グルーミング(チャイルドグルーミング)とは、性的な接触を図る目的で大人が子どもを手なずけることを指します
グルーミングは直接的な性被害につながる恐れが高いことから、グルーミングを規制する法律の整備が進められつつあります。
保護者としては、グルーミングが起こりやすい状況から子どもを遠ざけたり、直接的な性被害に至る前の段階で介入したりすることが求められます。
このコラムでは、グルーミングの基本的な意味と、加害者が子どもに接触する方法、グルーミングの手口、法律・刑罰上の位置づけ、グルーミングの予防対策や被害にあった場合の対処法について、くわしく解説していきます。
記事に入る前に・・・
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グルーミング(チャイルドグルーミング)とは
グルーミングとは、最終的に性的行為に及ぶことを目的として、子どもとの信頼関係を構築するための行動をとることを言います。
グルーミングの加害者は、子どもにいきなり手を出すのではなく、子どもを手なずけて愛着を引き出し、特別な信頼関係を構築してから、性犯罪・性的虐待に及びます。
被害者は女児に限らず、男児にも同様の危険があります。
加害者は被害者にとってもともと身近な相手であるケースが少なくありません。
グルーミングという言葉は、もともとは動物の「毛繕い・身繕い」を指します。
人間が自分のために行う「身だしなみ」も一種のグルーミングで、最近ではビジネスパーソンにとって有用な広い意味での身だしなみをグルーミングと呼ぶことがあります。
サルが体についたノミを取り合ったり、猫が毛をなめ合ったりするように、互いにグルーミング(毛繕い)をし合うことは、社会的な関係を構築・維持する上で重要な働きを持ちます。
人間の場合、髪をとかす、背中をかくといった直接的な行為だけでなく、悩みを親身に聞く、雑談で打ち解ける、秘密を共有する、親愛の情を言葉やスキンシップで表現する、プレゼントやSNSの「いいね」を送る、といった行為も、グルーミングに当たります。
性的グルーミング(チャイルドグルーミング)でも、加害者はそうした間接的な行為を通して子どもからの信頼を獲得した上で、直接的な性行動に及びます。
なお、性的グルーミングという用語は主に被害者が子どものケースで使われますが、同様の行為は大人の被害者に対してもしばしば行われます(DVを伴う恋愛関係に至るケースなど)。
グルーミングの加害者と被害者の関係性・接点
グルーミングの加害者と被害者の関係性・接点(出会い方)には主に以下の3パターンがあります。
- 普段から子どもに接している人物(家族の知人、近所でよく挨拶を交わす人、教員、保育士、習い事の教師・インストラクター、地域行事の参加者など)が子どもとの距離を縮めていくパターン
- 見知らぬ人が公園などで声かけから接近するパターン
- SNSなど、インターネットを介して近づくパターン(オンライン・グルーミング)
➊は、加害者となる人物が子ども自身や周囲の大人からすでにある程度の信頼を得ていることが多く、普段から自分以外に大人がいない状況で子どもと接する機会があったりするため、グルーミングが発生しやすく、周囲がそれに気づきにくく、被害が発生しても子どもが保護者などに打ち明けづらいという特徴があります。
❷は、未知の人物が遊んでいる子どもや何かで困っているような子どもに自然な感じを装って話しかけ、徐々に仲良くなっていくパターンです。
グルーミングを行う人物はいきなり性的な行為やしつこい振る舞いに出るのではなく、善良そうな人物として近づいてくるので、「不審人物」として認識されにくいという問題点があります。
❸は、SNSを通して子どもの悩みを親身に聞くふりをするなどして手なずけ、直接会う約束を取り付けて、性的な接触を図るパターンです。
グルーミングの手口
グルーミングには多種多様なケースが存在しますが、加害者の行動にはかなり共通したパターンが見られます。
(1)グルーミングしやすい機会・立場を手に入れる
グルーミングの加害者は周囲の大人から信頼できる人物と見なされるように振る舞い、自分が子どもと二人きりになっても不審に思われない状況を作りだし、実際に二人きりになる機会を増やそうとします。
また、多くの子どもと接する職業についたり、地域の行事・イベントに度々参加して子どもの面倒を見る役割を引き受けたりして、グルーミングを行いやすい立場を積極的に手に入れようとする加害者も少なくありません。
(2)グルーミングしやすい子どもを選ぶ
