勤めている会社から突然「会社を辞めたらどうか」「早期退職」などと退職勧奨された時、どのように行動するのかいいのでしょうか?
多くの方は突然のことに動揺してしまい、やむなく退職を選んでしまうことも少なくないのではないでしょうか?
このような労働トラブルが発生した時に利用したいのが「労働審判」です。
労働審判は2021年4月に制度開始15年を迎え、現在では年間3,000件以上の申立てがある制度です。
この記事では労働審判について詳しく解説したいと思いますので、ぜひご参考ください。
記事に入る前に・・・
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労働審判とは
どんな制度なのか?
労働審判手続は、解雇や給料の不払いなど、労働者個人と事業主との間の労働関係のトラブルを、その実情に即し、迅速、適正かつ実効的に解決するための手続です。
不当解雇や残業未払いに関して、その条件や算出方法は法律で厳格に定められていますが、遵守しているとは言えない会社が少なくないため、そういった意味では非常に高い勝率が見込めるとも言えます。
しかし、ただ労働審判を申し立てても思った通りの結果を得るどころか、自分の主張が認められないという可能性すらあります。
裁判との違いについて
解決までのスピード
労働審判は原則3回位以内の期日で審理を終えることになっており、申立から40日以内に第1回の期日が指定されるため、迅速な解決が望めます。
※平成18年から令和元年までに終了した事件について、平均審理期間は77.2日であり、70.5%の事件が申立てから3か月以内に終了しています。
専門家による関与
労働審判官(裁判官)の他に、2名の労働審判員で組織する労働審判委員会が労働審判手続を行います。
労働審判員は「雇用関係の実情や労使慣行に関する詳しい知識と豊富な経験を持つ者」として裁判所から任命された人で、より労働環境の実情に即した判断が可能となります。
費用が安い
通常の訴訟と比べると半額程度で申し立てが可能です。
詳細な費用については後述の『労働審判申し立て方法』で説明します。
直接口頭主義
通常訴訟は書面のやりとりで審理が進みます。ドラマのような口頭でのやりとりはほとんどありません。
対して労働審判は書面として提出するのは原則として第1回期日前までで、その上で第1回の期日から口頭でのやりとりが中心となります。
予め双方の主張と証拠に目を通した労働審判委員会から当事者双方に質問をし、当事者はその場で回答し、事実関係を掘り下げていくことになります。
非公開手続
通常の訴訟と異なり、労働審判は非公開が原則となります。
会社と対象社員以外には知られることはありませんので、社内の一般社員や労働組合のほか、社外の第三者に知られることもありません。
弁護士を立てたほうがいい?
裁判所が『法律の専門家である弁護士に依頼することが望ましいでしょう』と弁護士への相談を推奨していることからもわかるように、弁護士は「立てたほうがよい」というより「立てるべき」です。
労働審判は3回以内の期日での結審となるため、短期間で的確な主張・立証が求められます。
1回目が非常に重要となるため、申立の段階で十分な準備が必要です。
審判前は会社側から提出される答弁書を精査して対策をとる必要があります。
審判期日では、口頭で的確に主張を述べなければなりません。
これらを個人で行うのは負担が非常に大きく、また望み通りの結果を得ることは容易ではありません。
労働審判のメリット・デメリット
メリット
解決までが早い
先述の通り平均審理期間77.2日、全体の70.5%の事件が申立てから3か月以内に終了と非常に早く解決します。
個人でも戦いやすい
前項で「弁護士を立てるべき」としましたが、内容によっては個人でも十分な主張・立証は可能です。
審判の途中で弁護士に依頼することも可能ではありますが、一度行った主張は後から修正することが非常に難しくなります。
事前に検討し、弁護士に相談した上で判断するとよいでしょう。
妥当な解決案が第三者から提示される
労働審判を通さずに会社側と話し合いが持てたとしても、会社側と労働者側ではどうしても会社側の言い分が強くなり、法的に許容されないような結論に至ることも珍しくありません。
