無断欠勤が続く社員への対応は、企業にとって大きな課題です。
適切な手続きを踏まずに解雇すると「不当解雇」として扱われ、従業員から訴訟される等の法的なリスクを負う可能性があります。
本記事では、無断欠勤が続く社員を解雇する際の具体的な手順と注意点について詳しく解説します。
法的手続きの遵守、公正な対応、解雇理由の明確な説明など、企業が取るべきステップを理解し、トラブルを避ける方法を学びましょう。
「弁護士に相談なんて大げさな・・・」という時代は終わりました!
経営者・個人事業主の方へ
無断欠勤とはどのような状況を指す?
いつもなら始業10分前に来ている社員が、始業時刻を過ぎてもまだ来ていないんです。
様々な理由が考えられますが、連絡がないままの欠勤は心配ですね。
概要
無断欠勤とは、従業員が事前に会社へ連絡をせず、欠勤することです。
これは、業務に大きな影響を与え、他の従業員にも負担をかける行為です。
無断欠勤が続くと、会社は業務の円滑な運営が難しくなり、最悪の場合、懲戒処分や解雇などの法的措置を取らなければならないこともあります。
従業員が無断欠勤をしてしまう理由
無断欠勤の理由は多岐にわたり、その背景には様々な要因が存在します。
退職をするために連絡を絶っている
従業員が退職を目的に連絡を絶って無断欠勤するケースは少なくありません。
この場合、職場の人間関係や業務内容、待遇に対する不満が原因になっていることが一般的です。
上司や同僚との摩擦や、業務内容が自分に合わないと感じると、従業員は退職を決意し、無断で欠勤する可能性があります。
企業は、従業員が退職を考えているサインを見逃さないようにし、定期的な面談やカウンセリングを行い、問題を早期に把握することが重要です。
また、退職理由を正確に把握し、職場環境の改善や適切にフィードバックすることで、従業員の離職を防ぐ努力が求められます。
仕事が嫌になった
仕事が嫌になって無断欠勤する場合、その原因の多くは職場環境や人間関係・業務内容にあります。
例えば、上司や同僚との摩擦、過度なストレスや業務の過重負担などが挙げられます。
無断欠勤を防ぐためには、職場の雰囲気を良くする取り組みや、適切な業務配分、メンタルヘルスのサポートが必要です。
実例として、ある企業では定期的に従業員との面談を行い、仕事の悩みを聞く場を設けることで、無断欠勤の発生を減少させました。
また、カウンセリングサービスを導入し、従業員がいつでも相談できる環境を整えたことも効果的でした。
事件・事故を起こして逮捕された
従業員が事件や事故を起こして逮捕された場合、無断欠勤が発生することがあります。
このようなケースでは、企業はまず従業員の状況を確認し、適切な対応を取る必要があります。
逮捕された従業員が出勤できない理由を明確にし、情報整理に努めます。
また、必要に応じて弁護士に相談し、法的なアドバイスを受けなければならない場合もあるでしょう。
他の従業員に対しては、できる範囲で状況を説明し、動揺を防ぐ必要があります。
企業は、逮捕された従業員に対して解雇などの処分を検討する際、法的な手続きを取らなければなりません。
具体的には、労働基準法に基づき、解雇予告を行い、必要に応じて解雇予告手当を支払う義務があります。
急病などの理由で連絡が出来ない
従業員が急病や事故などの緊急事態が起きた場合、連絡が取れずに無断欠勤せざるを得ないケースがあります。
このような状況において、企業はまず従業員の安否を確認し、必要なサポートをすることが重要です。
例えば、従業員の家族や緊急連絡先に連絡を取り、状況を把握することが求められます。
企業は、従業員の健康管理をサポートするために、日頃から産業医やカウンセラーと連携しておくとよいでしょう。
また、健康診断やメンタルヘルスケアの制度を充実させ、従業員が安心して働ける環境を整えることも重要です。
社内のハラスメントやいじめなどで出勤が出来ない
職場でのハラスメントやいじめが原因で、無断欠勤するケースも少なくありません。
セクハラやパワハラ、職場いじめなどは、被害者の心身に深刻なダメージを与え、出勤できなくなることがあります。
こうした問題が発生した場合、企業は迅速かつ適切な対応を取るべきです。
まず、ハラスメントの事実を確認するために、被害者や加害者、目撃者などから詳細なヒアリングを行います。
その上で、問題解決に向けた対策を取る必要があります。
具体的には、ハラスメント防止のためのポリシーやルールの明確化、研修の実施、相談窓口の設置などが有効です。
また、被害者に対しては、カウンセリングや必要なサポートを提供し、再発防止に努めます。
会社の業務命令に対する反発や感情的な対立がある
