企業法務とはどんな仕事?業務内容や役割・重要性を徹底解説

「新たに会社で法務部に配属されることになった」
「会社で法務部を組織するようになった」

という場合に、企業法務に携わることになります。

では企業法務とはどのような仕事なのでしょうか。

このページでは、企業法務とその内容や役割・重要性や、関連する資格などについてお伝えします。

目次

企業法務とは

企業法務とは、企業活動に関する法律問題のことを言います。

主に契約・ガバナンス・知的財産権・労務管理・債権回収などの法律問題を、企業法務では取り扱います。

企業法務は、その役割によって、

臨床法務:実際にトラブルになったものの取り扱いをする
予防法務:トラブルにならないように予防をするもの
戦略法務:事業戦略を組み立てるために取り組み

とさらに細かく分類されることがあります。

企業法務の仕事内容は?

企業法務の仕事内容としては、主に次のようなものが挙げられます。

  1. 法律に関する相談・ヒアリング 
  2. 契約に関わる業務 
  3. ガバナンス(機関法務)
  4. 紛争・訴訟の対応
  5. コンプライアンス(法令遵守)
  6. 法令改正の調査
  7. パワハラなどの労務・労働問題の対応
  8. 知的財産権に関する問題の対応
  9. 債権回収や債権管理
  10. その他

以下順に確認しましょう。

①法律に関する相談・ヒアリング 

会社内の部署からの法律に関する相談に乗ったり、必要な措置についてのヒアリングを行なうことは、企業法務の内容です。

会社を運営していると、様々な法的なリスクをかかえます。

法律について詳しくない会社内部や子会社などからの相談に乗ったり、会社についての法律問題をクリアするために、ヒアリングを実施したりします。

②契約に関わる業務 

契約に関わる業務は、企業法務の中でも重要な地位を占めます。

会社が活動をするにあたって、契約を結ぶことは避けて通れません。

契約するにあたって、契約から生じるリスクを分析し、リスクを回避するために契約内容を検討し、契約書の作成でリスク回避を実現します。

③ガバナンス(機関法務)

法務部でガバナンスに関する業務を行なうことがあります。

株式の発行・株主総会・取締役会・取締役等役員の選任・解任など、会社の内部機関の活動については、会社法を中心とした法律によって規定されています。

ガバナンスについては、会社の根幹をなすこともあり、複数の部署が関与しています。

そのため、法務部が担当するほか、総務部や経営企画部、あるいはガバナンスについてのみ独立して取り扱う部署を設けるなど、会社によって取り扱いが異なります。

④紛争・訴訟の対応

紛争・訴訟への対応を業務として行います。

法務部には、紛争についての調査や分析、関係資料の収集・保存、訴訟になった場合の弁護士との窓口になるなどの役割があります。

⑤コンプライアンス(法令遵守)

コンプライアンス(法令遵守)のための業務を行います。

法務部は会社を運営するにあたって、コンプライアンス違反をしないように、リスクの洗い出しや、業務改善指導、規程やマニュアル作成、独占禁止法や個人情報保護法の順守などの研修を行います。

⑥法令改正の調査

会社をめぐる法律について改正されることで、会社の活動に影響することがあります。

法務部は法令の改正や、改正によって生じる影響などを調査し、適切な対応について検討をします。

⑦パワハラなどの労務・労働問題の対応

労務管理において、労働基準法をはじめとした様々な法律に則り、会社は適切な対応をしなければなりません。

例えばパワハラについては、会社内で周知・啓発を行い、パワハラが発生したときの相談や対応に必要な体制を整える必要があります。

労務・労働問題の対応については人事部と法務部が連携して、担当することになります。

⑧知的財産権に関する問題の対応

会社では、特許権・商標権・著作権などの知的財産権に関する問題への対応が必要な場合があります。

法務部では、これら知的財産権に関する契約・侵害対応・弁理士や弁護士との窓口などの業務を担当します。

⑨債権回収や債権管理

会社は、売掛金などの債権を回収したり、回収がスケジュール通りに進まない場合に、担保をとったりするなどの適切な対応を行なう必要があります。

これらの債権回収や債権管理について、法務部が担当します。

⑩その他

会社が許認可を要するような場合には行政への許認可の申請・更新などの事務を行ったり、クレーム処理や危機管理などの担当を受け持ったり、広告についての景品表示法に違反していないかなど審査を行ったり、個人情報保護に関する業務などを行なうことがあります。

