業務上横領は少額ならバレないのか? ~そのリスクと発覚したときの対応~

数千万円単位の横領が報道などでニュースになることがありますが、このような額の横領ではなくても数万円単位の少額な横領行為は、「バレない」「見逃される」のでしょうか?

このページでは少額の横領行為について、どのような問題があるかお伝えします。

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目次

会社のお金を横領した場合どのような法律上の問題が生じるのか?

まず、横領などの行為をした場合に、法律上はどのような問題が生じるかを確認しましょう。

刑事罰に問われる

会社のお金を横領するなどした場合には、刑事罰に問われる可能性があります。

自分が会社のために預かっているものを自分のものにしてしまう行為を横領といい、反復継続して行っている場合(会社の業務に限りません)には、業務上横領罪(刑法253条)に問われることになります。

横領以外にも、自分が預かる立場にない会社のお金を盗んだ場合には窃盗罪が(刑法235条)、会社や第三者に偽って金銭を支払わせる行為は詐欺罪が(刑法246条)、成立することがあります。

これらの行為は、法律上「被害金額がいくら以上でなければならない」ということはないので、少額の横領行為についても犯罪は成立します。

返還請求・損害賠償請求

当然ですが、横領したお金は返還しなければなりません。

法律上は、横領した金銭を持っている法律上の根拠がないため、不正な手段で得られた利益であるとして、不当利得返還請求権※として、返還する義務があります。

また、横領は不法行為ですので、不法行為損害賠償請求※2として金銭の支払いに応じる義務もあります。

こちらも、横領の額が多額・少額を問いません。

※不当利得返還請求権とは、相手方が不正な手段で得た利益を被害者側が、返還を求める法的権利。簡単に言うと、横領したお金返してね。ということです。

※2不法行為損害賠償請求とは、法律上の義務を履行しなかったことによって他人に損害を与えた場合、被害者が損害賠償を請求する権利。簡単に言うと、迷惑かけたんだから損害賠償してね。ということです。

懲戒処分・懲戒解雇

会社から懲戒処分を受けることになります。

懲戒処分には

  • 口頭注意
  • 書面注意
  • 減給
  • 停職
  • 降格

など様々な種類がありますが、最も重いものである懲戒解雇、つまりはクビになる可能性も否定できません。

退職金の不支給

会社を懲戒解雇された場合、退職金が不支給とされます。

退職金規程を置いている会社のほとんどが、懲戒解雇をされた場合には、退職金を支払わない旨規定されています。

残業代が支払われていない・セクハラやパワハラなどは正当化理由にならない

会社のお金を横領するケースで、「残業代がきちんと支払われてない」「セクハラ・パワハラの被害にあっている」などの報復として会社のお金を横領などしているケースがあります。

確かに残業代の未払いやセクハラ・パワハラはあってはならないことで、正当な残業代や慰謝料を支払わなければなりません。

ただし、これらも会社が任意で支払わない場合には、裁判を起こして請求するのが正当な方法であり、横領をすることを許容するものではありません。

法的問題以外にも実名報道されることによる影響は大きい

以上のような法的問題が発生することの他に、横領で刑事事件になると実名報道をされることがあります。

周囲の人に知られてしまい、信頼を失うことになりかねません。

業務上横領等、犯罪が成立するときは?

どのような行為で業務上横領などの犯罪が成立するかを確認しましょう。

業務上横領(刑法253条)

横領とは、自分が預かっている他人のものを、自分のものにしてしまう行為をいいます。

横領を「業務」上行うと、業務上横領罪として処罰されるのですが、この「業務」とは「社会生活上の地位に基づいて、反復継続して行われる事務」という解釈がされており、会社員が会社のお金を横領する場合は「業務」にあたります。

次のような行為が業務上横領となります。

  • 経理担当者が会社の口座から自分や関係をしている第三者の口座に振り込む
  • 経理担当者が管理している小口現金を盗む
  • 店舗の責任者が店にある金銭を盗む
  • 切手や収入印紙を管理している人が切手・収入印紙を盗み現金化する
  • 集金担当者が集めたお金を盗む

窃盗罪(235条)

窃盗とは、他人が専有しているものを、自分のものにしてしまう行為です。

次のような行為が窃盗罪にあたります

  • お金の管理をしていない人が会社のお金を盗む
  • 店舗の責任者ではないアルバイトがレジのお金を盗む
  • 会社の備品を持ち去って売却する

詐欺罪(246条)

詐欺とは、他人を欺いて、財物を交付させる行為です。

次のような行為が詐欺罪にあたります。

  • 集金担当者ではないのに集金担当者であると偽り会社の顧客から金銭を受け取る
  • 会社に架空の交通費を請求する

少額の横領などは会社に分かってしまうのか?

