「深夜、帰宅したら子どもと配偶者がいない…」
「突然、子どもを連れて実家に帰ると言われた…」
「離婚協議中に子どもを保育園から連れ去られた…」
このような子どもの連れ去りを伴う別居トラブルに直面することは、決して珍しくありません。
愛する子どもと突然引き離され、どうすれば良いのか途方に暮れてしまうのも当然です。
こうした状況に置かれたとき、法的にはどう対応すべきなのでしょうか?
➊警察は助けてくれるのか?
➋子どもを取り戻すための手続きは?
➌連れ去りは親権獲得にどう影響するのか?
子どもを連れた別居が違法となるかは、状況によって大きく異なります。
同居中に主に子どもの世話をしてきた親が子どもを連れて別居する場合や、DVからの避難など正当な理由がある場合は、違法と評価されにくい傾向にあります。一方で、別居後に相手のもとで暮らしている子どもを無断で連れ出す行為や、強引な方法での連れ去りは、違法と判断される可能性が高くなります。
また、2026年4月に施行された改正民法では、父母がお互いの人格を尊重し協力する義務が明文化され、正当な理由のない無断の子連れ別居が、親権者を決める際に考慮される可能性も示されています。
本記事では、子どもの連れ去り別居に関する法律問題、違法となるケースとならないケース、連れ去られた場合の具体的な対処法、そして親権獲得への影響について、弁護士監修のもと、実際の判例を交えて詳しく解説していきます。
記事に入る前に・・・
だけど費用的に無理・・・という時代は終わりました。


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子どもの連れ去りが違法となるケースとならないケース

連れ去り別居とは、夫婦の一方が相手の同意を得ずに子どもを連れて別居を始めることを指す言葉で、法律上の用語ではありません。
離婚前の夫婦は双方が親権者ですので、子どもを連れて別居したことだけで直ちに違法となるわけではありません。違法かどうかは、連れ出した経緯や方法、それまで主に誰が子どもの世話をしてきたか、別居後の対応などを踏まえて判断されます。
なお、ここでいう「違法」には、未成年者略取等罪という犯罪にあたるかという刑事上の問題と、親権者や監護者を決める際に不利に考慮されるか、損害賠償の対象になるかという民事上の問題の2つの意味があります。
どのような場合に違法となるのかチェックしてみましょう。
違法となるケース
違法となるケースは次のようなケースです。
親権者ではない親が子どもを連れ去る場合
親権者とならなかった親が、離婚後の面会交流などで面会交流実施後もそのまま子どもを親権者のもとに帰さずに、自分の居所に留めた場合は、違法となる可能性があります。
もちろん、合意の上で短期間留まることは違法にはなりません。
しかし、親権者に無断でいつまでも帰さない場合は違法となりますので注意が必要です。
子どもの親権を争っている中での子どもの連れ出し
離婚前でも親権が激しく争われている最中に、子どもを連れ去り別居に至った場合は、違法とみなされる可能性があります。
もっとも、離婚前は両親どちらにも子どもの監護権がありますので、刑法224条の未成年者略取等罪には該当しないとされる場合もありますが、子どもの監護養育上、連れ去る必要性が特になく、連れ去りの態様が粗暴で強引である等で悪質だと判断されれば同罪が成立する可能性が高くなりますので、離婚前であっても慎重に対応しなければなりません。
元配偶者の家に押しかけて子どもを連れ去る
離婚後に元配偶者の家に押しかけ、無理矢理子どもを連れ去った場合は違法です。
未成年者略取等罪に該当します。
保育園や学校などの通学路での待ち伏せ・連れ去り
保育園や学校などの通学路で待ち伏せし、そのまま子どもを連れ去った場合も違法となります。
合意の上でなければ、子どもの連れ去りは違法性があり、罪に問われる可能性があることを覚えておきましょう。
面会交流のあとや別居後に、実家や自分の家に連れて行き帰さない
別居後に相手のもとで暮らしている子どもを、面会交流の機会などに実家や自分の家に連れて行き、そのまま帰さない行為は、違法と判断される可能性が高い行為です。
すでに相手のもとで子どもの生活が安定しているにもかかわらず、合意なくその環境から引き離すことになるためです。 一方で、同居中に子どもを連れて実家に帰る場合は事情が異なります。こちらは次の「違法にならないケース」で説明します。
