下請けいじめとは?概要と事例、対処法、相談先などを徹底解説

近年、公正取引員会は下請けいじめの摘発を積極化しており、ニュースなどで加害者側の企業の実名とともに下請けいじめの実態が報道される機会が増えました。

それでも下請けいじめは後を絶ちません。

下請側の企業としては、自己の利益を守るすべを身につけるために、下請けいじめの実態や下請けいじめを規制する法律(下請法)について知っておくことが重要です。

この記事では、下請けいじめの概要や下請法の内容、下請けいじめを受けた際の対処法、相談先・通報先などについて、事例をもとに詳しく解説していきます。

目次

下請けいじめって何?

下請けいじめとは、元請企業や大手の発注者が優越的な地位を利用して下請企業に対して不公正な取引を押しつけることを言います。

コストの増加や市況悪化の流れが生じ発注者側に経費削減の圧力が高まると、その解決策として下請けいじめにあたる行為が行われることがあります。

下請側は、そうした不公平な取引に抵抗するとかえって下請けいじめが悪化したり、最終的に取引停止にいたる恐れがあることから、泣き寝入りせざるを得なくなってしまいます。

最近では

  • ウクライナ情勢
  • 円安を背景とした燃料
  • 原材料費高騰や働き方改革

による時間外労働削減などが、下請企業へのしわ寄せの要因として問題視されています。

下請けいじめは公正な取引を阻害し、下請企業の利益を不当に害する行為であることから、独占禁止法(「優越的地位の濫用」の禁止)や下請法で規制されています。

下請けいじめに該当する行動例

下請法では以下のような行為を下請けいじめ(禁止行為)としています(下請法4条)。

  • 買いたたき
  • 注文品の受領拒否・返品
  • 下請代金の減額
  • 下請代金の支払遅延
  • 不当な注文内容の変更・やり直し
  • 不当な経済上の利益の提供要請
  • 報復措置

買いたたき

買いたたきとは、発注時に、下請代金を通常の対価(類似品の価格又は市価)よりも著しく低い額に定める行為です。

以下のような事例が該当します。

  • 部品の大量発注を前提として取り決めた割安な単価を、少量発注の際にも適用した
  • 原材料価格高騰が明らかな状況で、下請側が製造コスト増加を理由として単価引き上げの交渉を求めたにもかかわらず、十分な協議をすることなく単価を据え置いた
  • 特定の下請企業を差別的に扱い、他の下請企業に同様の発注を行う際の単価よりも著しく低い単価を定めた

注文品の受領拒否・返品

下請側に責任がないのにもかかわらず、発注側の都合のみで注文品の受領を拒否したり一方的に返品したりする行為です。

以下のような事例が該当します。

  • 在庫の余剰を理由に、注文品の受領を拒否した
  • テレビ番組の制作を委託したテレビ局が、出演者の不祥事によりその番組が放送できなくなったことを理由に制作物の受領を拒否した
  • 生産計画変更により部品の在庫が余ったからといって一方的に返品した
  • 取引先からキャンセルされたことを理由に、受領済みの制作物を返品した

下請代金の減額

発注後に代金を減額する行為は、下請側に責任がある場合を除き、一切禁じられています。たとえ下請側が減額に同意したとしても下請法違反になります。

以下のような事例があります。

  • 値引きセールに協力して欲しいなどと言って、下請代金から一定割合を減額した
  • 拡販キャンペーンに利用するための現品が必要になったと言って、下請代金は変えずに納入数量を増加させた
  • ユーザーサポート業務を委託したが、結果的に問い合わせ件数が少なかったことを理由に代金を減額した
  • 合意により単価引き下げが行われた際に、合意成立前に発注された分にまで訴求して新単価を適用した

下請代金の支払遅延

発注者は物品等を受領した日から起算して60日以内に定めた支払期日までに代金を支払う義務があり、以下のような理由は支払い延期の正当な理由とはなりません。

  • 発注企業内で検品が完了していない
  • 下請側の請求書提出が遅れている
  • 支払期日が金融機関休業日に当たっている(ただし予め合意があれば2日まで順延可能)。

