「派遣切り」という言葉は、2008年のリーマンショックの際に一般的に広く知られるようになりました。
2020年の新型コロナウイルス感染症流行のような世界的不況時において、立場の弱い労働者、特に派遣社員は大きな影響を受ける可能性が高くあります。
この記事を読んでいるあなたの身近にも「派遣切り」に遭った・遭いそうな方がいるかもしれません。
・派遣切りとはそもそも何か
・どのような対抗手段があるのか
・不況の時代にどのように対応すべきか等
をわかりやすく解説します。
記事に入る前に・・・
だけど費用的に無理・・・という時代は終わりました。
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労働者派遣制度の基礎知識
そもそも労働者派遣制度とはどのようなものでしょうか。簡単に確認しましょう。
「あなたを雇っている会社」と「あなたが働いている会社」が異なる制度です。
直接雇用とは異なる
派遣は、直接雇用とは異なる働き方です。
派遣として働くということは、派遣元(派遣会社)に雇用されて、派遣先に赴いて業務についています。
つまり、実際に働いているのは「派遣先」です。
そこで業務内容を伝えられて仕事をするという流れになります。
しかし、雇用主は、派遣元(派遣会社)です。
派遣元に雇用され、派遣元から賃金を得ているのです。
派遣先は派遣社員をクビにできない
派遣先はあなたをクビにすることはできません。
それは、「おはようございます」と毎日出社している会社は「派遣先」ですので、あなたの雇い主ではないからです。
派遣先で仕事をするという「派遣契約」が解除されることがあっても、派遣元とあなたとの間の労働契約はなくなりません。
派遣元もあなたを簡単にクビにはできない
では、昨今のコロナ不況の中で派遣元(派遣会社)はあなた(派遣社員)をクビにできるでしょうか。
結論を言えば、「あなたの働きぶりが箸にも棒にもかからない」といったよほどのことがない限りは、派遣元もあなたを簡単にクビにはできません。
「派遣切り」とは?
派遣切りという言葉は様々な意味で使われます。
「派遣労働者が自分の意思に反して働けなくなってしまうこと」という意味で幅広く「派遣切り」という言葉が使われているようです。
元々の意味
派遣契約の途中でまだ契約期限が来ていないのに、派遣契約を解除してしまうこと。
もっと広い意味
派遣元(派遣会社)があなたとの労働契約を取りやめて解雇したり、有期の労働契約の更新に応じないこと。
1、有期雇用派遣労働者」と「無期雇用派遣労働者」
○ 「有期雇用派遣労働者」 約101万人
派遣労働者のうち、期間を定めて雇用される労働者(労働者派遣法第30 条第1項)。
○「無期雇用派遣労働者」 約55万人
期間を定めないで雇用される派遣労働者(同第30条の2第1項)
参考:労働者派遣事業の令和元年6月1日現在の状況(労働者派遣事業・都道府県別)
2、「登録型派遣」と「常用型派遣」とは
○「登録型派遣」派遣労働を希望する者をあらかじめ登録しておき、労働者派遣に際し、当該登録されている者と期間の定めのある労働契約を締結し、有期雇用派遣労働者として労働者派遣を行うこと
○「常用型派遣」労働者派遣事業者が常時雇用される労働者の中から労働者派遣を行うこと
派遣先から「来なくていいよ」と言われてもクビではない
派遣先から「もう来なくていいよ」と言われるのは派遣元(派遣会社)と派遣先との間の「派遣契約」の解除に当たります。
しかし、派遣元とあなたの間の労働契約そのものが解除されるわけではありません。
派遣元との労働契約は存続している
派遣先で「仕事がなくなったから来なくていい」と言われた時、どうすればいいのでしょうか。
この時、派遣先としては労働者派遣契約(派遣会社と派遣先との間の契約)を解除するつもりで言っていると推測されます。
しかし、派遣先から「来なくていい」と言われても、派遣元(派遣会社)をクビになったわけではありません。
派遣元(派遣会社)との労働契約は存続しています。
派遣先が自分の都合(契約を無視して)で派遣契約を解除する場合には重い責任が負わされるため、派遣先が自由に解除を決定できるわけではありません。
(派遣労働者の勤務状況が不良で箸にも棒にもかからない、というなら別ですが・・・)
派遣先の責任の概要は次の通りです。
【派遣先が派遣契約を中途解除する場合の条件】
1、派遣社員に新しい就業機会を確保すること
2、派遣会社に派遣社員の休業手当などにかかる費用を支払うこと
3、その他派遣労働者の雇用安定のための措置をとること
派遣元(派遣会社)も派遣労働者を簡単に解雇できない
派遣元(派遣会社)と派遣労働者の間には、労働契約が締結されています。
正社員・契約社員・アルバイトなど直接雇用の場合と同様に、派遣元会社は正当な理由なく、あなたをクビにすることはできません。
無期労働契約の場合(期間の定めのない労働契約)
例えば、常用型派遣で派遣会社に無期労働契約として雇用されている場合です。
会社が労働者を解雇する場合、正当な理由がない限り、「解雇権濫用」として無効となります(労働契約法第16条)。
この「正当な理由がない限り」というのは、法律上は「客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合」とされます。
要するに「よほどのことがない限り簡単にクビにはならない」ということです。
有期労働契約の場合(期間の定めのある労働契約)