違法にならないケース
中には、子どもを連れ去って別居に至っても違法にならないケースもあります。
同居中に主に子どもの世話をしてきた親が子どもを連れて別居する場合
同居中に主に子どもの世話をしてきた親(主たる監護者)が、別居にあたって子どもを連れて家を出た場合は、相手の同意がなくても違法とは評価されにくい傾向にあります。
主に世話をしてきた親が子どもを置いて出ていくと、子どもの世話をする人がいなくなり、かえって子どもの利益に反すると考えられているためです。
たとえば、これまで育児の大半を担ってきた妻が子どもを連れて実家に帰ったというケースでは、それだけで違法な連れ去りと判断される可能性は高くありません。
ただし、話し合いができる状況だったのに一切の協議をせず突然連れ出した場合や、別居後に連絡を絶って子どもと会わせない状態を続けた場合は、親権者や監護者を決める際に不利な事情として考慮されることがあります。
配偶者のDVなどから逃れる場合
配偶者のDVから逃れるために、子どもを保護する目的で連れ去った場合は違法とはみなされません。
子どもに対するDVでも、配偶者に対するDVでも当てはまります。
配偶者へのDVが激しい場合は、子どもにもDV被害が及ぶ可能性があると考えられますので、DV被害を受けている配偶者がたとえ子どもを連れ去っても違法とはならない可能性が高いといえるでしょう。
2026年4月に施行された改正民法でも、DVや虐待からの避難が必要な場合は「子の利益のため急迫の事情があるとき」にあたり、一方の親が単独で子どもの転居を決められるとされています。この「DVや虐待」は、殴る・蹴るといった身体的な暴力に限られません。
関連記事:明日の私へ「今すぐ女性(DV)シェルターへ逃げて!」救いの道を伝授!
離婚前提で合意の上の別居
夫婦がお互いに離婚をする前提で、子どもを連れて別居することについて夫婦間で合意している場合は、違法にはなりません。
ただ、後から相手の配偶者から違法な連れ去りだと言われることがないように、夫婦間での合意を文書に残しておいたり、合意を裏付けるような手紙やメール、LINE等のメッセージのやり取りに関する資料を残しておいたりすることが大切です。
実家などへの一時帰省
子どもを連れての実家などへの一時的な帰省も違法とはなりません。
もちろん、配偶者に対して子どもを連れて実家に帰省することをあらかじめ伝えておくことが前提です。
また、あくまでも一時的な帰省ということになりますので、違法な連れ去りだと言われないためにも、自宅に帰る時期をあらかじめ配偶者にはっきりと伝えて、配偶者の理解と承諾を得ておくようにしましょう。
2026年4月施行の改正民法で連れ去り別居の扱いはどう変わったか
2026年4月1日に、離婚後の共同親権の導入などを内容とする改正民法が施行されました。連れ去り別居との関係では、次の2点を押さえておきましょう。
1つ目は、父母がお互いの人格を尊重し協力する義務が明文化されたことです(民法817条の12)。法務省の解説では、父母の双方が親権者である場合に、一方が正当な理由なく他方に無断で子どもの居所を変更する行為は、個別の事情によってはこの義務に違反すると評価されることがあるとされています。違反があった場合は、親権者の指定や変更の審判などで考慮される可能性があります。
違反にあたるかどうかは、別居の動機や経緯、別居前後の話し合いの有無や内容、子どもの年齢や意向、それまでの親子関係や夫婦関係などから判断されます。
2つ目は、親権を父母が共同で行う場合のルールが整理されたことです(民法824条の2)。子どもの転居は、原則として父母が共同で決める事項とされています。ただし、DVや虐待からの避難のように急迫の事情があるときは、一方の親が単独で決めることができ、人格尊重・協力義務にも違反しません。
参照元:法務省「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について」
参照元:法務省「Q&A形式の解説資料(民法編)」Q2-1、Q2-6、Q2-7、Q4-8、Q4-
関連記事:2026年4月からはじまった「共同親権」とは?~日本の共同親権制度を学ぼう~
離婚前の子どもの連れ去りで警察は動いてくれるのか
