「どうやら経営状況が悪く倒産寸前らしい」
取引先に関して、自社の営業担当者や同業者などから、このような噂が耳に入ることもあります。
そういった情報を得た場合には、自社への影響を最小限にとどめるためにも、段階に応じた適切な対策を講じることが重要になります。
本コラムでは、取引先が倒産しそうな場合の5つの初期対応と倒産寸前における5つの対策について、解説していきます。
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「倒産」はどのような状態を指す?
「倒産」というと、会社が経済的に破綻して、債務を支払えなくなった状態を指すことが多いものです。
たとえば、会社が不渡りを出して銀行取引を停止された場合や民事再生法による再生手続きに入った場合に、「事実上の倒産」などといわれることがあります。
しかし厳密にいえば、倒産の定義ははっきりしたものではないため、どの段階から倒産になるのかは明確に判断することはできません。
したがって倒産といっても、どのような状態なのかはケースバイケースといえます。
対応策を考える上では、債務超過になっている状態なのか、再生に向かっている状態なのか、清算に向かっている状態なのかなど、どの段階にあるのかを確認しておく必要があります。
特に、裁判所が関与して行う公的な手続きが進んでいるのかどうかによって、取りうる対応策が違ってくることは覚えておきましょう。
取引先が倒産しそうな場合の5つの初期対応
「取引先が倒産しそう」という情報を得たときには、次のような初期対応をすることがのぞましいでしょう。
正確な情報収集
取引先の経営状態は、噂だけでは判断できないものです。
取引先の状態を確認するためには、直接出向いたり、取引先の商業登記記録や不動産登記記録を取り寄せたりして、正確な情報を収集できるよう行動することが大切です。
取引先の代表者の所在確認
正確な情報を収集すると同時に、取引先の代表者がどこにいて何をしているかを確認しましょう。
代表者が取引先会社にいないが関係各所へ出向いて各種手続きを行っている、という場合にはまだ安心です。
しかし、代表者がどこにいて何をしているのか、従業員などに聞いても「わからない」という場合には注意が必要です。
再建や倒産手続きすら行わず会社の運営を放棄し逃亡している可能性があるからです。
取引先への債権・債務の確認
取引先の倒産による自社の損失を最小限にとどめるためには、相手との間にどのような債権・債務がいくらあるのかを確認する必要があります。
回収できていない未払い売掛金がいくらあり、現時点での買掛金はいくらあるのかを明確にしておきます。
取引条件の変更の検討
相手の経営状態が悪化しているのであれば、債権を回収できない可能性が高くなります。
そのため継続的に取引をしている相手であれば、取引条件を変更したり今後の取引の継続を見直したりすることもケースによっては必要です。
ただし継続的に取引が行われている場合には、当事者の一方が勝手に取引の継続を解消することは原則として認められません。
契約を解消する場合には、契約書や法律に従った対応をしなければなりません。
他の債権者の動向確認
他の債務者の動向確認も重要な情報となります。
例えば取引先が再建型の倒産手続きをしているという情報があるにも関わらず、他の債務者が商品の引き上げや取引の中止をしている場合、自社が知り得ない情報を他の債務者が知っていて動いている可能性があります。
さらには再建が難しい可能性が高いと予想できるため、自社の商品を早急に引き上げる必要があります。
取引先との債権債務関係の確認方法
前述の通り、正確な情報収集と状況把握が大事になります。
担保・債権債務の有無で相殺などの行使ができる可能性がありますので、取引先との債権債務関係を、以下の書類などで確認すると良いでしょう。
- 売掛金台帳
- 買掛金台帳
- 手形台帳
- 注文票
- 伝票
- 契約書
- 領収書
- 請求書
- 納品書
また、書類のみならずデータ化している帳票類リストなども併せて確認するとより安心です。
取引先の営業担当がいる場合には事情の聞き取りをするのもいいかと思います。
