労災年金とは?種類や条件、計算方法、金額などを解説

社員やアルバイトなどの労働者が、労働中や通勤中に怪我・事故等に遭った時、被害の補償や治療費を保障することができる「労災保険制度」を受けることができます。

この労災保険は、一回のみの支払いと、長期間・定期的に給付される場合があり、このうち長期間・定期的に支払われるものが「労災年金」に当たります。

本記事では、労災年金の仕組みや支給条件などについて解説します。

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目次

労災年金とは

労災保険って、基本的には一度きりの支給かと思っていました。

弁護士

もちろん、一度きりの支給のみのこともありますが、ケガや病気の程度によっては長期間・複数回にわたって支給されるケースもあります。

労災年金とは
働いている人が仕事中に事故や病気でケガをした場合にもらえる年金のこと

たとえば、工場で働いていて機械によって手が切断された、長時間働くことで精神疾患を患ったなどの場合に、その治療費や生活費の一部をもらうことができます。

この労災年金は、負傷・疾病(ケガや病気)の状態や働けなくなった程度に応じてもらえるお金が変わってきます。

弁護士

障害を抱えた人が一生涯にわたってもらえる場合もあります。

労災年金は働く人の安全と健康を守るための制度であり、働いてケガや病気をした場合に一定の補償を受けることができる仕組みです。

労災年金として受け取れる年金の種類

いざという時のために覚えておきたい制度ですね!

弁護士

ちなみに、労災年金は3種類あり、それぞれで支給される金額や期間が異なりますので、よく確認しておきましょう。

概要

労災年金には主に以下の3つの種類があります。

  • 傷病補償等年金(傷病年金、複数事業労働者傷病年金)
    病気やケガが重度で、治療を終えていない状況でもらえる年金
  • 障害補償等年金(障害年金、複数事業労働者障害年金)
    病気やケガの治療の見込みがなく、障害が残ってしまった状況(症状固定)でもらえる年金
  • 遺族補償等年金(遺族年金、複数事業労働者遺族年金)
    労災事故で亡くなった家族(遺族)の生活を支えるためにもらえる年金

これらの年金は、労働者の安全や健康を守るための制度として、労働者とその家族の支援を行う目的で設けられています。

参考

障害補償給付・障害給付・複数事業労働者障害給付の違い

  1. 障害補償年金・・・業務災害で被災した労働者へ支払われる障害年金
  2. 障害年金・・・通勤災害で被災した労働者へ支払われる障害年金
  3. 複数事業労働者障害年金・・・被災(業務や通勤が原因でけがや病気、死亡)した時点で、事業主が同一でない、複数の事業場と雇用関係にある労働者へ支払われる障害年金
弁護士