企業法務に関する法律

以上のような業務を担当するのに知っておかなければならない法律には、次のようなものがあります。

会社法

会社は会社法に基づいて設立されるので、会社法に関する知識は不可欠です。

会社法は主に

  • 株主総会・取締役会・取締役の選任解任や権限などのガバナンスに関する領域
  • 株式・社債などの資金調達方法・ファイナンスに関する領域
  • 合併や会社分割などの組織再編に関する領域

に分けることができます。

民法

私人間の関係についての最も基本的なルールを定めるのが民法です。

契約の当事者は誰か、契約はどうやったら成立するのか、物に対する権利や、家族・相続に関する基本的な規定が定められています。

大きく分類すると、取引に関する部分と、家族問題に関する部分に分かれます。

契約に関する基本的な規定の理解に不可欠です。

なお、会社との関係では、会社法・労働基準法・商法など様々な法律で、民法の一般的規定が修正されています。

商法

商法は、商人や商人間の取引についてのルールを定める法律で、民法の規定を修正するものです。

取引に関する法律については民法で規定があるのですが、当事者の一方が商人であるような場合に、民法の規定では不都合な場合があるので、これを修正するのが商法の役割です。

たとえば、商人間の売買について債務の履行をしたにもかかわらず、相手が受領を拒んだ・受領ができない場合には、その分を供託して、相当の期間を定めて競売してしまうことができる旨が規定されています(商法524条1項)。

主に、商人についての規定と、商行為についての規定、海商法についての規定に分かれます。

かつては、会社法の規定や保険に関する規定も商法の中にありましたが、これらは独立して法律が作られるに至っています。

労働法

労働法は、雇用契約に関する法律を定めるもので、労働基準法・労働組合法・労働関係調整法(労働三法)などの様々な法律をまとめて労働法と呼んでいます。

労働法に関しては、非常に細かい規定も多い上に、社会情勢に応じて頻繁に改正がされ、違反をすると行政指導や罰則の対象になることから、注意が必要な法律であるといえるでしょう。

知的財産権法

特許権・実用新案権・商標権・意匠権・著作権などの知的財産権に関する法律をまとめて、知的財産権法と呼びます。

会社の知的財産を守るために必要な法律です。

その他

ほかにも、広告については景品表示法が、業務委託については下請法が関係しますし、個人情報保護法なども知っておかなければなりません。

また、業種によっては「業法」と呼ばれる法律があり、遵守が必要となります。
(例:宅建業:宅地建物取引業法 警備業:警備業法など)

また、トラブルになった際の訴訟や強制執行に関する、民事訴訟法・民事執行法などの法律も知っておくのが望ましいといえます。

企業法務の重要性は大きい

企業法務は会社の中では間接部門として扱われ、直接生産性を高めるための活動に従事するわけではありません。

そのため、会社の規模が大きくない場合には、企業法務担当はおらず、総務部門などの社員が兼務で行うことも多いです。

しかし、今日の社会では、コンプライアンスを維持、推進することが高く求められます。

また、適正な対応をとらなかった場合、トラブルに発展し、会社のブランド・レピュテーションが大きく傷ついたり、多大な損失が発生したりします。さらには、会社そのものの存亡に関わることもあります。

例えば、営業部門が新たな事業、新規顧客との取引を始めたいという場合に、法務部門は、その事業・取引の適法性などを審査しますが、関係法規に照らして問題が認められる場合には、たとえ、取引を進めたい営業部門との間で軋轢が生じるとしても、その事業・取引の見直し、軌道修正を求めなければならない局面もあるでしょう。

