「育休を取りたいと相談したら『男のくせに』と言われた」
「復職した途端に部下のいないポストへ異動させられた」
「残業免除を申請したら査定で不利にすると告げられた」
会社や上司からのこのような扱いに、悩まれている男性労働者は少なくありません。
特に育児休業からの復帰後、配転や手当停止といった処遇の変化に「これは違法ではないか」「会社に対抗できるのか」と疑問を抱く方も多いはずです。
結論から言うと、育児休業や時短勤務などの制度利用を理由とする不利益な取扱いは、育児・介護休業法10条によって明確に禁止されています。
そのため、違法なパタハラに該当する可能性が高いといえます。
本記事では、パタハラの定義や実際の裁判例、慰謝料の相場や被害を受けたときの具体的な対処法について、弁護士監修のもと、わかりやすく解説していきます。
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パタハラとは


育児に参入する男性が増えたことで、こういったハラスメントが目立つようになりましたね。
弁護士法律上「パタハラ」という条文名はありませんが、厚生労働省の指針および育児・介護休業法のもとで明確に違法と位置づけられています。
パタハラの法的な定義
パタハラの対象となる制度は、育児休業の取得だけではなく、次のような育児に関する制度の利用全般が含まれます。
- 所定外労働の制限
- 所定労働時間の短縮措置
- 子の看護等休暇
- 深夜業の制限
パタハラを違法と判断する法的な根拠は、育児・介護休業法10条です。
これは育児休業の申出または取得を理由とする解雇その他の不利益な取扱いを禁止しています。
なお、保護される対象は男女を問わず、正社員・契約社員・派遣労働者など雇用形態にかかわらず適用されるものです。
厚労省が示す位置づけ
厚生労働省はパタハラを単独の類型ではなく、マタハラ(マタニティハラスメント)・ケアハラ(ケアハラスメント)と一体の「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」として整理しています。
事業主は育児・介護休業法25条により、ハラスメント防止のため、雇用管理上の措置を講じることが義務付けられており、これは中小企業を含むすべての事業主に適用されます。
パタハラの4類型
実務上、パタハラは次の4つに整理できます。
- 制度利用阻害型:育休等の申請自体を拒否、または思いとどまらせる
- 制度利用後不利益取扱い型:復職後の配転、降格、手当停止、査定上の不利益
- 就業環境侵害型:嫌味や継続的な嫌がらせによる就業環境の悪化
- 派生的紛争型:育休主張を契機とした休職命令、退職強要、解雇など別争点への発展
後述するとおり、近年の裁判で争点になるのは、2つ目の「制度利用後不利益取扱い型」が中心です。
パタハラの実態|最新調査が示す「4人に1人」の現実


実際には、パタハラはどの程度起きているのでしょうか。
弁護士厚生労働省の最新の実態調査をもとに整理します。
男性の24.1%がパタハラを経験
厚生労働省が公表した令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去5年間に育児に関する制度を利用しようとした男性労働者のうち、24.1%が育児休業等ハラスメントを受けたと回答しています。
すなわち、およそ4人に1人がパタハラに直面しているという結果です。
男性育休取得率は令和6年度に40.5%まで上昇しましたが、被害は依然として広範に存在しており、構造的な問題として根強く残っていることが読み取れます。
労働者が利用を諦めた制度とは
同調査では、労働者が利用を諦めた制度の順位についても紹介しています。
- 育児休業:42.7%
- 残業免除、時間外労働・深夜業の制限:34.4%
- 所定労働時間の短縮:31.3%
この結果では育休制度そのものだけでなく、復職後の働き方調整に関わる制度利用が圧迫されている実態が浮かび上がります。
パタハラに該当する行為


