仮処分とは?要件や費用、申立ての流れをわかりやすく解説!

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こうした被害に遭った状況で「裁判を起こそう」と考えても、民事訴訟は結論が出るまでに1年以上かかることが多く、その間に取り返しのつかない損害が発生してしまう恐れがあります。
そんなとき、『裁判よりも早く、相手の行為を止める方法はないだろうか?』と考える方も多いのではないでしょうか。

仮処分の申立てを行うことで、本格的な裁判を待たずに相手の行為を禁止したり、一時的な法的地位を確保したりすることが可能です。


仮処分は、判決までに1年以上かかることもある民事訴訟に比べて、はるかに短い期間で結論が出ます。そのため、緊急性の高いトラブルに対応する手段として使われています。

本記事では、仮処分の基本的な仕組みや種類、申立ての要件や手続きの流れ、費用について、弁護士監修のもと、具体例を交えて詳しく解説していきます。

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目次

仮処分とは

仮処分は民事保全手続きの一種です。

民事保全(保全命令)と仮処分

民事訴訟は原告が何らかの権利侵害を訴えて起こしますが、裁判には長い時間がかかるため、権利侵害が裁判中も継続することで損害が拡大し、原告の生活に支障をきたしたり、原告が裁判で主張している権利関係に変化が生じて、訴える意味がなくなってしまったりする場合があります。

そうした場合に、原告の主張を予め一定程度認めることで、原告の生活や権利を保護するのが、民事保全手続きです。

例えば、AさんがBさんに「貸していた絵画を返して欲しい」と訴えたものの、Bさんの方では「借りたのではなくAから買った(もらった)」と主張したため、両者間で争いが起き、Aさんが絵画の返還を求めて民事訴訟を起こした、という場合を考えてみましょう。

裁判では絵画の所有権について審議され、Aさんが勝訴すれば、Bさんは絵画をAさんに返還するよう命じられます。

それでもBさんが返還しない場合、Aさんは裁判所に強制執行の申立てを行い、それが認められれば強制的に絵画を差し押さえることができます。

しかし、判決前にBさんが絵画を第三者(Cさん)に売却してしまっていたとしたらどうでしょうか。

Aさんは判決に基づきBさんに対しては返還を要求できますが、Cさんに対してはできないので、勝訴が無意味になってしまいます(ただし、B・Cの両人が「絵画はAから借りた物だ」と知っていた場合、売却が無効になる可能性があります)。

Aさんとしては、Bさんが絵画を自由に処分できないよう制限をかけておきたいところです。

これを可能にするのが民事保全手続きです。

Bさんによる絵画の処分を禁止するという内容の民事保全手続きをAさんが裁判所に申し立てて、認められると、裁判所の執行官がその絵画を差し押さえて、裁判終了まで保管します。

Aさんが勝訴すれば、執行官から絵画を無事受け取ることができます。

民事保全手続きには「仮処分」と「仮差押え」があり、この例のケースは「仮処分」に当たります。

民事保全における仮処分と仮差押えの違い

仮差押えは、裁判で争われるのが金銭債権(借金・売掛金など)である場合に行われる民事保全手続きです。

金銭債権を回収するには、債務者に現金で支払ってもらうか、債務者が所有する財産(動産、不動産、債権など)を代わりに取得する(その上で売却して現金化する)必要があります。

債務者が銀行口座からお金をよそに移したり、財産を第三者に譲り渡したり、不動産の名義変更(所有権移転登記)などを行ったりしてしまうと、債権回収が難しくなります。

そうした事態を防ぐため、口座や財産を予め差し押さえておくのが「仮差押え」です。

「仮処分」は、裁判で争われるのが金銭債権以外の権利である場合に行われる民事保全手続きです。

例えば以下のようなケースがあります。

  • 動産の所有権について争われる際に、執行官がその動産を差し押さえて、債務者(被告)による処分を防止する(前節であげた例)
  • 不動産の所有権登記について争われる際に、不動産の移転登記を禁止して、債務者による不動産売却を阻止する(後ほど詳しく解説)
  • 解雇された元従業員が会社を不当解雇で訴える際に、原告が裁判中に生活上の困窮を被ったり、そのために裁判続行が困難になったりすることを防ぐため、当面の間は会社から賃金の支払いを受けられるようにする(後ほど詳しく解説)