加害者は「善良な大人」として複数の子どもと接しながら、社会的に容認される範囲の会話やスキンシップを通して、手なずけやすそうな子どもとそうでない子どもを選り分けます。
(3)全面的に子どもの味方の振りをして特別な関係を作り出す
加害者は親密な関係を構築するため、被害者となる子どもに対して非常に親切な態度をとります。
子どものたわいのない話にも共感を示し、悩みごとを親身な態度で聞き、相手を全面的に承認・肯定し、子どもに安心感や特別感を抱かせ、自らを「特別な、信頼できる大人」と思わせて、個人的なつながりを深めていきます。
(4)子どもを自分に依存させる
加害者である大人が子どもにとって特別な存在になると、その大人に「もっと評価されたい」「もっとかわいがられたい」「嫌われたくない」「怒られたくない」といった気持ちが子どものなかに生じます。
場合によっては恋愛感情が生じることもあります。
そのような気持ちにとらわれた結果、加害者に依存してしまい、加害者が度を超した行為に出ても受け入れてしまったり、そもそも被害感情を抱かなかったりするケースが少なくありません。
加害者は「親切な大人」としてそうした依存関係を作り出し、子どもの困惑や恥の感覚も利用して子どもを孤立させ、自分への依存を強め、支配力を高めていきます。
グルーミングはどのような罪になるのか
グルーミングの段階でわいせつ目的かどうかを判断することは難しいため、グルーミングを全体的に取り締まる法律は今のところ存在しませんが、2023年の刑法改正ではグルーミング行為の一部が規制対象となり、さらに法規制を進めようとする動きもあります。
ここでは、グルーミングに関する法規制について、国内外の状況をまとめます。
グルーミングに関連した刑法改正の内容
グルーミングも視野に入れ、性犯罪に至る前段階の行為を規制対象とする刑法改正が行われました
(参照:性犯罪関係の法改正等Q&A|法務省)。
「16歳未満の子ども」に対して以下の行為をした場合、「面会要求等の罪」が成立します。
*ただし、13歳~16歳の子どもに対しては行為者が5歳以上年長である場合に限られます。
- わいせつ目的で、「威迫・偽計・誘惑」「反復(断られても繰り返すこと)」「利益供与またはその申込み・約束」の手段で面会を要求する行為(1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)
- 1の結果、わいせつ目的で面会すること (2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)
- 性交時の姿や性的な部位を露出した姿などを撮影して送信することを要求する行為(1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)
「面会要求等の罪」は、わいせつ行為の実行が可能な場所・状況で会うことを求めたり、実際に会ったり、性的な画像・映像を送信することを求めたりするケースが対象です。
わいせつ目的で子どもと会話などの交流をしていても、そうした面会や送信を求めていない段階では、罪になりません。
つまり、グルーミングから性犯罪に進む境目の段階(グルーミングの最終段階)を取り締まる規定と言えます。
グルーミングを通して性的行為に及んだ場合の罪
グルーミングを通して実際に性的行為に及んだ場合や、画像・映像を送らせた場合、「不同意性交等罪(5年以上の有期懲役)」や「不同意わいせつ罪(6ヶ月以上10年以下の懲役)」が成立します。
これらは従来「強制性交等罪」「強制わいせつ罪」と呼ばれていましたが、要件と名称が改正されました。
なお、16歳未満の子どもに対する性行為・わいせつ行為(13歳~16歳の子どもの場合は行為者が5歳以上年長の場合)は、子どもの同意・不同意にかかわらず、すべて「強制性交等罪・強制わいせつ罪」になります。
従来は「13歳未満」が要件でしたが、年齢が引き上げられ、処罰対象が広がりました。
18歳未満の子どもに事実上の影響力を及ぼして淫行をするよう仕向けた場合、児童福祉法違反(「児童に淫行をさせる行為」)として罰せられます(10年以下の懲役または300万円以下の罰金)。
また、未成年との性行為は青少年保護育成条例違反(「みだらな性行為等」)となり、未成年の性的画像・映像の「製造」や「所持)、「第三者への提供」は児童ポルノ禁止法違反となります。
子どもに自らの性的画像・映像を撮影・送信させる行為も「製造」に当たります。
性犯罪の被害児童数とグルーミング規制に関する今後の動向
グルーミングと関係する犯罪・条例違反の被害者となった児童の数(令和2年の総計)は、以下のようになっています。
