- 無断欠勤が頻繁にある従業員
- 上司の指示に従わない
- パワハラ・セクハラが限度を超えている
こんな従業員がいたら、他の従業員に示しがつかないばかりか、社の秩序が乱れてしまいますよね?
該当従業員に問題行動のけじめをつけさせ、処分を言い渡したい。
そんな風に思って色々頭を悩ませている経営者・人事を預かっている方へ向けての記事になります。
諭旨解雇(ゆしかいこ)の手続きは、従業員とのとても大切なやり取りになってきますので、分かりやすく説明していきたいと思いますので最後まで読んでいただけると幸いです。
「弁護士に相談なんて大げさな・・・」という時代は終わりました!
経営者・個人事業主の方へ
諭旨解雇処分とはどういったもの?
諭旨とはどういう意味でしょうか?
諭旨とは、「趣旨や理由を諭し、告げる」という意味があり、相手に対する温情や配慮が含まれていることもあります。
諭旨解雇とはどういったものなのか?
会社が従業員に退職を勧告し、従業員に退職届を提出させたうえで解雇する懲戒処分をいいます。
強い言葉ですが、簡単に言うと不祥事を起こし、会社に損害を与えた従業員に対して、退職を勧告します。
従業員に解雇を納得・受け入れてもらい退職届を出してもらった上で解雇(懲戒処分)をすることです。
諭旨解雇(諭旨退職)と懲戒処分の違いとは?
まず、諭旨解雇と諭旨退職についてご説明いたします。
諭旨退職は、諭旨解雇よりも処分が軽い措置と言えます。
以下処分の比重を見ていきましょう。
では、諭旨解雇と懲戒解雇の違いとはどういったものでしょうか?
諭旨解雇は、解雇相当の違反をした従業員に対して、会社が解雇の理由を告げ、退職届の提出してもらい、その後解雇という流れです。
懲戒解雇の場合は、懲戒の中で最も重い処分です。
犯罪行為や長期の無断欠勤など、重大な就業規則違反を行った従業員に対しての制裁です。
そして、懲戒解雇は解雇予告なしで即時解雇するということが一般的となります。
諭旨解雇になる理由はどういったものがある?
どういった違反行為をした場合に、諭旨解雇になるのでしょうか?
まず考えられるのが、度重なる就業規則違反などが行われたときです。
従業員として、就業規則に定められている内容に違反しているかが判断基準となります。
例えば、企業秘密漏洩はもちろんのこと、私生活や職場内での不適切な行動により著しく会社の信用を貶めてしまったなどが該当します。
その他、法律違反をした場合も解雇処分の対象となります。
諭旨解雇を行うにはどうすればいいの?
諭旨解雇の手続きの手順とは?
諭旨解雇を行う際にはどのような手順になりますか?
諭旨解雇手続きの一連の流れを見ていきましょう。
就業規則の規定を確認する
諭旨解雇を行うためには、就業規則に「懲戒処分として諭旨解雇をすることができることやその事由」が明記されている必要があります。
具体的な証拠を確保する
物的証拠(客観的証拠)と人的証拠(供述証拠)を集めます。
一般的には、人事部があれば当該部署が担当することになります。
労働問題に精通している弁護士に相談をしながら進めていくことをおすすめします。
弁明の機会を与える
諭旨解雇は懲戒解雇の次に重い処分になります。
そのため、「処分をする」ことを告げて、従業員の言い分を聴く手続きを行います。
弁明の内容も踏まえた上で諭旨解雇処分の可否を決定する
会社が調べた結果や従業員の弁明内容をもとに、諭旨解雇に値するかどうか改めて精査をして、最終的な決定をします。
諭旨解雇処分とその通知を記載した通知書を交付する
諭旨解雇処分をすることを決めたら、従業員に諭旨解雇処分とその理由を記載した懲戒処分通知書を解雇の30日前までに交付します。
諭旨解雇のメリット・デメリットについて
【メリット】
諭旨解雇は、懲戒解雇と異なり、従業員に退職届を提出してもらい雇用契約を終了させます。
