中小企業に必要な事業者保険とは?注意すべきリスクや対策を徹底解説

事業活動には様々なリスクがつきものです。リスクに対しては、顕在化(現実化)してから対応するよりも、事前に対応策を打っておいたほうが、損害の予防・軽減につながります。

そうした対応策の一つが事業者保険(事業保険)です。

事業者保険は損害保険の一種で、事業活動に伴う損害を補償します。

この記事では、中小企業(中小法人・個人事業主)の事業活動で発生しやすいリスクの種類や、リスク対策の実態、事業者保険の概要について解説します。

目次

中小企業に降りかかるリスク8つ

中小企業の事業活動において発生する主なリスクを以下の8つに分類してまとめます。

  • 企業財産損害のリスク
  • ハラスメント・不当解雇などよる損害賠償責任発生のリスク  
  • 事業中断・利益減少に関するリスク
  • 労災による補償金・損害賠償金支払いのリスク
  • 顧客・取引先への損害賠償責任発生のリスク
  • 社用車に関するリスク
  • レピュテーションリスク
  • 顧客・従業員の迷惑行為(カスハラ・バイトテロ)に関するリスク

①企業財産損害のリスク

火災や台風・落雷・地震などの自然災害によって企業財産(建物・設備・什器・商品など)が直接的に損害を被るリスクです。

具体的には以下のような事例があります。

  • 厨房からの出火で建物、設備、什器などが損壊した
  • 台風で社屋の据え付け看板が飛ばされて破損した
  • 地震で工場が半壊した

②ハラスメント・不当解雇などによる損害賠償責任発生のリスク

労働契約法第5条では、「使用者は労働契約に伴い労働者がその生命・身体などの安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をするものとする」と定められています(安全配慮義務)。

ハラスメントの防止対策や発生した場合の迅速・適切な対応も安全配慮義務の一つであり、この義務を怠ったことを理由としてハラスメント被害者から事業主・会社・取締役が損害賠償を請求されるケースがあります。

また、会社・事業主自身が従業員に対して不当に不利益な扱い(不当解雇、雇用上の差別など)をした場合、会社・事業主が直接的に損害賠償責任を負う恐れがあります。会社法429条に基づき、会社ではなく役員個人にも損害賠償責任が発生する場合があります。

具体的には以下のような事例があります。

  • パワハラで退職を余儀なくされた元従業員から安全配慮義務を怠ったとして訴えられ、代表取締役が慰謝料支払いを命じられた
  • 経営不振に伴う整理解雇が不当だとして元従業員から訴えられ、会社が慰謝料支払いを命じられた

③労災による補償金・損害賠償金支払いのリスク

業務中や通勤中に発生した従業員のケガ・病気・死亡が労災(労働災害)と認定されると、労災を被った従業員やその遺族に対し法律に基づき労災保険(政府労災保険)が給付されます。

政府労災保険の給付額は十分とは言えないことから、それに上乗せして法定外の労災補償金を支給する規定が、労働協約や就業規則で定められることがあります。

法定外補償の規定を設けている企業では、労災が発生した際に、法定給付額では不足する分の補償金を支払う義務が発生します。

また、企業の安全配慮義務違反が労災の要因であると裁判で認められれば、事業主や会社・役員に損害賠償責任が発生します。

具体的には以下のような事例があります。

  • 従業員が作業中に骨折して人工関節が必要な状態になり、労災による後遺障害が認定されたため、法定外補償規程に基づき当該従業員に補償金を支払うことになった
  • 長時間労働が要因となって病死した元従業員の家族に訴えられ、取締役が安全配慮義務違反により損害賠償を命じられた

④事業中断・利益減少に関するリスク

災害や事故などで休業を余儀なくされたり、取引先の影響で利益が減少したりするリスクです。

具体的には以下のような事例があります。

  • 厨房で火災が起き、建物修復・設備入れ替えのために休業した
  • 店内で食中毒が発生し、行政措置による営業停止で休業した
  • 地震で損壊した工場を復旧する(他に移転する)までの間、休業した
  • 取引先の資金繰り悪化・倒産により貸し倒れが起き、利益が減少した

