配偶者が病気になってしまったときに離婚はできる?離婚が認められにくい3つのケース

最近夫(妻)の様子がおかしい…。

仕事を休んだり、突然怒ったりする。そうかと思うと、一日中部屋に引きこもることも。こんな状態になっている場合には、配偶者はうつ病などの精神病を患っているのかもしれません。

このような「病気を理由として離婚をすること」はできるのでしょうか?

民法770条の離婚事由の一つには「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みが無いとき」という条項があります。

ここで問題になるのは「強度な精神病」とはどの程度のことなのか、ということです。

本記事では配偶者が病気になったことをきっかけに離婚を検討している方に向けて ・配偶者が病気になったことを理由に離婚はできるのか?

・強度の精神病で回復の見込みがないときは?

・調停離婚になった場合の証拠の集め方は?

・病気になった配偶者からの離婚請求の場合は?

・離婚の理由が病気で、慰謝料請求できるのか?されるのか?

についてご紹介していきます。

配偶者の病気は、婚姻生活を継続するのが難しい場合も。

一人で悩みを抱え込まずに本記事を参考にして、家族の幸せに向けて行動していきましょう。

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目次

「配偶者が病気になった」を理由に離婚することはできる?

夫や妻が大きな病を抱えたことを理由に離婚はできるのでしょうか?

人道的には、愛する配偶者が病気になったなら誠心誠意看病するのが普通では?と感じがちです。

ですが、病の状態が精神病だった場合には、看病する方もされる方も精神面で追い詰められる可能性があります。

そのため民法では治る見込みのない強度な精神の病の場合には離婚が認められているのです。

しかし、この法律は曖昧で、「治る見込みがなく強度な精神の病」というところがキーポイントといえます。

これまでの判例で離婚が認められたケースとは、「統合失調症」や「認知症」など(詳細は後述)の、治る見込みのない強度な精神の病と認定されています。

アルコール中毒や、ノイローゼなどは、その症状単体で認められた判例はほとんどありません。

協議離婚であれば離婚することは可能

では、治る見込みのある精神の病の場合には絶対に離婚ができないのか?というとそうではありません。

夫婦間の協議で離婚を決めることは可能です。

どんな理由にせよ、夫婦で合意が取れれば離婚することはできます。

例えば、夫がうつ病を患い、献身的に看病していたとしても、妻が看病に疲れて体調を崩した場合などに離婚を切り出し夫が合意すれば離婚は成立するということです。

「強度の精神病で回復の見込みがないとき」とは?

民法770条の「強度の精神病で治る見込みがない場合」という定義について、まずは考えてみましょう。

過去の判例で、裁判所が離婚を認めたことのある強度な精神病には下記のものなどがあります。

・統合失調症
・アルツハイマー病
・重度の身体障害
・双極性障害(躁鬱病)
・認知症
・偏執病
・初老期精神病

どの病も同居の家族が献身的に看病してもなかなか報われない病だとわかります。

回復の可能性が低く看病するのも難しい病ばかりです。

一方で、夫婦には相互扶助義務(民法752条)がありますので、基本的には配偶者が病気だからといってすぐさま離婚を認めない傾向もあります。

そのため、「強度の精神病で回復の見込みがない場合」の法定離婚事由を採用する場合には、前提条件として下記のような条件を裁判所では加味します。

・長期間に渡り治療及び看病をしたのか?
・献身的に看病したのか?
・離婚後に重篤な病状の配偶者を面倒見る人がいるのか?
・離婚後に重篤な病状の配偶者の治療代を出せる人はいるのか?

これらの条件を満たし、配偶者の病状が回復する見込みがなく、看病をしっかり行ったにもかかわらずこれ以上夫婦関係を継続するのが難しいと判断できた場合には、離婚できると考えるといいでしょう。

判例上で重要になるポイントは、次の2点です。

・離婚を請求する側に誠意ある行動があるか
・離婚を請求される側に帰責性があるか

調停離婚の場合には民法で認められている離婚事由が必要

もしも離婚に合意してもらえない場合には、調停離婚になることもあるでしょう。

調停離婚とは、裁判所で調停委員を介してお互いの主張を話し合い、離婚を成立させる離婚方法です。

ですが、その場合には、治る見込みのない強度な精神の病を患っている証拠の提出が必要となります。

もしくは、その他の法定離婚事由があることを証明できなければいけません

民法で認められている離婚事由とは下記の5つです。

民法で認められている離婚理由

・配偶者の不貞行為があったとき

・配偶者から悪意で破棄されたとき

・配偶者の生死が3年以上明らかではないとき

・配偶者が強度な精神病にかかり、回復の見込みがないとき

・その他婚姻を継続しがたい重要な事由があるとき

例えば、精神を患い、その結果暴力などを振るわれて身の危険を感じる場合には、「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に認められる可能性があるでしょう。

