交通事故の被害に遭い病院を受診する際、健康保険を使うことは可能です。
健康保険を使うと治療費の3割は自己負担となりますが、これは加害者側に請求できる上、損害賠償金の計算上も有利となる場合があります。
この記事では健康保険を使うケースや実際の使い方について解説します。
記事に入る前に・・・
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交通事故で健康保険は使える?
私たちは、誰しも職業別に何らかの公的健康保険に加入しています。
病院の窓口で健康保険証を提示すれば、医療費の3割を負担するだけで医師の診察・治療を受けることができるとても便利な制度です。
この健康保険は、正確には、被保険者(又はその被扶養者)の疾病・負傷若しくは死亡又は出産に関する保険給付を行う保険、のことをいいます。
したがって、交通事故に遭い怪我を負った時、病院で診察・治療を受けた際も健康保険を使うことはできます。
また、昭和43年10月、旧厚生労働省が日本医師会に対して発出した文書(保険発第106号「健康保険及び国民健康保険の自動車損害賠償責任保険等に対する求償事務の取扱いについて」)には次のように記載されています。
「最近、自動車による保険事故については、保険給付が行われないとの誤解が被保険者の一部にあるようであるが、いうまでもなく、自動車による保険事故も一般の保険事故と何ら変わりはなく、保険給付の対象となるものであるので、この点について誤解ないよう住民、医療機関等に周知を図るとともに、保険者が被保険者に対して十分理解させるように指導されたい」
なお、仕事中や通勤途中などの交通事故による怪我は「業務災害」に当たり、労災保険の対象となりますから健康保険を使うことはできません。
交通事故で健康保険を使うケース
では、実際にどういった場面で健康保険を使うのか、という点が気になるところです。
まず、加害者が任意保険に加入しており、被害者が病院を受診する前に、保険会社の担当者が病院側と調整を付けてくれている場合は健康保険を使わずとも(自己負担なしに)病院を受診することができます。
なお、この場合、任意保険会社は自賠責保険会社が負担すべき治療費分と任意保険会社が負担すべき治療費分とを併せて支払う「一括対応」という方法で病院に治療費を支払っています。
1. 加害者が「過失割合」に不満を持っている場合
加害者が任意保険に加入していても、例えば加害者側が「我こそが被害者だ。」などと言って事故内容や過失割合を巡って争う姿勢を見せている場合には、保険会社は病院へ治療費を支払わない可能性があります。
こういった場合には、健康保険を使う必要があります。
※過失・過失割合について
過失とは、要するに不注意・落ち度のことです。そして、その不注意の程度を数値化したものが過失割合です。
最大10の割合を加害者と被害者に割り振ります(例:加害者8、被害者2)。
過失割合は、最終的に獲得できる損害賠償金の額に影響します。
例えば、被害者に発生した損害賠償金が100万円だったとしても、被害者の過失割合が2の場合は、最終的に獲得できる損害賠償金は80万円(=100−(100×0.2))となります。
2. 任意保険会社から一括対応を打ち切られた場合
先にご説明した一括対応ですが、これはあくまで任意保険会社のサービスの一環であり、義務ではありません。
したがって、任意保険会社は自らの判断で一括対応を打ち切ることも可能といえば可能なのです。
保険会社としても「払うべき必要のない治療費まで払いたくない」というのが本音でしょう。
しかし、保険会社の「打ち切り通告」イコール「治療の打ち切り」ではありません。
症状が改善しなければ治療を続けるべきです。
そして、治療を続けるのであれば健康保険を使いましょう。
何より自己負担額を抑えることができますし、その際負担した治療費は事故との因果関係が認められる限り後で加害者側に請求することができます。
なお、打ち切りを止めるよう保険会社と交渉することもできます。
ただ交渉には難航が予想されますから、はやめに交通事故を得意とする弁護士に相談した方がよいでしょう。
3. 加害者が任意保険に加入していない場合
加害者が任意保険に加入していない場合は、保険会社に一括対応すらとってもらえませんから、自己負担額を減らすためには健康保険を使う必要があります。
この場合、被害者は、後で加害者の自賠責保険会社に「被害者請求」という方法で負担した治療費分を損害として請求することができます。
しかし、怪我の場合、被害者が自賠責保険会社に請求できる上限額は120万円です。
しかも、この120万円は治療費分の損害のみならず、休業損害や傷害(入通院)慰謝料も含まれています。
仮に、健康保険を利用せずに自由診療で受診すると、治療費分だけで120万円に到達してしまい、残りの分は加害者に直接請求しなければなりません。
しかし、任意保険に加入していない加害者から賠償金(休業損害分、傷害慰謝料分)を回収することが期待できない場合もあります。
健康保険を利用し、治療費分を抑え、残額分を自賠責保険で賄えるようにすべきでしょう。
4. 被害者にも過失がある場合
この場合は、健康保険を使う「べき」場合といっても過言ではありません。
なぜなら、最終的に受け取ることができる損害賠償額が健康保険を使った場合の方が、使わなかった場合よりも大きくなる可能性があるからです。
治療費は「治療点数」に「治療単価」を掛け合わせた額ですが、健康保険を使用した場合、治療単価は10円であるのに対し、健康保険を使わない自由診療の場合は20円とされていることが多いです。