また、関連会社や子会社とも取引をしている場合には、同じように債権債務関係をチェックすることを忘れないようにしましょう。
倒産寸前の取引先への5つの対策
取引先がすでに倒産寸前の状態(破産など公的手続きに入りそうな状態)にあるときには、次のような対策をとることが考えられます。
担保を実行する
取引先が倒産寸前である場合には、担保権を実行することが一つの対策になります。
もし取引先企業に対して、抵当権などの担保権が付いた債権をもっているのであれば、担保権を実行して、債権を回収できるよう手続きを進めます。
通常は、公的な破産手続きに入ったような場合には、債権者は平等に扱われ優先的に弁済を受けられなくなります。
しかし担保権には、債務者が破産手続きなどの公的な手続きに入った場合でも、担保の対象物の競売代金などから優先的に債権の弁済を受けられる効力があります。
債務があれば相殺する
取引先に対して債務があれば、相殺して債権回収できる可能性があります。
相殺は、基本的に、債権者と債務者がお互いに弁済期が到来した金銭債権を有する場合に行うことができます。
たとえば取引先の売掛金を回収するために、自社の対等額の買掛金で相殺して債権回収するといったことができます。
もっとも相手方への相殺の意思表示は、トラブルを防ぐためにも内容証明郵便などで証拠に残る形にしておく必要があります。
なお破産手続きが開始されたときには、相殺権を行使できない場面もあるので、注意しなければなりません。
商品を引き揚げる
取引先の企業に自社の商品があれば、商品を引き揚げることによって損失を少なくできる可能性もあります。
もっとも、無断で商品を引き揚げてしまうことは、違法行為になりトラブルの元になる可能性があるので、避けましょう。
引き揚げる際は、商品代金の支払いがないことを理由とした債務不履行や相手との合意に基づいた契約解除をするなどの方法があります。
また、未発送の商品・発送中の商品の回収も忘れずに行うことが大事です。
こちらも取引先に無断で行うとトラブルに発展しかねないため、状況を見極め場合によっては弁護士などに相談の上慎重に動きましょう。
取引先の債権を譲渡してもらう
取引先が経済活動を継続しているのであれば、他の企業に対する売掛金債権などを持っている可能性があります。
その債権が回収できる可能性が高いものであれば、取引先と交渉して、その債権を譲り受けることも対応策となりえます。
取引先に連絡がつかないようなケースでは、債権に対する仮差押をすることも考えられるでしょう。
債権を譲り受けたときには、迅速に第三債務者(譲り受けた債権の債務者)に対して配達証明付き内容証明郵便で債権譲渡通知を行い、対抗要件を備えます。
そして第三債務者から弁済を受けることができれば、取引先から直接弁済を受けられなくても、債権を回収できる可能性が高くなります。
強制執行する
取引先が倒産寸前であれば、迅速に強制執行手続きをして債権回収をはかることも対策になるでしょう。
強制執行は、裁判所を通して、債務者の財産から強制的に債権を回収する手続きです。
債務者となる取引先の不動産や動産、債権を差押えるなどして、そこから債権回収できる可能性があります。
ただし強制執行は、破産手続きが開始されたときには、ストップしてしまいます。
そのため破産手続きが行われるよりも前に強制執行できた場合に、有益な対策となります。
取引先が予期せず倒産した場合には
昨今のコロナ禍では、企業の倒産件数も増えており、取引先が予期せず倒産(公的手続きに入る)ことも少なくないでしょう。
取引先が破産手続や民事再生手続に入った場合には、債権者は平等に扱われます。そのため、基本的に債権者であっても、個別に請求して優先的に弁済を受ける行為はできなくなります。
したがって、取引先が予期せず倒産した場合には、破産手続や民事再生手続の中で支払いを受けるために、「債権届出」を提出して、少しでも債権を回収できるようにする必要があります。
なお担保権実行や相殺については、破産手続などが開始されても、一定の場合に認められます。そのため結果として、優先的に弁済を受けられる可能性はあります。
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取引先が交渉に応じない場合の対処法
