デジタルリスクとは?企業への影響とリスクマネジメントの進め方

デジタル技術の普及によって、世界中の人々がオンラインで仕事や買い物をしたり、ゲームや音楽の配信を楽しんだりするようになるなど、暮らしに大きな変化がもたらされました。

デジタル技術の活用は、企業にとっても、作業の効率化やコストの削減、潜在的な顧客へのアクセスなどにつなげる可能性を秘めているため、非常に重要な業務といえます。

もっとも、デジタル技術を活用する際には、適切なデジタルリスクマネジメントをしながら進めることが大切です。

本記事では、デジタルリスクが企業に与える影響とデジタルリスクマネジメントの進め方について、解説していきます。

目次

デジタルリスクとは?

まず、デジタルリスクとは、どういったものなのかを確認しておきましょう。

デジタルリスクとは、一般的に、デジタル技術を活用することによって生じるリスクのことをいいます。

企業は、日常的に、

  • 自然災害や事故
  • 従業員の不祥事
  • インターネット上の誹謗中傷

などの多くのリスクを抱えています。

デジタルリスクは、これらのリスクのうちデジタルに関するリスクであり、他のリスクと同様に、損害を最小限に抑えるためのリスクマネジメントが重要になります。

よくあるデジタルリスクの具体例とは

デジタルリスクについて、イメージを明確にするために、いくつかの具体例をご紹介していきます。

個人情報漏洩

デジタルリスクとしてイメージしやすいのは、個人情報漏洩かもしれません。

たとえば、従業員がSNSやtwitterで、仕事上知り得た顧客の個人情報を投稿するなどといった行為から個人情報が漏洩して問題になることがあります。

また、企業内で管理している顧客の個人情報データがインターネット上に流出したり、何者かによって盗まれたりといったケースもあります。

システム障害によるサービスの停止

企業のシステム障害によるサービスの停止も、デジタルリスクといえます。

たとえば、主にインターネット上のオンラインストアを中心に商品販売を展開している会社がシステム障害の影響を受ければ、顧客からの発注を受けることができず業務がストップしてしまうリスクがあります。

また、企業のシステム障害によって、顧客にデジタルを活用したサービスを提供できなくなり、顧客に不利益を与えたり顧客離れにつながったりするリスクもあります。

SNSなどの炎上・風評被害

SNSなどでの炎上や風評被害も、デジタルリスクといえるでしょう。

たとえば、企業が公式のホームページに不適切な内容の投稿をすれば、ただちにその投稿が拡散され、企業全体に大きなマイナスイメージをもたらすリスクがあります。

また、口コミサイトなどに企業に関する根拠のない悪評が書き込まれたり、誤った情報がインターネット上に広まったりすることによって、風評被害に遭うリスクもあります。

デジタルリスクの発生につながる要因

これまで解説してきたようなデジタルリスクは、次のような要因によって顕在化することが少なくありません。

SNS・HPへの不適切な投稿

デジタルリスクは、従業員が個人のSNSに不適切な内容を投稿したり、企業の担当者が公式ホームページ上に差別的表現などを使用してしまったりすることが要因となりえます。

「現在取締役会が行われている」「有名人の○○が来店して商品を購入していった」といった投稿が要因となって、社内の機密情報や顧客の個人情報が漏洩し、企業として対応に追われるようなケースも想定されます。

セキュリティ対策不足

会社のサーバがハッキングされ、個人情報や機密情報が漏洩する事件も相次いでいます。

平成23年4月には、ハッキングによってある企業の7,700万人の個人情報が漏洩し、経済産業省がセキュリティ対策などに問題があることを指摘して指導をおこなうという事件がありました。

また、特定の組織や個人を狙った標準型攻撃メールのファイルなどを開封してしまうことによって、PCが悪意のあるウイルスに感染し、情報が流出してしまう事件も発生しています。

このようなウイルスが既知のものであった場合には、市販のウイルス対応ソフトをインストールしてセキュリティ対策しておけば、事件を未然に防げる可能性があります。

このようなセキュリティ対策不足は、デジタルリスクを高める要因となります

従業員の意識の欠如

従業員のデジタルリスクに対する意識の欠如も問題の顕在化の要因になります。

デジタル技術を活用した業務は、目の前に顧客や取引先がいるわけではないため、結果をイメージすることが難しい面もあることでしょう。

しかし、実際にトラブルが発生してしまった場合には、想定しているよりも大きな損害を従業員自身や会社に負わせる可能性があります。

そのことを従業員が日頃から意識できていなければ、リスクを高めることにつながります。

DXへの対応不足

DX(デジタルトランスフォーメーション)、すなわち、新たなデジタル技術をビジネスのあらゆる面に取り入れる変化、に十分に対応できていないこともデジタルリスクを高める要因になります。

