その「みなし残業代」違法かも?知っておきたい みなし残業のポイントを解説

「みなし残業代制度のせいで、毎日遅くまで働かさせられている」ということはないでしょうか。

「みなし残業(固定残業)」 は一般的に、残業時間があることを見越し、あらかじめ残業代を給与や手当の中に含む制度のことを指します。

一見画期的な制度のように思いますが、中には明らかに「残業時間」に対して「みなし残業(固定残業)代」が見合っていない、というケースも少なくありません。

この記事では、みなし残業代についての基礎知識と、みなし残業代が違法なケースの対処法について解説いたします。

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目次

【基礎知識】みなし残業代(固定残業代)とは

前提として「みなし残業代」は、「定額働かせ方放題」ではない、という事を確認しましょう

「みなし残業代」とは

一般的には、「みなし残業代」という表現が用いられますが、労働法制の専門家ならば「固定残業代」(あるいは「定額残業代」)という言葉を使います。

一般に用いられる「みなし残業代」は、割増賃金を払うべき時間外労働の計算の最低基準を定めたものをいい、実際の時間外労働がこの最低基準を超えればその分の割増賃金が支払われます。

例えば、「みなし残業代1ヶ月 20時間分」と定められていれば、実際の時間外労働が10時間でも15時間でも20時間分の割増賃金が支払われます。

ただし、実際の時間外労働が25時間なら5時間分、30時間なら10時間分の割増賃金が、固定残業代とは別に支払われなければなりません。

社労士

厚生労働省では、固定残業代について次のように定義しています。
「固定残業代」とは、その名称にもかかわらず、一定時間分の時間外労働、休日労働および深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金のことです。

労働時間・割増賃金の原則

ここで、労働基準法による労働時間・割増賃金の原則を確認しておきましょう。

法律で定められた労働時間(法定労働時間)は1日8時間、週40時間です。

さらに、週1日の法定休日が定められています。

これを超える労働のためには、労使協定(いわゆる36協定)を結んだ上、割増賃金が支払われます。

36協定がなければ残業も休日労働もできません。

1日8時間週40時間を超えて働いた場合(法定時間外労働)

25%増しの割増賃金が支払われます。

大企業では、1ヶ月の法定時間外労働が60時間を超えると、超過部分は50%の割増賃金となります(中小企業は2023年4月から適用)。

深夜労働(午後10時~翌午前5時までの労働)

25%増しの割増賃金が支払われます。

法定時間外労働と深夜労働が重なった場合、割増率50%となります。

休日労働

週1日の法定休日に働いた場合は35%増しの割増賃金が支払われます。

休日労働が深夜に及ぶ場合、割増率は25%+35%の60%となります。

ただし、休日労働が8時間を超えても割増率は35%のままです。

通常の賃金と割増賃金とは明確に区別されていなければならない

前述の割増賃金の計算のためには、割増計算の基礎となる通常の賃金が明確でなければなりません。

割増賃金を正確に計算するために、通常の賃金と割増賃金は明確に区別されている必要があります。

みなし残業代制度の運用は限定されている

法定労働時間には、例外的に柔軟化された制度があります。

その中でも、実労働時間にかかわらず一定時間働いたとみなす本来の「みなし残業代」に当たるのは、裁量労働制などごく特殊なものだけです。

一般の労働者には関係ない、と考えた方が良いでしょう。

① 法定労働時間の枠の特則(フレックスタイム制・変形労働時間制)

「1日8時間・週40時間」という制度を、一定期間の枠内で柔軟化したものです。

その期間内での法定労働時間の合計は変わりません。

法定労働時間を超えた労働については、割増賃金が支払われます。

② 法定労働時間算定の特則(裁量労働制・事業場外みなし労働時間制)

実労働時間にかかわらず、一定時間働いたものとみなす制度です。

この制度だけが言葉の本来の意味の「みなし残業代」に該当すると言えます。

しかし、「裁量労働制」は専門的な仕事や本社の企画業務など、限定された職種のみに適用されます。

「事業場外みなし労働時間制」は、直行直帰の営業担当者など労働時間管理が難しい人を対象にする、という趣旨でした。

現在のように、会社とモバイル端末などで常時連絡が取れる場合には、労働時間管理が難しくないので、適用の余地は多くはないでしょう。

大分類内容制度名称
①法定労働時間の枠の柔軟化法定労働時間一定期間の枠内で柔軟化。

期間内の法定労働時間の「合計」は変わりません。これを超えた実労働時間分の時間外手当は支払われます。
フレックスタイム制(個々人が始業・終業時刻を自ら決定できる)

変形労働時間制(事業場ごとの法定労働時間を一定の期間の枠内で変形させる
②法定労働時間算定の特則
(本来の「みなし残業代」)         
実労働時間にかかわらず、一定時間働いたものとみなす。時間外手当もみなし時間に基づいて支払われる裁量労働制(専門業務型・企画業務型)