会社の業務命令に対する反発や感情的な対立が原因で、従業員が無断欠勤する場合も少なくありません。
これは、業務命令を不当と感じたり、上司との関係が悪化したりすることで起こり得ます。
こうした状況では、企業は従業員とのコミュニケーションを強化し、問題の根本的な解決を図る必要があります。
まず、従業員の不満や問題点を丁寧に聞き取り、感情を理解することが重要です。
その上で、公正かつ透明性のある業務命令の運用を行い、従業員が納得できるような説明を行いましょう。
また、定期的なフィードバックや評価面談を通じて、従業員との信頼関係を築く必要があります。
さらに、研修や教育プログラムを実施し、上司と部下のコミュニケーションスキルを向上させることも有効です。
うつ病などの精神疾患を患ってしまった
うつ病や適応障害などの精神疾患を患ってしまった場合、無断欠勤が発生することがあります。
精神疾患は、日常生活や仕事に大きな支障をきたすため、企業は従業員のメンタルヘルスケアに注力する必要があります。
企業が取るべき対策として、従業員が精神疾患を抱えている場合、適切な診断と治療を受けられるよう支援することが重要です。
産業医やカウンセラーとの連携を強化し、従業員が必要なサポートを受けられる体制を整えます。
また、復職支援プログラムを導入し、従業員が無理なく職場復帰できるよう配慮します。
さらに、予防的な取り組みも重要です。
企業は、メンタルヘルスに関する教育や研修を定期的に実施し、全従業員が精神疾患について正しい知識を持ち、理解を深めることも欠かせません。
加えて、ストレスチェックやメンタルヘルス相談窓口を設け、従業員が早期に問題を解決できる環境を整えることが求められます。
亡くなった
従業員が亡くなった場合、突然の無断欠勤が発生することもあります。
このようなケースでは、まずは従業員の家族や緊急連絡先に連絡を取ることが重要です。
突然の死去による無断欠勤は、従業員の健康管理や労働環境の見直しを図る契機となるでしょう。
企業は、従業員の健康診断や労働環境の整備を定期的に実施し、従業員の健康状態を把握しましょう。
また、従業員の死去による心理的な影響を受けた他の従業員に対しても、カウンセリングやサポートが必要となります。
無断欠勤が続く社員への対応法
無断欠勤が続く従業員へどのような対応をすべきか、とても悩みます。
適切な対応を取ることで、トラブルの拡大を防ぎ、従業員の復帰や再発防止につなげることが可能です。
以下に、具体的な対応法を説明します。
①本人に連絡を取り、安否確認をする
無断欠勤が発生した場合、最初にすべきことは本人に連絡を取り、安否を確認することです。
もしかしたら、従業員が事故や急病などの緊急事態に見舞われており、連絡が取れなくなっているかもしれないからです。
まずは、電話やメールで連絡し、それでも反応がなければ、家族や緊急連絡先にも問い合わせましょう。
なお、従業員が単身赴任中で連絡が取れない場合は、現地の友人や同僚に確認を依頼することも一つの方法です。
また、緊急事態の場合には、警察や病院に問い合わせることも必要です。
企業側の初動対応が迅速であればあるほど、問題の早期解決につながります。
②無断欠勤の理由や状況を聞く
安否確認ができたら、無断欠勤の理由や状況を詳しく聞き取ります。
ここでは、従業員が欠勤した背景や理由を理解することが重要です。
たとえば、精神的な問題や職場の人間関係、個人的な事情など、様々な要因が考えられるでしょう。
聞き取りの際は、従業員を非難するのではなく、理解し支援する姿勢を持つことが大切です。
例えば、「どうして連絡ができなかったのか?」、「何か問題があったのか?」など、具体的な質問を投げかけ、従業員が話しやすい環境を作りましょう。
この聞き取りで得られた情報は、今後の対応や再発防止策の策定に役立ちます。
③指導・教育する
無断欠勤の理由が明らかになったら、次にすべきことは指導・教育です。
従業員が無断欠勤を繰り返さないようにするためには、会社の規則や本人に期待される行動について再確認し、理解させることが必要です。
具体的な方法としては、以下が挙げられます。
- 就業規則の詳細な説明
- 無断欠勤が業務や他の従業員に与える影響の説明
- 必要に応じて、時間管理やストレス管理のスキルを向上させる支援を目的とした研修やワークショップを提供
また、指導内容を文書化し、従業員と共有することで、後々のトラブルを防ぎます。
④懲戒処分を検討する
指導・教育を行ったにもかかわらず、無断欠勤が改善されない場合は、懲戒処分を検討する必要があります。
懲戒処分には、以下の種類があります。
- 戒告
口頭または書面での注意喚起であり、最も軽い懲戒処分 - 減給
給与の一部を減額する処分 - 出勤停止
