転職等に伴う退職の際に、
「今までの恩を忘れたのか、大事な仕事を放り出して逃げるつもりか!」などと
引き留めにあうという話は、ままあるかと思います。
そんなあなたが無事に退職するにはどうすればよいかを解説します。
この記事でわかること
- 法律上、あなたの退職を会社が拒むことができない
- 様々な退職拒否理由への対抗方法
- 退職に当たっての事務手続き
- 退職代行会社について
記事に入る前に・・・
だけど費用的に無理・・・という時代は終わりました。
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会社は労働者の退職を拒むことはできない
まず、はっきりしておく必要があるのは、会社は労働者からの退職申し出をいつまでも拒むことはできない、ということです。
退職には3種類ある
退職は会社と労働者の間の労働契約を終了させることで、次の3種類があります。
・労働者から労働契約を終了させる「辞職」
・会社から労働者をクビにする「解雇」
・両者の合意で終了させる「合意解約」
本稿で取り上げるのはこのうちの「辞職」です。
辞職の要件について
日本の法律では、労働契約が会社による労働者の人身拘束になってしまうことを厳しく制限しています。
①期間の定めのない無期労働契約の場合
労働者はいつでも理由の有無を問わず辞職申し出が可能で、その2週間後に解約(労働契約終了)の効果が発生します。
②期間の定めのある有期労働契約の場合
契約期間の初日から1年経過すれば、労働者は会社に申し出ていつでも辞職できます。
③期間の有無を問わず、やむを得ない場合
無期有期を問わず、やむを得ない事由があれば即時に辞職可能です。
労働者が退職を希望し会社が強引に引き留めるというのは、このやむを得ない事由に該当する場合も多いと思われます。
例えば、会社でのハラスメントや、過重労働に耐えられない場合や、家庭の事情でどうしても遠隔地に引っ越しせざるを得ない場合などです。
労働者がどうしても退職したいときに会社が引き留めることができる、というのは、かなり限定的な場合と考えてよいでしょう。
会社が持ち出す引き留め策への対抗方法
会社があなたの退職を拒んで、あれこれと理屈をつけてくることも多いと思います。
主な理屈と対応策は次の通りです。
1. 直属の上司があれこれ言うなら「上司の上司」や人事部に相談する
あなたが直属の上司に退職を申し出たときに、上司が強引に拒んだり「もう少し待ってくれ。」などと煮え切らない返事をしたりするなら、その「上司の上司」や会社の人事部などにすぐに相談してみてください。
直属の上司は、自らの担当業務に穴が開いたり、部下を辞めさせた責任を問われるのが嫌だったり、個人的な事情であなたの退職の申し出に抵抗する事も多いのです。
「上司の上司」に相談する・会社の人事部など本部に相談する等の行動を起こすことで解決することも多く見受けられます。
また、直属の上司に口頭で退職の意思を伝えただけですと、上司に握りつぶされる可能性もあります。
それどころか、会社から「退職の意思表示がなかった。勝手に欠勤していただけだ。懲戒解雇にする。」等とさえいわれかねないのです。
これを回避するために、「退職願」といった書面ではっきりと伝えます。
書面には日付を明示し、提出前に必ずコピーを残しておいてください。
退職願を提出しても直属の上司からいい返事をもらえなかった場合には、退職願のコピーを持って上司の上司や人事部に話してみましょう。
「○日付で○○課長に退職願を提出しましたが、ご覧いただいているでしょうか。」といった話し方が有効です。
上司が握り込んでいたりしたら、上司の上司や人事部は、びっくりして対応してくれることが多いと思います。
2. 「契約違反だ」と言われた
労働契約で「労働者が約束された期間の途中で退職する場合には、一定の金銭を支払う。」などという定めがされることがあります。
これは「違約金・損害賠償の予定」であり、このような定めは無効です。
3. 「就業規則違反だ」と言われた
上記1、で述べた通り、労働者の辞職の要件(2週間前の予告など)は強行法規です。
就業規則でこれと異なる定めをしていても無効です。
例えば、「退職については、1ヶ月前に申し出なければならない。」などと就業規則に定められていても、無期労働契約なら辞職を申し出ればその2週間後に労働契約が終了します。
(社会人のマナーとして、就業規則に「退職する一か月前に申し出する」と決まっていれば、受理されるされないに関わらず、遅くとも一か月間に、直属の上司には申し出する方が望ましいです)
4. 「損害賠償請求するぞ」と言われた
研修費・育成費用、業務上の損失、過去の失敗などを取り上げ、「損害賠償請求するぞ」と言われることがあるかと思います。
特に若手の社員などには「研修や育成の費用をどう考えるのだ、賠償しろ」などという会社も見受けられるようです。
あるいは「今のプロジェクトに穴が開いてしまう、プロジェクト遂行できなくなる。」
「昔のお前の失敗のために会社が損失を被っていた」などと言って「その分の損害賠償請求をするぞ」と言われることも多くあります。
しかし、会社から労働者への損害賠償請求権は厳しく制約されています。
