企業の営業秘密や技術情報を守る秘密保持契約(NDA)。
契約書を作成しただけでは、秘密情報が十分に保護されないことは、実際の裁判例からも明らかになっています。
情報漏洩による損害は、企業の存続さえも脅かしかねません。
本記事では、NDAの基礎知識から具体的な判例、企業の重要情報を守るために必要な対策を、弁護士監修のもと徹底解説します。
「弁護士に相談なんて大げさな・・・」という時代は終わりました!
経営者・個人事業主の方へ
秘密保持契約(NDA)とは?

秘密保持契約(NDA)は、企業間の取引や協業において、情報を保護するための契約です。
単なる書面上の約束ではなく、実際の情報管理体制の構築まで含めて考える必要があります。

情報の取り扱いや管理ルールを明確に定め、実践することが求められます。
NDAとは?
秘密保持契約は、英語でNon-Disclosure Agreement(NDA)と呼ばれ、「機密保持契約」や「守秘義務契約」とも呼ばれます。
この契約では、当事者間で開示される秘密情報について、その取り扱いや保護に関する権利義務を定めています。
重要な点は、単に契約を締結するだけでは十分な保護が得られないということです。
実効性を持たせるには、以下の内容を満たす必要があります。
- 違反時の対応措置を設定する
- 明確な秘密情報の定義と範囲を特定する
- 具体的な管理方法を明示する
- 実務レベルでの運用体制を確立する
NDAの定義と目的
NDAには、主に以下の3つの目的があります。
- 営業秘密や技術情報の保護
- 情報漏洩リスクの予防
- 損害発生時の法的対応の基礎づくり
秘密情報の範囲は、不正競争防止法で定める「営業秘密」の要件(秘密管理性、有用性、非公知性)を基本とします。
ただし、契約当事者間の合意があれば、より広い範囲に広げられます。
NDAが求められる具体的な場面
NDAは、業務提携の検討段階から、共同研究開発、M&A案件まで、様々な局面で必要となります。
特に初期の商談や協議の段階で、相手方に自社の重要情報を開示する必要がある場合には、なくてはならないものです。
新規事業の立ち上げや共同プロジェクトでは、事業計画や技術情報など、競争力の源となる情報の共有が必要になります。
このような場面では、情報開示の範囲と目的を明確に定めたNDAが不可欠なのです。
また、退職者が競合他社に転職する際は、在職中に知り得た情報が漏えいしないよう保護が必要です。
この場合のNDAは、一般的な競業避止義務を補完し、より具体的な秘密保持義務を定めるものとして、有効な契約となります。
NDAは違反防止だけでなく証拠としても重要
NDAは単なる情報漏洩の防止策ではありません。
万が一の情報漏洩時に、法的措置を講じる際の重要な証拠としても機能します。
特に損害賠償請求の際には、契約違反の立証根拠となります。
NDA違反がもたらすリスクと損害賠償の可能性

秘密保持契約(NDA)に違反した場合、企業にとってマイナスな影響をもたらす可能性があります。
損害賠償請求の対象となるだけでなく、企業の信用や競争力に致命的な打撃を与える可能性があるからです。

このため、適切な予防措置と違反時の対応策を整備する必要があります。
NDA違反によるリスクとその影響
NDA違反に伴うリスクは、単なる契約違反だけでなく、企業活動全体に波及します。
損害賠償請求の対象となることはもちろん、取引先との信頼関係を損ない、市場における競争優位性の喪失など、多岐にわたる影響が考えられます。
具体的な影響として以下が挙げられます。
- 営業秘密の流出による競争力の低下
- 情報漏洩に伴う企業イメージの低下
- 取引先からの信用失墜
- 訴訟対応コストの発生
- 組織内のモラル低下
営業秘密や顧客リストの漏洩
営業秘密や顧客情報の漏洩は、直接的な損害をもたらします。
技術情報が競合他社に流出すれば、市場シェアの喪失につながるでしょう。
また、顧客情報の漏洩は信用失墜と損害賠償リスクを生じさせます。
法的紛争や企業イメージの毀損
情報漏洩が発生した場合、法的な対応をするために多大な時間とコストが必要となります。
さらに、そのような事態が公になれば、企業イメージの毀損は避けられず、事業活動にも長期的な影響を及ぼすでしょう。
損害額の立証と損害賠償請求
NDA違反による損害賠償を請求するうえで、最も困難となるのは、損害額の立証です。
秘密情報の価値を金銭的に算定することは容易ではなく、具体的な損害額の証明がなければ、請求が認められない可能性が高くなります。
このため、あらかじめ契約書に違約金条項を設けておくことが、有効な対策となります。
予防的措置の重要性
NDA違反を防ぐためには、契約締結時の対策だけでなく、実務レベルでの管理体制の構築が不可欠です。
特に、秘密情報へのアクセス制限や社内教育の実施、定期的な監査など、総合的な対策が求められます。
事例から学ぶNDAと損害賠償