一般的には、上記3つをあわせて 『障害(補償)年金等給付』という記載をします。

傷病補償等年金

傷病補償等年金
労働者が労働中(業務上)、事故や疾病によって一定期間入院や通院治療を必要とし、そのために収入が減少した場合に支給される一時的な年金

基本的には、「休業補償」を労災で行うのですが、そのケガや病気の状態が特に悪い場合に年金として支給されます。

重度の病気やケガを負っている状態が継続しており(治っていない)、かつ、その状態が「休業が1年6か月以上経過した場合」に支給されます。

他の年金と違うところは、本人が請求するのではなく、労働基準監督署長の判断(職権)にて支給される、という点です。

障害補償等年金

障害補償年金
労働者が労働中に事故や疾病によって身体的または精神的な障害を負い、その結果として一定の程度以上、労働能力が低下した場合に支給される年金

労働者が障害を負ったことによって職業上の制約や困難を経験し、経済的な支援が必要となる状況で適用されます。

症状固定(医者に行っても治る見込みがないと判断)された人が、障害の程度が一定基準を超えている場合(※医師の診断により判定されます)対象となります。

なお、障害の程度が比較的軽い場合は、年金ではなく一時金として支払われます。

具体的な給付額は障害等級に基づいた算定表や評価基準によって算定され、障害の程度が重いほどより多くの年金が支給されます。

遺族補償等年金

遺族補償等年金
労働者が亡くなったことで残された遺族(家族)が経済的な困難を抱えることがないように支給される年金。生活費の一部をカバーする役割。

遺族(家族)とは、亡くなった労働者と生計を同じくしていた(財布を一緒に管理していた)配偶者や子どもなどを指します。

遺族補償年金は、原則、亡くなった労働者の配偶者へ支給されます。

場合によっては、配偶者以外の遺族(子、父母、孫、祖父母、兄弟)ということも。

ただし、再婚したり一定の年齢になったりすると支給が終了する場合もあるため注意しましょう。

労災年金を受け取れる条件

弁護士

労災年金を受給するには、労働基準監督署などの労災認定機関によって労災と認定される必要があります。

どのような場合に労災と認定されるのでしょうか?

①業務災害または通勤災害による負傷・疾病・障害・死亡であること

業務災害とは
業務上の原因によって生じた怪我や病気、障害や死亡を指す

これは、使用者(会社)の指揮・命令下で労働している時でなければなりません。

業務時間内であっても、業務に関係のない私的な行為に起因する怪我や事故、故意による怪我などは該当しません。

通勤災害とは
通勤中に負った怪我や病気、障害や死亡を指す

通勤災害によって労災年金を申請する場合は、以下3つの条件を満たす必要があります。

以下のいずれかの移動であること

  • 住居と就業の場所との間の往復
  • 就業の場所から他の就業の場所への移動
  • 単身赴任先の住居と帰省先の住居との間の往復

合理的な経路及び方法であること

通勤のために通常利用する経路であれば、仮に経路が複数あったとしても、それらはいずれも合理的な経路となります。

ただし、会社の帰りに飲み会に行く・帰りに習い事に行った等はもちろん、理由もなく遠回りをして帰る場合も合理的な経路とはいえません。

移動行為が業務に就くため、または業務を終えたことにより行われるものであること

被災当日に就業することとなっていた、または実際に就業していた事実が必要です。

②傷病等級、障害等級の認定を受けること

傷病等級障害等級は、負傷や疾病・後遺症の内容やその重さによって、労働基準監督署が認定します。

本人や会社、治療にあたった医療機関が勝手に等級の認定をすることはできません。

  • 労働基準監督署からの求めに応じて障害の状態がわかる書類を提出
  • 厚生労働省のホームページから、補償の種類に応じた請求書を入手・作成し、所轄の労働基準監督署に提出

など、状況に応じて対応が必要になります。

労災年金の計算方法

具体的に労災年金はいくらもらえるのでしょうか?

弁護士

労災年金の金額は、「給付基礎日額」と「算定基礎日額」という2つの基準を使い計算されます。

給付基礎日額とは?

簡単にいうと、1日あたりの平均賃金を指し、この金額は基本給や役職手当・残業代など全て含んだ金額になります。

月給で働いている人でいうと、月の給料を30日(1か月分)で割って算出した金額です。

算定基礎日額とは?

給付基礎日額は、月給だとしたら算定基礎日額がボーナスで受け取った金額に当たります。

厳密には3か月を超えて受け取る賃金(賞与)のことです。

前一年分のボーナスを365(1年分)で割って算出した金額です。

スライド率とは?