⑤顧客・取引先への損害賠償責任発生のリスク

事業・業務を遂行するなかで、顧客や取引先などの第三者に身体的損害や経済的損失、精神的苦痛を生じさせたことにより、損害賠償責任が発生することがあります。

具体的な以下のような事例があります。

  • 店舗内の商品の積み上げ方に問題があり、商品が倒れて来店客にぶつかって骨折を生じさせたため、治療費や入院中の休業補償、慰謝料を支払う義務が生じた
  • 製造・販売した弁当により食中毒を生じさせたことで、治療費や慰謝料の支払いが必要になった
  • サイバー攻撃/過失(操作ミスや設定ミス)により個人情報が流出した結果、顧客(個人情報が流出した被害者)への損害賠償金、お詫び状送付費用、謝罪広告掲載費用、原因調査費用、コンピュータシステム停止による逸失利益が発生した

⑥社用車に関するリスク

社用車(法人・個人事業主が所有・使用する自動車)の事故などにより損害や賠償責任が発生するリスクです。

社用車運転中の事故で相手方に損害を与えた場合、民法715条(使用者責任)に基づき事業主・会社にも損害賠償責任が発生します。

また、人身事故の場合には自動車損害賠償保障法第3条(運行供用者責任)に基づく賠償責任も発生します。

具体的には以下のような事例があります。

  • 台風で社用車が水没し修理費用がかかった
  • 駐車中に社用車が盗まれた
  • 従業員が社用車運転中に事故を起こして相手方に重度の後遺障害を生じさせたため、使用者責任・運行供用者責任により会社に多額の損害賠償金の支払い義務が発生した

⑦レピュテーションリスク

何らかの出来事により企業の評判(レピュテーション)が低下し、収益が低下したり対応費用が必要になったりするリスクです。

インターネット・SNSが普及し、悪評が拡散するリスクが高まったことで、中小企業においてもレピュテーションリスクは無視できないものとなっています。

具体的には以下のような事例があります。

  • 製造物への異物混入がマスメディアで報道された(SNSで拡散した)結果、評判が低下して収益低下につながり、信頼回復のために謝罪広告費用などがかかった 
  • クレーマーによる理不尽な書き込みがSNSで拡散し風評被害が起こり、発信者特定や信用回復などのための対応費用がかかった

⑧顧客・従業員の迷惑行為(カスハラ・バイトテロ)に関するリスク

クレーマーの迷惑行為(カスタマーハラスメント、カスハラ)や従業員の悪ふざけにより、対応費用や損失が発生するリスクです。

具体的には以下のような事例があります。

  • 理不尽な要求や暴言を繰り返すクレーマーへの対応を弁護士に委任したため、弁護士費用が発生した
  • クレーマーからの暴力で従業員がケガをしたため、見舞金を支払った
  • 従業員が店舗内での不適切・不衛生な行為を撮影してSNSに投稿し、それが拡散したことで、一時休業と一部商品・什器の入れ替えが必要になった(いわゆるバイトテロ)

中小企業のリスク意識の実態は?

日本損害保険協会が2022年に中小企業の経営者・従業員を対象にして行った調査(中小企業におけるリスク意識・対策実態調査2022)によると、86.6%の企業が事業活動において何らかのリスクを認識しています。

導入済みのリスク対策で最も多いのは「損害保険への加入(54.3%)」で、6割以上の人が「近年リスクが増えていると思う」「経営責任として保険加入が必要だと思う」と回答しています。

多くの企業がリスク要因として挙げているのは、「自然災害(56.4%)」「顧客・取引先の廃業や倒産等による売上の減少(41.8%)」「感染症(38.4%)」「勤務中や移動中における損害賠償(34.4%)」などです。

27.8%の人が実際に自社(勤め先の企業)で何らかのリスクにより被害が発生したことがあると回答しており、被害の要因として多かったのは以下のようなリスクです。

被害額はすべてのリスク要因において100万円以下のケースが多いものの、「製造物に関する損害賠償」「顧客・取引先の廃業や倒産等による売上の減少」「勤務中や移動中における損害賠償」「自然災害」「サイバーリスク」などにおいては、多額(数千万円以上)の被害が生じたケースが比較的多く見られます。

被害にあった企業の半数程度(47.7%)が「損害保険に加入しておくべきだった」と答えており、とくに「勤務中や移動中における損害賠償」「製造物に関する損害賠償」「情報の漏洩」「自然災害」についてそのように回答する企業の割合が高くなっています。

中小企業がとくに気を付けるべきリスクは?