登録型派遣などで、派遣先から派遣の依頼があったときに、派遣会社が労働者と有期労働契約を締結し、派遣先に派遣するような場合です。
このような有期契約の途中で派遣会社が派遣社員を解雇するのには、やむを得ない事由がなければ認められません(労働契約法第17条)。
そもそも有期労働契約は、
労働者が「一定の期間働きます」
会社が「一定の期間働いてください」という約束です。
その約束を破って、派遣会社が契約期間の途中で派遣労働者を解雇するのは明確な約束違反です。期間の定めのない労働契約よりも、解雇の制限が厳しいのです。
ここでも、派遣先との間の派遣契約が中途解除されただけでは「やむを得ない事由」に該当するとは認められません。
やむを得ず解雇する場合でも、解雇は少なくとも30日前までの予告が必要です。予告できない場合には、解雇予告手当を支払う必要があります。
派遣会社が有期労働契約の更新を拒否するのも制限がある
それでは、派遣会社が有期労働契約の期間満了で更新を拒否する場合はどうでしょうか。
これも制限されることがあります。労働者の立場で言えば、有期労働契約の更新など雇用継続が認められることがあります。
この要件の概要は次の通りです。
1、以前から有期労働契約の更新が繰り返されてきて、労働者としては今後も労働契約が継続されると期待できる。
2、労働者から契約更新の申し出をしている。
3、会社として継続雇用の申し出を拒否しても仕方がないと考えられる場合(客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき)(労働契約法第19条)
実際にはもっと細かな要素を考慮して判断されます。
労働者として「有期労働契約が長く続いていて、当然、更新されるはずだ」と考えても、必ず更新されるわけではありませんが、このような法律の縛りがあることは覚えておきましょう。
期間制限にかかる派遣労働者への雇用安定措置
派遣先の派遣就業見込みが一定期間以上の場合になる場合には、派遣会社には派遣先への直接雇用の依頼、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置の義務が生じます(労働者派遣法第30条)。
派遣就業見込みが3年以上の場合は義務、1年以上3年未満の場合は努力義務などとされています。
一つの派遣先への就業見込み期間が長い方はこの要件に該当する可能性があります。
心当たりがあれば後述の相談先に相談してみてください。
1、 派遣先への直接雇用の依頼
2、 新たな就業機会(派遣先)の提供(合理的なものに限る)
3、 派遣元での(派遣労働者以外としての)無期雇用
4、 その他安定した雇用の継続が図られると認められる措置(雇用を維持したままの教育訓練、紹介予定派遣等)
新型コロナウイルスにかかる派遣切り問題の厚生労働省指導は今後も活用できる
新型コロナウイルス関連の厚労省指導は、一般原則を示したもの
2020年現在、新型コロナウイルス不況が深刻化しており、派遣切りに関しても厚生労働省から様々な注意喚起がされています。
(Q&A9.<労働者派遣契約の中途解除等について>
問1 (派遣先の方)新型コロナウイルス感染症の影響により事業が立ちゆかないので、労働者派遣契約を解除したいのですが、労働者派遣法上問題がありますか。
(回答抜粋)
派遣先が自らの都合で派遣契約を解除する場合は、新たな就業機会の確保や休業手当等の支払に要する費用の負担等の措置が必要です。(労働者派遣法第29条の2)。新型コロナウイルス感染症の影響による事業縮小での派遣契約解除であっても、原則として、この措置を講ずる義務があります。
仮に派遣契約の中途解除が派遣先の都合によらないものでも、派遣先は、関連会社での就業をあっせんするなど、派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることが必要です。(派遣先が講ずべき措置に関する指針第2の6の(3))事業の休止等を余儀なくされた場合においても、安易な労働者派遣契約の解除はお控えいただくようお願いします。
新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)
新型コロナウイルス固有の問題
(緊急事態宣言による休業などの取り扱い)
上記の注意喚起は、今後起こり得る様々な経済不況においても応用できるものですが、以下のような新型コロナウイルス固有の問題もあります。
緊急事態宣言中に、都道府県知事の要請・指示等を受けて事業を休止する場合の取り扱いの注意喚起が代表的な例です。
但しこの中身を見ていただければ、派遣労働者の雇用維持の原則を緊急事態宣言下でも適用しているということがご理解いただけるでしょう。
問2 (派遣先の方)緊急事態宣言下で、都道府県知事からの要請・指示等を受け、事業を休止したことで派遣契約を中途解除せざるをえない場合、派遣先は、新たな就業機会の確保や休業手当等の支払に要する費用の負担等が必要ですか。(回答抜粋)
派遣先の都合での中途解約なら措置が必要です。個別事例ごとの判断だが、都道府県知事の要請での事業休止で派遣契約を中途解除する場合も、措置義務がなくなるものではありません。
派遣契約の中途解除が派遣先の都合によらない場合でも、関連会社での就業をあっせんするなどで、派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることが必要です。