実際の利用件数を見ると、仮処分よりも仮差押えのほうが多く使われています。

最高裁判所の「裁判所データブック2026」によると、令和7年に全国の地方裁判所と簡易裁判所で新たに申し立てられた仮処分事件は5,901件、仮差押え事件は9,347件でした。

なお、仮処分事件の申立件数は平成元年には15,290件ありましたが、令和7年はその4割弱の水準まで減っています。

(出典:最高裁判所「裁判所データブック2026 第2部 事件の統計 民事事件」 https://www.courts.go.jp/assets/db2026_212.pdf )

保全命令と仮処分命令

民事保全手続きを行う場合、債権者(原告)は裁判所に「保全命令の申立て(仮処分命令/仮差押え命令の申立て)」を行います。

申立てが認められると、被告に対して「保全命令(仮処分命令/仮差押え命令)」が発令され、裁判所・執行官による強制執行(動産差し押さえなど)が行われます。

仮処分の種類

仮処分は、

  • 係争物に関する仮処分
  • 仮の地位を定める仮処分

に分けられ、

「係争物に関する仮処分」には、

  • 処分禁止の仮処分
  • 占有移転禁止の仮処分

があります。

係争物に関する仮処分① 処分禁止の仮処分

「係争物」とは、「裁判が起こされる原因となった物・権利(裁判で争われている根本的な争点)」のことです。

例えば、裁判で争われている動産・不動産の所有権や動産・不動産そのものが係争物に当たります。

訴訟中に係争物が第三者に売却されたり、第三者への所有権移転登記が行われたりしてしまうと、原告が勝訴して所有権が確認されても、その権利を実現することができなくなります。

係争物を債務者(被告)が勝手に処分することを禁止する仮処分(処分禁止の仮処分)を裁判所に出してもらうことで、そうした事態を防げます。

係争物が動産の場合、執行官が係争物を差し押さえるという直接的な方法で仮処分を執行します。

不動産の場合、名義変更(所有権移転登記)の禁止などの措置が取られます。

例えば、「Aさん所有の土地建物XをBさんに売却する契約が交わされ、Bさんは代金を支払ったのに、Aさんが所有権移転登記に協力せず、契約を解消して第三者であるCさんへ売却しようと画策しているようなので、Bさんが民事訴訟を起こして所有権移転登記を請求する」という例を考えてみましょう。

不動産の移転登記は原則として売主と買主が共同で行う必要がありますが、裁判で買主に所有権と所有権移転登記請求権が認められれば、買主が単独で移転登記を行えます。

しかし、訴訟が決着する前にAさんからCさんへの移転登記が行われてしまっていると、Bさんが勝訴しても移転登記が行えず、訴訟が無駄になり、改めてA・Cの両名を相手とする紛争が持ち上がることになります。

Xの所有権に関する移転登記を禁止する仮処分を裁判所に出してもらうことで、こうした事態を防げます。

係争物に関する仮処分② 占有移転禁止の仮処分

これは不動産の立ち退きを求める訴訟で利用される仮処分です。

例えば、「AさんがBさんに建物Xを賃貸していて、Bさんが賃料の滞納を繰り返したために契約書に基づき契約解除に至ったが、Bさんが立ち退かずにその建物に住み続けている(占有し続けている)ので、立ち退きを求めてAさんが民事訴訟を提起する」というケースを考えてみましょう。

訴訟中にBさん以外の人物が現れてその建物に住みだす(Bさんからその人物にXの占有が移転される)と、Aさんが勝訴しても無駄になり、また別の紛争が持ち上がることになります。

占有の移転を禁止するとともに、占有している不動産を執行官に明け渡すよう命じる「占有移転禁止の仮処分」を裁判所に出してもらうことで、そうした事態を防げます。

仮の地位を定める仮処分(地位保全の仮処分・賃金仮払いの仮処分)

不当解雇のケースで使われるものは「地位保全の仮処分」、賃金の支払いを求めるものは「賃金仮払いの仮処分」と呼ばれますが、いずれも仮の地位を定める仮処分の一種です。

係争物ではなく、訴訟を提起している債権者(原告)当人が大きな損害・危険を被ることを防止するために行われるのが、「仮の地位を定める仮処分」です。

例えば、解雇された元従業員Aさんが不当解雇を主張し、「従業員としての地位(雇用契約上の権利を有する地位)」の確認と不当解雇後の未払賃金の支払いを求めて会社相手に訴訟を起こす場合を考えてみましょう。

