従業員に金銭を横領された際の返済請求3つのポイントを解説!横領返済念書(合意書)の雛形も

なぜか会社のお金が減っていく、貴重品がなくなる。そんな経験はありませんか?

実は、万引きなどではなく、従業員による横領事件かもしれません。少しでもおかしいと感じたなら、まずは調査することが大切です。

横領事件は近年でも、悪質な事件が多発しています。

2023年3月には、大阪信用金庫で従業員による横領事件が発生し、損害金額は14,510,770 円(実損額 9,760,770 円)と発表されたばかりです。

従業員を信用することはもちろん大事なことですが、それ以上に、正確に事実を把握することが代表の勤めになるでしょう。

今回は、従業員に金銭を横領された場合の返済請求ポイントを3つご紹介します。

横領は刑事事件でもあるので、犯罪に対する罰は警察で行います。

しかし、会社として損害を出さないためにも横領された金銭は民事事件として返済してもらわなければいけません。会社の対応により他の社員に対しても事後の抑止力として繋がります。

今回は業務上横領罪での会社の対応を具体的に解説しています。横領返済念書の雛形もありますので参考にしてください。

目次

そもそも「横領」とは?

横領とは、「自分が預かるなどで所持(占有)している他人または公共のものを、不法に自分のものとすること」を指しています。

刑法252条には以下のように記されていますのでご覧ください。

“第1項 

自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処する。

第2項 

自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。”

横領(単純横領罪)(おうりょう・たんじゅんおうりょうざい)

要するに横領とは、他人のものを自分のものにする行為を指しています。

そして日本の法律では刑事罰に相当し、10年以下、または5年以下もしくは1年以下の懲役に処される事件です。

横領で問われる責任

横領で問われる責任には、いくつかあります。刑事事件ですので、刑事罰の責任は免れません。

そして、横領した者には、着服した金銭を返済する責任もあります。その上で、従業員は会社を解雇される責任も問われるでしょう。

横領とは、刑事罰だけではなく民事事件にも発展しますので、軽はずみな行動で自分を社会的に追い詰める行動といえます。会社としては何があっても見逃してはいけません。

見逃す行為は会社の損失につながるだけでなく、他の社員にも悪例を残すことになり、更なる損害のきっかけを作ることになってしまいます。

横領罪の種類とそれぞれの罰則

一概に横領といっても、種類が3つありますので、それぞれ見ていきましょう。

横領罪には、時効もありますので、気がついたらすぐに行動することが肝心です。

①単純横領罪

単純横領罪とは、先に述べた刑法252条に該当し、5年以下の懲役に課せられます。

自分が預かるなどしている他人のものを自分のものにする、その他人のものの所有者でなければできない行動をとる、また、自分のものであっても他人から保管を頼まれたものを無断で自分のものにしてしまう行為などを指しています。

例えば、留守中に友人から犬の世話を任されていた場合に、無断で犬を売却してしまう行為などのことです。この場合には、他人から預かったもの(犬)を、もの(犬)の所有者で無ければできない行動をとることにあたります。単純横領罪の時効は5年あります。時効が成立する前にしっかり対処していきましょう。

②業務上横領罪

業務上横領罪は刑法253条で定められており、10年以下の懲役が課せられる犯罪です。

業務上横領罪とは、従業員が業務として行っている自分管理下の会社の金銭を自分のものにする行為を指しています。

例えば、会社の経理担当者が会社の口座から自分の口座にお金を移し、借金返済などに利用することです。従業員が横領した場合にはここに該当します。業務上横領罪の時効は7年です。泣き寝入りせずに横領された場合は、事実確認を行いましょう。

③遺失物横領罪

遺失物横領罪とは、落とし物のように他人の所持(占有)から離れた遺失物を無断で自分のものにする行為のことをいいます。

例えば、道端に落ちている財布を拾い、無断で自分のものにしてしまう行為などのことを指しています。

刑法254条に該当し1年以下の懲役または10万円以下の罰金、もしくは科料が課せられます。

科料とは1,000円以上1万円未満の軽い過ち料のことです。

遺失物横領罪の時効は3年しかありません。もしも、気がついた場合は、すぐさま対処していくことが大切です。

横領の民事責任について

横領は刑事罰が課せられる刑事事件です。

刑事事件では相当の罰則が課せられますが、横領した金銭やものの返還については警察が行ってくれるわけではありません。

横領された金銭の返却責任は、民事責任に該当し、会社自らが請求しなくてはいけません。横領によって生じた損害を損害賠償責任に問うことが可能です。

従業員による業務上横領事件の場合は、警察に頼るだけではなく、民事責任に問い、横領された金銭を返済してもらえるのです。

とはいえ、横領額が高額の場合は、一括で返済する能力はないかもしれません。

そんな場合には、分割払いになる可能性がありますが、返済が滞る危険性があります。従業員との間で事前に執行認諾文言付公正証書を作成しておくことで、裁判を行わずとも強制執行が可能になります。