子どもを連れ去られたとき、まず警察への相談を考える方は多いでしょう。
結論からいうと、離婚前に配偶者が子どもを連れて別居しただけでは、警察が相手を逮捕したり、子どもを連れ戻したりしてくれることは通常ありません。離婚前は相手も子どもの親権者であり、どちらが子どもを育てるかは家庭裁判所で解決すべき問題と考えられているためです(民事不介入)。
ただし、警察に相談する意味がまったくないわけではありません。
警察が対応する可能性があるケース
連れ去りの方法が悪質な場合は、親であっても未成年者略取等罪(刑法224条)にあたるとして、警察が捜査することがあります。
最高裁も、別居中の妻のもとで暮らしていた2歳の子どもを、夫が有形力を用いて連れ去った事案で、未成年者略取罪の成立を認めています(最高裁平成17年12月6日決定)。
具体的には、次のようなケースが考えられます。
- 別居後、相手のもとで暮らしている子どもを抱きかかえて車に乗せるなど、力ずくで連れ去った
- 保育園や学校、通学路から無断で子どもを連れ出し、そのまま帰さない
警察庁も2023年3月29日に全国の警察に対して通達を出し、配偶者間の子どもの連れ去りに関する被害の届出などに適切に対応するよう求めています。この通達は2026年3月27日付で継続されています。
参照元:裁判所「裁判例結果詳細 平成16(あ)2199 未成年者略取被告事件」
参照元:警察庁「配偶者間における子の養育等を巡る事案に対する適切な対応について(通達)」
関連記事:被害届の出し方|警察で受理される書き方・準備・流れを弁護士監修のもと解説
警察が動きにくいケースと相談するときのポイント
同居中の配偶者が、留守中に子どもを連れて実家などに移ったというケースでは、暴力的な手段が使われておらず、相手も親権者であることから、刑事事件として扱われないことがほとんどです。
それでも、子どもの居場所がまったくわからない場合や、子どもの安全に不安がある場合は、ためらわずに警察に相談しましょう。緊急ではない相談は、警察相談専用電話「#9110」でも受け付けています。
警察に相談する際には、以下の点を明確に伝えることが重要です。
- 子どもの基本情報(年齢、外見的特徴など)
- 連れ去りの状況と経緯
- 子どもや連れ去った相手の居場所に関する情報
- 子どもの安全に関する懸念事項
なお、相手がDVからの避難を理由に別居している場合は、警察や自治体から相手の居場所を教えてもらえないことがあります。
警察による対応には限界があるため、子どもを取り戻したい場合は、後述する家庭裁判所の手続きを並行して進めることが大切です。
参照元:政府広報オンライン「警察相談専用電話「#9110」番」
子どもを連れ去っての別居となる理由とは

ここで、子どもを連れ去って別居となってしまうケースにはどのようなケースがあるのか見てみましょう。
離婚したいが親権を争っている
夫婦がお互いに離婚をしたいと考えていても、親権について話し合いがまとまらず、離婚の成立までに時間がかかるケースは少なくありません。
そこで、監護実績を積み上げて、親権の獲得に有利な状況を作り出そうと考える方がいます。
この場合は、親権を何とかして得たい配偶者が子どもを連れ去って別居を開始し、子どもの監護実績を作ろうとするでしょう。
しかし、無理矢理子どもを連れ去ったとしても、子どもが納得し懐いてくれるとも限りません。
それだけではなく、意に反して親と離れ離れにされた子どもが精神的に不安定になる等、子どもの健全な成長にとって重大な不利益を与える可能性もあります。
そのため、親が子どもを無理矢理連れ去るのは決して適切な方法とは言えません。
離婚する気はないが性格の不一致などが原因で別居となった
夫婦がお互いに離婚するつもりはないものの、性格の不一致などの一時的な感情で、別居をしてしまうケースもあります。
そのような場合、子どもを置いていくこともできずに、家を出ていく方の配偶者が子どもを連れて別居に至るケースが多々あります。
このケースは、本気で離婚したいわけではなく、一時的な感情で行動している可能性が高いといえます。
しかし、別居期間が長期間に及ぶような場合、子どもを連れて別居をしている配偶者から、婚姻関係が破綻していること等を理由に離婚を求められることも十分にありえますので、早めに別居状態の解消に向けた話し合いの機会を持ち解決していく必要があるでしょう。