裁判は相当の期間にわたって行われることになりますが、Aさんの立場からすると、その間は「不当に賃金が支給されない状態」が続き、大きな損失を被ります。

それによって生活が困窮し、訴訟を続けるのが困難になる恐れもあります。

仮処分によって仮に「従業員としての地位」「賃金を受け取る権利」を認めてもらうことで、会社から賃金を受け取りながら訴訟を行うことができるようになります。

その他、以下のようなケースでも仮の地位を定める仮処分が利用されます。

取引先から商品供給を急に停止されたため、「契約に従って商品供給を受けられる地位」の確認を求めて民事訴訟を起こすケース

→事業への打撃を防ぐため、仮処分で「商品供給を受けられる地位」を定めてもらい、商品供給を受けながら訴訟を行う

インターネット上の書き込みで人格権侵害(名誉毀損・プライバシー侵害・肖像権侵害など)が行われため、サイト運営者に書き込みの削除を求めるケース

→訴訟中に侵害が拡大する恐れがあるため、「書き込み削除(人格権侵害の差止)を要求できる地位」を仮処分で定めてもらい、迅速な削除請求を行う

なお、解雇そのものの効力を争う方法については、《解雇の無効を主張する手順》で解説しています。

差止請求の仮処分(相手の行為をやめさせる仮処分)

仮の地位を定める仮処分のうち、相手方の行為そのものをやめさせることを求めるものは、「差止請求の仮処分」と呼ばれることがあります。

差止請求は本案訴訟でも行えますが、判決を待っている間にも侵害が続いてしまうため、仮処分によって先に止めるという使い方が実務では一般的です。

例えば、差止請求の仮処分が使われるのは、次のような場面です。

  • インターネット上の投稿によって名誉毀損やプライバシー侵害を受けており、サイト運営者に投稿の削除を求める場合
  • 隣地の建築工事が境界線を越えて進められており、工事を止めたい場合
  • 元従業員が競業避止義務に違反して同種の事業を始めており、その営業行為を止めたい場合
  • 自社の特許権や商標権を侵害する製品が販売されており、製造や販売を止めたい場合

いずれも、侵害が続いた期間が長いほど回復が難しくなるという共通点があります。

差止請求の仮処分では、債務者に大きな不利益を与えることになるため、債務者を裁判所に呼び出して主張を聞く「審尋」が行われるのが原則です。

そのぶん、係争物に関する仮処分よりも発令までに時間がかかる傾向があります。

なお、投稿を消す手続きと、投稿した人物を特定する手続きは別のものです。特定を目的とする場合は《発信者情報の開示請求》を行います。

仮処分申立に必要な条件

裁判所に仮処分命令を申し立てる際には、どのような仮処分を求めるのかを申立書の冒頭に簡潔に記載した上で、申立書・証拠書類によって

  • 被保全権利の疎明
  • 保全の必要性の疎明

を行う必要があります。

被保全権利の疎明

仮処分命令で保全されるべき権利(被保全権利)が実際に申立者(原告・債権者)に帰属していることを説明して、裁判官を納得させるための手続きです。

裁判官を「確信」させるほどの証拠を提示して権利の帰属を「証明」する必要はありませんが、裁判官が「原告にその権利が帰属していると考えてよさそうだ」という印象を抱くくらいには説得力のある説明でなければなりません(この程度の説得力のある説明を法律用語で「疎明」と言います)

「仮処分命令で保全されるべき権利」は、要するに「民事訴訟で争われる権利」を指します。

例えば、以下のようなことを疎明します。

  • 不動産の所有権が確かに原告側にあり、移転登記請求や明渡請求を行う権利が原告に帰属していること
  • 解雇は法令・契約に照らして無効であり、原告は今でも雇用契約に基づく従業員としての地位と賃金を請求する権利を有すること
  • ネット上の書き込みによって原告の人格権が現に侵害されており、原告には侵害を差し止めるために書き込みの削除を請求する権利あること

その権利がどのような経緯で正当に原告に帰属することになったか、具体的な流れを示しながら申立書に記載し、証拠となる書類(各種契約書・登記事項証明書など)を添えて、裁判所に提出します。

保全の必要性の疎明

被保全権利を保全することが必要な理由(勝訴後の権利実現ができなくなる恐れがあることや、裁判終了までに原告が多大な損害・危険を被る恐れがあることなど)を、申立書と添付書類により疎明します。