事業場外労働みなし労働時間制(外回り営業等)

*このほか「高度プロフェッショナル制度」がありますが、殆んど利用されていません。

「みなし残業代(固定残業代)」の本来の意味と効果

「みなし残業代(固定残業代)」は「割増賃金を払うべき時間外労働の計算の最低基準を定めたもの」です。

実際の時間外労働が最低基準を超えれば、その分の割増賃金が支払われます。

「みなし残業代(固定残業代)」のメリットと悪用例

「みなし残業代(固定残業代)」の本来的な効果は、固定残業代制の基準時間の枠内ならどれだけ働いても同じ残業代になることです。

残業時間が少なければ少ないほど、効率的に働けているという証になり、インセンティブ的に受け取ることが可能です。

さらに、固定残業代は保証されているので、収入が安定します。

万が一残業が多くなっても、固定残業代の基準時間を超えれば、上乗せで残業代をもらえます。

労働者にとっては、画期的な制度とも取れますが、一方で企業側が悪用する例も多くあります。

「みなし残業代(固定残業代)」の悪用事例

上記でも簡単に紹介しましたが、みなし残業代が悪用されている事例を5つ紹介します。

基本給の時間や金額が明示されていない

固定残業代の「基礎となる」時間や金額が明示されていない

求人票で、次のような記載がされている場合です。

①「月給25万円(みなし残業手当30時間分含む)+交通費(上限3万円)」

②「月給22万円(一律残業手当含む)」

①では、30時間分のみなし残業手当がいくらなのか示されていない為、基本給に対する正当な割増率に基づいて計算されているか確認できません。

②について、固定残業代の基礎となる残業時間さえ示されていません。

企業がこのような記載をするのは、時間外の割増賃金支払いを少なくするだけでなく、月給の水準を高く見せかける、という目的があります。

基本手当に残業代も含めて表示するので、高い水準の給与と見せかけることができるからです。

上記のような記載では、仮に給与について裁判になった時、通常の労働時間の賃金に当たる部分(基本給)と時間外の割増賃金に当たる部分とを判別できない、と判断されるでしょう。

次のようになる可能性があります。

①について:25万円そのものを基本給と扱い、この金額をもとに、30時間分は25%増しの割増賃金の支払いを命じられる。

実際の時間外が40時間ならば、10時間分は基本給25万円をベースにして、25%増し分の割増賃金支払いが命じられる。

②について:月給22万円を基本給として、時間外労働については、すべて割増賃金の対象とする。

定められた残業時間を超えない限り固定残業代を払わない

悪質な会社にあるケースです。

月給25万円(みなし残業手当30時間分含む) という契約条件とした場合、

月15時間や20時間残業しても「定められた30時間に達していないから、固定残業代を払わない。」というケースです。

「固定残業代」は、実際の残業時間が0~29時間の場合でも、30時間分の固定残業代を払うことが必要です。

固定残業代の基礎の時間を超えても、その分の割増賃金を払わない

よくある事例の一つです。

実際の労働時間にかかわらず「みなし残業代を払っているため、それ以上の残業代を払わなくて良い」といって、固定残業代の基準時間を超えた部分の残業代を払わないことが多くあります。

固定残業代は支払うべき残業代の最低限を定めたものです。

計算の基礎となる残業時間を超えれば、その分は固定残業代とは別に割増賃金として支払われるべきものです。

最低賃金を割り込んでいる

固定残業代で労働時間数と金額等の計算方法が明示されていても、それが最低賃金割り込んでいることがあります。例えば次のような例です。

「□□手当(時間外労働の有無に関わらず、30時間分の時間外手当として2万円を支給)」

これでは、1時間あたり666円です。

例えば東京都の2020年現在の最低賃金は1,013円です。

割増賃率25%をかければ最低でも時間単価は1,266円です。666円なら、最低賃金の半分の水準にすぎません。

この会社の基本給が仮に最低賃金1,013円でも、固定残業代として37,980円請求できるはずです(1,266×30 つまり37,980円)。

(参考)厚生労働省 「地域別最低賃金の全国一覧

基本給と固定残業代の割り振りを変更する

「今まで基本給が25万円だったが、今後、基本給を22万円、固定残業代を月20時間分 3万円とする。

労働者が受け取る賃金は変わらないから大丈夫。」

と会社が従業員に対し、給与の内訳だけを変更すると言ってきたケースになります。

このような変更があった場合、「今の残業時間も月20時間ぐらいだ。手取りは変わらない。」と早とちりしないでください。

基本賃金の引き下げとなる為、明らかに労働条件の不利益変更です

これまで20時間分の割増賃金が出ていたなら、それがなくなってしまいます。

これまで実際に割増賃金が支払われなかったなら、本来しっかり請求すべきなのです。

基本給に基づく賞与の計算(例えば基本給の3ヶ月分)とか退職金の算定などでも基本給減額に基づき減額されることになりかねません

このような不利益変更については、法令などで厳しい制限があります。

不利益変更の原則禁止(労働契約法第9条)