一時的な里帰りだったつもりが長期滞在となった
その他、一時的な里帰りのつもりが、居心地が良くなったり、配偶者に対する不満があったりしたために長期滞在になってしまうケースです。
このような場合は離婚する意思はないと思われますので、落ち着いて、配偶者の帰りを待つ方が適切になるでしょう。
しかし、配偶者がいつまでも帰ってこない場合は、子どもの連れ去りになるおそれもあります。
ですので、初期段階からしっかりとコミュニケーションをとって、いつ戻ってくるのか確認していきましょう。
連れ去り別居されたときにとってはいけない行動

もしも、配偶者に子どもを連れ去られたとしても、感情的になって相手に対して攻撃的な態度を取ることは控えましょう。
あなたにとって不利益な結果とならないように、冷静に対処することが肝心です。
別居中の子どもを勝手に連れ去るのは未成年略取等罪に当たることも
もしも配偶者が子どもを連れてそのまま別居に至ってしまった場合は、その配偶者から子どもを取り返すために子どもを連れ去ることは違法行為となります。
感情的になるのも理解できますが、子どもは大人の所有物ではありません。
親の感情や考えだけで、子どもをあっちにこっちに引っ張り回すことはやめましょう。
もしも、子どもを取り返そうと再度連れ去った場合は、刑法224条の未成年者略取等罪に該当し、刑事処罰を受ける可能性もあります。
別居をして配偶者が子どもを継続的に監護し、育てているのであれば、温かい目で子どものために見守る姿勢も大切です。
理不尽に感じてしまうかもしれませんが、冷静に話し合いを重ねていきましょう。
連れ去り別居の判例・裁判例から見る実際のケース
連れ去り別居に関する悩みを抱えるとき、「実際の裁判ではどんな判断がされているの?」と気になる方も多いでしょう。ここでは、実際にあった裁判例をわかりやすく紹介します。
判例1:別居中の父親による連れ去りに未成年者略取罪が成立したケース
最高裁平成17年12月6日決定(刑集59巻10号1901頁)は、離婚前の父親による子どもの連れ去りが犯罪にあたるかが争われた事件です。
この事案では、別居中の妻が実家で育てていた2歳の子どもを、夫が保育園からの帰り道で抱きかかえて車に乗せ、連れ去りました。夫は子どもの共同親権者でした。
<裁判所の判断>
最高裁は、連れ去りが子どもの監護養育上現に必要だったといえる特段の事情がなく、連れ去りの方法が粗暴で強引だったことなどから、親権者による行為であっても違法性はなくならないと判断し、未成年者略取罪の成立を認めました。
参照元:裁判所「裁判例結果詳細 平成16(あ)2199 未成年者略取被告事件」
判例2:夫婦間の人身保護請求が認められる場面を示したケース
最高裁平成6年4月26日判決(民集48巻3号992頁)は、夫婦の一方が他方に対し、人身保護法に基づいて子どもの引渡しを求めた事件です。
<裁判所の判断>
最高裁は、夫婦がともに親権者である場合に人身保護請求が認められるのは、相手による監護が子どもの幸福に反することが明白な場合であるとしました。その例として、相手が家庭裁判所の仮処分などで親権の行使を実質的に制限されているのに従わない場合や、相手のもとでは子どもの健康が著しく損なわれる、満足な義務教育を受けられないなど、親権の行使として容認できない例外的な場合を挙げています。
参照元:裁判所「裁判例結果詳細 平成6(オ)65 人身保護」
裁判所の判断基準
連れ去り別居の適法性や親権判断は一律ではなく、以下のような要素を総合的に考慮して判断されます。
- 連れ去りの理由: DVや虐待からの避難など正当な理由があったか。証拠の有無が重要。
- 連れ去りの方法: 暴力的・強引な方法だったか、事前の相談なく突然行ったか。
- それまでの育児状況: 主に子育てをしていたのは誰か、連れ去った親の育児参加度はどうだったか。
- 連れ去り後の対応: 面会交流を認めているか、相手の親との関係を大切にしているか。
- 子どもの気持ち: 子どもの年齢に応じた意思も考慮される(特に10歳以上の場合は重視される)。
これらの事例からわかるように、連れ去り別居の裁判では事実関係の証明が非常に重要です。特にDVを主張する場合は、診断書や相談記録など客観的な証拠を残しておくことが必要です。