企業内では、デジタル時代に育った従業員だけでなく、デジタルに苦手意識を持つ従業員もいます。

そのため、DXのスピードについていくことが困難な従業員がいたり、企業全体でも十分に対応できていなかったりするケースもあります。

そのようなケースでは、意図せずに情報流出につながったり、サイバー攻撃を受けたりといったリスクも高まる可能性があります。

デジタルリスクが企業に及ぼす影響

デジタルリスクが顕在化すると、企業に次のような影響を及ぼす可能性があります。

社会的信頼を失う

たとえば、企業のずさんなデータ管理によって顧客データが流出した事件が発生した場合には、顧客や取引先は「今後この会社に重要な仕事を発注して大丈夫だろうか」「また流出するのではないか」と思うことでしょう。

デジタルリスクマネジメントが十分になされていない企業であるというイメージがつけば、社会的な信頼を失うことにつながりかねません。

損害賠償の支払いなどの金銭的な損失

従業員が個人情報等を漏洩した場合には、プライバシー権の侵害などが根拠となり、従業員には不法行為責任、企業には使用者責任をもとに、損害賠償を請求される可能性があります。

また、インターネット上に他人の文章や写真を無断で掲載するなどの著作権の侵害行為があれば、損害賠償を請求される可能性もあります。

なお、具体的に発生した損害を賠償するわけでなくても、顧客に定額の金券による補償を行うなどの金銭的な損失が発生する可能性もあります。

ビジネスチャンスの喪失

システム障害によって顧客にサービスが提供できなくなるなどの事態が度々発生すれば、提供できなくなっている間のビジネスチャンスを失うことになります。

また、それだけでなく、顧客は離れ、今後の新規顧客の獲得も困難になる可能性があります。

会社の存続の危機

デジタルリスクの内容によっては、会社の存続にまで影響を与える可能性があります。

たとえば、飲食店で食品を不衛生に扱う様子を従業員が軽い気持ちでSNSに投稿したとすると、投稿が広く拡散され、店にはクレームが来て来客も激減するといったケースも想定することができます。

これまで地道に業務を行ってきたとしても、デジタルリスクの内容や企業の対応によっては、会社が倒産してしまうケースもあるので、注意が必要になります。

デジタルリスクマネジメントを進める方法

最後に、デジタルリスクを回避するためのマネジメントとして、どのようなことができるのかをみていきましょう。

社内規則や就業規則などを整備する

従業員が顧客の情報を漏洩するようなデジタルリスクは、会社に民事上・行政上の法的責任を生じさせます。

そして、それだけでなく会社の信用を低下させるなどの大きな将来的な影響を及ぼす可能性があります。

したがって、従業員の情報漏洩を未然に防止するためのデジタルリスクマネジメントは重要です

具体的には、機密保持に関する誓約書の提出を従業員に求めたり、就業規則に情報管理に関する規定を設けたり、社内規則の規定を見直したりするなどの方法で対応することが考えられます。

最新のセキュリティ環境の維持

セキュリティ対策不足は、デジタルリスクの顕在化の可能性を高めます。

そのため、最新のセキュリティ環境を維持する必要があります。

具体的には、セキュリティポリシーを作成したり、最新のウイルス対策ソフトを導入したり、社内のセキュリティを強化したりするなどの対応策が考えられます。

従業員教育

デジタルリスクマネジメントにおいて、従業員教育は非常に重要な役割を果たします。

従業員が問題意識を共有し、どのような情報の発信を差し控えるのかを理解しておくことは、デジタルリスクを回避することにつながります。

具体的には、ソーシャルメディアガイドラインを作成したり、従業員の教育・研修の場を設けたり、違反した場合の懲戒処分規定を検討したりすることが対策として考えられます。

なお、ソーシャルメディアガイドラインでは、会社のSNSに対するスタンスや従業員の個人的な投稿において許容される会社情報の範囲、トラブルが発生した場合の責任の所在などを明らかにするとよいでしょう。

そして、ガイドラインに違反した場合の懲戒処分なども検討して、実効性のあるものにしていくことが重要になります。

まとめ

本記事では、デジタルリスクが企業に与える影響とデジタルリスクマネジメントの進め方について解説していきました。

企業が抱えるデジタルリスクは、0にすることは難しいですが、最小限に抑えることは可能です。

そのためは、企業がデジタルリスクマネジメントを日頃から積極的に進めていくことが大切です。

弁護士

木下慎也 弁護士

大阪弁護士会所属
弁護士法人ONE 代表弁護士
大阪市北区梅田1丁目1-3 大阪駅前第3ビル12階
06-4797-0905

弁護士として依頼者と十分に協議をしたうえで、可能な限り各人の希望、社会的立場、その依頼者らしい生き方などをしっかりと反映した柔軟な解決を図ることを心掛けている。

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