労働審判では、双方の主張を鑑みて、専門知識が豊富な労働審判員と審判官(裁判官)が法的な面から判断し、妥当な解決が可能となります。
強制執行が可能
労働審判は裁判所による判断ですので、確定すれば判決と同じ効力を持つため、差し押さえ等の強制執行が可能です。
デメリット
労働審判の対象になるケースが限られている
労働審判は事業主と被雇用者個人との間の紛争を解決するための手段です。
例えば上司と部下の関係や同僚間でのトラブルは労働者間の争いとなるため、労働審判制度は利用できません。
また、労働組合と事業主との争いでも利用はできません。
先手をとらないと不利になってしまう可能性がある
労働審判は早期解決のため迅速性を要求されます。
通常の訴訟と違って短期決戦の要素が強く、労働審判委員会は提出された書面や証拠をもとに、第1回期日にある程度の見通しを立てて、双方に調停案を提示するのが通常です。
つまり、申立の段階で十分な証拠を揃え、内容を充実させた書面を用意しておかなければ、第1回期日の時点で不利な状況に立たされてしまいます。
労働審判を申し立てることができるケース
繰り返しますが、労働審判制度は事業主と労働者個人との間の紛争を解決するためのものです。
基本的には労働者の権利・利益に関する紛争が対象となります。
残業代未払い等の賃金に関わるトラブル
残業代の未払いや、妥当性の無い給料減額、賞与や退職金の未払い等、賃金に関わるトラブルは対象となります。
証拠も比較的集めやすいですが、みなし残業手当(固定残業手当)等確認しておかなければならない項目もあるので注意しましょう。
退職推奨や不当解雇等の雇用に関わるトラブル
一方的な解雇や退職推奨といったトラブルも対象となります。
退職するよう恫喝されたり嫌がらせを受けたりといった場合は、会社(事業主)に対して労働審判制度を利用できます。
労働審判を申し立てることができないケース
セクハラ、パワハラ等個人に対しての労働審判
労働者間でのトラブルは労働審判の対象外です。
ただし、会社の使用者責任や安全配慮義務を問う場合は会社に対して労働審判を申し立てることが可能です。
例えば、「事業主が、パワハラが起きている環境を知っていながら放置した」という場合は可能となります。
団体での交渉や労働組合対会社の争い
会社に対して、個人の権利義務に関する紛争ですので、労働組合等の集団での申立てはできません。
また、賃上げ交渉や労働条件の改善、労働環境の改善等は労働審判の対象外です。
公務員は労働審判の対象にならない
公務員は、国家公務員法や地方公務員法に基づいて規律されており、民間の労働者とは立場が異なります。
国・地方自治体に対する紛争は民事に関する紛争に該当しないため労働審判の対象になりません。
労働審判の申立て方法
証拠の収集
裁判所に申立てを行う前に、必ず証拠の収集をしておきましょう。
裁判所に申立てを行うと、その40日以内に第1回の期日が当事者双方指定されるため、申立て後に証拠を集めだすと、十分な量・質の証拠が集められない可能性があります。
また、会社側で証拠の隠滅・改ざん(タイムカードの偽装・データ消去等)が無いとも言い切れません。
集めておきたい証拠は内容によって変わりますので、何が証拠になるかは弁護士に相談しておくと良いでしょう。
※証拠例 タイムカード、勤怠管理表、雇用契約書、就業規則、給与明細、解雇通知書 など
申立書の作成
労働審判の手続きは、各地方裁判所へ申し立てを行います。
Web手続き等はなく、書面のみですので、申立書の作成が必要です。
申立書は裁判所のHPの見本を参考に作成しましょう。
申立先と必要書類(費用)について
申立先
労働審判手続の申立ては、原則として本社所在地を管轄する地方裁判所へ行いますが、労働者が現在働いている(もしくは最後に働いていた)事業所の所在地を担当している地方裁判所でも可能です。
必要書類
必要書類は下記になります。1通だけでなく、相手方へ送付する分を含めて複数ありますので注意しましょう。
- ① 申立書 正本 1通 写し 相手方の数+3 (例 : 相手方が1名 → 正本1通+写し4通 )