調停離婚になった場合の証拠の集め方

調停離婚になった場合の証拠の集め方にはいくつかあります。

ただ単に配偶者の病状がわかればいいというわけではありません。

治る見込みがないからとすぐさま離婚できるわけではなく、下記の状況証拠も必要になるでしょう。

・治療及び看病が長期間に渡っていた証拠
・献身的に看病していた証拠
・離婚後に重篤な病状の配偶者を面倒見る人がいること
・治療費を出す人がいること

病気の人の看病が大変だからとすぐに離婚できてしまえば、その後病気の人が路頭に迷ってしまいます。

そうならないように裁判所は配慮する、ということです。

これらの証拠を揃え、離婚後も疾患のある配偶者の生活基盤が確保されている場合に限り、離婚が認められることになっています。

日記をつける

闘病日記や看病日記があれば証拠として提出できます。

いつから疾患が始まり、治療を開始したのか、闘病が長期間に渡っていることがわかれば有力な証拠になるでしょう。

また、献身的に配偶者を看病してきた証拠にもなりますので具体的にどんな治療を受け、何をしてあげたのかを日記に記録をつけておいてください。

病気の診断書

治る見込みのない症状だとわかるような、医師の診断書も有効です。

病状を担当医に記してもらい、裁判所に提出してください。

DV、モラハラがあったことが分かる診断書や記録したメモ

万が一精神を疾患し、配偶者が暴力を振るうようになった・モラハラなどのハラスメントがあったならその証拠も必要です。

DVやモラハラがわかる診断書やメモ、画像、録音などがあれば証拠として提出できます。

身に覚えがあればできるだけ具体的な証拠を集めてください。

配偶者の面倒を見てくれる人がいる証明

離婚後に病気の配偶者の面倒を見てくれる人がいる、という証拠も重要です。

例えば、離婚後は配偶者と両親と同居することがわかる書面や、離婚後は介護施設に入所できる手続きの書面などがあれば証拠になります。

調停離婚や裁判離婚に発展していたなら、これらの書面を裁判所に提出するといいでしょう。

「病気になった配偶者」が離婚を請求した場合には?

病気での離婚は、看病に疲れて離婚を検討する人よりも、実は病気になった本人から切り出すケースが多いものです。

病気を患い絶望し、やけになって配偶者に離婚を切り出す方や、自分の将来を悲観し、配偶者に配慮して申し訳ない思いから離婚を切り出すタイプの2通りがあるでしょう。

このような場合には離婚は認められるのでしょうか。

協議離婚の場合

切り出す側がどちらにせよ、夫婦の話し合いでの協議離婚なら離婚が成立します。

ですが、病気の配偶者は正常な思考回路で離婚を切り出したものとは考えにくく、一時の感情で離婚を切り出している可能性があるでしょう。

夫婦間で愛情があるなら、配偶者の病状が落ち着くまで話し合いを待ってもらうことも必要になるかもしれません。

調停離婚の場合

調停離婚の場合には、離婚を切り出した側が、どちらの立場であっても証拠を揃えて離婚することになります。

病気の配偶者から離婚を切り出されて、あなたも離婚したいなら、協議離婚で解決するはずですが、調停離婚に持ち込んだなら、あなたには離婚の意思がないということでしょう。

もちろん、あなたが離婚をしたくなければ拒否することも可能です

その場合には、あなたは配偶者の病状が治る見込みがあり、夫婦関係は良好である証拠を提出していきましょう。

例えば、医師の診断書で治る見込みがあることを訴える、重度な精神病で正常な判断能力が欠如している診断書の提出や結婚記念日に二人でお祝いをしている画像や仲の良い様子を記した日記などの提出も有効となります。

離婚をしたくなければ、離婚するための証拠とは逆の証拠を取り揃えていきましょう。

相手から慰謝料請求される可能性はある?