そめため、「問答無用で懲戒解雇にする」という手段ではなく、寛容な処分という見方も出来ます。
従業員が「解雇は不当であり無効である」と、後日争ってくるリスクを減らすことが出来るというメリットがあるといえるでしょう。
【デメリット】
- 訴訟リスク
諭旨解雇も、懲戒処分であることに変わりはありません。
例えば、諭旨解雇相当ではない事案において、従業員に懲戒解雇を匂わせて退職届を書かせるような方法は、得策とは言えません。
- 解雇無効のリスク
万が一、従業員から諭旨解雇が無効と訴えがあった場合、解雇日から裁判所の判断が出るまでの期間、従業員への給与の支払いが必要となります。
また、慰謝料の支払いが必要となるケースや、従業員が復職を望んだ場合は受け入れなければならないリスクがあります。
- 社内秩序への悪影響
諭旨解雇は、本来ならば懲戒解雇に値する悪質な行為を行った従業員に対して、退職届を提出するよう求めて処分を軽減するものです。
そのため、その処分に納得のいかない他の従業員などがいた場合、悪影響を与える可能性があります。
特に、セクハラ・パワハラなどの被害者がいる場合、会社が懲戒解雇ではなく諭旨解雇を選択すると、被害者である従業員やその周りの従業員が不信感を抱く可能性もあります。
諭旨解雇を行う際の注意点
事実誤認がないようきちんと調査をすること
事実誤認によるトラブルを防ぐためにも、対象従業員は本当に処罰を受けるに値するトラブルを起こしたのか?を事前に慎重に調査をおこなうことが重要です。
合理的ではなく、社会的に妥当とは認められない諭旨解雇処分は「懲戒権の濫用」および「解雇権の濫用」に関する規定(労働契約法15条・16条)により、無効となりますので、十分注意をしてください。
本人に弁明する機会を与えることの重要性
諭旨解雇を行う際の適切な手続きを確保するために、従業員の言い分を聞く過程がとても大切になります。
「解雇権濫用」との関係で、弁明をする場を用意することは、重要な判断材料となります。
面と向かって人事担当者と一対一で話す場を設ける等、従業員が説明できるような状況を用意してしっかりと面談を行い、その記録を作成して保存しておくことをおすすめします。
会社の就業規則について
就業規則に懲戒処分の種別など明記されていないとダメ?
会社が従業員を懲戒処分する際には、あらかじめ就業規則に「懲戒の種別」および「事由」を定めておくことが必要です(最高裁平成15年10月10日判決)
- 懲戒の「種別」に「諭旨解雇を行うことがある」との定めがあること
懲戒の「種別」・・・懲戒処分の種類を指します - 懲戒の「事由」に懲戒事由が定められており、それに該当すること
・具体的にどのような時に懲戒処分をおこなうのか、その懲戒事由を就業規則に定めておく必要がある
・懲戒解雇・諭旨解雇は非常に重たい懲戒処分となりますので、通常の懲戒処分とは別に懲戒事由を決めておく
懲戒事由に該当するか否かはどうやって決める?
諭旨解雇を行うことができるのは、従業員の行為が就業規則上の懲戒事由に該当する場合に限られます。
例えば、就業規則で「情報漏洩」が懲戒事由として定められていれば、情報漏洩をした従業員は諭旨解雇の対象となる場合があります。
また、「素行不良で社内の秩序および風紀を乱したとき」など、抽象的な言い回しで懲戒事由を定めている場合も基本的には認められます。
ただし、その場合は懲戒事由に当たるかどうかを、会社独自に判断せず、従業員の処罰の内容などに応じて合理的に判断しなければなりません。
軽い懲戒処分から段階的に行う方がよいとされる理由
いきなり重い懲戒処分である諭旨解雇を言い渡した場合、労働者にとって不意打ちであると評価される恐れがあります。
例えば、戒告>けん責>減給>出勤停止>降格というように、徐々に懲戒処分のレベルを引き上げていく方が、適切でしょう。
なぜ徐々に段階を踏む必要があるのですか?
