夫と一緒にいたくない・・
夫と同じお墓に入りたくない・・
一般に、婚姻期間が20年以上の夫婦の離婚のことを「熟年離婚」と呼びます。
(50代の夫婦の離婚のことを指すとも言われていますが、定義は明確ではないようです。)
この「熟年離婚」、一時期流行語にもなりましたが、現在も増加傾向にあるようです。
厚生労働省の調査によれば、平成30年の離婚の件数は20万8333組で、そのうちの約3万8537組、つまり約20%弱が「熟年離婚」であるとのことです。*
この記事では「熟年離婚」を考えている方のために、熟年離婚のメリット・デメリット、離婚前の準備について詳しく解説していきます。
*厚生労働省 平成30年(2018)人口動態調査より
記事に入る前に・・・
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熟年離婚のメリット・デメリット
熟年離婚が増加している理由として、
- 女性の社会進出により自立した女性が増えていること
- 離婚に対する社会の考え方が変わってきて、離婚への抵抗が少なくなってきていること
- 親の介護が夫婦の一方にとって負担になっていること
- テレビドラマや友人など環境の影響
などが原因に挙げられます。
まずは熟年離婚のメリット・デメリットから見ていきましょう。
熟年離婚の3つのメリット
1. 夫が原因となっている悩みやストレスから解放され自分のペースで生きることができる
例えば、定年退職前は、お互いが働いていたり、片方が専業主婦(夫)であったりして、「平日はあまり接しないけれど、休日は一緒に過ごす」という夫婦はそれなりに多いのではないかと思います。
しかし、定年退職後は、夫婦が2人でいる時間が長くなります。
そのため、最初はいいかもしれませんが、毎日一緒にいることに耐えられなくなってしまったり、それまで気づかなかったお互いの嫌なところが見えてしまったりする夫婦も多いようです。
そして、最終的には「相手の顔を見ることさえもストレスになってしまう」ということで、熟年離婚を決意する方が多くいます。
離婚をすることで、配偶者との生活において感じていた不満やストレスから解放されるというのは大きなメリットです。
また、家庭があると、どうしても家族のために時間を使わなければならず、自分の趣味や好きなことをする時間を確保することが難しい場合もあります。
しかし、熟年離婚をすれば自由にできる時間が増え、有意義にプライベートを過ごせるようになるので、大きな魅力の1つかもしれません。
2. 配偶者の親の介護が不要になる
熟年離婚のメリットは配偶者に対する直接的な関係だけでなく、配偶者の親の介護に悩まなくてよくなるという点も挙げられます。
熟年離婚を検討する夫婦の中には、その親の介護等の問題を抱えている人たちも少なからずいることでしょう。
熟年離婚を考えている世代の夫に多いのが、「家事や親の介護は妻がするのが当たり前である」という意識です。
妻としては、家事や介護をいくら頑張っても評価されていないのであれば、毎日辛い思いをして歯を食いしばる必要があるかと、悩んでいる方も少なくないと思います。
ましてや、夫の親の介護をしているとなると、「なぜ自分が自分の親ではない人の介護をしなくてはならないのか」という思いを持つこともあるかもしれません。
熟年離婚をすることで配偶者の親の介護からも解放されれば体力・精神的にも時間的にも余裕ができるのでメリットといえるでしょう。
3. もう一度恋愛、結婚をすることができる
新たに「第2の人生を自由に歩むことができる」というのも熟年離婚のメリットとして挙げられます。
夫婦関係を終了させることで、新たな出会いや恋愛を始められます。
人はいくつになっても恋する感情を持っています。
人を好きになるのに年齢など関係ありません。
若いうちにはなかった心の余裕があるので、熟年で交際をすることはゆったりと平穏な気持ちで過ごすことができるのです。
熟年離婚の3つのデメリット
1. 経済的に苦しくなる可能性がある
1番大きなデメリットは、収入が減るために生活が苦しくなる可能性があるということです。
例えば、今まで専業主婦だった、あるいはパートでしか働いたことがなかった女性が熟年離婚後、仕事に就こうとしても、「年齢的な問題」「仕事の経歴がない」などで求人の幅が狭くなるという現実があります。
また、日本は医療の発達や衛生環境の改善により「人生100年時代」を迎えています。
そんな中、金融庁が公表した「老後2000万円問題」という報告書が話題になりました。
これは、「公的年金以外に老後の資金として2000万円必要である」という内容なのですが、なんとなく不安になられることかと思います。
このようなことを考えたうえで、熟年離婚をする場合には、離婚時の財産分与や年金分割、離婚後の仕事の確保等について事前にしっかり準備し老後の人生に備えることが大切です。
なお、最低限ご自身の年金額は事前に把握しておきましょう。下の記事は事前に年金額を知る方法を書いた記事です。
2. 離婚後、孤独な人生が待っているかもしれない
離婚をしたことにより1人ぼっちになってしまう、孤独死してしまうのではないかなど、色々な心配も出てくることでしょう。
「熟年離婚をしたら1人で家を探して、その後はずっと孤独になるのか・・・」