秘密保持契約(NDA)の実務上の運用と課題を、実際の裁判例で見てみましょう。
セクハラ・パワハラ問題での秘密保持条項の活用
事案の概要
ハラスメント行為による損害賠償請求事件で、被害者は不適切な行為を受け、会社に損害賠償を求めました。
この事案では、和解条件として秘密保持条項が効果的に機能しました。
ポイントと結果
- 双方が納得できる解決で、二次被害も防止した
- 企業のイメージ悪化を防ぐため、適切な賠償と秘密保持条項を組み合わせる
- 被害者の権利も守りつつ、企業の社会的評価も維持できている
未払い残業代トラブルでの秘密保持
事案の概要
複数の従業員がいる部署で、一人の従業員から未払い残業代の請求を受けた事案。
和解時の秘密保持条項により、他の従業員への影響を最小限に抑えられました。
ポイントと結果
- 労使双方にとって納得できる解決策を実現できた
- 未払い残業代の支払いと秘密保持条項をセットで和解条件に入れ込んだ
- 会社の資金繰りへの影響を考慮した段階的な対応が可能になった
営業秘密漏洩による訴訟と勝訴事例
事案の概要
競合他社への営業秘密漏洩事件。
秘密保持契約の存在と適切な情報管理体制が認められ、損害賠償請求が認容されました。
ポイントと結果
- 適切な情報管理体制の構築が勝訴につながった
- 秘密情報の範囲を明確に特定した
- アクセス制限など具体的な管理方法を証明した
NDA違反が証明できなかった食品会社の敗訴
事案の概要
食品会社が元従業員を相手取り、営業秘密漏洩による損害賠償を請求した事案。
ポイント
- 秘密情報として管理すべき対象が社内規定で明確に定められていなかった
- アクセス権限の設定や、情報の閲覧記録の保管が不十分だった
- 秘密情報の取扱いに関する従業員教育の記録が残されていなかった
敗訴の決め手となった要因
- 情報漏洩の事実は認められたものの、その情報が「秘密として管理されていた」という証明ができなかった
- 社内での情報管理体制が形骸化していた
この判例から学ぶポイント
- 定期的な従業員教育を行い、記録はすべて保存する
- 秘密情報の範囲を社内規定で明確化する
- アクセス権限の設定と記録の保管を徹底する
労働審判での口外禁止条項が違法とされた事例
事案の概要
運送会社での雇い止めを巡る労働審判で、会社側が解決金230万円の支払いを条件に口外禁止条項を含む調停を提案しましたが、労働者が拒否したケースです。
判断のポイント
裁判所は以下の理由から、口外禁止条項を違法と判断しました。
- 当事者が調停の段階から一貫して反対していた
- 期限の定めなく口外禁止を求めることは負担が重すぎる
- 条項の内容が相当ではない
この判例から学ぶポイント
- 会社の利益と従業員の負担のバランスを取ることが重要
- 秘密保持条項を入れる際は、相手の立場に立って考えることが大切
- 無期限の口外禁止は避け、合理的な期間を設定する
ソフトウェア開発会社が証拠不十分で秘密保持違反を立証できなかったケース
事案の概要
ソフトウェア開発会社の元従業員に対する、秘密保持義務違反の損害賠償請求事件。
競業避止義務違反は認められたものの、秘密保持義務違反については立証不十分として請求が棄却されました。
ポイントと結果
- 違反の事実を裏付ける証拠を確保する必要がある
- 契約書の存在だけでは不十分である
- 具体的な秘密情報の特定と管理方法の証明が必要となる
企業が取るべきNDA活用の具体的対策