学説上は労働者に故意または重過失がある場合に限られている、と考えられています。
とはいえ、単なる過失でも労働者の責任を厳しく追求した裁判例もあり、ケースバイケースと考えられますので、注意が必要です。
但し、労働者への損害賠償請求を認めた裁判でも、会社とは損害を公平に分担すべきとされ、労働者への損害賠償請求は損害額の一定の範囲に制限されるものが多く見られます(事態によって「損害額の半分」とか「○百万円を限度とする」などの裁判例があります)。
そもそも、会社が「損害賠償請求をするぞ」などというのは、大半の場合は単なる恫喝です。
本当に紛争になるなら公的機関や弁護士に依頼しましょう。
5. 「懲戒解雇にするぞ」と言われた
「懲戒解雇」というのは懲戒処分の中でも最も重いものです。
会社が懲戒処分をするには、就業規則に明確な規定がある場合に限られます。
たとえ規定に該当しても、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合には懲戒処分は無効になります。
退職を申し出るだけで懲戒事由に該当するとはとても思えません。
懲戒解雇にできることは、まずありえないでしょう。これも会社からの単なる恫喝でしょう。
6. 「代りを連れてこい」と言われた
労働者が退職するに当たって代わりの人を連れてくる義務はありません。
したがって会社が根拠なく理不尽な要求をしているにすぎません。
7. 会社から「身元保証人にクレームや損害賠償請求するぞ」と言われた
損害賠償については、労働者本人にできない場合、身元保証人にもできません。
ですが、会社がそれを知らずに身元保証人にクレームをつけ、事情を知らない身元保証人が困惑する、という可能性は十分に考えられます。
このような事態を避けるため、退職を考えている段階で身元保証人に一言説明しておくに越したことはありません。
8. 「同業種などへの転職は認めないぞ」と言われた
(退職後の競業避止義務)
会社が労働者の退職後の競業避止義務を持ち出す可能性はあります。
また「退職は認めるが、退職後の競業避止義務の誓約書を提出しろ」などと言ってくることもあるでしょう。
しかし、労働者の退職後の競業避止義務はごく限定されています。
職業選択の自由という憲法上の権利を制限するものであり、就業規則の規定や誓約書があるだけで簡単に認められるものではありません。
会社として本当に守るべき利益があり、競業避止義務の範囲も必要最小限にとどめることが求められています。
よほど特別な業務をしている場合でなければ殆んど認められない、と考えておいて良いでしょう。
会社が退職を認めないときの相談窓口
退職に関わる紛争については、公的機関や労働問題に詳しい弁護士との相談が適切です。
公的な相談窓口
都道府県労働局「総合労働相談コーナー」
ワンストップで様々な相談にのってくれます。電話相談なども受付けてくれます。
労働相談だけでなく、「助言・指導」や「あっせん」もしてくれますし、法律違反の問題があれば労働基準監督署などに取り次いでくれます。
お困りならばまず気軽に相談してみてください。【総合労働相談コーナー】
②労働基準監督署(全国労働基準監督署の所在案内)
労働者の辞職を妨げるのは強行法規違反です。労働基準監督署に相談してもよいでしょう。
とはいえ、労基署は監督機関であり、指導助言やあっせんをしてくれるわけではありません。
その意味からも、総合労働相談コーナーがはじめの相談にはふさわしいでしょう。
弁護士に相談する
会社とのハードな交渉等が見込まれるなら、労働問題の専門弁護士がふさわしいでしょう。
退職代行を専門に扱っている弁護士もいらっしゃいます。比較的安い料金で対応してくれる先生も多いようなので、ぜひ、あたってみてください。
次項の「退職代行会社」との比較も参照してください。
退職代行会社の問題点
会社との退職交渉を第三者に任せる方法として、最近では「退職代行会社」が話題になっています。しかし様々な問題があります。
別記事「退職届はいつまでに提出?2週間前で本当にいいの?」でも触れましたが、もう少し掘り下げておきます。
会社との交渉はできない
退職代行会社が行うのは退職届を会社に届けるというだけです。
要するに本人に代わって身内の方が会社に退職届を提出するとか、郵送で退職届を送るというのと本質は変わりません。
また、以下のような交渉ごとについては、弁護士法72条の禁止行為(いわゆる「非弁行為」)に該当しうるため、退職代行会社では行うことができません。
さらに、非弁行為については、私法上の効力が無効という判例があります。
すなわち退職代行会社を通じた退職の意思表示そのものが無効になりかねません。
労働者が出勤しないことを思って「無断欠勤」とされて懲戒解雇、退職金不支給といった問題すら生じる可能性があるので、注意してください。
弁護士法72条
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訴訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しく和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。
①退職をめぐって揉めたときの会社との交渉