パタハラに当たる行為とは、どのようなものなのでしょうか?
弁護士ここからは、どのような行為がパタハラに該当するのかを、育児・介護休業法および厚生労働省の指針に沿って整理します。
3-1,育児・介護休業法10条が禁止する不利益取扱い
厚生労働省の指針では、育休等を理由とする不利益取扱いとして以下を例示しています。
- 解雇すること
- 期間雇用者の契約更新を拒否すること
- 契約更新回数の上限を引き下げること
- 退職または非正規雇用への変更を強要すること
- 降格させること
- 減給または賞与等で不利益な算定を行うこと
- 不利益な配置変更を行うこと
- 派遣労働者について派遣先が役務提供を拒むこと
- 本人の希望期間を超えて所定外労働の制限や時短措置等を強要すること
労働者による育休等の申出や取得を契機として、こうした行為が行われた場合、原則として育児・介護休業法10条に違反します。
厚労省の行政解釈では、制度利用の終了から1年以内に行われた不利益処遇は、「契機として」なされたものと判断されます。
制度利用を妨げる言動
制度利用そのものを思いとどまらせる言動も、パタハラに該当します。
厚労省の啓発資料が例示する、代表的なケースは次のとおりです。
- 育休取得を相談したら「男のくせに育休なんてあり得ない」と言われた
- 「休むなら辞めてもらうしかない」と取得断念を迫られた
- 「次の査定では昇進しないと思え」と告げられた
上司の言動だけでなく、同僚から繰り返し取得の断念を迫られるケースも該当します。
業務上の必要性が認められパタハラに当たらないケース
業務調整の観点から、会社が育休の取得時期を相談すること自体は、それが本人の意に反しない範囲で行われる限り、パタハラには該当しないとされています。
たとえば、繁忙期との調整について双方が合意のうえで時期を変更する場合は、問題となる可能性は少ないでしょう。
一方、本人の意に反して時期変更を強要する場合や、相談を口実に取得を断念させる場合は、パタハラになるおそれがあります。
直近10年のパタハラ裁判例|2026年最新判決まで

ここからは、直近10年で公開資料から確認できた、パタハラ関連の裁判事例を整理します。
弁護士実務上は被害件数に比べて訴訟化される件数が極端に少なく、公開判決として確認できたのは次の事案です。

件数こそ少ないですが、とても参考になりますね。
【主要裁判例一覧】
| 年 | 事件名 | 裁判所 | 結論 | 救済額 |
| 2020 | 三菱UFJモルガン・スタンレー証券事件 | 東京地裁 | 原告敗訴 | なし |
| 2021 | アシックス事件 | 東京地裁 | 和解 | 非公表 |
| 2022 | 三菱UFJモルガン・スタンレー証券事件 | 東京高裁 | 控訴棄却 | なし |
| 2026 | パナソニックリビング事件 | 東京地裁 | 原告一部勝訴 | 手当相当額+慰謝料20万円 |
パナソニックリビング事件(2026年2月18日 東京地裁)
直近で最も重要な判決です。
住宅設備会社の男性営業社員が、約3か月の育児休業から復帰した当日に、外勤営業から内勤職へ配転され、月額約5万円の外勤手当も停止されたという事案です。
東京地裁は、復帰後の営業職配置によって具体的なミスのおそれは認められず、配転の必要性は抽象的にとどまると評価しました。
そのうえで、配転命令は労働者に著しい不利益を負わせるものとして無効と判断し、未払いの外勤手当相当額と慰謝料20万円の支払いを命じました。
育休後の人事配置について「会社の配慮」名目だけでは違法と判断され得ることを示した、父親側が勝訴した事例です。
アシックス事件(2021年3月29日 東京地裁和解)
スポーツ用品メーカーの男性社員が、二度の育休取得後に物流子会社へ出向させられ、倉庫業務や英訳作業などに配置されたことが、育休取得を理由とする配置転換に当たると主張した事案です。
判決には至らず東京地裁で和解が成立し、会社側は今後関係法令を踏まえた職場環境の整備に努める旨を表明しました。
和解内容自体は非公表ですが、組合関与型の紛争が、判決ではなく和解で終結した典型的な事例です。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券事件(2020年地裁・2022年高裁)
証券会社の特命部長が、海外在住パートナーとの子の出生前に育休を申請したところ、会社が親子関係確認のため追加資料の提出を求めたという事案です。
原告は追加資料要求を育休取得妨害と主張し、その後の業務外し、賞与不支給、休職命令、解雇もパタハラに由来すると争いました。
しかし、東京地裁および東京高裁はいずれも会社側の対応を適法と判断し、原告は敗訴。
育休妨害の意図や因果関係の立証が弱い場合、救済が認められにくいことを示しました。
比較参照しておきたい重要な判例
直近10年からは外れますが、パタハラ法理の基礎となるのは医療法人稲門会(いわくら病院)事件です。
これは、男性看護師の3か月の育休取得を理由に昇給を認めず、昇格試験の受験機会も与えなかった処遇について、争った事例です。
大阪高裁は2014年7月に違法と判断し、差額8万9,040円と慰謝料15万円の支払いを命じました。
最高裁が2015年12月に上告棄却としてこれを確定させ、男性育休取得に伴う経済的不利益を正面から違法とした出発点となっています。
また、女性事案ながらアメックス(降格等)事件(東京高裁2023年4月27日判決)もありました。
これは、育休復帰後の役割剥奪について、基本給が下がらなくても業務の質が著しく低下しキャリア形成に影響するなら不利益取扱いに当たるとし、裁判を起こした事例です。
裁判所は、慰謝料200万円を認容し、パタハラ事案にも直結する重要な法理となりました。
パタハラの慰謝料相場