問2 (派遣先の方)緊急事態宣言下で、都道府県知事からの要請・指示等を受け、事業を休止したことで派遣契約を中途解除せざるをえない場合、派遣先は、新たな就業機会の確保や休業手当等の支払に要する費用の負担等が必要ですか。
(回答抜粋)派遣先の都合での中途解約なら措置が必要です。
個別事例ごとの判断だが、都道府県知事の要請での事業休止で派遣契約を中途解除する場合も、措置義務がなくなるものではありません。
派遣契約の中途解除が派遣先の都合によらない場合でも、関連会社での就業をあっせんするなどで、派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ることが必要です。
新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)
問4 (派遣会社の方)緊急事態宣言下で、都道府県知事からの要請・指示等を受けて事業を休止した派遣先から、派遣契約中途解除を申し込まれているが、派遣会社としてどのような対応を行うべきでしょうか。
(回答抜粋)
派遣会社は、派遣先との間で派遣契約が中途解除されても、労働者派遣終了のみを理由として派遣労働者を解雇してはなりません。
派遣先とも協力しながら派遣労働者の新たな就業機会確保を図り、それができない場合は休業等で雇用維持を図るとともに、休業手当支払等の責任を果たすことが必要です。
また、労働者派遣法第30条に基づき、派遣先の同一の組織単位での派遣就業見込みが一定期間以上である派遣労働者については、派遣先への直接雇用の依頼、新たな派遣先の提供などの雇用安定措置の義務が生じます。なお、派遣会社が、派遣労働者の雇用維持のために休業等を実施し、休業手当を支払う場合、雇用調整助成金が利用できる場合があります。これを活用して雇用の維持を図っていただくようお願いします。
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それでも「派遣切り」や「クビ」になってしまったら
以上の通り、派遣労働者が安易に派遣切りや解雇などされないよう、法令での定めのほか、厚生労働省が様々な要請も行っています。
それでも、派遣切りにあったとか解雇されたり、そのおそれがある場合には次のような相談先を活用してください。
派遣先、派遣元の相談窓口への相談
派遣会社と派遣先に、それぞれ相談を受ける担当者がいます。
担当者に相談をしてください。
公的な相談窓口への相談
担当者への相談で納得がいかない場合、以下の各種相談窓口を活用しましょう。
都道府県労働局需給調整事務室
労働者派遣事業を管轄している窓口です。
次のパンフレットで全国の窓口一覧表が掲載されています。
「派遣労働者の皆さまへ 派遣で働くときに知っておきたいこと」
※このパンフレットは派遣労働者として知っておくべきことをコンパクトにまとめたものです。
お手元に置いてご活用ください。
都道府県労働局総合労働相談コーナー
職場のトラブルに関する相談や、解決のための情報提供をワンストップで行っています。
労働相談のみでなく、「助言・指導」や「あっせん」もしてくれます。
必要に応じて他の公的機関に取り次いでくれます。よろず相談窓口としてご活用ください。
弁護士
場合によっては、弁護士へ相談することにより早期解決がはかれるかもしれません。
ぜひご検討ください。
失業したときの対応
失業したときはハローワークに相談に行ってみてください。
職業紹介、雇用保険、雇用対策などの業務を一体的に実施しています。
希望する職業の平均賃金や求人求職状況をはじめ、就職するために必要な資格・経験や、そのための能力を身につけるための訓練コース等、仕事についての情報提供等も行っています。
1、全国ハローワーク等の所在案内
2、専門分野別ハローワーク
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*1 件数は2023年3月現在 *2 2013年~2022年。単独型弁護士保険として。2023年3月当社調べ。*3 99プランの場合 *4 初期相談‥事案が法律問題かどうかの判断や一般的な法制度上のアドバイス 募集文書番号 M2022営推00409
まとめ
様々な不況のとき、派遣労働者は弱い立場になります。
泣き寝入りしてしまう人も少なくないでしょう。
それだけに、国としては派遣労働者を守るために様々な法制度や支援対策を取ってきています。
ここでご紹介したのはそのごく概要に過ぎません。
あなたご自身のお困りごとについては、ぜひ、相談窓口を活用し、適切な解決策を求めてください。
それが、あなたご自身やご家族を守り、さらにはお友達への貴重な情報提供にもなるでしょう。
この記事がそのためにお役に立てれば幸いです。
また、弁護士保険で今後のトラブルの予防をするのはいかがでしょうか。
玉上 信明(たまがみ のぶあき)
社会保険労務士
健康経営エキスパートアドバイザー
紙芝居型講師(登録商標第6056112号)
日本紙芝居型講師協会(登録商標第6056113号)
日本公認不正検査士協会アソシエイト会員
木下慎也 弁護士
大阪弁護士会所属
弁護士法人ONE 代表弁護士
大阪市北区梅田1丁目1-3 大阪駅前第3ビル12階
06-4797-0905
弁護士として依頼者と十分に協議をしたうえで、可能な限り各人の希望、社会的立場、その依頼者らしい生き方などをしっかりと反映した柔軟な解決を図ることを心掛けている。
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