揉めた場合は弁護士でないと代わりに交渉ができません。
②残業代・慰謝料・退職金の請求、有給休暇の確実な取得の交渉
会社を辞職する際に未払残業代が判明することはよくあります。
未払残業代を会社に請求するような交渉は弁護士でなければできません。
また慰謝料、退職金、有休取得など様々な交渉事も弁護士しかできません。
③パワハラ・セクハラなどへの対応
このような問題があれば前述の通り、2週間の予告もなく即時解約(即時辞職)が可能です。
また慰謝料などの請求も考えられます。
これらは、弁護士でなければできません。
成功率100%に惑わされない
退職代行会社で「成功率100%」と宣伝しているところがありますが、何をもって「成功」とし、「成功率100%」としているのかが不明瞭なことがあります。
本来の退職代行であれば、労働者の得られるべき権利を獲得して初めて成功と言えるはずです。
未払い残業代があるかどうか把握せず調査もせず、交渉もできないのなら、成功とはとても言えないでしょう。
料金の比較
退職代行会社が弁護士報酬との比較をするときに、弁護士は料金が高いと宣伝する事も多いようです。
しかし最近は、安価で引き受ける法律事務所もありますので、一概に料金が高いとは言えません。
トラブルが起こりうる可能性
実際退職の際、「○月△日まで退職を待って欲しい」「最低でも引き継ぎをして欲しい」というような協議を持ちかけられることがあります。
しかし退職代行業者は、会社との間で協議・交渉を行うことは法律上許されず、このような会社からの申し入れへの対応は難しいといえます。
また、実際に退職した場合、離職票などの書類の交付や私物の返還を受ける必要があります。
特に離職票は、雇用保険の申請に必須の書類です。このような重要な書類を発行してもらえない、といったトラブルも考えられます。
退職 ー退職時にしておくべきことー
これについては、別記事「退職届はいつまでに提出?2週間前で本当にいいの?」でも詳しく解説しています。
辞職を会社が拒むという紛争事態であり、万が一にも間違いがないように慎重に対応してください。重要な項目だけ改めて挙げておきます。
このような細かな注意点も労働関係に詳しい弁護士ならば的確に相談にのってくれるでしょう。(退職代行会社ではこのようなことはできません。)
身元保証人にも念のため連絡
会社が身元保証人に嫌がらせ的に損害賠償請求したり、根も葉もない誹謗中傷などもありえます。
有給休暇の消化
有給休暇が残っている場合、使い切って構いません。
退職届など
就業規則に定められた書式などで対応するのが原則ですが、前述の競業避止義務誓約書など、提出に疑問のあるものは提出を拒んでも差し支えありません。
それで辞職できなくなることはありません(もっとも、誓約書を提出してしまっても法的効果は限定されますので、ご安心ください)。
退職届に記載する退職事由は、「一身上の都合」といった簡単なものでいいでしょう。仮にも会社への恨みつらみを書き連ねるようなことはおやめください。無用の紛争の種になります。
私物の持ち帰り
私物を残しておくと、会社から嫌がらせ目的で複数回着払いで送られる例があります。
情報管理の注意
会社とは、いわば「けんか別れ」になることが多いので、会社にケチをつけられるような振る舞いは、絶対に避けてください。
特に営業秘密、顧客情報、その他の重要情報を勝手に持ち出すなどしたら、会社から刑事告発されるといったリスクすら生じます(不正競争防止法等)。
また、退職後にSNSなどで、会社の悪口を言うなども避けてください。
自分が損をしますし、最悪は偽計業務妨害といった問題すら生じかねません。
あなたが泣き寝入りしないために
だけど費用的に無理・・・という時代は終わりました。
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- 労働トラブル
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*1 件数は2023年3月現在 *2 2013年~2022年。単独型弁護士保険として。2023年3月当社調べ。*3 99プランの場合 *4 初期相談‥事案が法律問題かどうかの判断や一般的な法制度上のアドバイス 募集文書番号 M2022営推00409
まとめ
今の会社を辞職して新たな職場を求めるのは、人生の重大な決断です。
会社があなたの辞職を拒むことは基本的にはできません。自信を持って対応してください。
この記事ではそのための法的な知識、実際の注意などをできるだけわかりやすくまとめてみました。
あなたの新しい人生の出発にお役に立てれば幸いです。
また、今後の様々なトラブルの備えとして「弁護士保険」へのご加入もオススメします!
玉上 信明(たまがみ のぶあき)
社会保険労務士
健康経営エキスパートアドバイザー
紙芝居型講師(登録商標第6056112号)
日本紙芝居型講師協会(登録商標第6056113号)
日本公認不正検査士協会アソシエイト会員
西村 雄大 弁護士
大阪弁護士会所属
梅田パートナーズ法律事務所 代表弁護士
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