありません。

2. 労働基準監督署への提出書類を準備(変更届・意見書)

就業規則の変更案が作成できたら、労働基準監督署(以下「労基署」とします)に提出するための書類を準備します。

具体的には、「就業規則変更届」と労働者の代表者の署名または記名押印のある「意見書」を作成・準備します。

様式については、特に指定はありませんが、労働局のホームページなどからダウンロードできる様式を使用するとよいでしょう。

3. 労基署に就業規則変更の届出

提出書類が作成できたら、本店、支店などの事業場ごとに、それぞれの所在地を管轄する労基署に書類を提出して届出を行います。

4. 労働者への周知

就業規則の変更は、労働者の労働条件や職場で守るべき規律などについて、会社側が手続を進めます

そのため、労働者の知らない間に就業規則が変更されていた、などといったことのないように、会社には、変更内容などを労働者に周知する義務が課されています。

具体的には、会社は、変更後の就業規則について、労働者が就業規則をいつでも見られる状態にしておく必要があります。

たとえば、就業規則を全員に配布する、職場の見やすい場所に掲示したり備え付けたりする、変更後の就業規則を会社のPCで確認できるようにしておく、などといった対応が考えられます。

従業員に不利益になる変更はできる?

たとえば基本給の引き下げなど、労働者の不利益になる変更について、就業規則を変更することによって対応することも可能なのでしょうか。

労働契約法では、労働者と合意することなく就業規則を変更し、労働条件を不利益な内容に変更することはできないと定めています。

ただし、就業規則の変更が「合理的」であれば、不利益変更も認められる可能性はあります。

第四銀行事件(最高裁平9.2.28)では、就業規則の不利益変更については、不利益を労働者に受任させることを許容しうる高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合に、その効力を生じるとしています。

つまり、就業規則の不利益変更は基本的にはできませんが、その変更が合理的と判断できる場合には、例外的に有効になりうるといえます。

就業規則の変更で注意すべき5つのポイント

では、最後に、就業規則の変更で注意すべき5つのポイントをみていきましょう。

① 出来る限り労働者の合意を得る

就業規則の変更にあたり、労働者の代表の意見を聴く必要はありますが、同意や協議決定を得ることまでは要求されていません。

そのため、労働者の代表が就業規則の変更内容に同意しない場合でも、その他の要件を満たしていれば、就業規則を変更することはできてしまいます。

しかし、法的にはそうであったとしても、労働条件などは、後日のトラブルを防ぐためにも労使対等の立場で決めることがのぞましいといえます。

そのため、労働者の意見を尊重し、出来る限り合意を得るようにすることが大切です。

② 不利益変更では合理性に注意する

労働者にとって不利益になる就業規則の変更を行う場合には、合理性が必要になるので、より慎重に検討した上で実施すべきといえます。

合理的な変更であるかどうかは、労働者が受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合などとの交渉の状況などといった就業規則変更の事情に照らして判断されます。

そのため、弁護士などの専門家に相談した上で、進めることが大切なポイントになります。

③ 就業規則変更の周知徹底が大切

周知義務を果たしていない場合には、就業規則の効力自体が争われる可能性もあります。

たとえば、フジ興産事件(最高裁平15.10.10)では、周知義務を欠いた就業規則を根拠として行われた懲戒解雇の有効性が争われました。

本事件の判決では、就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きがとられていることを要するものというべき、しています。

つまり、就業規則を変更しても、会社が周知義務を果たしていなければ、(労働者に)有効に(適用)できない可能性があるということです。

なお、「周知」は、実質的に判断されるものであって、労働者が実際に知っていたかどうかは問題(ではなく、)労働者が知りうる状態になっていたかどうかで判断されます。

④ 基本的に事業場ごとに変更手続きが必要

就業規則の変更は、本店、支店などの事業場ごとに、それぞれの所在地を管轄する労基署に書類を提出して届け出る必要があります。

なお、本社の管轄によっては、本社の就業規則と本社以外の事業場の就業規則が、変更前の内容と変更後の内容が同じ場合には、本社で一括して届出をする「一括届出」も認められています。

就業規則の一括届出について(東京労働局・労働基準監督署)

複数の支店があるような場合には、本社を管轄する労基署に問い合わせて、一括届出できるかどうかを確認するとよいでしょう。

⑤ 労働基準法の罰則に注意する

就業規則の作成および届出の義務、就業規則の作成または変更についての意見聴取、周知義務に違反した場合には、労働基準法によって30万円以下の罰金に処される可能性があります。

会社としては、これらの義務違反などによって罰則を課されることは、対外的・対内的信用の低下などにつながる可能性もあるため、回避すべきといえます。

そのため、就業規則変更の手続きは、適切に進める必要があります。

まとめ

本記事では、就業規則の変更について、変更手続と注意すべき5つのポイントを解説していきました。

就業規則の変更は、まず、変更案を作成して、労働者の代表に意見を聴く手続きを行います。そして、就業規則変更届と意見書を準備して、管轄の労基署に提出し、従業員にも周知することによって完了します。

なお、就業規則の変更手続きにおいては、合理性の有無や周知の有無などをめぐり、トラブルになることも少なくありません。

このようなトラブルを回避するためにも、就業規則の変更については、弁護士に相談しながら進めることがおすすめです。

事前に弁護士保険へご加入いただくこともオススメします。

弁護士
東拓治弁護士

東 拓治 弁護士
 
福岡県弁護士会所属
あずま綜合法律事務所
福岡県福岡市中央区赤坂1丁目16番13号上ノ橋ビル3階
電話 092-711-1822

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