スライド率は簡単にいうと、物価や世間の給与水準に合わせて金額を調整するためのものだと考えて下さい。

給付基礎日額や算定基礎日額をベースに、このスライド率をかけて調整されます。

スライド率は毎年更新されますが、この20~30年は物価や給料額が上がっていないので、あまり大きな調整されていないのが現状です。

弁護士

ちなみに、令和6年8月以降に適用されるスライド率は、前回と比べ平均で1.76%増のプラス改定となっています。

また、この他に、最低最高限度額も設定されています。

労災年金の給付が停止等されるケース

主に以下の4つのケースでは労災年金の給付が停止される可能性がありますので注意しましょう。

定期報告を怠った場合

労災年金を受給している場合は一年に一回の定期報告をする必要があります。

毎年通知が送られてくるので、それを無視して労働基準監督署への報告を怠った場合、給付が停止する可能性があります。

障害補償年金

上記の定期報告により、症状に合わせて障害等級が上がったり下がったりします。

回復によって症状の程度が軽減され、この等級に該当しなくなった場合は給付が停止されます。

障害補償年金の支給金一覧表
障害等級障害(補償)給付障害特別年金障害特別支給金※一時金
第1級給付基礎日額の313日分算定基礎日額の313日分342万円
第2級〃277日分〃277日分320万円
第3級〃245日分〃245日分300万円
第4級〃213日分〃213日分264万円
第5級〃184日分〃184日分225万円
第6級〃156日分〃156日分192万円
第7級〃131日分〃131日分159万円
第8級~第14級までは一時金となります。

傷病補償年金

病状が自然経過で軽くなり、症状固定(治癒)の状態となった場合には給付が停止されます。

(傷病補償年金が支給停止になっても、休業補償給付が支給されることがあります。)

逆に、症状固定の時点で障害が残った場合は、障害補償年金に切り替えられる場合があります。

傷病補償年金の支給金一覧表
傷病等級傷病(補償)給付傷病特別年金傷病特別支給金※一時金
第1級給付基礎日額の313日分算定基礎日額の313日分114万円
第2級〃277日分〃277日分107万円
第3級〃245日分〃245日分100万円

遺族補償年金

受給資格のある遺族(受給権者)がいなくなったときに停止されます。

受給権者が亡くなったときや、親族以外と養子縁組した場合などが該当します。

配偶者であれば、再婚したとき(事実上の婚姻関係を含む)、受給権者が子どもの場合は18歳になったとき(障害がある場合は20歳)等が挙げられます。

遺族補償年金の支給金一覧表
遺族数遺族(補償)年金遺族特別年金
1給付基礎日額の153日分
(55歳以上の妻または一定の障害状態にある妻の場合は175日分)
算定基礎日額の153日分
(55歳以上の妻または一定の障害状態にある妻の場合は175日分)
2〃201日分〃201日分
3〃223日分〃223日分
4〃245日分〃245日分

労災年金の金額が調整されるケース

国民年金や厚生年金(共済等)を受け取っている場合、労災よりも同一の事由である年金(障害基礎年金・障害厚生年金・遺族年金等)が優先され、労災年金の支給額が調整(減額等)されます。

ただし、65歳以上の老齢に関する年金は、併給されます。

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まとめ

労災制度は非常に煩雑で専門性が高いため、全てを自分で行おうとすると膨大な時間と労力が必要な可能性があります。

それによって適切な治療ができなかったり遅れたりして、重大な後遺症が残るリスクがあります。

また、労災保険給付の金額は、被災労働者に生じた損害額ではなく、被災時の賃金額等に応じて画一的に決定されるため、実際の損害を補填するには不十分な場合があります。

被災状況が会社の責任によるものであれば、会社に対して損害賠償を請求できる場合もあります。

※安全配慮義務違反(民法415条)、不法行為責任(民法709条)、使用者責任(民法715条1項)

「労災と認められない」、「会社が労災認定をさせてくれない」などといったトラブルが発生するケースも珍しくありません。

会社との交渉や手続きを弁護士が代行することで、これらリスクの回避や速やかな問題解決、損害補填が可能になります。

労災トラブルに遭った場合には、労災案件を得意とする弁護士に相談するとよいでしょう。

弁護士
東拓治弁護士

東 拓治 弁護士
 
福岡県弁護士会所属
あずま綜合法律事務所
福岡県福岡市中央区赤坂1丁目16番13号上ノ橋ビル3階
電話 092-711-1822

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