企業法務の重要性は大きいといえます。

企業法務に求められるスキルにはどのようなものがあるか

企業法務として従事するときに求められるスキルにはどのようなものがあるのでしょうか。

高い専門性

まず、高い専門性が必要です。

法律は習得をするのが難しい、高い専門性が必要な分野です。

高い専門性を獲得できるスキルは、企業法務において大切なスキルであるといえます。

知的好奇心

企業法務で習得すべき法律の中には頻繁に改正を繰り返すものがあります。

また、会社が新しい業務を始めるときに、その業務の法的リスクや対応について検討する際には、その新しい業務がどのようなものかの理解が必要となります。

知的好奇心の高い人は、法律の改正や、新しい業務への知見を得るなどが容易です。

そのため、知的好奇心があることは、企業法務において望ましいスキルであるといえるでしょう。

コミュニケーション能力

法務部は、いろいろな部門や人と協同して、リスク回避やトラブル解決などを目指すことになります。

社内の人や社外の弁護士・紛争相手など、関わりをもつ対象は非常に広いです。

そのため、コミュニケーション能力は、企業法務においても必要なスキルになります。

企業法務に関する資格

企業法務に従事しスキルを上げる・企業法務の人材を採用する、という場合に参考になるのが資格です。

企業法務に関する資格には次のようなものがあります。

ビジネス実務法務検定

企業法務・企業の法務部に関する資格としてよく知られているのが、ビジネス実務法務検定です。

東京商工会議所が主催する民間資格で、1級から3級までがあり、会社法・民法・労働法・知的財産権法などから出題されます。

民間資格なので取得したからといって独占業務があるわけではありませんが、会社法務に関する法律の習得度を測ることが可能となります。

司法試験

法律に関する資格としても最も難しいものは司法試験でしょう。

司法試験は法曹(裁判官・検事・弁護士)になるために必要な資格で、憲法・民法・刑法・商法(会社法)・民事訴訟法・刑事訴訟法・行政法等から出題がされます。

司法試験を受験するには、法科大学院(ロースクール)を卒業するか、予備試験を合格する必要があります。

会社法務との関係では、昨今は企業内弁護士として企業組織の中で働く弁護士の存在が注目されています。

司法書士試験

不動産登記や商業登記などの業務を行なう国家資格の専門家が司法書士です。

試験内容として、会社法や民法の高度な理解が必要であり、民事執行法・民事執行法・民事保全法も試験内容に含まれるため、会社法務に必要な法律の習得を示すためにも利用されます。

行政書士試験

行政庁への許認可に関する業務を行なう国家資格の専門家が行政書士です。

試験内容に民法や会社法があるため、会社法務に必要な法律の習得を示すためにも利用されます。

その他

会社法務に関する法律を試験科目にするものとして

  • 社会保険労務士
  • 弁理士
  • 知的財産管理技能検定
  • 個人情報保護士

などの資格があります。

企業法務に強い弁護士を探す

企業法務に強い弁護士はどのように探すのでしょうか。

企業法務担当がいても弁護士の存在は不可欠

まず、企業法務担当が居れば、弁護士は必要ないと考える人がいるのですが、これは誤りでしょう。

トラブルに発展したときには裁判を行う必要があり、また予防の観点からも常に法的紛争を担当している弁護士に相談しながら行うことが不可欠です。

企業法務担当は、会社の内部の人間として、会社に関する情報をとりまとめて、弁護士と折衝する役割を持っています。

企業法務に強い弁護士の探し方

債務整理や相続・離婚などの分野についてはインターネットで検索すると広告などを掲出していることが多く、弁護士は見つけやすいです。

しかし企業法務については、上記の分野のように弁護士を探しやすい状態ではないのが実情です。

自社の業務に必要な書籍の執筆に関わっていたり、セミナーで講師として呼ばれているような弁護士であれば、専門性も高く信頼できるでしょう。

ただし、相談料や顧問料も高額であることが予想されます。

弁護士の多い都市部であれば、広告やインターネット検索で見つかりやすいです。

一方弁護士の多くない地域の場合、弁護士会のホームページなどで近隣の弁護士の事務所を探して、その事務所のホームページを閲覧してみましょう。

弁護士にかかる費用

企業法務について弁護士を雇う場合「顧問契約」という形をとります。

日弁連の調査によると、「月3時間程度の相談については月額顧問料の範囲とする」という顧問契約を結んだ場合にかかる顧問契約料について5万円とする回答が52.7%を占め3万円とする回答が33.5%を占めました。

そのため3万円~5万円程度の費用が顧問料の相場になると考えましょう。

もちろん、相談頻度が多いような場合には増額されます。

まとめ

このページでは、企業法務とはどのような業務なのか、関連する法律や資格などについてお伝えしました。

会社の売上に直接関与するわけではない間接部門にありながら、会社が円滑に業務をすすめるために不可欠であり、重要な存在であるのが法務部門です。

担当することになった場合に、資格取得などを通じてスキルを上げることが推奨されます。

また、顧問弁護士を活用し、さらに法務リスクや紛争対応などに万全を期すことも検討しましょう。

弁護士

谷井 秀夫 弁護士

弁護士法人谷井綜合法律事務所
第一東京弁護士会所属

詳しいプロフィールはこちら

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