仮処分を行うメリットとデメリット

原告にとって仮処分は大きなメリットがありますが、いくつかデメリット(注意点)もあります。

メリット

仮処分の申立てから仮処分命令の発令までは、短くて数週間、長くても2か月くらいです。

一方、民事訴訟は短くても半年、平均的には1年~2年ほどの期間がかかります。

仮処分が認められれば、判決を待っていては失われてしまいかねない権利を予め保全でき、被りかねない損失を未然に防ぐことができます。これが仮処分の基本的なメリットです。

また、仮処分命令を受けたことで被告側が譲歩し、和解を求めてくる(和解に応じてくる)場合もあります。

和解が成立すれば、裁判よりも早く事態が決着します。

裁判所が仮処分命令の発令とあわせて和解勧告を出し、和解による解決を勧めてくる場合も少なくありません。

デメリット

一部例外はありますが、仮処分を申し立てると裁判所から担保の提供を求められるのが一般的です。

仮処分は、債権者側の言い分を正しいと仮定した上で、債務者側に行為の制限や経済的な負担を強いるものです。

裁判で債権者側が敗訴した場合、債権者の言い分および仮処分命令が正しくなかったということになり、債権者に損害賠償責任が発生する可能性があります。

債務者には仮処分命令に異議(保全異議)を申立てる権利があります。

債務者が保全異議を申し立てて認められた場合も、債権者に損害賠償責任が発生する可能性があります。

裁判所は仮処分命令に関する損害賠償に引き当てる目的で、申立て人に担保提供を求めます。

申立て人が担保を立てられない場合、仮処分の申立ては却下されます。

ただし、賃金支払いを命じる仮処分のように、申立て人の生活上の困窮を防ぐために行われる仮処分では、担保を要求されない場合があります。

仮処分申立の方法

仮処分の手続きの流れや必要書類、費用についてまとめます。

仮処分命令申立て~発令までの流れ

仮処分の手続きは以下の流れで行われます。

  1. 債権者(原告)による申立て:保全命令申立書および関連書類の提出と手数料の納付
  2. 書類審査:申立書などのチェック(不備・不足があれば裁判所から連絡)
  3. 債権者への面接:裁判官が債権者と面接し、申立て内容の確認を行う。東京地方裁判所民事第9部では原則として全件で債権者面接が行われ、午前中に受付手続が終了した場合は翌日以降、午後に終了した場合は翌々日以降の面接となる。面接の時刻は午前10時または午後1時30分。緊急性が高い事案では受付日のうちに面接が行われることもある
  4. 債務者への審尋:裁判官が債務者(被告)を裁判所に呼び出して主張・反論を聞く(債権者は事前に申立書などの書類の副本を債務者に直接送付)
  5. 担保決定・立担保:裁判官が担保を決定し、債権者が担保を立てて証明書を提出
  6. 仮処分命令の発令

(3の運用について、出典:東京地方裁判所「保全事件の申立て(電子申立て不可)」 https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minzi_section09/hozen_ziken_mousitate/index.html )

必要書類

仮処分の申立てには以下の書類の提出が必要です。

  • 仮処分命令申立書
  • 被保全権利・保全必要性を疎明するための証拠資料(契約書・登記事項証明書・帳簿・領収書・催告書・郵便物配達証明書・預金口座取引明細など)
  • 添付書類(当事者目録・請求債権目録・物件目録など。仮処分の種別によって異なる)

申立書と添付書類はどう提出するのか

必要書類が揃ったら、管轄の裁判所に提出します。

提出方法には裁判所ごとの運用があるため、ここでは東京地方裁判所民事第9部(保全部)の取扱いを例に説明します。

申立書は正本を1部提出し、申立手数料にあたる収入印紙を貼付します。

添付書類として、当事者の資格証明書(3か月以内のもの)、不動産登記事項証明書(1か月以内のもの)、訴訟委任状などを、疎明書類の写しとあわせて各1部添付します。

ここで間違えやすいのは「提出しないもの」についてです。

疎明書類の原本、申立書の副本、債務者用の疎明書類の写しは、申立ての時点では裁判所に提出しません。

申立書の副本と債務者用の疎明書類の写しは、双方審尋の期日が指定された後に、債権者から債務者へ直接送付します。

また、住民票などを提出する場合は、個人番号(マイナンバー)が記載されていないものを用意します。

なお、2026年5月21日から民事訴訟の全面電子化が始まっていますが、保全事件はその対象外です。申立ては従来どおり書面で行う必要があります。

郵送で申立書を提出した場合、窓口に持参した場合よりも受付審査の終了が遅くなることがあります。

(出典:東京地方裁判所「保全事件の申立て(電子申立て不可)」 https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minzi_section09/hozen_ziken_mousitate/index.html )