「最初から独身であればまだいいけれど熟年離婚で孤独死はつらい」
といった声もよく耳にします。
3. 財産分与トラブルになりやすい
熟年離婚の場合、トラブルになりやすいのが財産分与の問題です。
婚姻期間が長い分、不動産、自動車、保険、退職金、預貯金、株式等多岐にわたる夫婦共有財産があるケースが多く、またその金額も高額になりやすいです。
そのため、適切な財産の開示、評価などができず、当人同士だけでは、(弁護士の目から見て)適切な財産分与での離婚が成立しにくいという面があります。
どうして離婚したいということであれば、財産分与の条件面で大きく折れるか、弁護士に依頼するか、何かしらの方法による必要があるでしょう。
熟年離婚前の準備
離婚後・老後の資金を考える
熟年離婚後、最も困るのは、やはり経済面です。
「人生100年時代」というように自身が今後何歳まで生きるのか、こればかりは分かりません。
そのためには、離婚後どのように1人で生計をたてていくかを自分なりに考え、いわゆる「生活設計」をしてみることは、離婚する前には欠かせないことです。
例えば、
- 一人暮らしの生活費はいくらくらいになるのか
- 離婚後働けるのか、月にいくらくらい収入がありそうなのか
- 離婚でどの程度のお金が入ってくるのか、あるいは、お金を渡さなければならないのか
- 年金が支給されるまで何年あるのか
- 年金が支給されたら月にいくら入るのか
- 離婚後はどこに住むのか
などです。
漠然としたイメージとして捉えるのではなく、具体的な毎月の生活費の必要額と収入見込額の両方を踏まえて、収支を試算したうえで生活設計をしてみましょう。
離婚理由を明確にしておく
熟年離婚の場合、不倫(浮気)やDV等の客観的に明確な離婚原因がなく、長年の小さな不満の積み重ねが原因ということも少なくありません。
このような場合、配偶者に離婚を切り出したとしても、配偶者は「自分に非があるとは思わない」とか「仮に非があるとしても離婚するほどのことではない」と考えることが多いでしょう。
したがって、ご自身が「離婚をしたい!」と思って相手方に離婚を切り出したとしても、具体的な理由がないと相手方が離婚に同意をしてくれない可能性が高いでしょう。
よって、相手方に納得してもらえるよう、事前になぜ離婚をしたいのか過去から現在までの離婚理由を明確にまとめておくことが重要です。
例えば、
- 夫の生活態度
- 夫の浮気
- 夫のDV
- 夫の借金
このように具体的な理由があれば、離婚を切り出しやすいかもしれません。
もし相手が不倫をしているなら同居中に証拠を集める
必ずそうだというわけではないですが、別居後に不倫をした場合は、「別居によって婚姻関係が破綻した」と評価される可能性が高く、別居後の不倫の証拠を入手しても損害賠償が認められないことが多いです。
ですので、もし相手の不倫の証拠を押さえるのであれば「同居中」がよいでしょう。
慰謝料を取ることができれば新しい生活をする上での生活費の足しになるでしょう。
思い切って別居を開始してしまう
民法が定める法定の離婚原因(不倫など)がない場合、相手が離婚に応じなければ離婚することができません。
そこで、もし離婚の話し合いが進まないのであれば、別居を相当期間した上で裁判によって強制的に離婚してしまうという方法もあります。
この場合、別居期間としては3年~5年と言われておりますが、別居している間は相手の収入状況によって婚姻費用(生活費)をもらえる可能性があります。
弁護士から見て本当に熟年離婚はオススメか?
結論から言うと「あまりおススメできない」というのが私の考えです。
理由はやはりデメリットの中でお話した
「経済的な問題」です。
1人で生活していく上ではお金の問題は切っても切れません。
働くにしてもいつ体調を崩すかはわかりません。
年金分割という制度もありますが、分割できる年金は厚生年金のみで国民年金は分割の対象ではありません。
不貞の慰謝料を請求する場合もそうそう大きな金額になるわけではありません。
他にも「熟年で1人となると、アパートやマンションを借りる際に審査が通りにくい」という問題もあります。
このようなことにより、熟年離婚に安易に踏み込むのは危険です。
ただ逆に言えば、ご自身の親からの遺産が十分にあり、生活する上では金銭的に困らないなど 経済的な不安がない場合は、熟年離婚することにおける障壁はあまり感じられないと思います。
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まとめ
「熟年離婚した」と聞いてもさほど驚かなくなったほど、この言葉も近年世に定着しつつあります。
しかし、いくら相手と一緒にいることが嫌だと思っても、長く連れ添った相手方と別々の道を歩むには、様々な面でそれ相応の覚悟が必要です。
熟年離婚をする際に、決断は慎重にすることをおススメします。
あらかじめ弁護士保険などで、リスクに備えておくのはいかがでしょうか。
弁護士 松本隆
神奈川県 弁護士会所属
横浜二幸法律事務所
所在地 神奈川県横浜市中区山下町70土居ビル4階
TEL 045-651-5115
労働紛争・離婚問題を中心に、相続・交通事故などの家事事件から少年の事件を含む刑事事件まで幅広く事件を扱う
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