取引先がこちらの要求に応じず、どのように対処したらいいのかわからない、ということもあるかと思います。
この場合、保全措置(仮差押え・仮処分)や前述の強制執行を行うことを考えましょう。
仮差押え・仮処分はどちらも債務者の同意は不要で行うことができますが、保証金が必要です。
仮差押えを行う場合、裁判所に「仮差押命令申立書」を提出します。また請求額の15~20%ほどを保証金として預ける必要がありますが、これは判決が出るまで還付されませんので注意しましょう。
仮処分については、金銭債権以外の債権(売り渡した商品等)について手続きを行うことができます。こちらも裁判所に「仮処分申立書」を提出し、保証金(請求額の20~30%程度)を預けます。
いずれの場合にも、一度弁護士に相談し手続きをすると良いでしょう。
倒産状態の取引先から債権を回収する際の注意点
取引先から商品の引き揚げを行う等債権を回収する際には、その行為が詐害行為にならないように注意する必要があります。
詐害行為とは、債務者がわざと自分の財産を減らすことにより債権者を害することを指します。
詐害行為と判断されると詐害行為取消請求権を行使することができます。
なお、常識的な範囲内であれば詐害行為に当たることはないかと思いますが、心配な場合には一度弁護士に確認しましょう。
もし、相手方から詐害行為だと指摘された場合、落ち着いて裁判所の判断を待ちます。精査の結果詐害行為に当たらないと判断されることも少なくありません。
取引先の倒産時には、弁護士に早期に相談を
確実に債権を回収するためには、倒産の兆候をいち早くキャッチして、弁護士に依頼して迅速に対策を講じることが重要なポイントになります。
倒産の兆候を見逃さない
取引先が倒産すれば、売掛金債権などが回収できずに、連鎖して自社の経営難につながる可能性もあるため、取引先の信用情報については日頃から注意を払っておくことが重要です。
たとえば経営者がいつも不在でアポイントメントが取れなかったり、従業員の勤務態度がルーズだったり、社内での情報共有がなされていなかったり、などの事情があれば、経営難の兆候がうかがえます。
経営が危ないという噂が広まれば、多くの債権者が押し寄せるので、その前にいち早く兆候をキャッチして対策がとれるようにしておきましょう。
倒産するかもと思ったら弁護士に相談
取引先の経営難の兆候をとらえた場合には、正確な情報収集をして、相手との債権債務の関係を確認する必要があります。
そして取引を継続するかどうかを判断しますが、取引を継続する場合でも、これまでより確実に債権回収できるような対策を講じる必要はあります。
たとえば担保権を設定したり、契約書を作成して明確でなかった契約内容を証明できるようにしたりといった対策です。
また倒産寸前の状況であれば、一刻も早く裁判所での手続や債務者との交渉などをスムーズに行う必要が出てきます。
これらの対策や手続きなどについては、早期から弁護士に相談して進めると、確実な債権回収につながる可能性が高くなるといえるでしょう。
まとめ
本コラムでは、取引先が倒産しそうな場合の3つの初期対応と倒産寸前における5つの対策について解説していきました。
重要なポイントは、取引先の経営難の兆候をできるだけ早くキャッチして、適切な対応策をとることになります。
弁護士は、企業法務や法的手続きに長けた専門家です。
取引先の倒産に関してお悩みの場合には、弁護士に相談してみると良いでしょう。
事前に弁護士保険へご加入いただくこともオススメします‼
弁護士 黒田悦男
大阪弁護士会所属
弁護士法人 茨木太陽 代表
住所:大阪府茨木市双葉町10-1
電話:0120-932-981
事務所として、大阪府茨木市の他、京都市、堺市にて、交通事故被害者側に特化。後遺障害認定分野については、注力分野とし、医学的研鑽も重ねています。
また法人の顧問をはじめ事業上のトラブルにも対応をしています。
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2019年よりミカタ少額短期保険(株)が運営する法律メディアサイトです!
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