秘密保持契約(NDA)を効果的に機能させるには、契約書の作成から運用まで、総合的な対策が必要です。

単なる契約の締結だけでなく、実効性のある管理体制を構築することが、企業防衛の鍵となります。
NDA作成時の注意点
契約書作成時には、将来の紛争リスクを見据えた内容にする必要があります。
特に重要となるのは、秘密情報の範囲を明確に定義し、具体的な管理方法を規定することです。
裁判例からも、あいまいな契約内容は法的保護を受けられない可能性が高いとされています。
明確な条項設計
契約条項は、以下の内容を明確に規定する必要があります。
- 秘密情報の定義と範囲
- 秘密保持義務の具体的内容
- 情報の利用目的と制限
- 契約終了時の情報の取扱い
違約金条項の追加
違約金条項は、契約の実効性を高めるために欠かせないものです。
秘密情報の漏洩による損害の立証は大変難しく、具体的な違約金額を定めることが重要です。
そうすることで、違反抑止につながり、損害の補償が受けやすくなります。
情報管理体制の構築

NDAを機能させるためには、管理体制の整備も必要です。
たとえば、A社の社員がA社に対して秘密保持の誓約書を提出することを契約の中で義務付けるなど、具体的な管理方法を決めておくことが重要です。
なお、社内教育とセキュリティの強化においては、以下のような対応策が求められます。
- 定期的な研修の実施と記録
- 情報取扱規程の整備
- セキュリティポリシーの策定と周知
- 違反事例の共有による注意喚起
また、情報のアクセス制限や定期監査においては、以下の点に注意を払うとよいでしょう。
- 問題発見時の対応手順の整備
- アクセス権限の明確化
- 利用履歴の記録と保管
- 定期的な監査の実施
社内教育とセキュリティの強化

秘密情報の保護は、実際に取り扱う従業員の意識と行動が重要です。
社員教育の第一歩として、以下のような対策が有効です。
なお、セキュリティ対策については、技術的な対策と運用ルールの両面から整備する必要があります。
特に、クラウドサービスの利用が一般的となった現在、パスワード管理やバックアップの実施など、デジタル環境での情報管理には特別な注意が必要です。
情報のアクセス制限と定期監査
秘密情報へのアクセスは、業務上必要な範囲に限定することが重要です。
そのために、以下のような管理方法をしっかり決めておきましょう。
- アクセス権限の設定・定期的な見直し
- 利用履歴の記録・保管
また、定期的な監査を通じて、適切に管理できているかも確認しましょう。
問題が発見された場合の対応手順もあらかじめ整備しておきます。

特に、情報漏洩が疑われる場合は、被害の最小化と証拠保全のためにも、迅速な初動対応が重要です。
まとめ
秘密保持契約(NDA)は、契約書の作成だけでなく、実効的な運用体制の構築まで含めた総合的な取り組みが必要です。
契約書の作成段階では、秘密情報の範囲を明確に定義します。
違約金条項を設けることで実効性を確保しましょう。漏洩時の損害立証は困難を伴うため、事前の対策が不可欠です。
また、情報管理体制の整備も必須です。
社内規定の整備や従業員教育の実施、アクセス制限の設定など、具体的な管理方法を整え、確実に運用する必要があります。
なお、定期的な監査と記録の保存も忘れずに対応しましょう。
情報管理体制が、適切に機能しているかも確認します。
監査の記録を保存し、万が一の訴訟時に企業の管理努力を証明できるようにします。
NDAは、ただ契約を結ぶのではなく、日常的に管理と運用を徹底することが重要です。

東 拓治 弁護士
福岡県弁護士会所属
あずま綜合法律事務所
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