従業員の金銭着服・横領が発覚し、返済請求をする際の3つのポイント

従業員の金銭着服・横領が発覚し、返済請求をする際には、ポイントが3つありますので、ご紹介します。

①身元保証書の取得有無を確認する

最初に横領の事実が確認できたら、横領した従業員の身元保証書を確認しましょう。

採用の際に身元保証書を従業員に提出させているはずです。ただし、勤続年数が長い従業員に該当する場合は、身元保証書の期限が切れている可能性も。

身元保証書は記載がない場合の期限は3年間です。もしも記載がある場合は、その期間が期限に採用されますが、5年以上の期間が記載されていても法的には、期間は5年になります。

そのため、企業は身元保証書を定期的に従業員に提出させなければいけません。もしも採用時の身元保証書のままの場合は横領した従業員から新たに身元保証書を提出させましょう。

②本人もしくは身元保証人の財産調査を実施する

横領した従業員の身元保証書から身元保証人が特定できたなら、最初に財産を確認することが2つ目のポイント。

本人と身元保証人の財産どちらも確認することが大切です。

なぜなら、もしも金銭返済請求の訴訟を起こした場合に、本人もしくは身元保証人に返済能力があるのかどうかを確認しなければいけないからです。

財産調査とは、具体的には所有不動産と、生命保険の調査を行います。

所有不動産を調査

所有不動産を調査は、法務局に出向き登記簿謄本から所有する不動産の所有者が誰かを確認することです。

所有者が本人または、保証人の場合には、債権回収がしやすくなります。また、次のポイントは、所有する不動産に抵当権がついていないかを確認することです。抵当権の有無は登記簿謄本を見ればわかります。 

もしも抵当権がついている場合は、最初に銀行が回収することになるでしょう。債権回収をする場合はその残り金額から回収が可能になります。

次のポイントは、共同担保目録の有無です。共同担保目録も登記簿謄本に記載がありますので、チェックを忘れないでください。共同担保目録には、抵当権がついている場合に、該当する不動産が記載されています。自宅だけでなく所有している不動産が判明するかもしれません。

債権回収には役立ちますので、自宅以外の不動産の有無もしっかり調べておきましょう。

登記簿謄本は、法務局にいけば誰でも見ることができます。本人以外の家族や第三者でも見ることができますので、安心してください。そのため、従業員の不動産は会社でも把握することは可能です。

生命保険を調査

生命保険の調査は、年末調整をチェックすることです。

従業員に提出させている「給与所得者の保険料控除申告書」には生命保険の有無が記載されています。

もしも契約があるなら、生命保険を解約し、その返戻金から強制的に横領金を返済させることができるでしょう。

③金銭の着服・横領に関する証拠を集める

3つ目のポイントは、横領や着服に関する証拠を集めることです。

将来的に訴訟に発展した場合には、確実に証拠が必要になりますので、見逃さずに確保しましょう。

もしも横領を疑い、冤罪だった場合には大きな問題になってしまいます。横領がされたであろう、本人の行動を隈なくチェックし、本当に疑いのある従業員が横領できる状況にあったのかも詳しく調べておく必要があります。

金銭の着服・横領で集めておくべき証拠は?

まず、従業員への事情聴取で従業員が横領を認めた場合には、速やかに簡単でもいいので支払誓約書を書かせましょう。

後で裁判になってから横領の事実を否認するケースも多々あります。ですから、認めた時点で間違いなく、証拠を作っておくことが重要です。

次に、本人が横領・着服の事実を認めない場合は、「弁明書・議事録」として記録を残しておくことも重要です。これらの証拠は、本人が横領を認めていないわけですから、不要に感じるかもしれません。

ですが、警察の事情聴取の際に矛盾点が発見されたり、不合理な点が確認できる可能性のある重要な証拠になるのです。本人に、弁明書を記載させるか、事情聴取内容を議事録として残し、本人に署名や押印をもらうことも忘れないでください。

次の重要な証拠としては、横領するにあたり、本人が偽造したであろう書類を確保することです。例えば、不正にお金を引き出すために架空の請求書や発注書を会社に提出している場合などにはその原本をしっかり押さえましょう。

また、会社の銀行口座から不正に引き出しや送金をしている場合には、銀行の出金伝票や送金伝票を確保してください。確実な証拠になります。

これらの証拠の背景にある、「いつ」「誰が」「どのように」という事情もしっかり事情聴取で確認することも大切です。

また、偽装書類に本人以外の上司の押印などがあるケースも。その場合、印鑑を偽造している可能性や、不正な持ち出しがなかったかも疑います。

事情をよく確認し、上司にも不正な印鑑の持ち出しが可能な状況だったのか、事前に確認するようにしましょう。

着服・横領について、裁判を想定した際に検討するべきポイント

着服・横領の事実について、事情を把握し、証拠を取り揃えたなら、もしも裁判に発展した場合に、間違いなく犯人だと特定できるのかどうかを検討しなければいけません

あらぬ疑いを従業員にかけて冤罪だったという事態は避けるべき問題です。

チェックする点は以下の4点になるでしょう。

  • 横領した金額・日時を特定する
  • 印鑑の偽造・不正持ち出しがあったかを確認する
  • 本人の横領が可能だったかを確認する
  • 本人が横領したと裁判で判断されるか考える

