本人訴訟とは、弁護士や司法書士を代理人として立てず、自分で訴え提起や裁判所への出廷をすること、つまり、自分で裁判を行うことをいいます。
みなさんにとって、裁判は弁護士がやるイメージだと思いますが、実は弁護士(代理人)を立てなくても、自分で裁判をすることはできます。
今回はどういったケースで本人訴訟が行われることが多いのか、また本人訴訟のメリット・デメリット等をご紹介します。
記事に入る前に・・・
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本人訴訟について
多くの裁判は弁護士(簡易裁判所では司法書士も可)が代理人として付きますが、実際は必ずそうしなければいけないわけではなく、本人だけで遂行しても全く問題ありません。
もちろん、専門家でない限り到底理解できないような難しい裁判もありますが、中には
- 知人にお金を貸していて何度催促しても返してくれず逃げ回っている
- 買主が売買代金を払ってくれない
などといった、内容が理解しやすい裁判も少なくありません。
「できるだけ弁護士、司法書士に払うお金を節約したい」とお考えであれば、上記のとおり本人訴訟という選択肢を選ぶ事も可能です。
ただ、本人訴訟を行う場合のメリット・デメリットをよく理解した上でどうするかをお決めになった方がいいでしょう。
本人訴訟のメリット・デメリット
本人訴訟のメリット・デメリットを解説していきます。
本人訴訟のメリット
費用が節約できる!
本人訴訟のメリットは、料金が安く済むことだといえるでしょう。弁護士に依頼しなければ、費用のメインである「弁護士費用」(着手金・報酬金)は一切かかりません。
着手金は、最低でも10万円かかることが多く、数十万円になることはざらです。着手金だけで100万円を超える裁判もあります。
費用の節約はご本人にとっては一番の大きな課題なので、この点がクリアできるのは大きいですね。
スピーディーに物事を進めることができる!
訴状等の書面の書き方などをはじめとする本人訴訟のやり方を事前に学んでおけば、思い立ったらすぐに訴えることができることもメリットです。
また、弁護士に依頼する場合、裁判期日ごとに打ち合わせをする必要がありますが、自分だけで裁判をする場合には打ち合わせはいりません。
したがって、弁護士に相談し、事務手続きを踏んで裁判を起こすよりも早く問題を解決できる可能性があるといえます。
できるだけ安く・素早く問題を解決したい人は、本人訴訟で裁判を起こすのも選択肢の一つではあります。
本人訴訟のデメリット
しかし、本人訴訟にはデメリットもあります。
難しい法律を理解する必要があること
素人と専門家では法的な知識に圧倒的な差があります。
したがって、法律が理解できずに、裁判では苦労するシーンを多く見かけます。
例えば、法廷ではどのように振る舞うかということ1つを取ってみても、素人の方ですとわからず不安になることは多いでしょう。「準備書面」、「上申書」の違いは何か、準備書面に「否認する」、「認める」等と書く必要がありますが、「認める」と書いたら負けてしまうのか、などなど、素人の方が裁判の1から10まで理解するのは困難です。
また、弁護士は法律について5年、10年、それ以上勉強してきているわけですから、法律の理解という点では太刀打ちはできません。
うまく主張立証できない結果、不利な結果になる可能性がる
また、裁判で正しい主張や立証活動ができず、敗訴したり不利な条件の判決が下されたりする可能性があり、望み通りに裁判が進まないケースがあります。
例えば、立証責任というものがありますが、どちらも証明できない場合にどちらが負けるのか、というのは素人の方には理解しにくいものです。自分が証明しないと負けてしまう部分をしっかり証明しないでいるとそのまま負けてしまいます。また、時効が成立しているのに気づかないまま時効を援用しないでいると、それはそれで勝てるチャンスを逃すことになります。
和解をする場面で「いい和解」ができない可能性がある
裁判の後半には「和解」をするかどうかを検討する場面があります。裁判の中では最も重要な局面だと言えます。