配偶者の病気を理由に離婚した場合、相手から慰謝料を請求される可能性があります。

例えば、あなたの不貞行為が原因で相手が精神病を患った場合には、有責配偶者はあなたになります。

この場合には不貞行為に対する慰謝料が請求されることになるでしょう。

その他、相手の精神病を理由に献身的な看病もせずに、一方的に病気を理由に離婚を切り出し夫婦関係が破綻した場合には、有責配偶者はあなたです。

このケースでは、配偶者から夫婦関係を破綻させたとして慰謝料を請求されてしまうケースがあるでしょう。

逆に相手に慰謝料請求できる?

うつ病などの病気を患った配偶者に対して慰謝料を請求できる可能性は低いでしょう。

病気になったのは本人のせいではなく、不可抗力の可能性が高いからです。

相手が病気を患ったことが法的に権利侵害行為だったとは考えにくく、病気だけを理由にした慰謝料請求は難しいと考えてください。

例外として病気を発病し、DVに発展した、働かなくなり婚姻費用を分担してくれない、不貞行為に及んだ、など病気に起因した別の事情があれば慰謝料を請求できるケースもあります。

配偶者の病状により離婚が認められにくいケース

病気の配偶者とは協議離婚なら離婚はできます。

ですが、調停に進んだ場合には病状によって離婚が認められにくいケースもありますので、それぞれご紹介します。

配偶者に正常な意思能力がない場合

回復の見込みがない精神の病ともなると、症状が重篤なケースと考えられます。

その場合、正常な判断能力がないと見なされるケースもあるでしょう。

意思能力のない配偶者に、調停離婚や訴訟を起こすことは認められていません。

もしも、意思能力のない配偶者と離婚したい場合には、「成年後見人」をつける必要があります。

成年後見人とは、意思表示ができない配偶者に代わって、財産管理や身上監護をする人のことを指します。

成年後見人を選ぶためには家庭裁判所に「成年後見開始の申立」を申し立ててください。

後見人には親族などが候補に上がります。審査をして認められれば、後見人を配偶者の代理人として離婚の訴訟を起こすことが可能です。

弁護士

家事事件手続法257条2項ただし書きによって、調停前置主義は取られないことになります。
つまり、家事調停を経ずに訴訟を提起することになります。

配偶者に親族がいない場合

離婚後に病気の配偶者の面倒を見る人がいない場合には、離婚が認められない可能性が高いでしょう。

離婚するためには配偶者の親族などに相談し、離婚後の面倒を見てもらえるのかを先に確認しておくことが大切です。

病気の配偶者を投げ出すことになってはいけません。

もちろん、病院や施設などに任せる方法もありますし、あなたが資金を援助する方法もあるでしょう。

大切なことは、病気になって苦しんでいる配偶者が離婚後の生活を安心して送れる基盤を作り、離婚しても問題ない状況を作ることです。

そうすることで調停や裁判でも離婚が認められやすくなるでしょう。

軽度な病状では離婚が認められない

法定離婚事由にあるように、強度の精神病で治る見込みがないケースでは離婚が認められています。

そのため、軽度なうつ病などの場合には離婚できないのです。

その他、精神病ではなく、治る見込みのない末期ガンなどの場合でも離婚の理由にはなりませんので、覚えておきましょう。

もちろん、いずれの場合でも協議離婚なら離婚ができます。

法定離婚事由に該当しないのなら、協議離婚で決着をつけなければなりません。

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まとめ

配偶者が病気になり、誠心誠意尽くしてきても報われずに夫婦関係が破綻してしまうケースはたくさんあります。

夫婦関係が破綻すれば、離婚が頭をよぎっても不思議はありません。

離婚を考えるのであれば、家族の健康を害する前に行動していくことが大切です。

長期にわたり治療と看病をしても回復しない場合には、離婚できる可能性があります。

そして離婚後の配偶者の生活基盤があるのなら裁判所でも離婚を認めてくれる可能性が高いでしょう。

その時は、調停や裁判に持ち込みたくなければ配偶者との協議で離婚を決めることです。

できるだけ献身的に看病して配偶者が1日も早く回復することを願います。

あらかじめ弁護士保険などで、今後の様々なリスクに備えておくことをおすすめします。

弁護士
西村雄大弁護士

西村 雄大 弁護士


大阪弁護士会所属 
梅田パートナーズ法律事務所 代表弁護士
住所 大阪市北区西天満4-6-4 堂島野村ビル2階
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