- 児童福祉法違反(「児童に淫行をさせる行為」) :152人
- 青少年保護育成条例違反(「みだらな性行為等」):1,000人
- 児童ポルノ禁止法違反 :1,320人
- SNSを通して強制性交・強制わいせつ・児童買春・児童ポルノ・淫行・みだらな性行為等の被害を受けた児童の数 :1,819人
参照:子どもの性被害|警視庁
グルーミングの段階で介入できれば、性犯罪の予防・抑止に効果的と考えられますが、えん罪の危険も大きいため、慎重に法整備を進める必要があります。
近年ではSNSを通した被害が注目されており、SNSは比較的証拠が残りやすいという特徴もあることから、オンラインでのグルーミングに対する規制が近い将来に拡大する可能性があります。
グルーミングに対する海外の法規制
参考までに、イギリスにおけるグルーミング関連の法規制を紹介しておきます。
イギリスでは、過去に何らかの形で顔を合わせたり連絡を取ったりしたことがある16歳未満の子どもと、性的行為に及ぶために故意に会ったり、会うための移動や準備をしたり、子ども側が加害者と会うために移動したりした場合、実際に性的行為がなされていなくても罪になります。
→正式起訴の場合、10年以下の拘禁刑。
面会を要求するケースだけが対象となっている日本の法律よりも、規制対象が広く取られていると言えます。
また、子どもとの間で性的活動に関するコミュニケーションを行った場合も、罪になります。
→正式起訴の場合、2年以下の拘禁刑。
性的な画像・映像の送信を求めるケースだけでなく、性的な会話を交わしたり、性的なメッセージを送りつけたり、子どもに性的なコミュニケーションを促したりする行為も処罰対象となっています。
グルーミングから子どもを守るためにできること
グルーミングの被害を予防するためには、保護者と子どもの間の信頼関係をベースにして、グルーミングが起こりにくい状況を作っていく必要があります。
(1)日頃からコミュニケーションを通して信頼に基づく親子関係を築いておく
保護者との間の距離感や、孤立感、孤独感を抱いている子どもほど、「自分を認めてくれる特別な大人」としてグルーミング加害者を信頼してしまう傾向があると言われています。
押しつけではなく、子どもの立場に立ったコミュニケーションを日頃から心がけ、信頼に基づく親子関係を築いておけば、グルーミング加害者のつけいる隙を小さくできます。
また、親子間のコミュニケーション関係が良好であれば、グルーミングで嫌な思いをしたり不審な行為を受けたりした場合に子どもが親に相談しやすく、親の方でも子どもの様子の変化に気づきやすくなり、性犯罪に至る前に介入するチャンスが大きくなります。
(2)グルーミングについての教育をしておく
グルーミングについて子どもに分かる言葉で説明し、グルーミングに当たる行為を受けた場合の対処法(現場での逃げ方、助けの求め方、相談先など)を伝えておきます。
これを効果的に行うには、(1)に述べたような関係が必要になるでしょう。
(3)大人と1対1になる状況をなるべく作らないようにする
グルーミング加害者は「いかにも不審者」のような人物ではなく、周囲の大人が問題なく付き合っている人物であることが多く、信頼できると思っていた知人が加害者となるケースすらあります。
かといって、すべての大人を不審者扱いするのは問題です。
グルーミングを予防するには、どんな相手であれ、子どもが大人と1対1になる機会をあまり作らないように、状況のほうをコントロールするのが有用です。
個々の親の努力ではどうにもできない状況もあるため、教育や地域活動などの現場において、大人同士が注意して、大人と子どもが1対1になるような状況を少なくするよう務めることが大切です。
(4)インターネットのフィルタリングサービスなどを利用する
子どもが利用する携帯電話・スマホ・PCなどにフィルタリングサービスを適用しておけば、オンライン・グルーミングの被害にあうリスクを小さくできます。
自分用の端末以外ではインターネットにアクセスしないよう、子どもに教育しておくことも重要です。
子どもがSNSを利用する場合、利用方法について子どもと十分に話し合った上で、子どものアカウント設定を親が管理するなどの対処をとるとよいでしょう。
もしも子どもがグルーミング被害にあってしまったら
まずはグルーミングや性被害の相談窓口に連絡し、専門家のサポートも受けながら被害者のケアを行います。その上で、加害者の責任を追及していきます。
(1)相談窓口への連絡
以下のような性暴力・人権侵害に関する相談窓口でグルーミングの相談を受け付けています。
相談窓口 | 対応内容 | 連絡先 |