また、どのような理由があっても、子どもともう一方の親との関係を不当に断絶させる行為は、親権者としての適格性を疑われる要因となるでしょう。
もしも子どもが連れ去られてしまったら

もしも子どもが配偶者や元配偶者に連れ去られてしまったら、冷静に行動しなければいけません。
焦ったり怒ったりしても良い結果には繋がりませんので、冷静に対処しましょう。
配偶者/元配偶者と子どもの所在を確認する
まずは、配偶者や元配偶者に連絡を取り、子どもの所在と健康状態を確認しましょう。
どこにいるのか見当もつかない場合はすぐに警察に相談しても問題ありません。まずは子どもの無事と所在を確認することが先決です。
配偶者や元配偶者による連れ去りではなく、子どもが誘拐などの事件や事故に巻き込まれている可能性も考えられますので、見つからない場合はためらわずに警察に相談してください。
ただし、警察は親権や監護をめぐる争いそのものには関与しません。警察が対応してくれる範囲は、前述の「離婚前の子どもの連れ去りで警察は動いてくれるのか」で説明したとおりです。
相手方と冷静に話し合いをする
配偶者や元配偶者と子どもの所在と無事を確認できたなら、冷静に話し合いを持ちましょう。
どうして子どもを連れ去ったのか?子どもを帰してくれないのか?そして、離婚前なら、離婚までは同居してくれないか?を話し合ってください。
もしも、相手が話し合いに応じない場合や、話し合いを持っても平行線の場合には、時間を置かずに家庭裁判所へ子の引渡しと子の監護者の指定を申し立てましょう。
家庭裁判所に申し立てる(子の引渡し・子の監護者の指定・審判前の保全処分)
話し合いが整わなかった場合は、家庭裁判所に「子の引渡し」と「子の監護者の指定」を申し立てます。
離婚前の夫婦はどちらも親権者ですので、子どもの引渡しを求めるには、どちらが子どもを監護するのかもあわせて決めてもらう必要があります。そのため、この2つはセットで申し立てるのが一般的です。
手続きには調停と審判がありますが、連れ去りのケースでは、調停を経ずに最初から審判を申し立て、同時に「審判前の保全処分」も申し立てる方法がよく取られます。
審判前の保全処分とは、審判の結論が出る前に、子どもを仮に引き渡すよう命じてもらう手続きです。審判の結論が出るまでには時間がかかり、その間に相手のもとでの生活が定着すると、子どもを取り戻すことが難しくなるためです。
手続きに必要なものは以下の通りです。
①収入印紙1,200円(子ども1人に付き)
②申立書とその写し
③標準的な添付書類 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
④連絡用の郵便切手(各家庭裁判所に要確認)
調停の申し立ては相手方の住所地の家庭裁判所、審判の申し立ては子どもの住所地の家庭裁判所で行います。いずれも、当事者の合意で定める家庭裁判所に申し立てることもできます。
調停では、当事者同士が直接話し合うのではなく、調停委員という第三者を介して話し合います。調停で話し合いが決着しなかった場合は、自動的に審判に移行します。
審判では、これまでの監護状況、子どもの年齢や性格、双方の生活環境、子どもの意思などを考慮して、裁判官が判断します。母親だけが特に有利というわけではありません。
審判内容に不服がある場合には、高等裁判所に対して不服申立てを行うことも可能です。
また、子どもと会えない状態が続いている場合は、面会交流の調停もあわせて申し立てておきましょう。
ちなみに、親権と監護権は別物ですので、親権を持てなくても監護権だけ確保することもできるでしょう。
参照元:裁判所「子の引渡し調停」
参照元:水戸家庭裁判所「子の引渡し 申立ての手引」
関連記事:監護権とは?監護権(親権)を判断する際に考慮される3つのこと
関連記事:5分で理解◆面会交流調停の起こし方から解決までを完全サポート
人身保護請求は利用できる場面が限られる
子どもの引渡しを求める手続きには、人身保護請求もあります。
人身保護請求は、請求から1週間以内を目処に審問が行われる迅速な手続きで、認められれば子どもの引渡しが命じられます。
ただし、離婚前の夫婦間では、利用できる場面が限られています。最高裁は、夫婦がともに親権者である場合に人身保護請求が認められるのは、相手による監護が子どもの幸福に反することが明白な場合であるとしています(最高裁平成6年4月26日判決)。