一般的に言うと、とくに注意が必要なリスクは「顕在化して被害が発生する確率が高いリスク」と「顕在化したときの被害額が大きいリスク」です。


日本損害保険協会の調査結果を踏まえると、中小企業がとくに気をつけるべき対策可能なリスクとしては以下の①~④が挙げられます。また、近年の意識変化や法改正(中小企業におけるパワハラ対策の義務化)により⑤のリスクも重要度が高まっています。

  • 自然災害や感染症、取引先の廃業などによる事業停止・売上減少のリスク
  • 勤務中や移動中における損害賠償のリスク
  • 製造物に関する損害賠償のリスク
  • 個人情報漏えいによる損害賠償・対応費用発生のリスク
  • ハラスメントによる損害賠償のリスク

中小企業がリスクに備えるための保険

日本損害保険協会の調査結果に表れているように、損害保険への加入は中小企業のリスク対策として代表的な手段であり、リスク意識の高まりとともに損害保険への関心も高まっています。

ここでは、リスクに備えるための損害保険の概要を紹介します。

①企業財産損害のリスクに備える保険

企業財産損害リスクに備える保険としては「火災保険」が代表的です。

「火災保険」という名称ですが、火災を含め、爆発事故、落雷、台風、豪雨、電気的・機械的事故、盗難、保管・運搬中の不注意による事故など、幅広いリスクをカバーする内容になっているのが通例です(どれだけ広くカバーするかは契約プランによります)。

さらに、企業財産損害に起因する休業や利益減少などの間接的な損害への補償を含むタイプもあります。

地震・噴火・津波による火災・水災・爆発などで生じた損害に対する補償は、火災保険に特約(「地震危険補償特約」)として追加する形となります。

②ハラスメント・不当解雇などによる損害賠償責任発生リスクに備える保険

ハラスメントや不当解雇などに起因する賠償金・訴訟費用を補償する保険は「雇用慣行賠償責任保険」と呼ばれ、近年サービスが拡大中です。

ハラスメント発生時の事後処理・再発防止対策にかかった費用を補償する保険なども販売されています。

③労災による補償金・損害賠償金支払いリスクに備える保険

労災が発生(政府労災の給付が決定)した際に法定外補償として負担する金額を補償する保険(「法定外労災保険」)と、労災のために企業が損害賠償責任を負った場合に損害賠償金や訴訟費用を補償する保険(「使用者賠償責任保険」)があります。

「法定外労災保険」と「使用者賠償責任保険」を合わせた保険(「労働災害総合保険」)も販売されています。

また、労災に該当するような災害が従業員に発生した際に、政府労災の支給決定とは別に、入院・通院・手術費用や死亡補償金、後遺障害補償金などを支給する保険(「業務災害補償保険」)もあります。

政府労災の給付申請から給付決定までは病気・ケガの場合は1ヶ月、後遺障害の場合は3ヶ月、死亡の場合は4ヶ月程度かかりますが、「業務災害補償保険」では政府労災の給付決定を待たずに迅速に保険金が支払われます(ただし精神疾患・脳疾患・心疾患などの一部の災害については政府労災の給付決定を受けてからの支払いになります)。

また、「業務災害補償保険」は様々な特約を付加することで業務上の災害に起因する損害を幅広くカバーできるようになっています(労災関連の休業補償、退職一時金補償、賠償責任補償、ハラスメント関係の賠償責任補償など)。

④事業中断・利益減少に関するリスクに備える保険

「休業補償保険」は、災害・事故による休業で生じた損失と、営業継続のための費用(例:仮店舗借入費用、代替設備導入費用)、損害拡大防止費用(例:消火薬剤再取得費用)などを補償します。

地震・噴火・津波による休業損失を補償する保険は別契約となるのが通例です。

「取引信用保険」は、取引先の倒産・廃業・支払遅延などで生じた貸し倒れの損害を補償します。1取引先あたりの上限額が設定されるタイプや損害の一定割合を補償するタイプなどがあります。