上記でも出ていましたが、慰謝料はどのくらいが相場と言えるのでしょうか?
弁護士実際の判決でどの程度の金額が認められているのか、相場感を整理します。
公開判決における認容額
直近10年のパタハラに関する裁判事例で、慰謝料として認められた金額は、次のとおりです。
- 稲門会事件(2014年大阪高裁):差額8万9,040円+慰謝料15万円
- パナソニックリビング事件(2026年東京地裁):未払外勤手当相当額+慰謝料20万円
- アメックス事件(2023年東京高裁、女性事案):慰謝料200万円
一般的なパタハラ訴訟では慰謝料15〜20万円程度の事案が多く、女性のマタハラ事案を含めると100万〜280万円が認められた事例もあります。
一般的なハラスメント慰謝料の相場として50万〜100万円程度が目安とされていますが、行為の悪質性、期間、被害の程度、会社の対応によって大きく変動します。
慰謝料を増減させる主な要素
裁判において、慰謝料の額に影響する要素は以下のとおりです。
- 不利益処遇の重さ(解雇・降格・手当停止など)
- 嫌がらせ言動の継続期間と頻度
- 会社の防止措置・対応の有無
- 被害者の精神的損害の程度(診断書の有無)
- 復職後のキャリアへの影響
慰謝料に加えて、未払賃金や手当相当額、地位確認といった請求も併せて検討されるのが一般的です。
パタハラを受けたときの対処法


パタハラを受けた場合、どのような行動を取るべきでしょうか?
弁護士感情的に対立するのではなく、証拠を確保したうえで段階的に進めることが重要です。
①証拠を集める
パタハラの違法性を主張する場合、客観的な証拠をそろえる必要があります。
確保すべき具体的な証拠は次のとおりです。
- 上司や同僚の発言を記録した録音データ
- メール、チャット、社内SNSのやり取り
- 配転命令書、人事異動通知、賃金明細、査定書
- いつ・誰から・どのような言動を受けたかを記録した日誌
- 同僚による証言・陳述書
- 精神的不調がある場合は医師の診断書
無断録音は、民事裁判では原則として証拠能力が認められます。
証拠保全のための正当な目的があれば、就業規則上の録音禁止規定があっても、懲戒処分が直ちに有効になるとは限りません。
②社内の相談窓口・行政機関へ相談
社内にハラスメント相談窓口がある場合は、まずそこへ申告するのが基本です。
企業側が、社員から相談されたことを理由として不利益な取扱いをすることは、育児・介護休業法25条の2で禁止されています。
社内で対応してもらえない場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部、または労働基準監督署内の総合労働相談コーナーに相談しましょう。
いずれも無料で、行政指導や助言・あっせんを行ってくれる可能性があります。
③弁護士への相談
慰謝料請求や地位確認、配転命令の無効を求めるなど、法的措置を視野に入れたいとお考えの場合は、弁護士への相談がおすすめです。
労働問題に強い多くの法律事務所が無料相談を実施しており、証拠を持参して状況を説明することで、見通しと選択肢の整理ができます。
経済的に厳しい場合は、法テラスの無料で法律相談できる制度も活用しましょう。
④労働審判・訴訟
交渉で解決しない場合は、労働審判または訴訟による解決を検討します。
労働審判は原則3回以内の期日で終わる迅速な手続きで、3〜4か月程度で結論が出ることが一般的です。
訴訟には時間と費用を要しますが、判決で権利関係を確定させられます。
いずれも弁護士のサポートを受けながら進めるのが現実的です。

パタハラに関するよくある質問

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まとめ
パタハラは男性の24.1%が経験している深刻な問題であり、育児・介護休業法10条のもとで明確に違法と位置づけられています。
直近では2026年のパナソニックリビング事件で、復職直後の配転と手当停止が違法と判断され、慰謝料を含む救済が認められました。
被害を受けた場合は、まず証拠を確保し、社内窓口や行政機関への相談を経て、必要に応じて弁護士へ相談するのが現実的です。
一人で抱え込むのではなく、違法な処遇に対しては、冷静に自身の権利を主張することが重要です。

東 拓治 弁護士
福岡県弁護士会所属
あずま綜合法律事務所
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