---|---|---|
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター | 相談対応に加え、専門機関と連携して緊急避妊薬の処方、性感染症検査、証拠採取、心理的支援、警察署への同行、弁護士紹介などを行う | 電話:#8891 (はやくワンストップ) |
キュアタイム(Cure Time) | SNS(チャット)による相談 | https://curetime.jp |
性犯罪被害相談電話(警察の窓口) | 性犯罪・性暴力被害などの相談 | 電話:#9110 |
子どもの人権110番 (法務局の窓口) | 人権侵害に関する相談への対応に加え、関係期間と連携して被害児童の保護、被害救済などを行う | 電話:0120-007-110 |
(2)子どもへのケアを十分に行う
被害にあった子どもに対しては、被害に応じた心身のケアが必要になります。
まずは子どもの話を聞くことが必要です。その際、子どもの行動を責めたり、子どもの話を頭ごなしに否定したりすることは避けてください。
殻に閉じこもってしまい、必要な情報を聞き出しにくくなったり、ケアを素直に受け入れなくなったりする恐れがあります。
特に、直接的な性被害にあった子どもの場合、自責の念にとらわれているケースが多く、子ども自身を否定するような態度はさらに傷を深くしてしまいます。
根掘り葉掘り聞き出そうとすることもよくありません。
子どもの傷口を広げたり、無意識に誘導的な質問をして子どもの記憶を誤った記憶へと置き換えてしまったりすることがあります。
後者は「記憶の汚染」と呼ばれ、捜査・裁判を含め、今後の対応の障害になる恐れがあります。
親として聞き出す情報は「誰に何をされたか」といった最低限の情報にとどめ、子どもが自発的に話そうとしないことはそれ以上聞き出そうとせず、あとは専門家に任せた方がよいでしょう。
被害を受けたことで、子どもの行動や情緒に様々な変化が生じることがあります。
そうした変化もすべて受容する態度で受け入れ、専門家のサポートを受けながらケアしていくことが重要です。
(3)加害者と子どもが接触できないようにする
さらなるグルーミングや性被害が起こりかねない状況から子どもを引き離すため、加害者との連絡手段やSNSでのつながりを遮断したり、子どもが加害者と二人きりになることがないように十分に配慮したりする必要があります。
(4)証拠を取っておく
刑事告訴や民事訴訟の提起を考えている場合、被害の証拠を残しておく必要があります。
SNSで加害者と交わしたメッセージなど、加害者とのやり取りを示す証拠は廃棄・削除せずに保存しておきます。
直接的な性被害を受けた直後の場合、体や服に付着した加害者の体液などが重要な証拠となるため、そのままの状態ですぐに警察に連絡し、証拠の採取や避妊薬の投与、性感染症の検査などをしてもらってください。
(5)被害届提出・刑事告訴・損害賠償請求訴訟提起
性的暴行やわいせつ行為、わいせつ目的の面会要求、性的画像の送信要求など、犯罪に該当する事態が発生していると判断される場合、警察に通報して被害届提出や刑事告訴を行います。
性的被害を受けた場合や、性的行為には及ばなかったとしても子どもが心理的な傷などの被害を受けた場合、加害者に対して民事訴訟を提起して慰謝料などの損害賠償を請求することもできます。
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まとめ
グルーミングは被害者である子どもや周囲の大人からの信頼を隠れ蓑にして行われるため、被害者自身や周囲の大人が被害に気づくまでに時間がかかり、直接的な性被害に至ってしまう例が少なくありません。
グルーミングの予防や事後対応においては、保護者と子どもの間の信頼関係が大きな鍵を握ります。子どもとの間のコミュニケーションを見つめ直し、改善していくことが、グルーミング対策の第一歩と言えます。
その上で、必要に応じてセキュリティ関係の専門サービスや弁護士などの専門家の活用を検討してください。
あらかじめ、弁護士保険にご加入いただくこともオススメします。
木下慎也 弁護士
大阪弁護士会所属
弁護士法人ONE 代表弁護士
大阪市北区梅田1丁目1-3 大阪駅前第3ビル12階
06-4797-0905
弁護士として依頼者と十分に協議をしたうえで、可能な限り各人の希望、社会的立場、その依頼者らしい生き方などをしっかりと反映した柔軟な解決を図ることを心掛けている。
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