具体的には、相手が家庭裁判所の保全処分などで子どもの引渡しを命じられたのに従わない場合や、相手のもとでは子どもの健康が著しく損なわれる、満足な義務教育を受けられないなど、親権の行使として容認できない例外的な場合です。
そのため、子どもの身に危険がある場合も含め、まずは前述の子の引渡し審判と審判前の保全処分を申し立てるのが基本となります。
なお、人身保護請求は原則として弁護士を代理人に立てなければいけません。いずれの手続きを選ぶにしても、まずは弁護士に相談しましょう。
参照元:裁判所「裁判例結果詳細 平成6(オ)65 人身保護」
虚偽のDV申立てへの対応策
DVの事実がないにもかかわらず、DVを理由に子どもを連れて別居されたと感じている方もいるでしょう。このような状況に直面した場合、以下のような対応が重要です。
日常生活の記録の確保
普段の家族との良好な関係を示す写真や動画、SNSへの投稿などを保存しておきましょう。また、主張されているDV行為があったとされる日時のアリバイ証明(勤務記録、電子決済記録など)も有効な反証となります。
第三者の証言の収集
家族関係を知る第三者(親族、友人、近隣住民、子どもの先生など)からの証言も、家庭内の実情を証明する証拠となります。必要に応じて陳述書の作成を依頼しましょう。
法的手続きでの対応
相手からのDV主張に対しては、具体的な事実と証拠に基づいた反論書を作成し、家庭裁判所に提出することが重要です。家庭裁判所調査官との面接でも、冷静に事実を説明し、証拠を示しましょう。
虚偽のDV主張に対抗するには専門的な法的戦略が必要ですので、経験豊富な弁護士に早期に相談することをお勧めします。
子どもの連れ去り別居の対処には、できる限り早い段階で弁護士に相談することが大事

子どもの連れ去り、別居の対処にはできるだけ早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
子どもの身に危険がある場合は、弁護士が審判前の保全処分など迅速な手続きを検討してくれますし、配偶者や元配偶者の所在の確認でも適切な行動をアドバイスしてくれるでしょう。
また、弁護士に依頼すれば、子の引渡し調停や子の監護者の指定調停についても速やかに代理人として手続きしてもらえます。
親権・監護権確保に向けたアドバイスももらえるため、弁護士に相談しておくと安心です。
突然、離婚前に配偶者が子どもを連れ去り別居になってしまった場合は、1人で悩んでも解決方法が見つかるまでに時間がかかる、あるいは解決方法が見つからないということになりかねませんので、まずは弁護士に相談するとよいでしょう。
子どもの連れ去り裁判にかかる費用について
連れ去り別居に関する法的手続きには費用がかかります。ここでは、どのような費用が発生するのか、費用を抑える方法はあるのかを具体的に説明します。
裁判費用の内訳と相場
子どもの連れ去りに関連する裁判費用は、主に以下のような項目で構成されます。
弁護士費用
弁護士費用の目安は以下のとおりです。
- 着手金: 20〜30万円
- 報酬金: 20〜40万円(結果に応じて)
- 相談料: 5,000円〜1万円/時(初回無料のケースも多い)
裁判所に納める費用
裁判所に収める費用の目安は以下のとおりです。
- 調停申立手数料: 1,200円/件
- 審判申立手数料: 1,200円/件
- 保全処分申立手数料: 1,000円/件
- 執行費用: 数千円〜数万円
その他の費用
その他にかかる費用の目安は以下のとおりです。
- 戸籍謄本等の取得費用: 数百円〜数千円
- 証拠収集費用: 状況によって異なる
連れ去り別居の子の引き渡し審判と保全処分をセットで申し立てる場合、弁護士費用と裁判所費用を合わせて、40〜70万円程度が目安となります。
費用を抑える方法
法的手続きの費用負担を軽減するための方法がいくつかあります。
- 弁護士費用保険の活用
連れ去り別居の問題が発生する前に加入していれば、弁護士費用をカバーできる可能性があります。近年、月々数百円で加入できる弁護士費用保険が増えています。 - 法テラスの利用
収入や資産が一定基準以下であれば、法テラス(日本司法支援センター)を通じて無料法律相談や弁護士費用の立替制度を利用できます。 - 自治体の無料法律相談