例えば、和解の場面で、弁護士がついていれば、「期限の利益喪失約款の条項を入れる」ということは当然に検討します(「期限の利益喪失約款がわからない方は調べてみて下さい」。
他にも、例えば、実際にあったケースですが、素人同士で清算条項を入れなかった結果、後日紛争が蒸し返されてしまったということがあります(清算条項がわからない方は調べてみて下さい)。
書類の準備や裁判に出席する時間や手間がかかる
裁判の手続がわからない場合には、手間と時間がかかってしまうこともデメリットです。
訴状を初めとする書面の書き方を調べ、どこにいつ何を提出したらいいのか、証拠とはどんなものかなど、自分だけでは難しいことは多々あります。
*実際に裁判に必要な書類の例*
訴状/答弁書/準備書面/証拠説明書/証拠申出書/反訴状/控訴状/控訴理由書/上告状/上告理由書/上告受理申立書/上告受理申立理由書/抗告状/陳述書
裁判が長期化することがある
また、本人訴訟の場合、弁護士を依頼したときに比べて裁判が長期化する傾向にあります。
自分の主張をまとめるのに時間がかかると、裁判は無駄に長引くおそれがあります。
弁護士を依頼した場合には、期日における裁判官の発言や指示などから、裁判官の求めるものを予測し、適切に対応して、時間を短縮できます。
本人訴訟で、裁判官の求めるものを1回で用意できないと、「次回期日に持ち越し」となります。口頭弁論は1か月から2か月に1回程度ですので、「次回期日に持ち越し」となってしまうと、単純に決着までの期間が1~2か月延びてしまうことになります。
尋問が不十分になる
例えば、離婚裁判を初めとする裁判では、夫婦間で起こった過去の事実関係を証明するためには、「人証」、すなわち、当事者尋問や証人尋問で出てきた話が重要な証拠となります。
証人尋問は、証人に対して、自分側と相手側の両方から質問をして、真実を確かめるという手続です。
しかし、弁護士がついていない本人訴訟だと、自分で尋問をする内容を考えなくてはならず、自分側の証人尋問が不十分となってしまいます。
また、相手に対する反対尋問も、訓練を積んだ弁護士ではないため、裁判官にうまく伝わらないおそれがあります。
1人で対応するため精神的なストレスがかかる
個人的にはこれが何よりも大きいと思いますが、本人訴訟を行った場合、多大なストレスを感じる点です。
ケースによっては途中で投げ出したくなることもあるでしょう。せっかく弁護士費用を安く解決しようとしても、精神的にダメージを受けて体調が悪くなってしまうのでは本末転倒です。
仕事を休んで裁判に行かなければならない
裁判は平日の午前10時から午後5時の間に行われます。
したがって、上記の時間中は仕事があるという方は、本人訴訟を行おうとすると、仕事を休まなければなりません。
このように本人訴訟はデメリットが多いものです。
そのため、可能であれば弁護士に相談したほうがいいでしょう。
弁護士に相談しつつ本人訴訟を進めてみる
対応してくれる弁護士が多いとは言えませんが、本人訴訟の進め方を相談に乗ってくれるという弁護士もいます。
具体的には、裁判期日の前後にご本人が作成した書面を見てアドバイスをくれたり、最終的な和解金額がどのくらいが妥当かについてアドバイスをくれたりといったことをしてくれます。
これにより、上記のデメリットをある程度解消することができます。
例えば、弁護士に裁判のルールなどを質問できる環境にあれば、①はクリアできます。
また、どのように主張していくかについて弁護士からアドバイスをもらうことができれば、②のデメリットも相当程度解消されるでしょう。
③についても、いい形での和解のしかたを教えてもらえるので、問題にならなくなるでしょう。
さらに、1人じゃないことになりますから、⑦のストレスが大きく軽減されます。
ただし、多くの弁護士は、弁護士に依頼することを前提に業務を行っていますし、そのような形式でのサポートでは責任が持てないということで対応できないと言われることは多いと思いますので、対応してくれる弁護士は限られるでしょう。