管轄や手続きの全体像については、大阪地方裁判所の解説ページも公開されています( https://www.courts.go.jp/osaka/saiban/minji1/l4/hozenn.html )。

費用

仮処分を申立てた人に以下の費用が請求されます。

  • 申立手数料:2,000円(申立てを行う債権者が複数の場合は2,000円×人数、債務者が複数で、債務者の人数の方が多い場合は2,000円×債務者人数)
  • 裁判所からの書類送付に使われる郵便切手:1,000円~3,000円程度
  • 担保:事案に応じて裁判所が決定する。仮処分では、争っている物や権利の価額、債務者が受ける不利益の大きさなどをもとに額が決められる
  • 登録免許税:仮処分命令により裁判所が不動産登記を執行する場合、登記のための費用(登録免許税)がかかる

被保全権利・保全必要性の疎明の考案、提出書類の作成、面接・審尋への対応には、法律に関する専門的な知識・経験が求められるため、弁護士に代理を依頼するのが一般的です。

弁護士費用は主に着手金と報酬金からなります。

債権者側が依頼した弁護士への報酬金は、仮処分命令が発令された場合に発生します(債務者側では仮処分申立てが却下された場合)。

着手金・報酬金は、仮処分をめぐって依頼人が得ることになる経済的利益の額に応じて変わります。

経済的利益とは
債権者の場合は債権額など、債務者の場合は免れた債務額などを指す

弁護士報酬は2004年に統一の基準が廃止され、現在は各弁護士・各事務所が自由に定めています(出典:日本弁護士連合会「弁護士費用(報酬)とは」 https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice/cost/legal_aid.html )。

そのため、同じ内容の仮処分でも依頼先によって金額は変わります。着手金と報酬金がそれぞれいくらになるのか、本案訴訟を依頼する場合の費用と別に発生するのかを、依頼前に見積書で確認してください。《弁護士費用の決まり方》を先に把握しておくと、見積書の内訳を読み取りやすくなります。

仮処分が却下されるケースと却下されたときの対応

仮処分の申立ては、行えば必ず認められるというものではありません。

却下されるのは、主に次の3つのケースです。

被保全権利の疎明が足りない場合

申立書と証拠書類を見ても、裁判官が「申立人にその権利が帰属していると考えてよさそうだ」と判断できない場合、申立ては却下されます。

契約書や登記事項証明書といった客観的な資料がなく、申立人本人の説明だけで権利の存在を主張しているケースが典型です。

疎明は証明よりも求められる説得力の程度が低いとはいえ、資料なしで通るものではありません。

保全の必要性の疎明が足りない場合

権利が申立人に帰属していることが認められても、「いま仮処分を出さなければ手遅れになる」という事情を示せなければ、申立ては却下されます。

例えば、不動産の処分禁止の仮処分であれば、債務者が実際に売却の準備を進めていることを示す資料が必要です。

将来売却されるかもしれない、という抽象的な心配だけでは足りません。

担保を立てられない場合

裁判所が担保の額を決定した後、指定された期限までに供託ができなければ、申立ては却下されます。

担保の額に納得できない場合でも、支払わないという選択をすれば申立て自体が通りません。

申立ての前に、担保として用意できる金額の上限を把握しておく必要があります。

却下されたら「即時抗告」ができる

申立てを却下する決定に不服がある場合、債権者は「即時抗告」を行うことができます。

即時抗告ができる期間は、却下の決定の告知を受けた日から2週間です(民事保全法19条1項/出典:e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/401AC0000000091 )。