なぜなら、従業員に対して、改善指導を尽くす必要があるからです。
十分な改善の指導を行わなかった諭旨解雇は、「懲戒権・解雇権の濫用」として無効となる可能性が高いので注意が必要です。
解雇予告及び解雇予告手当について
従業員を懲戒解雇する際には、以下に記したいずれかの対応を行う必要があります(労働基準法20条1項・2項)
- 解雇日の30日以上前に解雇を予告すること
- 30日分以上の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払うこと
- 解雇予告と解雇予告手当の支払いの両方を行うこと※
※基本的に30日以上前に解雇予告をすることが必要ですが、解雇予告手当の平均賃金1日分を支払うごとに、解雇予告期間を1日短縮することができます。
ただし、労働基準監督署の「解雇予告除外認定」が出た場合は、解雇予告なしに解雇することができます(労働基準法20条1項但し書き)。
上記の内、何れかの対応を確実に行わなければ、解雇予告義務または解雇予告手当の支払い義務違反となる場合があります。
ここは、確実に弁護士と打ち合わせをして追行していきましょう。
補足ですが、解雇予告については、内容証明郵便などの記録が残る方法をおすすめします。
不当解雇の訴えに備えておく
諭旨解雇が適法であると判断されるためには、従業員に対して改善の機会が与えられていたかが重要なポイントとなります。
そのため上司や人事部及び担当部署などが改善の指導をおこない、「それでも改善しなかったので、諭旨解雇をした。」と説明できるようにしておくことが大切です。
改善指導の過程は、文書など証拠をして残しておくとよいでしょう。
諭旨解雇は、懲戒解雇の次に重たい処分です。
従業員に退職届を提出してもらう以上、どうして諭旨解雇となったのかをしっかりと説明して納得をしてもらわなければなりません。
特に、懲戒解雇相当の事案であると判明している場合には、「これはあくまでも温情による処分である」ということを説明しなければ、従業員に会社の意図が上手く伝わらない可能性があります。
ここの説明がうまく伝わっていない場合、労働組合による不当解雇の訴えなどが起きてしまい、懲戒解雇を避けた意味が無くなってしまいます。
万が一にも、従業員から不当解雇を理由とした損害賠償請求を受けた場合には、弁護士に相談しながら対応することをおすすめいたします。
有給休暇・退職金はどうなるのか?
諭旨解雇された従業員には、退職日または解雇日までは有給休暇を取得する権利があります。
従業員が退職届を出して退職した場合も、退職日までは有給休暇の申請があれば認める必要があります。
諭旨解雇における退職金の扱いはそれぞれ会社によって方針が違うので、就業規則の内容をしっかり確認して対応を決めましょう。
退職金が支給されないことも多い懲戒解雇とは違い、諭旨解雇の場合、厳しく制限されない傾向があります。
諭旨解雇の事例
まとめ
諭旨解雇処分を言い渡す会社側の気苦労も、人生が変わってしまうかもしれない処分を言い渡される従業員側の気持ちも含めて、少しでも報われるように。
また、指導により従業員の方の勤務態度や行いが改善されますように、少しでもより良い方向へ進んでいくことをお祈りしています。
あらかじめ弁護士保険などで、今後の様々なリスクに備えておくことをおすすめします。
諭旨解雇(ゆしかいこ)とは、従業員の不祥事などがあった場合に、会社側と従業員が話し合い、両方納得した上で解雇を受け入れてもらうという懲戒処分です。
諭旨解雇は、懲戒処分の中でも一番重い「懲戒解雇」の次に重い懲戒処分です。
諭旨解雇処分を行っても、従業員が退職届を提出しない場合は、懲戒解雇に進みます。
木下慎也 弁護士
大阪弁護士会所属
弁護士法人ONE 代表弁護士
大阪市北区梅田1丁目1-3 大阪駅前第3ビル12階
06-4797-0905
弁護士として依頼者と十分に協議をしたうえで、可能な限り各人の希望、社会的立場、その依頼者らしい生き方などをしっかりと反映した柔軟な解決を図ることを心掛けている。
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