「夫が勝手に借金をしていた」
「旦那の借金が想像以上に高額だった」
結婚後に夫(妻)の借金が判明した場合、離婚することは可能でしょうか?
この記事では
・配偶者の借金を理由に離婚が可能か
・配偶者が作った借金に対して返済義務はあるのか
・婚姻中の借金は財産分与の対象になるのか
・離婚後に借金の負担をしなければいけない場合としなくてもよい場合
について解説します。
記事に入る前に・・・
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借金を理由とした離婚は可能なのか?
配偶者の借金を理由として離婚することは可能です。ただし、どのように離婚するかによってそのハードルは変わります。
協議離婚、調停離婚は可能
双方の話し合いによる協議離婚、裁判所の調停委員を交えた調停によって離婚する場合は、最終的には双方の合意があって離婚することになります。
言い換えれば双方が納得さえすれば離婚はできますので、離婚理由は問いません。
注意しなければならないのは、別居していて夫婦の交流がほとんどない場合や、配偶者が離婚を望まない場合、協議離婚による決着が難しくなるということです。
離婚裁判は、「借金」のみが理由の場合は難しいことも
裁判までもつれた場合、法律で認められた離婚理由が必要になります。
法律で離婚理由として認められる5つの項目
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 失踪(3年以上の生死不明)
- 精神疾患(重度の精神病にかかり、回復が見込めない場合)
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
上記に「借金」は含まれていませんので、単純に借金が理由で離婚することは難しくなります。
ただし、借金によって「婚姻を継続し難い重大な事由」が発生している場合、離婚することは可能なことも。
「借金をしてその返済に追われ家庭環境が崩壊した」、「借金をしている上にDVを受けた」等が挙げられます。
配偶者が作った借金、自分に返済義務はある?
離婚前も離婚後も、基本的には主債務者以外には返済義務はない
借金を理由に離婚できたとしても、「夫婦だった時に返済している借金があったら、離婚後もその返済義務を負わなければならないのではないか」と不安になるかもしれません。
基本的に、借金は貸し手と借り手の二名間の契約ですので、借金をした本人にしか返済の義務は生じません。そのため原則として配偶者に返済義務が発生することはありません。
ただし、借金の理由によっては返済義務が発生するケースもあります。
次項で返済義務が発生しないケース・発生するケースをそれぞれ解説します。
返済義務が発生しないケース
1)借金の理由がギャンブルなどの場合
趣味や娯楽のために負った借金は、個人的な理由による借金とみなされるため、離婚前後に関わらず夫婦のもう一方に返済義務が発生しません。
例えば「夫が妻に内緒で勝手に借金をし、それを競馬につかった」といった場合は妻に返済義務はありません。
2)婚姻前の借金
奨学金の返済や自動車のローン等婚姻前に負った借金は、婚姻後に返済中であっても返済の義務は発生しません。
返済義務が発生するケース
1) 自分が保証人になっている場合
借金の保証人とは、債務者(お金を借りた人)が返済をしない場合に、代わりに返済することを約束した人です。
夫名義で借金をし、妻がその保証人となっている場合は返済義務が発生します。
※保証人と連帯保証人について※
【保証人】
主たる債務者が返済しない場合に、その債務者に代わって返済することを約束した者を指します。
保証人には以下の3つの権利が与えられています。
① 催告の抗弁権(民法第452条)
債権者が債務者より先に保証人に支払い請求をしてきた場合、自分より先に債務者に請求するように言う権利
② 検索の抗弁権(民法第453条)
債権者から保証人に請求を受けた際に、債務者に財産があることを証明し、その請求を拒否できる権利
③ 分別の利益(民法第456条)
保証人が複数名いる場合、一人が負うべき保証債務は頭数を平等に分けて分担した金額のみとなる
【連帯保証人】
債務者とともに債務返済の責任を負う者を指し、一般的に金銭消費貸借契約において保証人といえば連帯保証人を指します。
連帯保証人は債務者と同等の立場となるため、保証人に与えられている「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」が無く、債権者からの請求はいついかなる場合であっても拒否できません。
また、「分別の利益」も無いため、債務者と同等に債務の全額を保証しなければなりません。
2) 日常家事債務として借金していた場合
未成熟子※1を含む夫婦の共同生活に必要な支出の債務は日常家事債務としてみなされ、夫婦ともにその債務の責任を負うことになります。
※1親の扶養を必要とする経済的に自立していない子。未成年の定義と異なり、年齢は関係ない。
法律ワンポイント:
民法第761条[日常の家事に関する債務の連帯責任]
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。 ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
日常家事とは夫婦の共同生活に必要とされる事務を指し、光熱費や食費、医療費や子供の教育費、家具調度品の購入費等が該当します。
例えば、十数万円の冷蔵庫をクレジットで購入した場合は日常家事の範囲内とされ、その債務は夫婦ともに責任を負うことになります。
3)主債務者が亡くなった場合
借金の名義人(主債務者)が亡くなった場合、借金は相続財産の対象になります。
遺産を相続する場合は借金というマイナスの財産も相続することになります。
ただし、借金の相続は下記で回避することができます。
・相続放棄
亡くなった人の財産を引き継がないことです。相続放棄することで始めから相続人ではなかったことになるため、相続放棄した人はもちろん、その子や孫も相続することはありません。
ただし、相続放棄は借金というマイナスの財産だけでなく、土地や建物等の不動産、貴金属や現金といったプラスの財産を含めた一切の財産相続を放棄することになりますので、故人の財産状況をよく確認する必要があります。
また、一度相続放棄すると取り消すことができませんので、慎重に判断しましょう。
・限定承認
限定承認とはプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続することです。
不動産や住居といった手放したくないものや、どうしても必要なものが相続の対象だった場合はこちらを選択することができます。
相続が開始したことを知ってから3か月以内に家庭裁判所へ申し立てを行うことが必要です。3か月を超過すると単純承認となり、すべてを相続することになりますので注意しましょう。
婚姻中の借金は財産分与の対象になる?