この2週間は「不変期間」と呼ばれ、裁判所の判断で延長されることはありません。期間を過ぎると却下の決定が確定します。

即時抗告は、却下の決定を出した裁判所に抗告状を提出して行います。

なお、申立てが認められて仮処分命令が出た後に、債務者の側が不服を申し立てる手続きは「保全異議」(民事保全法26条)です。

即時抗告は債権者側の不服申立て、保全異議は債務者側の不服申立てであり、別の制度です。

仮処分の効力はいつまで続く?本案訴訟を起こさない場合

仮処分は本案訴訟とセットの手続き

仮処分命令そのものに、「発令から◯か月で効力が切れる」といった期限はありません。

仮処分はあくまで本案訴訟の結論が出るまでの間、権利関係を暫定的に固定しておくための手続きです。

そのため、通常は本案訴訟を起こす前に、その訴訟に関わる仮処分を申し立てます。訴訟が終了する前であればいつでも申立てが行えるので、裁判の途中で新たに仮処分が必要になった場合は、裁判中に申し立てることもあります。

本案訴訟を起こさないと「起訴命令」が出る

仮処分命令が出たまま債権者が本案訴訟を起こさないでいると、債務者は不利な状態に置かれ続けることになります。

そこで債務者は、裁判所に対して「起訴命令」を出すよう申し立てることができます。

起訴命令とは、裁判所が債権者に対し、一定の期間内に本案の訴えを提起し、提起したことを証明する書面を提出するよう命じるものです(民事保全法37条1項)。

この期間は2週間以上と定められています(同条2項)。

債権者が期間内に本案の訴えを提起しなかった場合、債務者の申立てにより、裁判所は仮処分命令を取り消さなければなりません(同条3項)。

つまり、仮処分だけを取って本案訴訟を起こさずに放置する、という使い方はできません。

事情が変わったときも仮処分は取り消される

仮処分命令が出た後に、その前提となっていた事情が変わった場合、債務者は「事情の変更による保全取消し」を申し立てることができます(民事保全法38条1項)。

例えば、被保全権利が弁済によって消滅した場合などが該当します。

また、係争物に関する仮処分については、債務者が担保を立てることを条件に、特別の事情があるとして仮処分命令を取り消してもらえる場合もあります(同法39条1項)。

条文の全文は、e-Gov法令検索で確認できます( https://laws.e-gov.go.jp/law/401AC0000000091 )。

仮処分命令に従わなかった場合はどうなる?

債務者(被告)による登記の禁止、動産・不動産の引き渡し、賃金支払いなどの命令は、裁判所・執行官の職権発動(処分禁止登記、動産・不動産・口座の差し押さえなど)により効力が実現しますが、書き込みの削除命令などの場合、債務者(サイト運営者・プロバイダーなど)が命令に従った行動を取らない限り、仮処分の効果が実現されません。

そうした場合、債権者は裁判所に強制執行を申し立てることができます。

強制執行が決定されても裁判所は直接的に削除を執行することができないため、削除を実行するまでの間所定の金銭(制裁金)を債権者に支払うように債務者に命じます。

これは債務者を仮処分命令に従わせる間接的な強制力となるため、間接強制と呼ばれます。

債務者としては、この命令も無視して制裁金の支払いに応じないという選択も可能ですが、制裁金はどんどん加算されていきます。

また、債権者の方で制裁金支払いの強制執行を申し立て、口座の差し押さえなどを行うことが可能です。

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まとめ

一般的に裁判には長い時間がかかるため、裁判中も権利侵害が継続したり、訴訟を無効化するような権利関係の変化が起こったりすることは、原告にとって大きな脅威であり、ぜひとも避けたいところです。

仮処分はそうした脅威を防ぐための制度であり、この制度を活用することで、原告は訴訟中の権利侵害を防ぎ、安全に訴訟を進めることが可能になります。

仮処分の申立てでは、担保提供や弁護士への依頼が必要になり、まとまった額の費用がかかります。

本案の民事訴訟や、債務者による保全異議申し立てへの対応、仮処分命令に従わない債務者への強制執行申し立てなどを行うにも、相応の費用が発生します。

債務者(被告)の側でも、審尋や保全異議申し立てなどのために弁護士への依頼は必須と言えます。

予め弁護士保険や各種の損害保険などに加入して、訴訟リスクに備えておくことをおすすめします。

弁護士

木下慎也 弁護士

大阪弁護士会所属
弁護士法人ONE 代表弁護士
大阪市北区梅田1丁目1-3 大阪駅前第3ビル12階
06-4797-0905

弁護士として依頼者と十分に協議をしたうえで、可能な限り各人の希望、社会的立場、その依頼者らしい生き方などをしっかりと反映した柔軟な解決を図ることを心掛けている。

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