一定期間の出勤を禁止する処分 - 懲戒解雇
最も重い処分であり、雇用契約を強制的に終了させる
ただし、これらの処分は、就業規則に基づいて適用されるべきです。
例えば、戒告は口頭または書面での注意喚起であり、最も軽い懲戒処分です。
無断欠勤の頻度や状況に応じて、段階的に適用することが一般的です。
初回の無断欠勤では戒告を行い、改善が見られない場合にはより重い処分へと移行していきます。
懲戒処分する際は、以下の点に注意しましょう。
- 従業員に弁明の機会を与えること
- 公正で透明性のある手続きをふむこと
- 処分の理由と内容を明確に説明すること
これらの手順を踏むことで、従業員の権利を守りつつ、職場の規律が維持できます。
⑤退職勧奨を行う
懲戒処分を経ても改善が見られない場合、退職勧奨をすることも一つの方法です。
退職勧奨とは、従業員に対して退職を促すことであり、以下の点において注意が必要です。
- 企業側と従業員双方の合意が必要
- 強制的に退職させるのではなく、あくまで従業員の意思を尊重する
退職勧奨をする際は、従業員との信頼関係を損なわないよう、丁寧な説明と対応を心掛けましょう。
また、退職に伴う手続きやサポートを提供し、円満に退職できるよう配慮することが重要です。
具体的なサポート内容は以下のとおりです。
- 規定に基づいた退職金の支給
- 再就職支援の提供
- 退職後の健康保険や年金に関する情報提供
配慮と支援により、従業員の尊厳を守りつつ、円満に退職させられます。
また、このような対応は、残っている従業員のモチベーションや会社の評判にも良い影響を与える可能性があります。
⑥従業員を再配置する
無断欠勤の背景に職場環境や業務内容が合わないという問題がある場合、従業員の再配置を検討することも有効です。
従業員のスキルや適性に応じた部署や職務に配置換えすることで、無断欠勤の改善が期待できるかもしれません。
再配置する際は、以下の点に注意しましょう。
- 従業員の意向や能力を十分に考慮し、適切なポジションを提供する
- 再配置後のフォローアップを行い、新しい職場での適応状況を確認する
これにより、無断欠勤を防ぐだけでなく、従業員のモチベーション向上と生産性の向上も期待できます。
⑦外部機関の支援を活用する
無断欠勤において、社内での対応が難しい場合は、外部機関の支援を活用することも一つの方法です。
例えば、労働相談センターやカウンセリング機関、メンタルヘルス専門のクリニックなどが提供するサービスを利用することが挙げられます。
外部機関の専門家によるカウンセリングやアドバイスを受けることで、従業員が抱える問題を根本的に解決できる場合があります。
また、企業としても専門家の意見を参考にすることで、今後より効果的な対策を講じることが可能です。
無断欠勤が続く社員を解雇する手順
従業員への聞き取りや問題の解決が面倒なので、懲戒処分を考えているのですが…。
無断欠勤が続く社員を解雇する場合、適切な手順を踏むことが重要です。
適切な手続きを経ないと、「不当解雇だ」として従業員からの訴訟のリスクが高まるからです。
以下に、具体的な解雇手順を説明します。
①出勤命令を出す
無断欠勤が発生した場合、まずは従業員に出勤を命じることが必要です。
電話やメール、場合によっては書面で連絡を取り、出勤を促します。
その際、出勤命令を記録として残し、後々の証拠とすることが重要です。
証拠を残しておくことで、解雇手続きの正当性が確保できます。
また、この記録は裁判になったときにも、企業側にとって有利な証拠となるでしょう。
②解雇の予告を行う
無断欠勤が続き、改善が見られない場合、解雇の予告を行います。
労働基準法第20条に基づき、企業側は、少なくとも30日前に解雇の予告を行わなければなりません。
「言った・言わない」のトラブルを避けるためにも、口頭だけでなく、「解雇予告通知書」として、文書で残しておくとよいでしょう。
なお、予告なしの解雇は、30日分の平均賃金を支払うことが義務付けられているため、注意が必要です。
③弁明の機会を提供する
解雇する前に、従業員に弁明の機会を与えることが重要です。
従業員が自身の状況や理由を説明できる場を設け、公正に判断するための情報を集めます。
この場合、従業員の話を丁寧に聞き取りつつ、必要に応じて第三者の立ち会いを求めることも有効です。
また、従業員が提出する証拠や資料を検討し、解雇の決定が適切であるかを再評価します。
④解雇通知を正式に発行する
従業員による弁明の機会を経た後、解雇の決定が確定した場合には、正式な解雇通知を発行します。
解雇通知書には、解雇の理由、解雇日、解雇に伴う手続きなどの詳細を明記します。