本人訴訟に向いている案件・向いていない案件
本人訴訟に向いている案件
本人訴訟でもできる可能性があるといえる1つの目安となるのは、
【法律上の争点となるべきものがない若しくは少ない】
かつ
【事実関係について既に証拠が固まっており実質的な争いとならない場合】
例えば、
ご自身が大家さん(貸主)であり、賃借人(借主)に毎月払ってもらっていた家賃を払ってもらえなくなってしまったので家賃を請求したい
というケースです。
このようなケースであれば、
証拠として「賃貸借契約書」や「入金があるはずの口座の通帳」があれば十分に事実関係を立証出来る場合が多いですし、法律的にも、請求することに正当性があることは争いがないので、本人訴訟に向いていると言えます。
他にも、借用書があり、返済がないというケースも(もちろんケースにもよるのですが)、本人訴訟には向いていると言えます。
本人訴訟に明らかに向かないケース
以下のような専門性の高いものは本人訴訟には向いていません。
医療訴訟
医療訴訟は、専門性が高い分野です。
証拠として診療録(カルテ)や画像を収集し、分析をする必要があります。その上で、主張を作成することになりますが、素人ではほぼ不可能と言ってよいケースでしょう。実際に本人訴訟での割合は低く、弁護士に依頼することが一般的といえます。
もしも医療事故の問題は自己解決したいと考えても、相手の病院には専門の弁護士(病院側の顧問弁護士)がついていることが多いので、弁護士に依頼した方がよいケースといえます。
税務訴訟
税務訴訟も専門性が高いため、本人訴訟には向いていません。
相手は、税務のプロ(国税庁、税務署)です(※当事者(被告)は国になります)。このようなケースは本人訴訟をしても勝訴する見込みはほぼないといえます。
ちなみに、税務訴訟は、弁護士に依頼したとしても、一般的には勝率が低い類型です。
少しでも勝てる見込みがあるなら、できるだけ弁護士に依頼した方がいいでしょう。
知的財産訴訟
知的財産訴訟も専門性が高く、本人訴訟には向いていません。
知的財産訴訟では、相手方は企業であることが多いため、相手は知的財産権法に精通した弁護士を立てるケースが多いからです。
知的財産法のうち、特許法が問題になる場合は特に専門性が高いので、本人訴訟は難しいでしょう。専門の弁護士や弁理士に相談しましょう。
不当解雇、残業代請求
不当解雇や残業代請求に関しても、細かい証拠を集める必要があります。
特に残業代請求は法的にも細かい知識が要求されるため、ご自身で計算することはきわめて難しい分野です。不当解雇は解雇になった時点からどのように行動するかが重要ですので、弁護士に一切相談せずに進めるのは非常に危険です。
労働事件に詳しい弁護士に相談しましょう。
係争内容によっては少額訴訟などの選択肢も
訴額が60万円以下の場合、原告は「少額訴訟」を選択することが可能となります。
本人訴訟を「少額訴訟」で行った場合のメリットは、弁護士費用を節約することだけでなく、裁判がすぐに終わることです。
条件に合致するなら、少額訴訟を選択するのはよい判断かもしれません。
(ただし、相手(被告)から通常訴訟で裁判をしてほしいという希望が出た場合には、結局通常の裁判での手続になります。)
少額訴訟に興味がある方はよく調べて検討してみて下さい。
あなたが泣き寝入りしないために
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以上のように、本人訴訟をすると、費用は安く済んでも多くのデメリットがあります。
ただ、いきなり本人訴訟をするのではなく、弁護士に法律相談をした上で、実際に本人訴訟をするべきかを決めるのが一番良いと思います。
弁護士 松本隆
神奈川県 弁護士会所属
横浜二幸法律事務所
所在地 神奈川県横浜市中区山下町70土居ビル4階
TEL 045-651-5115
労働紛争・離婚問題を中心に、相続・交通事故などの家事事件から少年の事件を含む刑事事件まで幅広く事件を扱う
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