給与の計算の方法には様々な方法があるのですが、その中の一つに固定残業代・みなし残業代があります。
多くの会社で導入されている固定残業代・みなし残業ですが、実はトラブルになる原因となることもあります。
このページでは固定残業代とはどのようなものか、注意すべき点なども併せてお伝えします。
固定残業代制度(みなし残業制度)とは?
残業代の計算が楽になることと同時に、募集の際に好待遇に見せることができるというメリットがあり、多くの会社で採用されています。
固定残業代については、基本給に組み込むタイプの組込型と、残業代の支払いに代えて手当の支払いをする手当型があります。
固定残業代制度の要件
固定残業代制度については、基本給が分かりにくくなり、残業代の支払いが適切になされているかなどが分かりづらくなります。
そのため、固定残業代制度については、テックジャパン事件判決(最高裁第一小法廷平成24年3月8日判決)などを経て、次の要件を満たす必要があります。
- 基本給等通常の労働時間の賃金に当たる部分と固定残業代が明確に区分されている
- 固定残業代が割増賃金の対価として支払われていること
- 固定残業代を超える割増賃金についての差額を支払う合意ないし実績があること
固定残業代制度の事例
固定残業代制度の例としては次のようなものが挙げられます。
例)月給28万円(45時間分の固定残業代65,000円を含む)
この場合、 280,000(月給)-65,000円(固定残業代)をすると、基本給は215,000円となります。
固定残業代制度とみなし労働時間制度の違い
固定残業代制度とよく似たものとしてみなし労働時間制度というものがあります。
みなし労働時間制度とは、事前に決められた一定の労働時間を働いたとみなすとする制度のことをいいます。
外回りの営業職や在宅勤務をしているような場合、労働時間の把握が難しいことがあります。
このような場合に、一定時間労働したものとして給与の計算をするのが、みなし労働時間制度です。
何時間労働したかという問題がみなし労働時間の問題で、残業代の支払いについての問題が固定残業代制度の問題です。
なぜ企業は固定残業代を採用しているのか
なぜ企業は固定残業代を採用しているのでしょうか。
企業側としてのメリットとしては、主に次の2つが挙げられます。
- 残業代の計算が容易となる
- 好待遇に見せることができる
まず、残業代の計算は、残業時間を集計して、割増賃金の区分に従って計算する必要があります。
残業代の支払い義務が固定残業代の枠に収まっている限り、このような計算をする必要がなくなり、会社の負担減らすことができます。
また、採用の際に、固定残業代を含めた金額で募集をかけることができます。
例えば、同じ月給25万円の求人があるとして、固定残業代5万円を加えて月給30万円で求人を出すことで、固定残業代を採用していない会社よりも多く見せることが可能です。
固定残業代を利用しているところはどんな会社(職種)が多いのか
固定残業代を利用しているところは次のような会社・職種が多いです。
- 残業時間が予測がしやすい
- 労働力不足で人材確保の必要がある
まず、固定残業代は毎月一定時間の残業代の支払いをすることになるので、残業時間の予測がしやすい会社・職種が固定残業代を利用することが多いです。
また、上述したように好待遇に見せることができる効果があることから、労働力不足で人材確保の必要がある会社が固定残業代の利用を行うことが多いです。
固定残業代制度のメリット【労働者側】
固定残業代は労働者側から見ると次のようなメリットがあります。
残業をしなくても受け取れる
固定残業代は実際に残業をしなくても受け取れるというメリットがあります。
残業代は、実際に残業(時間外労働)をした場合に受け取ることができるのであって、時間外労働をしていない場合には受け取ることができません。
しかし、固定残業代制度を導入している場合、実際に残業をしなくても固定残業代として受け取ることができます。
業務効率化と収入の安定を実現できる
業務効率化と収入の安定を実現することができます。
上述したように、残業をしてもしなくても残業代を受け取ることができます。
固定残業代を導入していなければ、効率よく業務をこなして、残業を減らすと、残業代の支払いを受けられなくなり、給与が少なくなります。
固定残業代を導入することで、効率よく業務をこなして残業を減らしても、残業するのと同じだけの給与を受け取ることができるので、業務効率化に繋がります。
そして、固定残業代を受け取ることができるので、収入が安定するようになります。
超過分の残業代も受け取れる
固定残業代はあくまで一定時間分の残業代を、残業の有無に関わらず支払うとされているものです。
そのため、実際に残業代を計算すれば、支払われている固定残業代を超過する残業代を支払うべき場合には、超過分の残業代を受け取ることができます。
固定残業代制度のデメリット【労働者側】
一方で固定残業代制度について、労働者側からは次のようなデメリットもあります。
基本給が低くなるケースがある
基本給が低くなるケースがあります。
20万円の給与としている場合でも、それがそのまま基本給である場合と、固定残業代制度が含まれている場合とでは、固定残業代が含まれている場合のほうが基本給が低くなります。