- ② 証拠書類 写し 相手方の数+1 (例 : 相手方が1名 → 写し2通 ) ※原本は審判の日に持参します
- ③ 証拠説明書 正本 1通 写し 相手方の数 ※証拠説明書は裁判所の書式を参考に作成しましょう
- ④ 資格証明書 1通(証明日から3ヶ月以内のもの)
※申立人または相手方が法人の場合に必要です。 代表者事項証明書、全部事項証明書等があり、法務局に申請して取得します。
- ⑤ 申立手数料(収入印紙)
労働審判を求める事項の価額によって変わります。
いくら払わなければいけないかを裁判所の手数料額早見表を参照しましょう。(例:100万円の支払いを請求する場合には5,000円)
- ⑥ 郵便切手(相手方への郵送料)
①~③までの相手方分の重さに50gを足した重さに対応する郵便切手 (例:①②③の相手方分の重さ180g→50gを足すと230g→切手は250円分)
費用
上記必要書類の⑤⑥の他に下記が必要になります。
- 裁判所へ郵送するためにかかる郵送費
- 申立書の写しや証拠の写しにかかる印刷代
- 裁判所までの交通費
申立書は複数ページあり、証拠書類や証拠説明書、その写しが複数部必要になりますので、1,000円~5,000円程度かかると思われます。
申立て手数料は請求する額によって大きく変わります。
余分な出費がでないよう注意しましょう。
また、弁護士に依頼した場合は弁護士費用がかかります。
着手金や報酬金等の報酬体系は弁護士事務所によって異なりますので、依頼を検討している事務所に確認しておきましょう。
労働審判の流れと気を付けるべきこと
労働審判を申し立てる
管轄の地方裁判所へ申立てを行います。
第1回審判期日
申立てから40日以内に第1回の期日が指定され、当事者双方が呼び出されます。
第1回期日は非常に重要となりますので、弁護士に依頼していても可能な限り申立人本人も出席することが望ましいでしょう。
申立人の申立てに対する反論や答弁書の内容等を審判員が口頭で質問します。
申立人に対しても、会社側の回答や答弁に関して質問されますので、あらかじめ準備しておきましょう。
双方の事情を聴取し、話し合いの解決が見込める場合は調停成立となり手続きが終了します。
労働審判委員会が作成した調書に従って、解決金の支払い等が履行されます。
第1回で終了しない場合は第2回審判期日へと移行します。
第2回審判期日
第2回期日も基本的には第1回と同じ流れになります。
期日までに必要書類の作成・提出、それをもとに質問・回答という流れです。
第2回でも終了しない場合は、第3回審判期日へと移行します。
第3回審判期日
第1回・第2回と同じ流れになります。
双方が合意に至らない場合は次の5)裁判所による審判が提示されます。
裁判所による審判(労働審判)
ここで双方が合意に至らない場合、労働審判委員会が審理の結果認められた当事者間の権利関係と手続きの経過を踏まえ、事案の実情に即した判断を示します。
異議申し立て
労働審判が示されてから2週間以内に当事者から異議申し立てがなければその労働審判が確定します。
つまり、労働審判の結果に納得がいかなければ2週間以内に異議を申し立てることができます。
その場合、労働審判は効力を失い、通常訴訟へと移行することになります。
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最後に
労働審判は会社とのトラブルを迅速に解決するため、労働者にとって非常に有効な制度です。
短期間がゆえに十分な準備が必要になります。
多くの場合会社側は法律のプロである弁護士を代理人に立てて審判に臨みます。
自分に不利な結果をもたらさないためにも早めに弁護士に相談して対策をたてて準備しましょう。
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ひとりひとりに真摯に向き合い、事件解決に向け取り組んでます。気軽にご相談が聞けて、迅速に対応できる弁護士であり続けたいと考えております。
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