支払期日までに支払が行われなかった場合、受領日から60日を経過した時点から遅延利息(年率14.6%)が発生します。

不当な注文内容の変更・やり直し

下請側に責任がないにもかかわらず、発注の取消・内容変更、仕事のやり直しを求め、それに伴い発生する費用を負担しない(一部でも下請側に負担させる)行為です。

  • 顧客から取引をキャンセルされたことを理由に発注を取り消し、それまでに下請企業で生じた費用を負担しなかった
  • 当初の発注内容から仕様が変更されたことで、当初の仕様に基づいた作業が無駄になり、納期に間に合わせるために人件費などが増加したが、その分の費用を発注者が負担しなかった

不当な経済上の利益の提供強制

契約上の取引とは別に、下請企業に金銭やサービスなどの経済上の利益を提供させる行為です。

以下のような事例があります。

  • 年度末の決算対策として協賛金の提供を求め、指定した銀行口座に振り込ませた
  • 貨物運送を委託している下請企業に、当該委託契約には含まれない貨物積み下ろし作業をさせた
  • プライベートブランド商品の製造を委託している小売業者が、店舗営業要員とするため委託先の下請メーカーに従業員を派遣させた

報復措置

上記のような不正な要求をされた下請企業がその事実を公正取引員会や中小企業庁などに通報した場合、それをもとに立ち入り調査や行政措置を受けることになった発注企業が、報復として取引中止や取引数の削減を行う行為です。

こうした報復を恐れて下請企業が泣き寝入りすることがないよう、下請法では報復行為を禁止行為として明確に定めています。

下請けいじめを規制する下請法の適用対象

下請法では、取引内容と発注側・受注側の資本金によって適用対象を定めています。

下請法が規制するのは以下の4種類の内容の委託取引です(下請法2条)。

  • 製造委託
    物品の販売や製造・修理を行っている事業者や、自社で使用・消費する物品を社内で製造している事業者が、その物品や部品又は修理に必要な部品・原材料などの製造を他の事業者に委託。
  • 修理委託
    物品の修理を営む事業者や自社で使用する物品を自社で修理している事業者が、修理の全部または一部を他の事業者に委託
  • 情報成果物作成委託
    情報成果物(ソフトウェアや各種コンテンツ・デザインなど)の提供・作成を行っている事業者や、自社で使用する情報成果物の作成を業として行っている場合、その情報成果物の作成作業を他の事業者に委託
  • 役務提供委託
    各種サービスの提供を請け負っている事業者が、請け負ったサービスの提供行為の全部または一部を他の事業者に委託

そして、以下の「親事業者」に該当する事業者が、「下請事業者」に該当する事業者に、該当する内容の委託を行った場合に、下請法が適用されます(下請法2条)。

親事業者(元請企業)下請事業者委託内容
資本金3億円超  資本金3億円以下製造委託修理委託コンピュータプログラム作成の委託運送サービス、倉庫での物品保管サービス、情報処理サービスの委託
資本金1千万円超~3億円以下資本金1千万円以下
資本金5千万円超資本金5千万円以下コンピュータプログラムを除く情報成果物の作成の委託運送・倉庫保管・情報処理を除くサービスの委託
資本金1千万円超~5千万円以下資本金1千万円以下

下請けいじめへの対処法

下請けいじめを受けた場合、まずは発注企業と直接交渉し、それで問題が解消されなければ、公正取引員会などの公的機関や弁護士などの専門家に間に入ってもらい、各種の法的手続きを通して解決を図ります。

担当者または上長が状況確認・交渉を行う

発注側が下請法の内容を知らずに下請けいじめに当たる行為をしている場合、下請側から指摘すれば問題を是正してくれる可能性があります。

また、下請側が下請法を知らない(下請法に従った取引を求めてこない)と高をくくっているようなケースでは、下請側がコンプライアンスに厳しい態度を示すことで取引関係が改善に向かうかもしれません。

まずは担当者か上長レベルの立場の人が発注側とコンタクトを取り、契約内容や下請法に関する相手方の認識を確認し、その結果に応じて問題点の指摘や問題解消に向けた交渉を行うのがよいでしょう。