解雇通知書は書面で提供し、従業員に直接手渡すか、郵送で送付しましょう。
万が一、従業員と全く連絡がつかない場合は、「公示送達」を選択できます。
従業員の住所を管轄する簡易裁判所に、申立てを行います。
なお、通知書の内容については、法律の専門家による確認を推奨します。
また、解雇通知書の受領証を取得し、記録を残すことも重要です。
これにより、後々のトラブルを避けられます。
⑤解雇後のフォローをする
解雇が確定した後の、従業員に対するフォローは企業の責任ではありません。
しかし、企業の評判を守るために有効です。
フォローをすることで、従業員が次の職場にスムーズに移行できるよう支援します。
具体的なフォロー内容は、以下のとおりです。
金銭的支援
- 解雇予告手当の支払い
- 退職金の割り増し
- 再就職支援金の支給
再就職支援
- キャリアカウンセリング
- 履歴書・職務経歴書の作成サポート
- 面接対策
- 求人情報の提供
- 研修受講の支援
その他
- 職場への推薦状の作成
- オフィススペースやPCの利用
- 健康保険の継続加入手続きのサポート
このようなサポートにより、従業員が次の職場にスムーズに移行できるよう支援します。
無断欠勤が続く社員を解雇する際の注意点
適切な手順を踏むことが大事だということは分かりました。
他にも注意点はありますか?
無断欠勤が続く社員を解雇する際には、法的リスクを避けるために、企業は慎重な対応が求められます。
今一度手順をよく確認して、実行に移すようにしましょう。
法的手続きの遵守
無断欠勤による解雇を進める際、労働基準法や就業規則などの法的手続きを厳守することが重要です。
特に、上記で説明したような解雇予告や解雇理由の説明など、法に基づいた対応を怠らないように注意しましょう。
例えば、労働基準法第20条に基づき、解雇の30日前には予告する必要があります。
予告を行わない場合は、30日分の平均賃金を支払う義務があります(労働基準法第20条)。
従業員に対する公正な対応
解雇の過程では、従業員に対して公正かつ透明性のある対応を行う必要があります。
これには、事前の警告や改善の機会を与えること、そして弁明の機会を提供することが含まれます。
具体的には、複数回の警告書を発行し、従業員に具体的な改善策を提示するなどです。
これらの措置によって、従業員は自らの行動を見直す機会を得られるはずです。
解雇理由の明確な説明
解雇を決定した場合、解雇理由を明確に説明することが重要です。
解雇通知書には、具体的な無断欠勤の回数や状況、これまでの対応策を詳述し、従業員が納得できる形で解雇理由を伝えます。
例えば、解雇理由として「連続する無断欠勤による業務への重大な支障」が挙げられる場合、その具体的な事例を挙げて、何日無断欠勤したかを記載し、わかりやすく説明します。
弁明の機会を提供
解雇手続きの一環として、従業員に対して弁明の機会を提供することが重要です。
従業員が自身の無断欠勤について説明し、改善の意欲を示す機会を設けます。
例えば、面談を通じて従業員の事情を詳しく聞き取り、必要に応じて第三者の立ち会いを認めることも有効です。
従業員の弁明によって得られた情報は、最終的な解雇判断において、重要な役割を果たします。
文書による正式な通知
最終的に解雇を決定した場合は、文書による正式な通知が必要です。
解雇通知書には、以下の内容を記載します。
- 解雇する従業員の氏名
- 社名
- 解雇通知書の作成日
- 解雇の理由
- 解雇日
- 解雇に伴う手続き
- 解雇の根拠になる就業規則
解雇通知書は、従業員に手渡しするか、内容証明郵便で送付します。
これによって、解雇手続きが正式に行われたことを証明できるので、法的な問題を避けられます。
再就職支援の提供
解雇が避けられない場合でも、従業員に対する再就職支援を提供することで、企業の社会的責任を果たすことができます。
例えば、再就職支援サービスの紹介や、退職後の手続きに関する情報提供を行います。
これにより、解雇された従業員が新たな職場で再スタートを切りやすくなります。
まとめ
無断欠勤が続く社員を解雇する際には、法的手続きを遵守し、公正かつ透明性のある対応を行うことが重要です。
手順をしっかり踏んで、会社の規定や労働契約に基づいた適切な警告や通知を行い、社員にも状況を十分に理解してもらうことが必要です。
最終的な解雇の前に、改善の機会を提供しましょう。
解雇に至るまでの手順を守ることで、企業は従業員との関係を円満に終え、社会的責任を果たすことができます。
東 拓治 弁護士
福岡県弁護士会所属
あずま綜合法律事務所
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