すると、治療点数が10万点だった場合、健康保険を使った場合の治療費は30万円(=100×3割(負担))なのに対し、自由診療の場合は200万円となります。
そして、治療費以外の損害額が200万円の場合、健康保険を使った場合の損害額は230万円、自由診療の場合は400万円です。
もっとも、任意保険会社が一括対応している場合は治療費については、示談より先に病院へ支払われていますから、この時点で被害者が受け取れる賠償額は、いずれの場合も治療費を差し引いた200万円(健康保険を使った場合:230-30、自由診療の場合:400-200)ということになります。
以上を前提として、仮に、加害者の過失割合が8、被害者の過失割合が2だった場合の被害者が最終的に受け取れる賠償額を考えてみます。
まず、割り出された損害額から過失割合分が減額されますから、健康保険を使った場合は46万円(=230万円×0.2)、自由診療の場合は80万円(400万円×0.2)減額されることになります。
したがって、最終的に被害者が受け取れる損害賠償額は、
- 健康保険を使った場合 →154万円(200万円-46万円)
- 自由診療の場合 →120万円(200万円-80万円)
ということになります。
自由診療の場合、健康保険を使わなかった分、過失相殺によって減額される額が大きくなり、最終的に受け取れる額が少なくなっていることが分かります。
交通事故での健康保険の使い方
では、最後に交通事故での健康保険の使い方について解説します。
窓口で「健康保険を使いたい」旨をはっきりと言う
多くの場合は、上段、交通事故で健康保険を使うケースの冒頭でご紹介した「一括対応」により自己負担なく病院を受診することができます。
しかし、一括対応が取られていない場合はひとまず治療費を自己負担し、後で加害者側に請求することになります。
自己負担する場合は、窓口で「健康保険を使いたい」旨をはっきり言いましょう。病院によっては健康保険に関する知識不足や勘違い、自由診療にしたいとの思惑から「健康保険は使えない」と言われることもあります。
しかし、ご説明したとおり、交通事故でも健康保険は使えますから自信をもって「健康保険を使いたい」と言ってもらって構いません。
そして、窓口で健康保険証を提示します。
必要書類を提出する
健康保険証を使って病院を受診したら、必要書類を提出します。
最終的な提出先はご自身がご加入している保険者(会社員の方であれば組合けんぽ・協会けんぽ、国民健康保険に加入している場合はお住いの市区町村役場)ですが、職場内に保険を取り扱う窓口(共済係)が設けられている場合は窓口担当者に提出します。
必要書類で大切な書類は「第三者行為による傷病届」です。
定型の書式があり、書式はインターネットからダウンロードすることも可能です。
そのほか、主に次の書類を併せて提出する必要があります。
交通事故証明書
証明書を取得するには、予め警察に交通事故の届出をすることが必要です。
申請方法は
- 各都道府県の運転免許センター(名称は各都道府県により異なります)での窓口申請
- ゆうちょ銀行・郵便局での申請
- インターネット申請
の3種類があります。
事故発生状況報告書
事故発生状況報告書は事故内容の詳細を記載する書面です。
事故発生状況報告書は交通事故に遭った方、すなわち健康保険の被保険者方ご自身で作成します。
定型の書式があります。書式はインターネットからダウンロードすることも可能です。
負傷原因報告書
健康保険負傷原因届ともいいます。
負傷が業務災害・通勤災害に起因するものなのか、それ以外に起因するものなのか証明するための書類です。
定型の書式があります。書式はインターネットからダウンロードすることも可能です。
参考: 協会けんぽ
同意書
保険者が加害者の保険会社に治療費を請求する際に必要とされる書類です。
保険者は請求の際、被保険者の診療報酬明細書を添付する必要がありますが、個人情報が記載されているため被保険者の同意を必要とされています。
そのほか「損害賠償金納付確約書・念書」は加害者に記入してもらう欄があります。
窓口を通じて加害者に記入してもらいますが、加害者が記入を拒否したとしても健康保険の適用に問題はありません。
健康保険へ切り替えるには?
保険会社から治療費の支払いを打ち切られた場合などは、健康保険へ切り替えも検討する必要があります。
もちろん、切り替えも可能です。
切り替えする際は、窓口で「健康保険に切り替えたい」旨を伝えるとともに、必要書類を保険者宛に提出する必要があります。
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おわりに
交通事故でかかった治療費は加害者が負担すべきものです。
しかし、状況に応じて健康保険を使っていったん自己負担し、後日加害者側に請求した方が最終的に獲得できる賠償金を大きくできることもあります。
それには健康保険に関する適切な知識と状況判断ができるようにしておかなければなりません。
お困りの際は弁護士などの専門家に頼るのも一つの方法でしょう。
是非、今後のトラブルに備えて「弁護士保険」へのご加入もオススメします!
小林義典 弁護士
東京弁護士会
袖ヶ浦総合法律事務所
住所:千葉県袖ケ浦市神納2-5-18 SKYCITY13-A
電話番号: 0438-42-1247
2009年弁護士登録。
交通事故、労働事件(労働者、使用者)から、家事事件等の一般民事事件を手広く行っています。
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