それでも問題が是正されず下請けいじめが続く場合や、そもそもそうした状況確認・交渉を行うこと自体が難しい場合には、公正取引員会などの外部の力を借りる必要があります。

公正取引員会などに相談・通報する

各地域の公正取引員会事務所では下請けいじめに関する相談を受け付け、相談内容を検討して下請法に抵触しているかどうか判定し、適切な対処を図っています。

インターネット上の窓口を通して下請法違反行為に関する通報(情報提供)を行うこともできます。

相談・通報を受けた公正取引員会が発注側への立ち入り検査などが必要だと判断した場合でも、相談・通報を行った下請企業の意に反して直ちに立ち入り検査を行うわけではなく、立ち入り検査を行う際にも下請企業が特定されないよう様々な工夫をしています。

中小企業庁が全国に設置している下請かけこみ寺では相談員や弁護士が下請けいじめの相談を受け付け、ADR手続き(次節参照)を無償で行っています。

ADR(裁判外紛争解決手続)により解決を図る

ADRとは、専門機関が間に入り裁判とは別の形で法的紛争の解決を図る手続きのことです。

ADRには

  • 裁判所で行う民事調停(司法型ADR)
  • 「下請かけこみ寺」などの行政機関が無償で行うもの(行政型ADR)
  • 民間機関が有償で行うもの(民間型ADR)

があります。

ADRには3タイプの手続きがあります(「調停」と「あっせん」を区別せずに扱う専門機関もあります)。

  • 仲裁:仲裁人(1人または複数人の合議体)に解決を委ね、当事者は仲裁人の決定に従う
  • 調停:調停人が双方の言い分を聞いた上で解決案を提示し、それをもとに当事者が協議
  • あっせん:あっせん人が当事者間の自主的な協議を支援

調停・あっせんの場合、ADRで解決に達しなければ民事裁判に訴えることもできます。

仲裁の場合、仲裁人の決定は民事裁判の確定判決と同じ効力を持っており、同一の件を別途民事裁判に訴えることはできません。

どのタイプの手続きが可能かは専門機関により異なります。「下請かけこみ寺」では調停のみ行っています。

未払い代金・損害賠償の請求のために民事訴訟を行う

最終的には、未払い代金(+遅延損害金)の支払いや下請けいじめ行為で発生した損害の賠償を求めて民事裁判に訴えるという方法があります。

未払い代金の場合は民事裁判の前に裁判所を通して支払督促を行うという選択肢もあります。

下請けいじめの通報・相談先

公的な通報・相談窓口は以下の通りです。民間の相談先としては弁護士や各種ADR機関などがあります。

下請けいじめの取り締まり

下請けいじめに対しては、下請法や独占禁止法に基づき書面調査・立ち入り調査が行われ、違反があったと判断されれば法に基づく取り締まりが行われます。

  • 下請法による指導:下請けいじめ行為の中止、原状回復(減額分の支払、下請企業で発生した費用の負担など)、改善報告書(または計画書)の提出を要請
  • 下請法による勧告:指導と同様の要請に加え、発注企業の実名を含む違反事実・勧告内容の公表
  • 独占禁止法による排除措置命令:勧告を受けた企業が勧告に従わない場合、排除措置命令により下請けいじめ行為の中止、原状回復、再発防止の対策などが命じられる(これにも従わなければ刑事罰が発生)
  • 独占禁止法による課徴金納付命令:勧告を受けた企業が勧告に従わない場合、課徴金を国庫に納付するよう命じられることもある

行政による取り締まりのほか、損害賠償請求などによる下請企業からの告発や、レピュテーション(社会的評判)低下などが起こり得ます。

まとめ

下請けいじめとは、取引上優越的な立場にある発注企業が、その立場を利用して不公正な取引を下請企業に強いることです。

地位の格差が背景にあることから、業界や個別企業の自助努力で下請けいじめをなくすことは難しく、公正取引員会は下請法などに基づく摘発を強化しています。

下請側としては、下請法のポイントを把握したうえで、公正取引員会や弁護士などの専門家を活用し、必要に応じて法的な手続きをとりながら、自己の利益を守っていくことが求められます。

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