横領した金額や日時を特定し単独犯だったのか、複数犯だったのかを特定します。

また、先にも述べたように、印鑑の偽造や不正持ち出しがあったのかをチェックしましょう。

もしかすると会社の体制に問題があった可能性もあるのかもしれません。

その上で本人に横領が可能だったのかを検討します。また、他の人が横領したと主張される可能性がないのかも証拠を元に、検討しなければいけません。

取り揃えた証拠や事実で、裁判になった場合に本人が横領したと判断されるのかをしっかり検討しましょう。

内容証明の前に返還請求を行うことが重要

横領の事実を確認し、着服された金銭の返還を求める場合、訴訟を検討する方が多いでしょう。

そのためには、内容証明郵便で、「訴訟を起こしますよ」という内容を出すことになりますが、その前に話し合いによる返還請求をすることが重要です。

理由は、訴訟を起こしてしまうと、事態が長期化する恐れがあることと、会社の名誉に傷がつく恐れがあるからです。

まずは事件を大袈裟にせずに、確実な返済のために、横領した疑いのある従業員や家族などの身元保証人と話し合いを行いましょう。

金銭の着服・横領の返還請求で話し合う

では、横領の疑いのある従業員と話し合うときの気を付けるべきことを解説します。

会社の対応一つで業務上横領は解決できるかが変わります。以下の点を押さえてしっかり、話し合っていきましょう。

①身元保証人にも面談を求める

話し合いには、本人と身元保証人に出席してもらいます。本人だけでは、返済が難しいケースも考えられますが、身元保証人が加わることで、返済能力が高まることになるでしょう。

本人だけでは、一括の返済ができない場合でも、身元保証人が一括で返済できる可能性もあります。

また、もしも分割払いだとしても、身元保証人が加わることで返済までの期間が短縮できる可能性も高いはずです。本人にとっても、身元保証人が話に加わることで、返済しなければいけないという意識が高まるでしょう。

②分割払いの場合はなるべく初回の支払いを大きくする

話し合いでは、できるだけ一括で返還してもらうのが理想的ではありますが、どうしても分割になる場合は、できるだけ初回の返還額を高く設定してください。

万が一、返済が滞った場合でも損害を小さくできるからです。また、返済期間を短くできるでしょう。

③ 分割払いを要求された場合は預金通帳の写しを提出させる

もし、分割払いになる際には、預金通帳の写しを確実に提出させましょう。

預金通帳の写しがあれば、生命保険の引き落とし履歴や証券口座の存在などを発見することができます。

万が一、返還が滞った場合でも差し押えの対象にできますので、銀行口座の写しは押さえておきましょう。

④ 分割払いの合意書作成時は、期限の利益喪失条項を入れる

返済について話がまとまった場合は、必ず横領返済念書(合意書)を作成しましょう。

話し合いの内容は全て文書化することが大切です。もしも分割払いなら、合意書の中には期限の損失条項を確実に入れることを忘れないでください。

期限の損失条項とは、分割払いに遅延が発生した場合には一括払いをするという条項です。これがあることで、遅れた場合には、資産の差し押えなど一括で返還させる効力を発揮できます。

横領返済念書の雛形

では、横領返済念書の雛形は下記の通りです。参考にしてあなたの会社で横領事件が発生した際に支払いテンプレートにして、役立ててください。

まとめ

横領事件は実は身近に潜んでいる可能性があります。

会社の収支が合わない、最近、お金や貴重品がなくなっていくなどの不審な点がある場合はすぐさま事実を確認していきましょう。

もしも従業員による着服や横領の事実が判明したなら、まずは本人と保証人との話し合いが大切です。横領の事実を認めた場合は速やかに横領返済念書を提出させる必要があります。そして、将来的に訴訟に発展した場合を想定し証拠は確実に押さえてください。

横領事件で対処が困難だった場合は、迷わず弁護士に相談しましょう。経験豊富な弁護士が、横領の疑いのある従業員や保証人と話し合いを行い、できるだけ会社の名誉を損なわずに、事件を解決に導いてくれます。

横領の正確な事実が判明し、少しでも早く損失が返還されることを願います。

弁護士

山本 勝哉 弁護士

山本法律事務所

〒231-0005
神奈川県横浜市中区本町2-19 弁護士ビル5階
TEL:045-211-4209 FAX:045-211-4210

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