各自治体で実施している無料法律相談を利用して、初期段階でのアドバイスを受けることができます。
関連記事:離婚問題で法テラスを利用するメリット・デメリット、利用するまでの流れについて解説
裁判費用の請求について
子の引渡しや監護者指定の調停・審判にかかった費用は、原則として各自が負担します(家事事件手続法28条1項)。弁護士費用も、基本的には依頼した本人の負担です。
ただし、連れ去りが悪質で不法行為にあたるとして損害賠償(慰謝料)を請求し、それが認められた場合には、弁護士費用の一部が損害として認められることがあります。
費用面で悩む場合でも、子どもの将来に関わる重要な問題ですので、まずは弁護士に相談することをお勧めします。多くの弁護士事務所では初回相談を無料で実施しており、費用面の相談も可能です。
関連記事:弁護士費用は相手に請求できる?請求できるケースと金額・裁判費用との違いを解説
関連記事:弁護士費用が払えない!お金がない人でも使える制度4選
子どもの連れ去りは親権獲得にどの程度影響するのか

子どもの連れ去りは、違法のケースもありますが、実際に子どもの監護の実績になってしまうことは事実です。
しかし、親権争いの最中での子どもの連れ去りは、違法だと考えられるケースもあり、その場合には子どもを連れ去った配偶者の親権獲得に有利に働くわけではありませんので、安心してください。
また、子どもの親権・監護権をどちらの親が持つのが適切かについては総合的に判断されますので、連れ去った方が親権を獲得できるとは限りません。
親権者や監護者を決める際には、主に次のような事情が考慮されます。
- これまで主に誰が子どもの世話をしてきたか(監護の実績)
- 現在の子どもの生活環境と、その安定性
- 今後の養育環境(住まい、仕事との両立、育児を手伝ってくれる親族の有無など)
- 子どもの年齢と、子ども自身の意思
- もう一方の親と子どもとの交流に協力的かどうか
子どもの意思は、おおよそ10歳前後から尊重される傾向にあり、15歳以上の子どもについては、家庭裁判所が子どもの意見を聴かなければならないと定められています(家事事件手続法152条2項)。
収入が少ないことや無職であることだけを理由に、親権者になれないわけではありません。養育費や公的な支援も含めて、子どもを育てていける環境があるかが見られます。
連れ去りの方法が強引だった場合や、連れ去り後に正当な理由なく面会交流を拒み続けている場合は、親権者としての適格性に疑問があると評価され、連れ去った側に不利に働くことがあります。2026年4月施行の改正民法でも、父母相互の人格尊重・協力義務に違反した場合は、親権者の指定などで考慮される可能性があるとされています。
関連記事:必見!5分で分かる【子どもの親権を勝ち取れる方法】
関連記事:【父親でも親権を取れる?!】知っておくべき3つの有利なアピールポイント!
連れ去り別居を防止するための事前対策
子どもを連れ去られるリスクを感じる場合、事前に以下のような対策を講じることも重要です。
日常的な子育て記録の保存
普段から子どもとの関わりを示す証拠を残しておきましょう。子どもとの写真や動画、学校行事への参加記録、子どもの送り迎えの記録などが有効です。これらは、あなたが積極的に子育てに関わってきたことを証明する大切な証拠となります。
重要書類の確保
子どもの戸籍謄本、健康保険証のコピー、パスポート情報、学校や保育園の連絡先など、重要な書類や情報は必ず確保しておきましょう。別居が始まると、これらの情報を得ることが難しくなる場合があります。
法的手続きの事前準備
夫婦関係が悪化し、連れ去りのリスクが高まった場合は、弁護士に相談し、必要に応じて子の監護者指定調停を事前に申し立てることも検討しましょう。調停中は現状維持が原則となるため、調停係属中の連れ去りは法的に問題視されやすくなります。
周囲への協力依頼
信頼できる親族や友人、子どもの学校や保育園の先生に状況を説明し、不審な人物が子どもを迎えに来た場合は連絡をもらえるよう協力を依頼しておくことも有効です。
連れ去り別居に関するよくある疑問(FAQ)
連れ去り別居に関して、多くの方が抱える疑問に答えます。
連れ去り別居は合法なの?違法なの?
Q: 離婚前に子どもを連れて勝手に別居することは法律違反になりますか?