残業代や・ボーナス・退職金・休業手当など、基本給の額が多い方が多くの支給を受けられるものについて、金額が低くなってしまうことになるのはデメリットといえるでしょう。
長時間労働になりやすい
長時間労働になりやすいことがデメリットです。
上述したように効率よく仕事を終わらせて、早く退勤することができる職種では、固定残業代はメリットになります。
一方で、例えば飲食店などの接客業のような場合、固定残業代があるからその時間は残業をすべきという解釈をされることになり、長時間労働になりやすいというデメリットがあります。
超過分を支払ってもらえないケースがある
超過分を支払ってもらえないケースがあります。
上述したように、固定残業代の支給がされている場合、長時間労働になりやすいです。
その結果、支払っている固定残業代を超える超過分が発生している可能性が高くなります。
しかし、本来は違法なのですが、固定残業代の支払いをしているからと、それ以上の残業代の支払いに応じないケースも多く、これは労働者にとってはデメリットといえます。
固定残業代制度で働く場合の注意点
固定残業代制度で働く場合には次のようなことに注意しましょう。
必要事項が明示されているか確認する
固定残業代制度で働くにあたって、必要事項が明示されているか確認しましょう。
固定残業代の導入の要件として、基本給と固定残業代が明確に区分されている必要があります。
また、超過分の支払いをする旨を明示している必要もあります。
そのため、募集要項や求人票などに必要事項を記載すべきとして、厚生労働省でも注意喚起がされています。
参考:固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします|厚生労働省
ここでは、次のようなことを明示することを要請しています。
- 固定残業代を除いた基本給の額
- 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
- 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨
良い記載例と悪い記載例
実際の例として次の2つを確認しましょう。
OKな例
- 基本給(××円)(②の手当を除く額)
- □□手当(時間外労働の有無にかかわらず、○時間分の時間外手当として△△円を支給)
- ○時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給
NGな例:
月給30万円(固定残業代を含む)
追加残業代が支払われているか確認する
超過する残業代の分について規定はしていても、実際には残業代の支払いをしていない会社があることは上記の通りです。
未払い分については残業代請求として民事上の請求をすることができますが、会社に在職中では請求をするこは事実上難しいことが多いです。
未払いの残業代請求は、2024年現在では3年で時効にかかることもあり、請求できなくなります。
そのため、これから就職する場合であれば、追加残業代の支払いがされているかは確認しましょう。
すでに在職中である場合には、固定残業代以上の支払いをしているかを計算して確認し、退職後の請求に備える必要があります。
過剰な残業になっていないか確認する
過剰な残業になっていないかを確認しましょう。
上述したように、固定残業代制度を導入している場合には、長時間労働になる傾向があります。
残業代の支払いを行わず、タイムカードなどで労働時間を管理していないような場合、残業時間の法律上の上限を超えるような、過剰な残業となることも珍しくありません。
長時間労働は労働災害などにもつながるものになるので、異常な残業になっていないかを確認するようにしましょう。
基本給が違法になっていないか確認する
基本給が違法になっていないかを確認するようにしましょう。
最低賃金法は最低賃金を定め、基本給がこれを下回らないようにしなければなりません。
しかし、固定残業代制度を導入しようとして、基本給が最低賃金を下回ってしまい、違法となっていることも珍しくありません。
最低賃金については、都道府県ごとに設定されている最低賃金と、特定の産業ごとに定められている特定最低賃金があるので注意が必要です。
まとめ
このページでは、固定残業代についてお伝えしました。
固定残業代制度は、会社の残業代の計算を楽にしたり、求人をしやすくするために利用されますが、労働者にとっては違法な残業代の未払いや長時間労働に繋がりやすいものです。
正しい知識を身に着け、トラブルになった場合には早めに専門家に相談する必要があります。
あらかじめ弁護士保険などで、今後の様々なリスクに備えておくことをおすすめします。
木下慎也 弁護士
大阪弁護士会所属
弁護士法人ONE 代表弁護士
大阪市北区梅田1丁目1-3 大阪駅前第3ビル12階
06-4797-0905
弁護士として依頼者と十分に協議をしたうえで、可能な限り各人の希望、社会的立場、その依頼者らしい生き方などをしっかりと反映した柔軟な解決を図ることを心掛けている。
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