年間3万件超。離婚届の不受理申出とは?~勝手に離婚届を出されてしまう前に~

夫が勝手に離婚届を出してしまうかも?

そんな風に感じたことがある方はいらっしゃるかもしれません。少なくとも、夫がしつこく「離婚してくれ」と申し入れてくるケースでは、むりやり離婚になってしまうのではないか、と懸念を抱くこともあるかと思います。

このような方々に、是非とも知っていただきたい「離婚届の不受理申出制度」について、今回は、お話をしたいと思います。

「言葉は聞いたことがあるけれど、ハードルが高そう。実際に使おうと思ったことはない。」という方も、この制度のメリットや簡易性について、是非とも知識を備えておいていただきたいと思います。

記事に入る前に・・・

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目次

離婚届を勝手に出すことはできる?

 「そもそも、離婚届にサインなどしていないから勝手に出されるはずはない」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、役所は、サインの筆跡確認などしませんし、離婚届の押印は実印でなくても良いので、(更には、離婚届に押印がなくとも、法的には受理が可能なので、)勝手に離婚届を作成・提出することは可能です。 

夫があなたの名前を、筆跡をまねて署名し、はんこ屋で買ってきた印鑑で押印し、そのまま離婚届を役所に提出してしまうこともあり得るわけです。

そうすると、役所は正式に離婚届を受理する流れになり、その後は、法的にも、「夫婦は離婚した」として扱われることになります。

もちろん、勝手に離婚届を出されたのですから、「そのような離婚は無効だ」として、法的に争う方法はあります。

その場合、まずは、「離婚が無効である」ことを裁判所で話し合う「離婚無効調停」を申し立てます。

ここでは、夫の意見も聞くことになりますが、勝手に離婚届を出した夫が、「たしかに離婚は無効です。」などと簡単に応じるはずもありません。

「二人の間で離婚の合意が成立していた」などと言って、争ってくることが通常です。

調停で話し合いがまとまらない場合、次に、「離婚無効の裁判」を起こさねばなりません。

裁判の期日を何度も重ねて、裁判所から離婚は無効であるとの判決が下されれば、ようやく「離婚はなかったこと」にできるわけです。

このように、いったん勝手に離婚届が出されてしまうと、その効力を覆すには、調停、裁判といった煩雑な手続きが必要となります。

1~2年の時間を要するほか、費用や労力も相当にかかってくることになります。

結果的に離婚を無効にできても、大変であることに間違いはありません。

やはり、事前に離婚届が受理されないよう阻止しておくことが最善の方法といえます。

既に離婚届にサインをしている場合や親権争いがある場合は要注意

「喧嘩した際に勢いで、離婚届にサインをしてしまった」というご夫婦も、案外少なくないようです。

仲直りした際に、その場で破り捨てたのならばいいですが、「このときの喧嘩を忘れないようにとっておこう」などと保管しているような場合は要注意です。

仮に、夫が勝手に離婚届を出してしまった場合は、先ほどお話したように、調停や裁判で争うことはできますが、ご自身の筆跡が離婚届に残っているとなると、なかなか厄介です。

「あなたも離婚に同意していたのですよね」などと裁判所に判断され、「離婚は有効である」という判決になってしまう可能性もあります。

また、離婚する場合の親権者に争いがある場合も注意が必要です。

離婚届には、夫婦間の話し合いを前提に、「親権者が父か母か」を記載する欄があります。

離婚届を提出する協議離婚の場合は、基本的には離婚届の記載をもとに親権者を決めることになるので、夫が仮に、「親権者は父」として離婚届を提出し、この離婚届出が有効とされてしまった場合には、親権を夫に取られてしまう可能性があるわけです。

もちろんこれも、先ほど述べた離婚無効の調停・裁判や、「親権者変更の調停・審判」等の方法によって、覆すことはできるのですが、やはり相当な労力や時間がかかることは否めません。

このように、既にサインした離婚届が存在するような場合や、親権争いがある場合は、なおさら、夫に勝手に離婚届を出されないよう注意せねばなりません。

離婚届の不受理申出とは?

 ここで登場するのが離婚届の「不受理申出」の制度です。

簡単に言うと、「勝手に離婚届を出されてしまいそうなので、離婚届が提出されても受理しないでください。」と役所に事前に届け出ておく制度のことをいいます。

 夫婦が離婚の話し合いをする場合、大抵の場合は、感情的になり泥沼の争いになり、長期にわたって紛争が激化しがちです。

夫がどうしても離婚したいと言い、妻がこれを拒否しているようなケースでは、夫は、「なんとしても妻と別れたい」という気持ちから、離婚届を勝手に役所に提出する、といった行為に及びかねないわけです。

離婚届を勝手に出す行為については、犯罪も成立します。

勝手に離婚届を作成したことについては「私文書偽造罪」、離婚届を提出し、役所に虚偽の戸籍記載をさせる行為については「公正証書原本不実記載罪」という犯罪が成立します。

また、民事上も、「離婚は無効である」として争う法的手段は用意されています。

そうはいっても、勝手に離婚届を出された妻が、夫(子供の父親)について実際に刑事告発を行い、時間・労力・費用をかけて裁判で争う、というところまで踏み切るか、というとなかなかハードルも高いようです。

費やす労力や時間、弁護士に依頼する際の費用などを考えて、「もういいや」とあきらめてしまう現状も少なくないようです。  

このような不利益を回避するために、離婚届の「不受理申出」という制度が設けられているのです。

事前に不受理申出を行っておけば、役所に離婚届が提出されても、役所はこれを受理しない、という対応をしますので、勝手に離婚届が出されるデメリットを回避できることになります。

離婚届の不受理申出のメリット・デメリットは?