A: 状況によって判断が分かれます。DVや虐待からの避難など正当な理由がある場合は合法と判断されやすいですが、正当な理由なく主たる養育者でない親が勝手に連れ去った場合は違法と判断される可能性があります。
Q: 子どもの連れ去りで刑事罰を受けることはあるのですか?
A: 状況によっては「未成年者略取誘拐罪」(刑法224条)に該当する可能性があります。特に別居後に他方親が監護している子どもを無断で連れ去った場合や、連れ去り方が暴力的・強引だった場合などは犯罪となる可能性が高まります。最高裁平成17年12月6日決定では、別居中の妻が監護している2歳の子どもを夫が有形力を用いて連れ去った事案で、未成年者略取罪の成立を認めています。
Q: 妻(夫)が子どもを連れて実家に帰ったまま戻ってきません。違法ではないのですか?
A: 同居中に主に子どもの世話をしてきた親が子どもを連れて実家に帰った場合、それだけで違法と判断される可能性は高くありません。ただし、話し合いを一切せずに連れ出した、連絡を絶って子どもと会わせないといった事情があると、親権者や監護者を決める際に不利に考慮されることがあります。戻ってくる見込みがなく話し合いもできない場合は、家庭裁判所への子の監護者の指定・子の引渡しの申立てや、面会交流の調停を検討しましょう。
連れ去り別居と警察・公的機関の対応
Q: 子どもを連れ去られたら警察は助けてくれますか?
A: 警察は子どもの安全確認には協力してくれますが、「民事不介入」の原則から親権争いには原則として介入しません。ただし、連れ去りの方法が強引で悪質な場合は、未成年者略取等罪として捜査の対象になることがあります。警察庁も2023年3月の通達(2026年3月に継続)で、子どもの連れ去りに関する被害の届出などに適切に対応するよう全国の警察に求めています。子どもの安全が懸念される場合は警察に相談すべきですが、親権問題は基本的に家庭裁判所での手続きが必要です。
Q: 児童相談所は連れ去り別居に介入してくれますか?
A: 児童相談所は子どもが虐待を受けている、または受ける恐れが高い場合に介入します。単なる親権争いには介入しませんが、子どもの福祉が著しく害されているケースでは対応してくれる可能性があります。
Q: 配偶者が子どもを海外に連れて行ってしまいました。どうすればよいですか?
A: 日本はハーグ条約の締約国ですので、子どもが他の締約国に連れ去られた場合は、外務省を通じて子どもの返還に向けた援助を申請できます。国によって運用が異なるため、早い段階で国際的な家事事件を扱う弁護士に相談しましょう。
関連記事:「ハーグ条約」とは? ~国を超えた子の奪い合い(連れ去り)について~
連れ去り別居と親権への影響
Q: 子どもを連れ去って別居すると親権獲得に有利になりますか?
A: 必ずしもそうとは言えません。かつては「監護の継続性」が重視され、連れ去った側が有利になる傾向がありましたが、近年は連れ去りの態様や面会交流への姿勢なども重視されるようになっています。
Q: 連れ去られた子どもを取り返すための最も効果的な方法は何ですか?
A: 法的には「子の引渡し審判」と「審判前の保全処分」を家庭裁判所に申し立てるのが基本です。連れ去られてすぐの場合は特に保全処分による迅速な対応が重要です。時間が経つほど「現状維持の原則」により取り戻しが難しくなるため、速やかな法的手続きが鍵となります。自力での連れ戻しは法的リスクが高いため、お勧めできません。
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まとめ
突然子どもが連れ去られ、別居に至ったとしても慌ててはいけません。
まずは弁護士に相談して、どのように対処していくべきかを冷静に相談しましょう。
もしかすると連れ去りには違法性があるかもしれませんし、すぐに子どもを取り戻すことができる可能性もあるでしょう。
大切なことは子どもの安全を確保し、健全な養育ができる環境を整えることです。
焦って子どもを強制的に取り戻そうとせずに、弁護士に相談し親権確保に向けて冷静に行動していきましょう。
事前に弁護士保険へご加入いただくこともオススメします‼

山田康平 弁護士
神奈川県弁護士会所属
谷法律事務所
神奈川県横浜市中区尾上町3-35 有楽ビル8階
TEL 045-641-0901
依頼者の考えと状況に応じて,依頼者と共に最良の方策を練って対応することを目標に, 不動産・相続問題を中心として個人・企業を問わず幅広く事件を扱う。
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