労働者と合意することなく、労働者の不利益に労働条件を変更することはできません

労働者ができる対策・対処法とは

手続き上の最低限の要件を満たしているかを確認する


「みなし残業代(固定残業代)」が認められるためには、手続き上最低限でも次の2つの要件を満たす必要がありますので、確認すべきです。

就業規則変更の要件を満たしているか

就業規則変更には手続き要件を満たす必要があります。

特に就業規則の内容について労働者に周知され、労働者がいつでも就業規則を見ることができるかどうか、は必ずチェックしてみてください。

固定残業代の計算の基礎となる労働時間と固定残業代の金額が明確にされているか

「何時間分の時間外に相当する金額として、いくらの金額が支払われるか」が明確でなければなりません。

「月給25万円(みなし残業手当30時間分含む)+交通費(上限3万円) 」
「月給22万円(一律残業手当含む)」

このような表記の場合には違法であるといえます。

資料を収集する

違法な残業代計算と疑えば、次の資料を収集してください。

就業規則、労働契約書、労働条件通知書など

みなし残業代(固定残業代)がどのように記載されているか、厚生労働省の求めるような書き方になっているかを確認します。

実際の労働時間を確認できる資料

タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等実際に働いていた時間を把握できる資料を確認、収集しましょう。

そのような資料が不十分でも、

  • 業務日報・作業報告書・指示書などの記録
  • 会社のテナントビルなどの事務所館内からの入退出記録
  • メール記録
  • 手帳のメモ

などでも証拠として役立つことがあります。

また前述の通り、会社には労働者の労働時間を把握する義務がありますので、紛争の際に会社に対して労働時間の記録を提出させる、といった方法も有効です。

時効について

賃金債権については請求権の消滅時効があり、2020年4月1日以降に支払期日が到来するものに関しては、支払い日から3年(それ以前は2年)を超えると請求できなくなります。

長い間放置しないように注意してください。

困ったときの相談窓口

「みなし残業代(固定残業代)」について疑問の点があれば、次の相談窓口も活用してください。

都道府県労働局「総合労働相談コーナー」

職場のトラブルの相談や、解決のための情報提供や、会社とのあっせんなどを行っている機関です。

まず相談すべき窓口です。

都道府県労働局 総合労働相談センター

労働基準監督署

会社が労働法令等に違反しないように監督指導する機関です。労働者の申告も受け付けています。

監督機関として様々な問題を扱っている多忙な機関であり、真っ先に相談するのが適切かは疑問です。

前述の総合労働相談コーナーで相談すれば、必要に応じて労基署にも取り次いでくれます。

【参考】全国労働基準監督署の所在案内

人事労務関係に詳しい弁護士、社会保険労務士

「みなし残業代(固定残業代)」の問題は、制度の理解も難しく、会社との交渉には様々な証拠を集める必要もあります。

人事労務に詳しい弁護士や社会保険労務士等へ、相談を早めに行うことをお勧めします。

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*1 件数は2023年3月現在  *2  2013年~2022年。単独型弁護士保険として。2023年3月当社調べ。*3 99プランの場合 *4 初期相談‥事案が法律問題かどうかの判断や一般的な法制度上のアドバイス 募集文書番号 M2022営推00409

まとめ

「みなし残業代(固定残業代)」については、労働時間法制の様々な問題が集約して現れています。

この記事では労働時間法制の基本を説明しました。

この記事をお読みいただくことで、「みなし残業代(固定残業代)」のみならず労働時間法制全般について、ご理解いただけると思います。

労働者として働くときはしっかり働き、働いた分の賃金はしっかりと要求しましょう。

無駄な残業を抑止し、生産性の向上、ワーク・ライフ・バランス向上にも繋がっていきます。

この記事がお役に立てれば幸いです。

あらかじめ弁護士保険などで、今後のリスクに備えておくこともおすすめします。

この記事を書いた人
社会保険労務士

玉上 信明(たまがみ のぶあき)

社会保険労務士 
健康経営エキスパートアドバイザー
紙芝居型講師(登録商標第6056112号) 
日本紙芝居型講師協会(登録商標第6056113号)
日本公認不正検査士協会アソシエイト会員

弁護士
東拓治弁護士

東 拓治 弁護士
 
福岡県弁護士会所属
あずま綜合法律事務所
福岡県福岡市中央区赤坂1丁目16番13号上ノ橋ビル3階
電話 092-711-1822

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