 離婚届の不受理申出には、デメリットはほとんどないといえます

あえて言うならば、

  • 役所に本人が赴かなければならないことが煩雑であること
  • 夫に不受理申出の事実がばれたときに夫が憤慨する可能性があること

くらいでしょうか。

とはいえ、①については、行政手続きである以上やむを得ないこと、②については、そのような不安に陥れたのは夫である以上、夫に怒る資格などないこと、を踏まえれば、デメリットとまではいえないかと思います。

不受理申出をした場合には、自ら「紛争を長期化させたくないので申出をしてあります」と相手に堂々と伝えておくことも視野に入ります。

一方、不受理申出のメリットは多数あります。

  1. 勝手に離婚届を出された後の紛争を防止できること
  2. 勝手に離婚届を出されないという安心感を得られること
  3. 相手に知られずに申出を行えること
  4. 費用はかからず簡易な手続きであること
  5. 期間の定めがなくいつでも取下げできること
  6. 離婚に関する話し合いを有利に進められること

などがメリットとして挙げられます。

特に、現場に携わっている弁護士の目線でいえば、⑥のメリットはとても大きいです。

夫が「妻と離婚したい」と希望していても、日本の法律では、そう簡単に離婚ができるものではありません。

通常は、離婚調停に6か月~1年ほど、離婚裁判に6か月~1年ほどかかるほか、離婚裁判でも、「妻が相当に酷いことをした」とか、「夫婦関係が回復できない程度に破綻している」等と事情が認められない限り、裁判所は離婚を認めてくれません。

そうであれば、早期に離婚するには、離婚届を提出する方法しかないところ、不受理申出がされていれば、離婚届を出すこともできないわけです。

こうなると、妻が拒否している以上、夫には離婚できる手段がありません。

このような経緯から、夫が妻と離婚するために、「妻の納得のいく条件を提示して離婚してもらおう」という対応をすることが期待でき、妻も、「これだけ誠意を見せてくれるのであれば離婚に応じてもいい」という円満離婚が期待できるわけです。

このように、「勝手に離婚届を出される」ような事態を防いでいれば、慰謝料や養育費、財産分与などの離婚の諸条件について、有利な話し合いを進めることができる武器にもなります。

離婚届の不受理申出の手続きは?

不受理申出の手続きは、簡単に行うことができます。

ご自身の本籍地または居住地の役所で、「不受理申出書」を提出するだけです。印鑑と現場での本人確認書類は必要となりますが、手数料はかかりません。

不受理申出を行うと、取り下げるまでは、この効果が継続します。

以前は、6か月間という期間があったのですが、「話し合いを続けている間に6か月が過ぎてしまい勝手に離婚届が出されてしまった」という不具合を避けるため、法律が改正され、この期間は撤廃されました。

取下げ自体も「申出」と同様の手続きで簡単に行えます。

不受理申出をしたのちに、「本当に離婚することになった」という場合には、役所に行って本人確認書類を提出して離婚届の手続きをすれば正式に離婚もできます。

このように、「不受理申出」はむしろ臨機応変に気軽に利用してもらえる制度ということになります。

不受理申出をしたら相手にばれる?

よく質問をお受けするのが、「不受理申出をしたら夫にばれるのでしょうか」というご質問です。

結論としては、不受理申出をしただけでは夫にはばれません。

不受理申出をしたこと自体が夫に通知されるわけではないので通常は夫に知られることにはならないわけです。 

ただ、夫が本当に勝手に離婚届を役所に提出しようとした場合には、話は別です。

この場合、役所の窓口で、「不受理申出がされているので受理できません」として断られることになるので、この時点で夫には知られることになります。

逆に、「夫が不受理申出をしているかもしれない」と思った場合には、あなたが役所に行って、同様に確認すれば、申出が出されているかを確認することができます。

なお、「不受理申出中に離婚届が提出されそうになりました」という事実は、不受理申出をした申出人に、役所から連絡がありますので、「夫が勝手に離婚届を出そうとした」という事実は、申出をしておけば把握することができることになります。

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離婚の危機を感じている方へ

 勝手に離婚届を出されるような事態はあまり想定されないかもしれませんが、「どうしても妻と離婚したい」と考えた夫が、勝手に離婚届を出す事態は、珍しくはありません。

特に、再婚を考えている相手がいるような場合は、再婚相手に煽られて、勢いでそのような行動に走る、というケースがあることも否定できません。

 いったん離婚届が出されてしまうと、その後の手続きは本当に煩雑ですので、少しでもそのようなおそれを感じた方は、離婚届の不受理申出を行っておくことをお勧めします。

不受理申出を提出するようなケースでは、離婚の諸条件についても有利に進められることが多いので、悩まれたら是非弁護士を頼ってくださいね。

あらかじめ弁護士保険などで、今後のリスクに備えておくことをおすすめします。

この記事を書いた人
篠田弁護士

篠田恵里香 弁護士

東京弁護士会所属

へいわ総合法律事務所 代表弁護士

東京都豊島区東池袋三丁目1番1号 サンシャイン60 45階
Tel.03-5957-7131

2008年弁護士登録。
男女問題、交通事故を中心に、幅広い分野を扱う。
大切な人生の分岐点を、一緒に乗り越えるパートナーとして、親身になって対応させていただきます。

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2019年よりミカタ少額短期保険(株)が運営する法律メディアサイトです!

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