では、少額の横領などは会社にバレてしまうのでしょうか。

レジは毎日締め作業を行っているので差額があるのがわかる

レジからお金を抜く行為は窃盗・横領の可能性があります。

レジに関しては、その日の締めに、24時間オープンしている店舗などでは、一定の期間で、締め作業を行い、売上とレジ内にある現金の突き合わせ作業を行っています。

そこから盗んだという事実はすぐにわからなくても、差額が大きい場合には防犯カメラをチェックすることもあります。

また、差額が小さいような場合でも、それが続いていると調査をすることになるのでその行為は露呈するといえます。

担当が変わる・第三者のチェックが入る

会社の小口現金から、お金を盗んだり架空の請求書を発行するなどしていた場合や、経理を一人で担当しているような場合には、誰もチェックしないため気づかれないことがあります。

しかし、担当が変わる・増えるなどした場合や、会社の会計に関するフローが変わり第三者のチェックが入ったりしたときに、見抜かれてしまうことがあります。

業務上横領が問題になった事例

実際に逮捕され有罪が言い渡された事例について確認しましょう。

野球部の部費を150万円を私的に流用して懲戒解雇

2022年5月20日、静岡県沼津市にある飛龍高校の、野球部の会計責任者の教諭が、部費150万円を私的に流用していたとして、学校はこの教諭を懲戒解雇としています。

この事件では被害弁償をして示談が成立しており、学校は刑事告訴をしなかったため、刑事事件とはなりませんでした。

顧客から預かった436万2千円を着服して懲戒解雇

2022年2月18日、福島県須賀川市にある須賀川信用金庫に勤務する30代男性職員が、顧客9人から預かった合計436万2千円を着服したとして、懲戒解雇されました。

金額は少額とはいえないものの、全額被害弁償をしているので、須賀川信用金庫は刑事告訴を見送り、刑事事件とはなりませんでした。

時価総額で177万円の横領(東京地方裁判所平成30年 6月27日判決)

楽器修理会社の経営者が、顧客から預かっていたギター6本(177万円相当)を、質に入れたとして業務上横領罪に問われたケースがあります。

この事件で裁判所は、

  • 被害弁償をしていない
  • 長期にわたって横領を繰り返した

という事実から、執行猶予のつかない懲役1年半の実刑判決を下しています。

上記の須賀川信用金庫の事例よりも少額であるにもかかわらず、被害弁償をしていないことから刑事事件となり、執行猶予もつかない実刑判決となっています。

少額の業務上横領が会社にバレた場合の対応方法

以上を踏まえて、少額の業務上横領が会社にバレた場合の対応方法を確認しましょう。

被害弁償を行う

まず、被害弁償をすみやかに行いましょう。

上述したように、被害弁償をした多額の業務上横領が刑事事件になっていないにも関わらず、被害弁償をしなかった少額の業務上横領では実刑判決となっています。

被害弁償は、反省を示すための最も有力な手段であるといえます。

なお、会社が刑事告訴を辞さないような場合には、被害弁償を受け取ってもらえない場合もあります。

このような場合には、法務局にお金を預けて、相手が承諾すればいつでも受け取れる状態となる「供託」という手続きを利用します。

今すぐ被害弁償できない場合には分割払いを打診する

横領したお金をすぐに払えないような場合には、分割払いを打診しましょう。

お金が無い場合でも、反省して支払う意思を見せることは可能で、それだけでも刑事告訴や被害届の提出を見送ってもらえる可能性が高まります。

会社からの事情聴取などには素直に応じ反省をきちんと示す

お金の横領について、会社から事情聴取されることがあります。

このような場合には素直に応じましょう。

始末書などの提出を求められた場合には、事実関係や横領に至った動機などについてきちんと記載します。

可能であれば弁護士に相談・示談交渉の依頼をする

可能であれば弁護士に相談・示談交渉の依頼をしましょう。

当然ですが、会社の代表者や上司などの関係者は、横領した人に対して好意的ではないでしょう。

横領に至るまでの経緯次第では、一切話しを聞くつもりもなく刑事告訴・民事訴訟を検討することもあります。

弁護士に相談・依頼して、示談交渉などをすすめることで、法的なサポートはもちろん、面と向かって顔をあわせなくて済むというメリットもあります。

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まとめ

このページでは、少額の業務上横領などがあった場合を中心にお伝えしました。

金額が少額でも、被害弁償をしない、すでに前科がある、といった場合には、刑事事件となる可能性があります。

万が一すでに横領をしてしまっているような場合や、会社から横領したと主張されている場合には、早めに弁護士に相談するようにしましょう。

あらかじめ弁護士保険などで、今後のリスクに備えておくことをおすすめします。

弁護士
東拓治弁護士

東 拓治 弁護士
 
福岡県弁護士会所属
あずま綜合法律事務所
福岡県福岡市中央区赤坂1丁目16番13号上ノ橋ビル3階
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