自身が返済義務を負うかどうかが借金の理由によって変わりますので、財産分与も同様となります。
生活費や住宅ローン等、夫婦生活に必要な借金であれば財産分与の対象となり、趣味や娯楽のための個人的な借金であれば財産分与の対象にはなりません。
ただし前項の通り、保証人になっていれば個人的な借金であっても返済義務を負うことになりますので注意が必要です。
借金の他にローンがどれくらい残っているか、プラスの財産とマイナスの財産でどちらが上回っているかを考えなければならない場合は、財産分与はかなり複雑になります。
判明している以外に借金はないか、ローンの残債はどのくらいか、ローンが残っている財産(家や車等)の評価額はどのくらいか。
離婚後の生活を考えた上で、離婚すべきかどうかまで検討しなければならない可能性もありえます。
借金が原因で離婚するときに注意したいこと
(子どもがいる場合)元配偶者が自己破産しても養育費の支払い義務は残る
破産したからといって親としての扶養義務が消えるわけではありません。また、法律で養育費は破産の免責対象外としています(破産法第253条)。
自己破産したことが養育費を支払わない理由にはなりませんので注意しましょう。
支払い能力に不安がある場合は公正証書の作成や調停での離婚をしましょう。
元配偶者の扶養義務は残りますが、破産後に回収できるかは別問題です。
離婚前に養育費の支払いについて取り決めを公正証書として作成している場合や、調停離婚によって調停調書がある場合には、給与や銀行口座の差し押さえる強制執行手続きを申し立てることができます。
逆にそういった書面がない場合は、回収できない可能性が高くなるので、離婚時には離婚協議書を公正証書化するようにしましょう。
離婚時に自分を連帯保証人から外すように交渉する
自分が連帯保証人になっている場合、後々トラブルに巻き込まれる可能性がありますので、保証人から外れることが望ましいでしょう。
しかし、連帯保証人から外れるのは非常に困難です。離婚は夫婦間の問題になりますが、借金は別問題です。
貸す側からすると万が一を想定して保証人を立てているので、債務者と保証人が離婚しても、保証人の解除を許可する可能性は非常に低いです。
ただし、100%不可能ということではありません。
- 別の保証人を立てる
- 別の金融機関での借り換えの申し込みをする(住宅ローン等)
といった代替案を提示することで保証人の解除が認められる可能性があります。
(自分の親が保証人になっている場合も同様)
早い段階で弁護士に相談し、相手との話し合いの際には弁護士を同席させる
離婚時の借金問題については、当事者同士の話し合いではなかなか合意に至らない、そもそも話し合いにならないことが少なくありません。
借金の問題は非常に複雑で、把握しきれない項目があると、思わぬ形で不利益を被ることになります。
借金が判明したら早い段階で弁護士に相談し、離婚時の交渉を有利に進められるようにしましょう。
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最後に
「借金」というマイナスの財産がある場合、離婚時には慎重にならなければなりません。
財産分与の計算や財産分与の対象となるかどうか等は、当事者間だけで話し合うと誤った取り決めをしてしまう可能性があります。
借金による不利益を回避するために離婚したつもりが、離婚後想像以上の大きな不利益を被る可能性もあります。
「借金があるけど離婚したい」「借金があるけど離婚すべきか迷う」といった不安がある場合は、財産状況を整理して適切に対処できるよう弁護士を活用しましょう。
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東 拓治 弁護士
福岡県弁護士会所属
あずま綜合法律事務所
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