⑤顧客・取引先への損害賠償責任発生リスクに備える保険

第三者に対する損害賠償責任を補償する保険は、以下のように原因別・業種別に販売されています。

  • 施設賠償責任保険:企業が所有・使用・管理する施設の欠陥や施設内で行われる業務により発生した賠償責任を補償
  • 生産物賠償責任保険(PL保険):企業が製造・販売した生産物(製品)や提供したサービスの欠陥に由来する賠償責任を補償
  • 個人情報漏えい保険(サイバーリスク保険):個人情報の漏えいによる損害賠償責任を補償
  • 請負業者賠償責任保険、福祉事業者賠償責任保険、運送業者貨物賠償保険など:各業種の業務遂行中に発生した損害に関する賠償責任を補償

補償対象になるのは以下の損害・費用です。

  • 損害賠償金
  • 訴訟費用
  • 他にも責任を負うべき者がいる場合に、その者に損害賠償を請求するためにかかった費用
  • 応急手当などの緊急措置費用
  • 保険会社による損害賠償請求の解決に協力するために要した費用

個人情報漏えい保険では、以下のような費用・損失も補償される場合があります。

  • サイバー攻撃への対応費用
  • 事故原因調査費用
  • 再発防止対策費用
  • 状況説明・謝罪・再発防止対策公表のための広告・会見にかかった費用
  • コンピュータシステム中断に伴う逸失利益

⑥社用車に関するリスクに備える保険

一般的に、自動車保険(任意保険)は基本補償として以下の損害を補償します。

  • 交通事故発生時の損害(事故相手への損害賠償金のうち自賠責保険支給額を除いた分、損壊させた財物への損害賠償金、自身のケガの治療費、休業による損害、車両の損害)
  • 交通事故以外(火災、爆発、地震・噴火・津波以外の自然災害、盗難、いたずら、飛来物・落下物との衝突など)による車両の損害

そのほか、特約(オプション)により、事故車両のレッカー代、レンタカー費用、車両修理費用、新車購入費用、訴訟のための弁護士費用、地震・噴火・津波による車両損傷などが補償されます。

社用車向けの特約としては以下のようなものがあります。

  • 社用車で衝突するなどして業務中の従業員にケガをさせた場合の賠償責任を補償(※基本補償ではこのケースを対人賠償保険の支払い対象外としているのが通例)
  • 受託した貨物を社用車で運搬中に損壊させたり、管理中の財物に社用車が衝突して損害を与えたりした場合の賠償責任を補償
  • 社用車運転中の従業員が事故にあったことで事業主が負担した費用(死亡した従業員のための香典、事故現場復旧費など)を補償

⑦レピュテーションリスクに備える保険

レピュテーション低下につながる事案が発生した場合の対応費用(弁護士相談費用、拡散防止費用、ネット投稿削除費用、原因調査費用、信頼回復のための広告・会見費用など)を補償する保険が販売されています。

以下のような事案が発生した時点で保険金が支払われる仕組みになっています。

  • 企業の評判を傷つけるような事由(異物混入、個人情報漏えい、セクハラ・パワハラなど)がマスメディアで報道された時点
  • そうした事由に関する情報がSNSなどで拡散していることを保険会社のモニタリングサービスが把握した時点

⑧顧客・従業員の迷惑行為に関するリスクに備える保険

カスタマーハラスメントやバイトテロが発生した場合の対応費用(弁護士費用、クレーマーから危害を受けた従業員への見舞金、バイトテロで毀損された信用の回復のための広告費など)を補償する保険が販売されています。

⑨法的トラブル全般に備える保険

まとめ

中小企業に降りかかるリスクには様々なものがあり、リスクの大小や対応の必要度は業種や事業内容によって異なり、時代とともに変化する部分もあります。

リスク対応策としては損害保険への加入が代表的で、各リスクに対応するための保険が多数販売されています。

自社の実態に即してリスクを洗い出し、とくに注意すべきリスク(顕在化の確率が高いリスクや顕在化したときの損害額が大きいリスク)を明確化した上で、適切な損害保険への加入などの対策を検討してください。

弁護士
東拓治弁護士

東 拓治 弁護士
 
福岡県弁護士会所属
あずま綜合法律事務所
福岡県福岡市中央区赤坂1丁目16番13号上ノ橋ビル3階
電話 092-711-1822

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